限界突破
俺はもう一度『ドッペルスイッチ』で部屋の外に出た。結構時間がかかってしまった。
「よし、準備ができたぞ、お待たせ」
俺はバクバクを召喚して配置につかせる。俺の理論では必ず成功するはずだ。
「じゃあ、不死身のゴリさんに登場いただこう」
俺はボタンを押す。大きな扉が開き、シルバーバックが凄まじい勢いで飛び出してくる。そして、すぐに扉が閉まった。
「これ、何?」
ポチがシルバーバックを見上げながら尋ねる。他のみんなも首をひねっている。
「不死身のゴリさんだ」
「なんだか……可哀想ね」
リンが率直な感想を漏らした。確かに見かけは哀れに見える。なぜなら身体中にあらゆるアイテムがくっつけられており、もはや中にいるのがゴリラなのかも分からないからだ。
バクバクが『天命龍牙』をストックした『五月雨突き』を放ち、一瞬でシルバーバックを青い粒子に変える。大量のアイテムが床に散らばる。
「よし、みんな、アイテムを回収してくれ!」
これが俺の編み出したアイテム無限増殖法。トリモチ団子でシルバーバックの身体中にアイテムをくっつけた。ゲームではトリモチ団子がモンスターに貼りつくだけで、アイテムにはくっつかなかったので実現不可能だったが、現実では可能となる。
俺はこれを検証するために闇市の帰り道に、正宗と妖刀村正をトリモチ団子にくっつけて実験していた。あの時、アイテムが無事にくっつくことを確認し、この無限増殖法が可能だと判断できた。
ゲームで無限増殖法が失敗したのは、中のアイテムを回収して扉が閉まる前に外に出ることができないからだ。だから、俺はシルバーバック自体にアイテムをくっつけて外に出てきてもらった。これならば、扉が閉まる前に大量のアイテムを外に運び出すことができる。
先ほどまでの仕込みは、シルバーバックの身体中にトリモチ団子でアイテムをひたすらくっつけるという作業をしていた。
俺は効果範囲にアイテムやシルバーバックが入らないように少し離れて、バクバクに『リバース』をかけた。ストックありの『五月雨突き』を復活させる。バクバクも俺に『リバース』をかける。
「もう1セット行くぞ!」
ボタンを再度押すと、また身体中にアイテムをくっつけたシルバーバックが飛び出してくる。出た瞬間にバクバクが瞬殺して大量のアイテムが転がる。またお互いに『リバース』をかける。
他の仲間が必死に散らばったアイテムを回収する。トリモチ団子を無効化するために近くの水場から水を運ぶ。
それからひたすらボタンを押してシルバーバックを瞬殺することを繰り返した。
「ひゃははは! アイテムが! アイテムが! 無限に増えていく!」
途中からゲーマー魂に火がついて、アイテムを無限に増やす快感に異様なテンションとなってしまい、リンから冷たい目で見られた。
結局5時間ぐらいやり続けて、アイテムを回収する仲間達は疲労困憊の状態だった。俺はこうゆう作業を延々と繰り返すことに慣れているから何とも思わないが。
「はあ……はあ……すごい、これだけ貴重なアイテムが大量に、やっとレンの言っていることが分かったわ、これでエアーシードを大量に増やすから水神の腕輪がいらなかったのね」
「ん? 違うぞ」
リンはまた勘違いしている。エアーシードを大量に増やしても、効果が切れる度に毎回使用しないといけないので手間が多い。戦闘中など効果が切れれば致命的な隙になる。
「アイテム無限増殖はこれから行うことの下準備だ」
アイテム無限増殖が今回の目的ではない。これはあくまで過程だ。不死身のゴリさんのポテンシャルはこんなものじゃない。本番はこの先にある。
俺は大量に増やしたアイテムの中から、あるものを探した。俺達が最強に至るための、限界突破への鍵だ。
闇市で購入した持続の腕輪。装備者の特殊効果時間を2倍に伸ばすことができる。
それだけでもかなり有益な効果だ。しかし、この腕輪はアイテム無限増殖法とセットにするとその価値が何倍にも跳ね上がる。
腕輪は両手に装備することができる。本来なら持続の腕輪は1つしか手に入らない。これが大量に増えた。
そして、持続の腕輪は効果時間中に装備すると残り時間が2倍になる。それが意味すること1つ。
効果時間無限化。
例えば、【パワーアップ】で攻撃力を上昇させる。効果時間が残り30秒の時に持続の腕輪を装備すると、残り時間が60秒に伸びる。その状態で持続の腕輪を外すと持続の腕輪の効果が切れて30秒に戻る。
しかし、これは装備を外すと効果が切れるというだけで、外すことで効果時間を半減させるのではない。一見すると同じことに思えるかもしれないが、この差は持続の腕輪が2つ以上存在すると意味が全く異なる。
左手に持続の腕輪をつけた状態で右手に持続の腕輪を付けると、60秒の効果時間が更に120秒になる。その状態で片方の持続の腕輪を外しても、もう片方の手に持続の腕輪を装備しているので効果は失われない。
もう一度、右手に持続の腕輪を装備すると、更に2倍の240秒になる。また外しても左手に持続の腕輪をしているので効果は消えない。つまり、片方に持続の腕輪をつけたまま、もう片方の手に持続の腕輪を何度も外して付けてを繰り返すだけで効果時間が倍倍で増えていく。
実はこれはゲームでも可能だった技だ。天界にある天空城でのイベントを利用してアイテムを複製できる裏技がある。そこで持続の腕輪を複製することでこの効果が得られる。
天界はエクストラステージなので、そもそも行くハードルが高すぎるし、1回しか複製できないので無限増殖はできない。
それに比べて不死身のゴリさんの無限増殖法は破格の効果だ。俺は持続の腕輪を大量生産したので、パーティ全員分を効果時間無限にできる。この恩恵がどれほどのものか想像できるだろうか。
エルフの秘薬は効果時間内、MPが減らなくなる。これを効果時間無限にすることで、フレイヤとユキはMPを気にすることなく無制限に使うこともできる。ドラクロワも常に『竜化』状態になることもできる。幸運の秘薬も使用すれば、常に運の良さがカンスト状態で敵を倒せば必ずレアドロップにもなる。
俺がビーチバレーでシードの詰め合わせが欲しかった理由もこれだ。環境に適応するシードを1個使用して効果時間無限化にすれば、水中だけではなくゼーラ神山の極寒の中もガルドラ火山の灼熱の中も今後問題なく移動できる。
そして、俺には切り札がある。本来は300レベルに到達すると、経験値に補正がかかりレベルアップをしなくなってしまう。敵に300レベル以上のモンスターが存在しないからだ。
そこが成長の限界とされている。しかし、このゲーム、LOLには成長の限界に到達しても倒すことができない化け物達がいる。プレイヤーがどう考えても勝つことができない難易度設定がデフォルトだ。
だから、俺はもっと強くなる必要がある。仲間を守るために。
俺には限界を超える手段が必要だった。
限界突破。黄金に輝く栄光への道が伸びている。
『龍脈』
龍が危機に陥った際に発動する起死回生のスキル。HPとMPが20%以下になることが発動条件となる。発動中30秒間、一定確率で攻撃した相手のステータスをドレインすることができる。
リンはドラゴンエクスカリボーによる『龍脈』を効果時間無限化で常に発動し続けることができる。エクスカリボーは100%クリティカルが発生するため、攻撃をすれば必ずステータスドレインが発生する。
効果時間に終わりがなくなれば、ステータスが元に戻ることがない。つまり敵を攻撃し続ければし続けるほど、無限にステータスが増えていく。レベルに関係なくステータスを向上させることができる。
300レベルの壁が超えられないなら、ステータスを向上させれば良い。これが俺の考えた限界突破だ。
俺は全員に説明し、あらゆるバフや効果時間のあるアイテムを使用して効果時間無限にしていく。最低でも1週間に1回のペースで持続の腕輪をはめ直せば効果が終わらないようにした。
「信じられない……」
リンは思考がプレイヤーよりになっている。英雄の考えを持っているからこそ、この持続の腕輪の効果がどれだけぶっ飛んでいるのか分かるのだろう。
「まだ驚くのは早い、更に先がある」
「さらに……先」
リンが言葉を失って俺を見ている。そう、まだこれで終わりじゃない。更に俺達の次元を押し上げるアイテムがある。英雄の発想は限度というもの知らない。無限に湧き出してくる。
大海賊の契。装備者の効果を共有することができる。
本来は2つしかない大海賊の契、それを量産することができた。これによって全員で効果を共有することができる。
次元を超えた最強への道、全員『龍脈』状態を完成できる。
パーティ全員の攻撃により、常にステータスドレインがされ続け、永遠に全員のステータスが向上していく。
もちろんエクスカリボーのように毎回クリティカルが発生するわけではないので、リン以外では100%ステータスドレインが起こるわけではないが、それでも俺達はレベルの枠を外れて強くなることができる。
これで俺達の強さは1つの次元を超えた。
「まだか……」
俺は誰にも聞こえないように呟く。
不死身のゴリさんのポテンシャルはまだ終わらない。
俺には更にここから強くなる秘策が思いついている。だが、それをすべきは今じゃない。もう少し準備が必要だ。
それが実現できれば、俺達はさらなる高みへ上り詰めることができる。
栄光への道の輝きはまだ途切れず、はるか先へとつながっている。
いつも応援ありがとうございます。
ピッコマ様で先行配信をしていましたが、5月22日より『無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜』が『究極難度の異世界に転移したのでゲーム知識を使って英雄になる』というタイトルで電子書籍として他の媒体でも配信されます。
今まであまり宣伝とかしてこなかったのですが、よかったら見てみてください。
創作者として自分の作品が評価されるのは嬉しいことです。
これからも応援よろしくお願いします。