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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第5章 英雄の意志
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神の討伐



俺達は一旦シーナポートへと向かった。街にも神雷が落ちたようで、地面に焼け焦げた跡がいくつもある。移動している間にも3回ほど離れた位置で神雷が落ちた。



神雷は天災のようなものだ。打たれるかどうかは完全に運となる。あまりに速すぎるため、俺でも神雷を回避することなどできない。



ユースタスには悪いが、本を届けるのは後回しにさせてもらう。今はそれどころではない。世界滅亡までのタイムリミットが存在する。



シーナポートに着くと人の気配がなかった。どこの建物ももぬけの殻だった。



「わん! 誰もいない!」



ギルバートがその疑問に答える。



「冷静に考えれば、どこかに避難してるだろうな」



ギルバートの言った通りだろう。この街にはジェラルドが来ていた。ジェラルドはこのような有事の時の判断を誤らない。市民の安全を最優先に動くはずだ。



「騎士団の人がいるわ」



リンの指差す方向を見る。その先にはシーナポート騎士団を格好をした人物がいた。俺達は話を聞くためにそちらに向かう。



その騎士団員はあたりをキョロキョロ見回して、家の中に入っていった。しばらくして中から出てくる。手には麻袋が握られていた。



「おーい」



俺が声をかけると騎士団の男は慌てたように、麻袋を後ろに隠した。近づいてみると俺がよく知っている男だった。



「まだ避難していない人がいたんですね! 見つかって良かった! 僕は逃げ遅れた人がいないかを確認していたんです」



爽やかな笑顔で白い歯を見せて笑う。騎士団員はサギールだった。こいつ、絶対火事場泥棒をしていたな。こんな時でもぶれずにクソ野郎なのが、一周して逞しいとすら思える。



「住民はどこに避難しているんだ?」



「はい、ここから少し離れたところにある地下洞窟です」



ジェラルドの案だろう。マリリンが見つけたあの海賊の洞窟だ。あの場所にはかなりの広さがあるし、地下なら神雷から身を守ることができる。一旦その場所に合流しよう。



「その袋の中、この家のものだろ? 置いていった方が良いぞ」



「承知しました! 財産を守るのも騎士の務めかと思ったもので!」



全く動じることなく、サギールは爽やかスマイルでそう言ってくる。こいつは本当に大物なのかもしれない。



俺達はサギールに連れられて洞窟へと向かう。黒水晶でハルにも連絡をしておいた。ハルも宝の地図の洞窟と伝えれば、すぐに場所を把握できた。プレイヤー相手だと話が早くて助かる。



途中でも神雷が何度か落ちた。俺達は直撃を喰らわないことを祈りながら進む。洞窟に着くと中には多くの人がいた。最低限の生活に必要な物を持ち込んでいるようだ。



俺達はジェラルドを探すことにした。周りの人に聞くと、奥の幕で仕切られた場所に通された。



その中にはジェラルドとマリリン、ラインハルト、アンリ、ボルドーのフリードリヒ一家とレオンとニキータの殺し屋兄妹がいた。



「レン君! 君の帰りを待っていたよ」



俺の顔を見た途端、ジェラルドが俺に詰め寄ってくる。



「君ならあの光の正体に心当たりがあるのではないかと思ってね」



どうやらジェラルドの中でも俺が情報通ということになっているらしい。



「あれは神雷だ」



俺達は自然と中央のテーブルに集まる。ここを作戦会議の場所としよう。ジェラルドも含めて、仲間達にも今俺達が置かれている状況を説明しておいた方が良い。



「今から説明するけど、なぜ俺がそこまでの情報を知っているかは聞かないでほしい」



さすがにこの世界がゲームとは伝えられない。俺のパーティはもう慣れているので、そのことを聞いてくることはなかったが、ジェラルド達は違う。



「わかった、命の恩人に余計な詮索をするつもりはないよ」



ジェラルドがそう答える。これで他の人も俺にその質問はしてこないだろう。



「じゃあ、詳細を話す、これは全てゼーラ教が原因だ」



俺はゲームでの知識を語り始める。失敗すれば世界が滅ぶイベント、ゼーラ教の話を。

















ゼーラ教。それは大神官コーネロが一から作り出したこの世界で最も大きい宗教だ。法皇などのトップや幹部はいるが、実際は全て傀儡にすぎない。実務は全て大神官コーネロが指揮をしている。



その教義は平和の追求。争いのない世界を作ることだ。宗教としては一般的で、それにより多くの人に受け入れられている。



唯一神ゼーラを崇めており、ゼーラが復活をすれば世界に恒久的な平和が訪れると信じられている。ゼーラ復活のためには信徒の祈りが必要なので、信者は日々祈りを捧げている。



表向きは健全な宗教団体だが、その内実は違う。白と呼ばれるコーネロお抱えの諜報部隊が裏で暗躍している。またコーネロは敵対組織のアザール教を自ら作り出した。そこの司祭のマルドゥークはコーネロの駒だ。



一番脅威となるアザール教という邪教徒を共通の敵として内部連携を固め、ゼーラ教に害意を持つ者はアザール教に絡もうとするため、すぐに割り出せる。そこまで考えてこれらの組織を構築したコーネロの政治的手腕は中々のものだ。



一方で、コーネロという男は自身の私利私欲には無頓着だ。私腹を肥やすこともなく、全てはゼーラ教のために動いている。



自分で作り出した宗教に、自分の全てを捧げている。それは信仰心なんていう、ありきたりなものではない。あの男は本気で争いのない世界を作り出そうとしている。手段を選ばずに、それが可能な道を模索している。



そんな彼がたどり着いた結論。野望の果て、それが神の復活だ。現実主義のコーネロは、矛盾するようだが本気で神を復活させようとした。



唯一神ゼーラはそもそもコーネロが創造した架空のものだ。実際には存在しない。だから、コーネロはある存在をゼーラと名付けて、この世に生み出すことにした。それが復活祭の真相。



天界を追放された神族。元々の名前は俺も知らない。ゲームではゼーラという名前しか出てこない。



遥か昔に天界を追放された神族がこの世界に封印されていた。それを古文書で知ったコーネロは、異常な執念でその研究を続けた。その封印を開放するのに必要なアイテムを手に入れる動きが、ゼーライベントだ。



ゼーライベントの途中で、コーネロはある神族に出会うことになる。天界にいた時のゼーラの配下、神の使徒だ。正義のダイヤモンドを手に入れるためにはそいつを倒す必要がある。



正義のダイヤモンドはそもそもゼーラ復活のための必須アイテムとなる。それを神の使徒を討伐して奪うことで、ゼーラの復活を阻止できるというシナリオだ。俺がアトランティスの後にクリアしようとしていた。



ゼーライベントは本来もっと時間がかかるはずだった。それが異常な速さで進行し、俺が介入する前に復活祭が成功してしまった。ゲームでは考えられない速度だ。



コーネロが世界平和のために復活させたのは救いの神なんかじゃない。この世を滅ぼす邪神と呼んでよいだろう。唯一の救いはまだゼーラは完全に覚醒していないことだ。



ゼーラが完全に目覚めれば、この世界に神雷の豪雨を降らせる。それがゲームでの終焉だ。強制的にゲームオーバーとなるため、その後の世界を俺は知らない。



だから、俺達はゼーラが完全に目覚める前に、奴を倒さなければならない。ゲームではこの状況になれば絶対に倒すことができない相手だった。その不可能を覆す必要がある。



目的は単純。ゼーラの討伐。タイムリミットは5日間だ。ただそこには障壁が立ちふさがる。



まずはコーネロお抱えの諜報部隊、白。こいつらは単体ではそれほど脅威ではない。ゲームでは取り巻きの雑魚扱いだ。だが、一つの要素が加わると状況が一変する。



神の使徒の存在だ。神の使徒は天界から来た神族という設定で異常な強さを持つ。天界はエクストラステージであり、ラストダンジョンの魔王城よりも上のレベル設定だ。ノーマルモンスターでさえ、300レベルでも勝てない強敵がうようよしている。



神族は寿命というものが存在せず、老いることなく永遠に生き続けることができる。しかし、戦闘によりHPが0になれば倒すことができる。



天界にはミレニアム懸賞イベントとなっているゼウスや、ポセイドン、アテナなどの神族との戦闘ができる。これはゲームクリア後のエンドコンテンツのような立ち位置だ。まあ誰も魔王を倒せないので、先にゲームクリアをしている者など皆無だが。



さすがにそいつらに比べたら神の使徒の方が対処しやすいが、異常な強さであることに変わりはない。神の使徒が厄介なのは、『ゼーラの加護』というバフスキルのせいだ。このスキルによりゲームバランスがぶっ壊れる。



『ゼーラの加護』の効果は周囲の対象を自分と同じステータスにするというものだ。この恐ろしさが分かるだろうか。神の使徒はボスなので、極めて高いステータスを持つ。『ゼーラの加護』を使用することで、周りにたくさんいる白の1人1人が同じステータスになる。



ステータスが同じになるだけなので、神の使徒のスキルまでは使ってこないが、もはや勝ち目などない。取り巻きの雑魚が全員ボスと同じ存在になる。普通に白の通常攻撃で一撃死する。



ゲームでは必ず神の使徒の周りには白の部隊がいる。そのため、戦闘が開始したら、『ゼーラの加護』を使われる前に白を殲滅するのが王道のパターンだった。しかし、神の使徒は戦闘開始した瞬間に『ゼーラの加護』を使用してくるので、僅か数秒で大量の白を殲滅するという無茶をしなければならない。



現実では神の使徒が孤立するように上手く立ち回るのが基本路線だろう。



俺は以上のことをゲーム的な部分を伏せて、皆に説明した。



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