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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第5章 英雄の意志
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海賊の夢



ーーーーーーーードンパチーノーーーーーーーー



俺は最高に気分が良い。



ラインハルトという鍵が手に入った。いくらジェラルドでも人質を取れば、何もできない。所詮は弱い男だ。俺は大切なものをつくらない。それが弱さになると知っているからだ。



しかし油断はできない。ジェラルドはあのゴルディを失墜させた男だ。ただで転ばない気がする。人質の見張りには組織の人間を総動員した。



本当はレオンとニキータにもそちらに行ってほしかったが、俺の護衛の方が優先順位が高い。ジェラルドは戦闘能力もかなりのものだ。もし俺が襲われたら殺されるだろう。



レオンとニキータにはかなりの金を払っているが、それに見合う能力がある。俺はこの2人よりも強い者を見たことがない。



俺はこの後の展開を考えて笑うのを抑えきれなかった。



まずはあのジェラルドに土下座をさせよう。それから奴の資産と領土の譲渡に関する契約書にサインをさせる。あとはグランダル王国への推薦状を書いてもらう。



全て完成したら、もちろん全員死んでもらう。ラインハルトも殺すし、ジェラルドも事故に見せかけてこの世から消す。当たり前のことだ。生かしておいたら何をされるか分かったものじゃない。



もしジェラルドが、あのおバカのジョーンズのような奴なら部下にしてこき使うところだが、ジェラルドにそんなことをしたら寝首をかかれる。大人しく死んでもらうのが最適解だな。



これで俺は莫大な資産と権力を手に入れることができる。ドンパチーノの時代の到来だ。



ジェラルド、ゴルディ、アリババと比較されるのがいつも嫌でたまらなかった。ゴルディがいなくなり、ジェラルドも消えればもうそんな風には呼ばれないだろう。



アリババは俺よりも金は持っているが奴は権力に興味がない。そうなれば権力の面では俺が一番だ。



ああ、一番というのは実に心地が良い。何事も一番が良い。俺は一番が好きだ。



のし上がるために何でもしてきた。危ない橋を何度も渡った。人を欺き、脅し、殺し、そして今の地位がある。その努力が実ったんだ。



「ボス! 報告が入りました!」



伝令役の部下が慌てて飛び込んでくる。



「どうした?」



「ジェラルドの女が護衛も付けずにふらふらと街に出ています」



これは僥倖。神様はやはり私の味方をしてくれているようだ。人質というのは1人よりも複数の方が段違いで効果が違う。



1人を殺しても取引を継続できるからだ。1人殺せばジェラルドの精神状態は正常ではなくなるだろう。そうなれば俺の思うがままだ。



「よし、攫え」



これで俺の勝利はより盤石となった。









ーーーーーーーージョーンズーーーーーーーー



「船長……どうして俺等がこんなことを」



「すまねえな、上からの指示だからな、我慢してくれ」



俺は一緒に働く元海賊船の部下達と隠れ家の見張り役をしていた。急遽人手が必要になったようだ。



かなりの人数がここに集められている。俺のような末端の人間まで声がかかったぐらいだから、組織を総動員しているのだろう。



部屋にはかっこいい兄ちゃんが縛られている。不憫には思うが、大人しくすれば無傷で解放されると上の人が言っていた。



かわいそうだから逃がしてやりたいが、周りには組織の人間が大量にいる。そんなことをすれば俺や仲間の命がない。



本当ならレオンさんとかニキータさんが見張りなのが安心だが、2人ともボスのボディーガードをするらしい。末端の俺には何が起こっているのか全体像は把握できない。



「また……いつか船、乗りたいっすね」



仲間が呟くように言う。



「ああ、こうやってコツコツ仕事をしてれば、またいつか皆で船に乗れるぞ」



「船長、いつも感謝してます、俺達のためにいつも辛い仕事を率先してやってくれて」



「よせよ、照れるじゃねえか、俺は俺がやりたいようにしてるだけだ」



そう、俺は俺がやりたいようにしている。俺はもう一度、あの海へ行きたい。仲間と一緒に財宝を探して大冒険をするんだ。



ドンパチーノさんはこのペースで行けば、借金の完済は近いと言っていた。実はそんなに悪い人じゃないのかもしれない。俺を見て、楽しそうに笑いながら毎日がんばってるなと言ってくれた。



あの人はいつか旅立ちのために、俺達海賊の魂である海賊旗を保管してくれている。完済した時に返してくれると言っていた。



それにあの人から受け継いだ船長の帽子と、刀も預けてある。あの帽子を被り、刀を腰に提げ大海原に旅立つことを俺は夢見ている。



「くく、あの馬鹿、また言ってるぜ、解放なんてされるわけないのにな」



「よせ、聞こえるぞ」



組織の人間が俺を見て何かを言っている。あまり良くない言葉だろう。それはわかる。



俺がドンパチーノさんに騙されていると言う噂も聞いたことがある。でも、人はお互いを信じることが大切だと俺は思っている。それが仁義だ。ドンパチーノさんは俺に約束してくれた。男と男の約束だ。



だから、俺は信じてみようと思っている。



「おい、せんちょーさん、ちょっと面白いことでもやれよ」



若い組織の男が俺に絡んでくる。見張り役で暇を持て余しているんだろう。



「今仕事中じゃねえか」



「はあ? お前誰に口答えしてんの?」



思い切り腹を殴られる。苦痛で俺はうずくまる。止めようとする仲間を右手で制止する。



「だ、大丈夫だ」



「はは、頑丈だけが取り柄だもんな、せんちょーさん」



もともと組織にいたメンバーからしたら、俺達海賊は下っ端扱いだ。他の仲間がやられないようにいつも俺が標的になるようにしている。



「おいおい、海賊ってのはやり返すこともできない臆病者だな!」



「てめえ、いい加減にしろよ!」



頭に血が昇った仲間達が掴みかかろうとする。俺はそいつらを身体を張って止める。



「やめろ」



挑発に乗ったら終わりだ。相手の方が数が多い。その後は集団でのリンチが待っている。



「いや、すみません、こいつら血の気が多くて」



「はは、ぺこぺこしてばっかのせんちょーさんより、よっぽどマシに見えるけどな」



そして、先程口調を荒げた仲間に視線を向ける。



「そこのお前、今俺に歯向かおうとしたよな? 立場分かってる?」



男の拳が握られている。ニヤニヤ笑いながら、ゆっくりと近づく。



「海賊風情が口答えするんじゃねえよ!」



男から放たれる殴打を俺は腕を掴んで止めた。



「やめてくれ! 俺はいくらでも殴れ、でもな、俺の仲間に手を出すな!」



「は? 何触ってんだよ!」



思い切り蹴り飛ばされる。これで良い。標的が俺に変わった。殴られる役は俺だけで十分だ。



「くくく、いいね、さすがせんちょーさんだ、そうだ、暇つぶしに手合わせでもしようぜ」



「やめてくれ」



「はーい、一緒にサンドバックでストレス解消したい人!」



何人かがにやにやしながら、手を上げて集まってくる。



それから俺は手合わせという名のリンチにあった。ボコボコに殴られる。苦痛に顔を歪めるが、休む暇もない。全身に暴力が浴びせられる。



俺は必死で耐えながら、部下に手を出すなと言い続けた。こんなところでドンパチーノさんに逆らうことなんてしない。もうすぐ自由が待っているんだ。



「海賊さんってのはこんなにも弱っちいんだな、情けなくて泣けてくるぜ、てめえさ、本当に自由になれると思ってんの?」



倒れ込む俺を男は顔を覗き込みながら言う。



「てめえは永遠に俺達の奴隷なんだよ、何夢とか見ちゃってんの?」



違う。俺達は奴隷じゃない。またあの海に船を出すんだ。



「海賊が落ちぶれた理由を教えてやろうか、お馬鹿だったからだよ!」



皆がげらげらと笑う。



「あんたらの誇り? あの汚らしい旗とかずっと前にボスが箱に詰めて海に沈めたぜ」



嘘だ。それは嘘だ。俺を怒らせようとしているだけだ。



「げ、こ、こいつ泣いてるぜ! こんな大男が泣いてやがる! 気持ちわりい!」



また笑い声が満ちる。きっと嘘だ。ドンパチーノさんに聞いたら嘘だと教えてくれる。



そのとき、外から声がかかった。



「おい、新しい人質が到着したぜ、椅子と縄の用意しとけ」



「すげえな、もうひとり人質を手に入れたら、もうボスの作戦は成功じゃねえか」



あまり良くない気がする。人質が2人に増えたということは1人に危害を加えても大丈夫になったということだ。



しばらくして、扉が開き組織の若い男が女を連れて現れた。女の姿は男の後ろに隠れていて見えない。



あれ。この人、最近というか今日会った気がする。ダークスーツにサングラスで髪の毛が何かテカテカしてるけど、全然似合っていない。



「ほら、新しい人質を連れて来たぞ」



男の後ろから女性が姿を見せた。


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