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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第5章 英雄の意志
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宝探し



それからのジェラルドの動きは迅速だった。グランダル王国に伝令を送り、騎士団を派遣し、ドンパチーノのアジトを調べあげ、癒着の証拠をもとにシーナポート騎士団の汚職を摘発した。



サギールは何だかんだ持ち前の機転と無垢なスマイルでグランダル王国騎士団の目をかいくぐっていた。ある意味、大物なのかもしれない。



ニコニコファイナンスを筆頭とした黒いビジネスにはジェラルドがメスを入れ、ことごとく浄化された。ジェラルドはたった3日間でシーナポートを全く別の街へと変えた。その政治手腕は圧巻の一言だった。



俺は3日間、ジェラルドのもとでいろいろと手伝いをした。レオンとニキータは組織の裏まで熟知していたので彼らの情報はジェラルドにとって貴重なものだった。



海賊たちはグランダル王国からの許可証が発行された。簡単に言うと、海賊は自由だからどこの国にも属さない。街の人に危害を加えない。持ち帰ったものは積極的にシーナポートと交易する。そうゆう取り決めだった。



ジェラルドが最大限に優遇してくれたのだろう。ジョーンズは号泣してジェラルドとハグをしていた。



こうしてシーナポートの騒ぎが一段落して、俺達はジェラルド達のホテルに集まった。



「それではー、今からお宝さがしを開始するよ!」



「「「「おお!」」」」



ジョーンズやその他の海賊たち、ジェラルド一家が集まってマリリン主導のもと宝探しが始まるところだった。



「これがお宝の地図だよ!」



マリリンは古びた羊皮紙を広げる。俺がマリリンと交換した羊皮紙だ。俺が手に入れたのだが、いつの間にかマリリンが主役となっている。



「ここがシーナポートだな、海岸線が同じだ」



ジョーンズが一目でシーナポートが地図上のどこかを当てる。海岸の形から予想できるのだから、さすがは海の漢といったところだ。



「それじゃあ、トレジャーハントにしゅっぱつ!」



マリリンは張り切って地図を片手に先頭を歩いていく。海賊たちにフリードリヒ家、俺達のパーティにレオンとニキータという大所帯で移動をする。



レオンとギルバートは2人でガンマントークに花を咲かせている。ポチは後ろからニキータがもふもふしてくるため、必死に逃げ回っていた。レオンとはあれから何度か話したが異常に俺を怖がっている気がする。何か俺が話しかけると笑顔が引きつっている。



俺はこの宝探しの答えを知っているため、あえて黙っている。マリリンの楽しそうな表情を見ていれば、水をさそうとは思わない。



「彼女は昔から、財宝などが大好きだったからね」



ジェラルドは俺と並んで、優しい眼差しで先頭を進むマリリンを見つめている。ジェラルドはマリリンに言われて今日は休みを取ったらしい。どこまでも家族ファーストな人だ。



「彼女と初めて会ったのは海の上だった」



「あれ? シーナポートで助けたのが初めてじゃないんですか?」



俺はつい驚いてしまった。マリリンは初めて会ったのは、シーナポートでマリリンが悪い男に襲われている時だと言っていた。



「彼女は演技が下手でね、襲ってくる男が演技なのもすぐにわかったよ、きっと海賊の部下だろうね、できるかぎり怪我をさせないように優しく倒してあげたさ」



どうやらジェラルドは本当に一番最初からマリリンの正体に気づいていたようだ。マリリンは計算の上でジェラルドの前で強盗に襲われる演技をしていたらしい。



今更だが、ジェラルドが知っているのも当然か。これほどまでに頭が切れる男が気づかないはずがない。



「あの頃は私も若かった、正義感丸出しで自ら密輸の調査をしていて敵の船に乗り込んでいた、私は途中で身分がバレて乗組員達に捕虜として捕まっていた、その船をマリリンの海賊船が襲ったという流れだ」



ジェラルドは昔を懐かしむように目を細めた。



「彼女達と利害が一致してね、海賊達と一緒に共闘したよ、私達はお互いに命を預けた、それが彼女との初めての出会いだ」



「船長は身分の違うジェラルド様と結ばれるために、あの後、必死にがんばっていたんです」



後ろからボルドーが口を出す。マリリンはそこでジェラルドに惚れ込み、ガサツの性格を隠して貴族としてふさわしい女性になるように努力を重ねたようだ。



「髪もきれいに整え、マナーや言葉づかいも勉強していました、それは今でも変わっていません、彼女は貴族でもない、レンさんは平民からグランダル王国の大貴族フリードリヒ家に嫁入りすることの意味がわかりますか?」



貴族の世界のことは俺にはわからないが、平民が貴族の世界に足を踏み入れることは想像以上に大変なことなのだろう。



「あの方はジェラルド様の奥様として、恥ずかしくないよう今も必死に努力を重ねているんです」



なぜジェラルドのような人がマリリンと結婚したのか不思議だったが、それが分かったような気がした。見えない努力がその裏にはあった。彼女が作り出したキャラクターも、その努力の末に生まれたものなのだろう。



「私はね、海賊としての強い彼女も、私のために美しくいてくれる彼女も、すべてひっくるめて彼女を愛している」



歯が浮くようなセリフだが、ジェラルドが口にすると、とても綺麗な言葉に思えた。きっとそれは純粋な本心だからだろう。



「君にもいつか分かる、それが結婚というものだ」



マリリンは幸せそうに、一番前で飛び跳ねていた。



しばらくして目的地に到着した。地図上にバツがついている場所だ。シーナポートの外れに小さな池がその印の地点だった。



「多分、この辺なんだけど……」



マリリンが辺りを見回すが何もない。



「取り敢えず、手当たり次第に探しますか」



ジョーンズ達海賊が率先して、辺りの捜索を始めた。ポチとドラクロワが池に潜って水の中を探す。マリリンは地図をいろいろと回転をさせながら頭をひねっている。



しばらく捜索が続くが進展がない。池の中にもそれらしい物は見つからない。俺は少しヒントを出すことにした。



「高さが違うのかもしれないですね」



「え、高さ?」



マリリンは俺の言ったことを飲み込むようにもう一度熟考した。そして、手を叩いて閃いた。



「分かった! この場所の地下に埋まっている」



この地図は簡単には見つけさせないというLOLスタッフの嫌がらせという名の工夫が凝らされている。まず地図の形状からバツ印の位置を割り出すのが、本当に苦労する。今回はジョーンズがいたからあっさり見つかったが、印も何もなく土地の形状しか書いていない地図なのだから、自分で捜索するとなるとかなり大変だ。そもそも初めはシーナポート近辺であることすら分からない。



そしてバツ印の位置は池の中となる。ここで潜って中を調べるということを全プレイヤーがしただろう。それが罠だ。実はこのバツ印は更にその下の地下に空洞のことを指している。



その洞窟の入口はかなり離れたところにあり、この地図を入手していないとフラグが立たず入口が現れない仕様となっている。実は地図上の山の部分に実際と形が違う部分があり、そこが入り口だ。そんなの普通に考えて分かるわけがない。



かなり距離も離れているので、このバツ印の周辺を虱潰しに探しても無駄骨となる。この入口を見つけた人も完全に偶然だった。ネットで分かるわけがないと散々叩かれていたが、LOLだったら普通じゃない?の一言でみんな納得していた。



更に洞窟の中にも趣向を凝らしたギミックが盛り込まれ、謎解き要素満載となっている。大昔の伝説の海賊が財宝を隠したという設定で、宝を守るための罠が張り巡らされている。



さて、問題はどうやってその入口までみんなを誘導するかだな。どう考えても偶然見つけたと言えるような距離じゃない。ドラクロワがデストロイヤーをブンブンと振っている。



「いいぜ、やってやろうじゃねえか」



「よし、ドラ君! やっちゃて!」



何をやろうとしているのか容易に想像できた。脳筋の単純な考えだ。ゲームでは不可能な手だが時間効率を考えるならありかもしれない。



「あの……宝探しの謎解きとか興味ないんですか?」



マリリンはキョトンとした顔をする。



「え? お宝欲しいだけだよ? マリリン頭使うの嫌いだし」



洞窟の謎解きはもはや省略で良いらしい。LOLスタッフの工夫をすべて無駄にする脳筋の攻略手段。それは「洞窟の上から無理矢理穴を開ける」だ。



ドラクロワはポチの手に足をかけた。



「やれ、ポチ!」



「わん!」



ポチが全力で上空にドラクロワを吹き飛ばす。ドラクロワは上空高くで、デストロイヤーを構える。



「おらああああ!」



落下しながら池に激突する。凄まじい水しぶきが上がり轟音が鳴り響く。ゲームでは地面は破壊不能オブジェクトだったが、デストロイヤーには関係がない。下に空洞があるので、地面の強度はそんなに高くないだろう。



それから30分ぐらいドラクロワは地面をえぐり続け、ついに大きな穴が開いた。池の水がすべてその穴に流れ込んだ。



「やっぱり! 下の空洞がある! さあ、みんな行くよ!」



マリリンが先導して、その穴に飛び込んでいく。下がどんな状況かも分からないのに無鉄砲に飛び込んでいくのは性格によるものか。ジェラルドがマリリンを心配して、いち早く穴に降りていく。



俺達も穴の下へと飛び降りる。海賊たちが上で待機して、縄梯子を用意してくれた。



「きゃーーー、お宝がいっぱい!」



マリリンの嬉しい悲鳴が聞こえる。下の空間はまさに宝物庫。大昔の海賊が隠した金銀財宝が溢れていた。この宝探しイベントは一気に所持金を増やすことができる有名なイベントだった。全てのギミックの攻略法は解析済で、ネットで出回っている。



俺がこのイベントをしようと思ったのはお金の問題ではない。単純に有益なアイテムが手に入るからだ。俺達が更に強くなるためにはアイテムが重要となっていく。



「レンちゃん! お宝は山分けだよ! 好きなやつもっていって!」



「ありがとうございます、じゃあ、適当に持っていきますね」



目当てのアイテムは1つだけだ。大海賊の契。対になっている2つの腕輪装備だ。2人で装備することで効果を発揮する。かつての大海賊の船長と副船長が装備していたという説明書きがされていた。



効果は装備者にかけられている特殊効果を共有するというものだ。つまりリンと俺で大海賊の契を装備して、リンが自分に【パワーアップ】の魔法をかければ、俺にもその効果が発生する。もちろんリンの【パワーアップ】が切れれば、俺の効果も失われる。



デメリットは悪い効果も共有してしまうことだ。デバフの効果をリンが受けてステータスが下がれば、俺にもその効果が及んでしまうことになる。



あとは適当に金になるものを見繕ってもらうことにした。金策としてガルシアの店での錬金術はあるが、いつ出禁にされるかヒヤヒヤしているので他の収入源は純粋に助かる。



マリリンは金銀財宝に囲まれて、くるくると踊りながら大喜びしていた。



これでもうシーナポートでやり残すことはない。後はジョーンズの船に乗って海底都市を目指すだけだ。だが、その前にやるべきことがある。俺達の今の強さでは、海底都市のあとに向かうゼーラの神の使徒に勝てない。



まだ時間に余裕はあるが、コーネロイベントが進みが自分の野望を叶えてしまえば、尋常ではない数の人間が死ぬことになる。それを阻止するためにもっと力が必要だ。



俺達が次の段階に進むための準備は整った。一度グランダル王国の方に戻ろう。



俺達はまだまだ強くなれる。最強への道を進むための栄光への道(デイロード)は燦々と俺達の前に輝いている。



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