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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第5章 英雄の意志
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ジョニー戦



俺は正宗を構える。このビーチバレーはアイテム使用可能だ。武器だって相手に直接ダメージを与えなければ許可されている。ラインハルトも片手剣を腰に提げている。



「おい、ラインハルト、危ないから下がって『自己陶酔』を使ってくれ」



俺はラインハルトを下がらせる。このサーブの相手をさせるには危険すぎる。



ラインハルトは言われた通りに大人しく『自己陶酔』を発動する。このスキルはラインハルトのユニークスキルだ。発動中、攻撃も移動も何もできなくなる。ステータスは何も変わらない。ただ、鏡を片手に髪の毛をいじったり、表情を決めたりするスキルだ。



ジョニーが高くボールを投げる。そして、助走を付けて飛び上がる。ネットより遥かに高い位置でジョニーの身体が最高到達点に届く。まるで吸い寄せられるかのように彼の腕の軌道に、上からボールが落ちてくる。



腕が強烈な振りによって、鞭のようにしなる。ジョニーを中心に風が流れ込む。



『トルネードサーブ』



全神経を集中する。時の流れが止まる。灰色の世界で俺は思考する。



俺は自分とジョニーの素早さから計算する。 『トルネードサーブ』は彼の手がボールにヒットしてから0.2秒でこちらのコートに到達する。



その速度のボールに反応してサーブするのは不可能。一見そう思えるが、実は『ドルネードサーブ』には欠点がある。



相手を風圧で吹き飛ばすことができ、もし相手が耐えてもボールに当たれば即死する。そんな頭のおかしい効果だからこそ、1つ致命的な欠陥が生まれた。



このサーブは必ずコートの中央に寸分違わず放たれることだ。どうせ受けることができないから、コントロールする必要がない。このスキルを考えたLOLスタッフの怠慢だろう。



だから、俺は『トルネードサーブ』がどこに打たれるかを予め知っている。ラインハルトを下がらせて俺はコートの中央に立っている。間違いなく『トルネードサーブ』は俺に向かってくる。あとはロジックの世界だ。



相対的な素早さから0.2秒という到達時間を算出し、それに合わせて自分のスキルを発動するばよい。



『不動心』



まずは風圧で吹き飛ばされないためのパラディンのスキル『不動心』。これにより吹き飛ばしやノックバックが無効になる。



針の穴を縫うようなタイミングでもう一つのスキルを発動する。時が動き出す。



ジョニーの手がボールにヒットして、ボールが消える。もはや目で終える速さではない。それでも俺は目に見えない速度に論理を使って反応する。



すでに『流水の構え』は発動している。



カウンター発動時間のわずかなフレームに目に見えない速度の『トルネードサーブ』をヒットさせる。カウンターが発動して、俺は刀でボールを上空に打ち上げた。



「ラインハルト!」



俺の声でラインハルトが『自己陶酔』をやめて走り出す。



ラインハルトは美しいフォームでジャンプし、完璧に俺の上げたボールをトスした。動きがかっこよくてちょっと腹が立つがこれで良い。女性たちから黄色い声が上がる。



「行くぞ、ジョニー!」



「ヘイ! カモン!」



俺は飛び上がり、普通にボールを叩いた。



ジョニーの全身が揺らめくオーラに包まれる。ボールが引力によりジョニーに引き寄せられて、そのまま地面にぼすっと落ちた。



「……ほわっつ?」



「へ、は? 普通のよれよれボールなのに? 得点? え、あの地味なやつの?」



ジョニーが困惑している。会場もどよめき、解説者がパニックになって、意味不明なことを口にしている。



簡単な話だ。俺はジョニーの『パーフェクトレシーブ』を『バニシング』で打ち消した。



ゲームでもジョニー戦は『バニシング』が必須だった。『パーフェクトレシーブ』が完璧過ぎて、打ち消す以外に対抗策がない。



本当はシャルドレークの宝玉をここに置きたかったが、外部からの特殊効果を与えるものは禁止されている。観客がスキルを使って選手の邪魔をするのと同じ反則行為となる。ちなみにテイムしたモンスターを召喚しても同じく第3者の力を借りたことになり反則となる。



「あはは、ファンタスティックなことをするね! 今、ユーが何かしたんだろう?」



ジョニーは気づいてるようだが、逆に楽しそうだった。



「意味のわからないことがありましたが、きっとなにかの事故でしょう! 気を取り直していきましょう! それではチャレンジャーチームのサーブです」



俺はボールを受け取り、サーブ権を得る。



「ラインハルトは『自己陶酔』を続けてくれ」



「はあ……分かったよ」



ラインハルトが素直に言うことを聴いてくれる。俺はラインに立ち、ボールを胸の前に構える。そして、目を閉じた。



「レン選手、目を閉じて精神を集中しています、やはりあのジョニー選手と戦うのはとてつもないプレッシャーなのでしょう」



「……」



「……」



「……」



俺は目を開けて、ボールを見回す。そして軽くジャンプして体を揺らした。



「いよいよ、覚悟が固まってきたのでしょうか、少し時間がかかりましたね」



俺は屈伸と伸脚をして、足首を回す。



「緊張のあまり体が固くなってしまったのか、丁寧に動かしています」



俺は深呼吸をして、もう一度ボールを胸の前に構えた。



「準備が終わったようです! それではレン選手のサーブです!」



そのまま目を閉じて、息を深く吐き出す。



「……」 



「……」



「……」



「早くサーブしろよ!」



解説者が我慢できずに、声を荒げる。それでも俺は動じない。



当たり前の選択だ。『バニシング』のクールタイムを回復させなければいけない。だから、俺はさっきからずっと時間稼ぎをしている。



『バニシング』はその性質上、クールタイムがかなり長い。ゲームでもサーブの時にひたすらクールタイムが回復するのを待つのは常套手段だった。『リバース』を使っても良いが、バクバクを召喚できないので『無限リバース』を使用することができない。できるかぎり温存したい。



ただ現実になると周りの目が痛い。早くやれよ、おせーよ、と観客から罵詈雑言を浴びせられるが、俺は鋼の精神で耐えてひたすら意味のない行動を取り続ける。



「運営からルールの変更がありました! 今から次の行動に移るまでの制限時間は30秒とします! 破ったら反則負けです!」



「ちょ、待って、それは本当に無理!」



俺は慌てて文句をいうが、運営が決定しましたと押し通された。ゲームではこんなルール変更はなかったので、ずっと時間稼ぎができたが現実ならではの弊害だ。



『バニシング』が使えないと本気で厳しい。とりあえず『リバース』で『バニシング』のクールタイムを回復させておく。



「ほら! レン選手、まもなく時間ですよ」



「え! うそ、は、はい!」



俺はとりあえず適当にサーブを打つ。ボールは相手のコートなどにいかず、目の前の地面に着地した。



「サーブ失敗! ジョニー選手の得点です!」



会場からブーイングが上がる。更にジョニー攻略の難度が上がった。こうなったら作戦変更だ。





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