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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第5章 英雄の意志
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海へ



不死身のゴリさんによる強化が終わり、俺達は再び飛空艇でシーナポートに戻ってきた。



全員、『龍脈』状態が完成できたので、今後は誰かが攻撃してステータスドレインが成功する度に、全員のステータスが同時に上昇していく。特にリンの攻撃では100%上昇する。海底都市でモンスター相手に強化をしよう。



一見すると完璧に見えるこの強化方法だが、実は2つの欠点がある。1つ目は左手と右手にそれぞれ持続の腕輪と大海賊の契を装備しているため、他の腕輪が装備できないことだ。



もし大海賊の契を外してしまえば、リンから共有されている『龍脈』の効果が切れてステータスが元に戻ってしまう。もし持続の腕輪を外せば、それまでかかっていた特殊効果が全て消えてしまう。



俺も今まで常に装備していた神兵の腕輪を外している。状態異常攻撃が俺達全員の弱点になっている。特に気をつける必要があるのは即死だ。LOLでは即死を付与してくる敵は結構いる。どれだけステータスが高くても即死攻撃を受ければ終了だ。



2つ目の欠点はバフ無効化だ。一部の高レベル帯のモンスターやボスはかかっているバフを無効化するスキルを使用してくる。それを受けてしまえば俺達の強化は根こそぎ剥がされてしまう。



この程度の強化で安泰になるほど、この世界は甘くない。



俺達は船着き場まで移動する。そこには大きな海賊船が停泊していた。髑髏の旗が風に靡いている。



「おう! 来たか! 俺達は準備オッケーだぜ、いつでも出せる」



海賊帽を被ったジョーンズが少年のように笑う。もう一度海に出れることが嬉しくて仕方がないのだろう。



「ああ、頼むよ、俺達を運んでくれ」



「任せな、おーい、お前ら! 船出の準備だ!」



「「「「イエッサー」」」」



かけ声と共に船員が一斉に動き出す。俺達は受け渡しの板を渡って甲板に降り立つ。



一人一人が自分の役目を果たし、手慣れた動きで出港準備を進めている。錨が巻き上げられ帆が広がる。海風によって帆は大きく膨らんだ。



俺はシーナポートの景色を見ながら、ジョーンズに指示をして船首の向きを調整してもらう。



ゆっくりと海賊船が動き出す。波の動きに合わせて絶え間なく揺れる。少しずつシーナポートが小さくなっていき、どこまでも広がる水平線が見えた。



「この揺れ、この香り、最高だぜ、また海に出れるなんてな、これも全部レン、お前さんのおかげだ」



俺が手すりに腕をかけて海を眺めていると、ジョーンズが横で同じように手すりにもたれた。彼の目にはどこまでも続く海原が映っている。



「俺は俺の目的のために動いただけだよ」



「それでもだ、結果として俺の夢は叶った、感謝してもしきれねえ」



初めはジョーンズを見捨てるつもりだったので少し罪悪感を持ってしまう。きっと俺はラインハルトが誘拐されなければドンパチーノファミリーを潰そうとは思わなかっただろう。



本当に大切なものを守るためには全てを守ろうとしてはいけない。それは傲慢であり、この理不尽なLOLの世界では決して通用しない。



そのことは重々承知している。それでもジョーンズのこの笑顔を見ていると、この結果で良かったと心から思えた。



この世界で自由になれないのは、俺がまだ弱いからだ。助けたい全てを助けること、自分のやりたいことを自由にすること、それを成し遂げるためにはあらゆる理不尽を跳ね除ける力がいる。もっと強くならないとな。



「さて、そろそろだな」



俺は静かな海を見渡しながら言う。ジョーンズは険しい表情を作った。



「お前ら! 戦闘準備しとけ!」



「「「イエッサー」」」



船員達が戦闘の準備を始める。正確には覚えていないが、ゲームではこのぐらいまで来ると奴が襲ってくるはずだ。



巨大イカ、クラーケン。クラーケン討伐の難度は当然無理ゲーレベル。それでも俺達の強さはもう常識の枠を外れている。もはや勝利に疑いはない。俺はいかに早く攻略するかを考えている。



既に俺の仲間には飛空艇の中で作戦は伝えている。後はクラーケンの登場を待つだけだ。全員が緊張した面持ちで静かに海を見つめる。



「イカ焼き! イカ焼き!」



1名を除いて。
















「来た」



俺が誰よりも早くそのことに気づく。海が不自然に盛り上がったからだ。



「ジョーンズ! 海が盛り上がったら下からイカの足が出てくる! 船が貫かれないように移動させてくれ」



「おう! 任せろ!」



盛り上がった海から白く少し青みかかった触手のような足が現れる。



「これは……想像以上にでかいな」



「あんまりおいしそうじゃない」



ギルバートとポチがそれぞれ感想を漏らす。クラーケンはあまりに巨大すぎる。たった足の一本でこの海賊船が真っ二つにされるレベルだ。本体は海の中にいて、姿を見ることができない。



クラーケンの足に攻撃を加えることでダメージを与えることができる。1本につきある程度のダメージを与えると、力を失って海に戻っていく。全部で10本倒すことで本体が水面から頭を出す。



初めから水中に潜って、本体の頭を探して攻撃することもできるが、あまり推奨されない。水中耐性があったとしても陸上より水中の方が水の負荷があって動きが阻害されるし、水中の方がクラーケンの足の速度が速い。それに加えて、とにかく足が太すぎて回避ができない。動きを完璧に読めていても回避困難な大きさだ。だから、船上から伸びてくる足をひたすら攻撃し続けるのが得策だった。



ゲームでは膨大な時間がかかった。そもそも近づかないとダメージは与えられないし、近づき過ぎると船を破壊されて終わる。船の移動はプレイヤーが舵取りをしない限りはCPU任せとなり、あっさり壊される。プレイヤーが舵取りすると自分では攻撃に参加できないという何ともイライラする戦闘だ。俺はゲーム時代に7時間くらいかかった。



現実になり、ユキとフレイヤ両名の魔法での遠隔攻撃が可能であることを計算に入れても、3時間ぐらいはかかるだろう。その間、船を壊されないようにクラーケンの猛攻を回避しつづけなければならない。



クラーケンから完全に逃げ切ることはできない。明らかに船の速さよりも速い。それにクラーケンは一度獲物を発見するとどこまでも追ってくる。どちらかが死ぬまで戦闘は終わらない。



自分が回避するのではなく、この巨大な船を回避させるのはそこそこ難しい。ジョーンズ任せでは15分も持たないだろう。舵取りは俺がすべきだ。



「舵を俺にさせてくれ」



俺はジョーンズに頼んで舵を握る。これでもゲーム時代に7時間、船を回避させ続けた経験がある。逃げながら安全が確保されたら攻撃に回ることを繰り返していた。



すぐ近くから水しぶきが上がり、2本目の足が現れる。その足は俺達の船を目掛けて振り下ろされる。俺は慌てて舵を切る。この海賊船は帆船だが、ゲーム仕様なのか行きたい方向に風が吹いて推進力となってくれる。



幸い、ジョーンズの海賊船はテッペイの漁船やグランダルの討伐隊の船よりも速い。俺の舵取りなら問題ないはずだ。



「ん、待てよ」



俺はその時あることに閃いた。時間をかけて正々堂々戦うつもりでいたが、頭のどこかで何とか楽して倒せないかを考えていた。英雄は常にこの思考をしている生き物だ。



思いついたアイデアが可能なら大幅な時間の短縮になる。



「まあ……行けそうだな」



条件を考え、シミュレーションにかけてみて実現可能かを判断する。俺は方針を変更した。



「作戦変更、ユキ、フレイヤ、とりあえず足攻撃してヘイトを稼いでおいてくれ」



「了解!」

「任せて!」



いつの間にか自然とヘイトなどというゲーム用語が俺達のパーティには通じるようになっている。



それから俺はただ足の攻撃を回避しながら、船を移動させ続けた。フレイヤの爆撃音だけが聞こえる。ポチは暇になって居眠りを始めた。よくこんな荒く揺れる船で寝れるものだ。



「レン、ずっと逃げているだけだけど、考えがあるの?」



リンも不思議がって聞いてくる。



「ああ、どうせ向かうんだから、クラーケン引き連れたまま船の墓場に行こうかと思って」



本来の流れだとクラーケンを倒すことで、グランダル王国から感謝されて歪んだコンパスというアイテムを手に入れることができる。そのコンパスの指し示す場所に向かうことで船の墓場にたどり着けるというストーリーだ。



しかし、俺は船の墓場への行き方を熟知している。アイテムがなくてもたどり着くことができる。見渡す限り水平線だが太陽の位置で方角は分かる。



シーナポートから出港するときに、進路は完璧に合わせた。クラーケンの回避のために多少蛇行しているだろうが、船の墓場は結構大きいので問題なくたどり着くだろう。



「面倒だから船の墓場にいる奴にクラーケン倒してもらおうと思って」



船の墓場。多くの難破船が浮かぶ呪われた海域。そこには膨大なHPを持つクラーケンさえ、一瞬で殺せる存在がいる。



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