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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第5章 英雄の意志
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決着



これが俺の切り札。俺はジョニーの姿をコピーする。ジョニーに動揺が生まれる。もう一人の自分が現れたのだから当然だろう。『イミテート』はステータスは真似できないが、スキルは使用可能になる。



『パーフェクトレシーブ』



放たれたジョニーのスパイクは引力によって俺の腕に引き寄せられていく。テクニックも何も関係ない。スキルの効果で俺はボールをレシーブして上空に上げた。



ラインハルトが謎にかっこいい動きで宙を舞い、トスを上げる。



「……あんたは自分自身に勝てるのか?」



俺はボールに向かって飛び上がる。もちろん使用するスキルは決まっている。背景が宇宙空間に変化する。



『ギャラクシースパイク』



「レイチェルちゃん! 下がって!」



ジョニーのステータスは別に高くない。仲間にしてみたらがっかりしたランキングで上位に来るようなキャラだ。彼の強さは全てスキルによるもの。



だから、俺が放つ『ギャラクシーサーブ』はジョニーの放つ威力と同等のものとなる。俺は太陽のように輝く光球を打ち付ける。ジョニーが『パーフェクトレシーブ』でその光球を受ける。



「ぐあああああぁぁぁぁ!!!」



ボールを腕に受け止めたまま、ジョニーの体が後ろへと下がっていく。コートに踏ん張る足によってできた線が2本生まれる。



それでもボールの勢いは止まらない。ボールはジョニーの腕を弾き飛ばし、はるか後方の海に落ちた。熱により、海水が蒸発して巨大な雲ができる。



ジョニーは仰向けに倒れていた。



「あ、あ、ありえません、一体何が起こっているのでしょうか!」



『ギャラクシースパイク』が『パーフェクトレシーブ』に勝てるかは賭けだったが、上手く行ったようだ。



会場は静まり返っている。あのジョニーが吹き飛ばされて仰向けに倒れている。その事実が受け入れられないのだろう。



これで終わりか。いくらジョニーでも自分の『ギャラクシースパイク』は受けきれなかったようだ。



「ジョニー選手、動きません、これは……続行不能により」










「……ウェーイト」













ジョニーはゆっくりと立ち上がる。普通ならこれで続行不能だろう。やはりビーチバレーの中で奴は最強だ。



俺の『イミテート』が切れる。



「まだまだ行けるさ……、ユーは今まで戦った誰よりも強い、もうミーは気持ちを変えるよ」



明らかにジョニーの様子が変わる。限界のはずの全身からオーラのようなものが吹き出す。



「こんなにもエキサイティングなのは初めてだ、ミーはユーと戦うためにビーチバレーをしてきたのかもしれない」



表情に笑顔はない。真剣そのものだ。微塵も隙がない。ジョニーは追い込まれることでパフォーマンスを向上させる。



こちらがマッチポイントとなることで、ジョニーは覚醒を始める。ただでさえ最強の男が更にパワーアップする。あと1点という状況でプレイヤーを絶望に突き落とすLOLスタッフの悪意。



『ゾーン』ジョニーが追い込まれることで発動できる隠しスキル。



スポーツ選手が集中の果てに入ることができる精神状態。ステータスが極限まで上がる。某バスケ漫画で有名だ。



ここからのジョニーはスキルを使用してこない。ただ普通にプレイするだけだ。しかし、それが止められない。



スパイクをどこに打っても瞬間移動して必ず拾う。スパイクもジョニーの手がボールに触れた瞬間、こちらの地面にボールが瞬間移動する。これは速いとかの次元じゃない。本当に瞬間移動する。



プレイヤーはあらゆる実験を行ったが、間にどんな障害物があっても、結果として地面にボールがぶつかる。物理法則を無視したチート状態だ。スパイクを打った瞬間、地面にボールがつくという結果が発生する。



「もはや言葉になりません、あのジョニーが2点先取され、追い込まれています、今までこんなことがあったでしょうか、これは歴史を変える戦いです」



俺はボールをジョニーに向ける。



「ジョニーこれで終わりだ、俺のサービスエースでゲームセットにする」



ジョニーは腰を低く落とす。瞬きもせずに俺を見つめる。俺の言葉に返答はない。ぞっとするほどの集中力だ。全身からほとばしるオーラが尋常ではない。



普通に考えれば攻略不可能。『ゾーン』状態のジョニーには絶対に勝てない。どんなサーブを打ったところで、100%瞬間移動して拾われる。ジョニーがボールを落とすことはありえない。



()()()()()()()()()()()じゃなければ勝てない。



「さあ、運命のサーブです!」



「ジョニー、これがお前を倒す、俺のサーブだ!」



「……」



ジョニーは黙ってただボールを見つめている。もう彼には声すら聞こえていないのだろう。



観客が全員俺に注目しているのが分かる。俺はボールを持ち上げて、俺が考えた最強のサーブを放った。



相手のコートに入れることだけを考えた山なりのふわっとしたサーブ。よし、うまくいった。



予想以上のショボさに全員口を開けて驚いている。相手のコートに入れただけでも俺は大成功だと思っている。ボールはゆっくりと最高点に届き、そのまま重力に従って落ちていく。



そんなショボいサーブでも、ジョニーだけは油断せず全神経を集中している。落下地点に瞬間移動する。ここからボールがどんな変化をしようとジョニーは反応できる。



今のジョニーにボールを落とさせることは俺にもできない。ジョニーの腕がボールに触れた。



だから、俺は叫んだ。

















「よっしゃ! 勝ったあぁ!」















勝利のダンスを踊りだす。俺以外の全員が何が起こったのか理解できず、言葉を失っている。



ボールがジョニーの腕に触れたまま、()()()()()()



ジョニーは絶対にボールを落とさない。だから、俺はボールを落とさせないことで得点をもらう。



「はあ! は、はああああ! え、え、ええええええ! こ、これはホールディングです! ボールを持ってしまう反則行為、え、うそ、こ、これによりチャレンジャーチームの得点になります!」



そう、俺はトリモチ団子をバレーボールに使用したのだ。このビーチバレーは正宗のようにアイテムの使用が認められている。外部からの援助ではなければ許可される。俺はトリモチ団子をずっと海パンの中に隠していた。



だからトリモチ団子をこっそりと付け、そこに触れないようにサーブを入れた。あとはジョニーの腕にくっつけば俺の得点だ。



ゲームではトリモチ団子はあくまで地面に設置して、敵の動きを阻害するだけのアイテムだった。つまりモンスターには有効だが、アイテムやオブジェクトをくっつけることはできなかった。



だから、俺は闇市の帰り道で、政宗と妖刀村正がトリモチ団子でくっつくかを実験していた。実験は成功だった。現実の世界ではアイテムにもトリモチ団子をくっつけることができる。俺はこのとき、ボールにトリモチ団子を使用する案を使うことを決めた。



はじめから『ゾーン』状態になったら、この手を使おうと考えていた。ジョニーの『ゾーン』状態は、絶対にボールを地面につけることはできないので、それ以外の方法で点を取るしかなかった。つまり相手に反則させる必要があった。正攻法では破れないなら、穴を突くのが英雄の戦い方だ。



「ええ……ゲームセットですね、その……チャレンジャーチームの勝利です」



仲間が俺のもとに駆け寄ってくる。てっきり胴上げされるのかと思ったら、リンは呆れた顔をしていた。



「まあ……何かレンらしい勝ち方ね」



会場に微妙な空気が流れている。なぜか理由がわからない。今のは頭脳の勝利であり、派手さはないが賞賛されるものと思っていた。



「ユー」



ボールを腕にくっつけたままのジョニーが近づいてくる。



「良いゲームだった、ミーはこれからももっと強くなるためにトレーニングする、またいつか再戦しよう」



「こちらこそ、楽しかったです」



俺は握手を交わす。やっぱりジョニーの握力が強くて手が痛い。これ以上、ジョニーが強くなったら多分勝てないと思う。



その後、俺達は表彰式に参加し、優勝賞金と目当てのアイテムを手に入れた。



シード詰め合わせと、熱血ドリンクだ。シードは環境対策の消費アイテムだ。エアーシードは水中対策になるし、ホットシードはガルドラ火山などを耐火装備なしで探索することが可能になる。ダークシードは暗闇でも目が見えるようになる。そして俺が欲しかったのがアイスシード、極寒のゼーラ神山を登るには必需品だ。



シード系のアイテムは店売りをしていないため、イベントで手に入れるかモンスターからのドロップしかない。このビーチバレーのイベントはシード目当てで攻略する人も多い。



各シード10個ずつ入っている。当たり前だが、アトランティスをパーティ全員で攻略するにはあまりにも不足している。



そして、もう一つの景品、熱血ドリンク。見た目は夜に効きそうな栄養ドリンクだ。こいつは使用すると30秒間、連続ダメージを与えることで攻撃力と魔法攻撃力が大幅に上昇していく。



連続で2秒以内に敵にダメージを与えていれば、コンボは途切れず永遠に攻撃力が増加する。途中でコンボが切れてしまえばリセットされる。ギルバードがこの効果時間に64コンボを行えば今の10倍近いダメージが与えられるだろう。



これでアイテムの準備は整った。このあと、一度グランダル王国に戻ろうか。



俺はそこでふと気がついた。先ほどまで女の子に囲まれていたラインハルトの姿がない。全く、性格が元に戻った途端にこれだ。きっと女の子を連れてどこかに行っているのだろう。





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