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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第5章 英雄の意志
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激闘ビーチバレー



エントリー会場に行くと、いきなり歓声が聞こえた。両側に人の道ができており、その道の中央をやたらと存在感がある人物たちがゆっくりと歩いている。スポーツ漫画によくある強敵演出だ。



先頭を歩く男は白いパーカーの前を開け、袖を通さずに羽織っている。なぜなのか、袖を通さずに羽織るパーカーは否応なく強敵感をアピールしてくる。



サングラスに金髪、逆三角形のマッチョな体、小麦色でテカテカ光る皮膚。そして、めちゃくちゃ小さいブーメランパンツ。笑うと真っ白な歯がきらいと光る。チャンピオンチームリーダーの渚のジョニーだ。



その横にはマネージャーのように一歩下がって付き従うメガネをかけた小柄な女性がいる。なにかボードのようなものを持っている。仕事ができそうオーラが半端ない。



その後ろには緑と紫のビキニの美女2名。まさにアメリカンドリームな体系で、思わず見入ってしまう。2人ともサングラスがよく似合う。セレブ女優のような佇まいだ。



一番後ろには身長4メートルを超える大男が2人。がっしりとした巨木のような体型だ。2人ともスキンヘッドで顔が恐ろしく怖い。顔がそっくりなので双子なのだろう。



その6名は歓声の中、ゆっくりとエントリー会場に歩いてくる。王者の風格だ。彼らが今回俺達が戦う相手、チャンピオンチームだ。



この観客たちは誰も彼らの勝利を疑っていないだろう。残念だが、その未来は訪れない。俺はこうゆうスポーツ系の漫画もかなり読破している。一度体験して見たかったシーンを実現できるなんて感動だ。



ただ油断してはいけない。この激闘ビーチバレーはLOLのイベント、気を抜けば死ぬことになる。



俺はエントリーを受付で済ませて、メンバーに作戦を伝えた。その後、軽くウォーミングアップをする。貸出用のボールで各自練習する。スポーツとしては完全に付け焼き刃だが、これはスポーツを模した別の競技だ。



そして、試合開始時間になった。



「レディースエーンドジェントルメーン!! 今回もやってきました! 激闘ビーチバレーの開幕です!」



ハイテンションな解説者の声で激闘ビーチバレーが始まる。



優勝候補、チャンピオンチームが会場に登場する。盛大な拍手が巻き起こる。



その中央で手を振る男。渚のジョニー。このビーチバレーにおいて、間違いなく最強の男だ。



3回戦で戦うことになるラスボス。ビーチバレーでは異次元の強さを誇る。1回戦と2回戦を突破するのもかなり苦労するが、3回戦は難易度が別物だった。



特にジョニーの『ギャラクシースパイク』が止められない。背景が無駄に宇宙空間に変化する壮大なエフェクトで、太陽のように燦々と輝く熱量を持つボールを打ってくる。



当然触れたら即死。こちらのキャラを蒸発させた上で地面に巨大なクレータをつくる。もはやスポーツではない。



1回戦がそろそろ始まる。出場するメンバーはこちらで毎回決めることができる。既に順番は決定済だ。



「よし、まずはドラクロワとポチ、2人で行ってくれ」



「ふん、この俺様にかかれば余裕だぜ」



「わん! よゆー」



1回戦の敵メンバーは知っている。この脳筋2人組が最も適任だ。



「さあ、では1回戦が始まります! 1回戦のチャンピオンチームメンバーを紹介しまーすぅう!」



チャンピオンチームメンバーが現れる。身長4メートル超えの巨人が2人だ。もはやネットよりも遥かに高い位置に顔がある。腕を上に挙げれば6メートル近くになる壁となる。



「ビッグジャイアント! そそり立つ双壁は難攻不落! ギガンテス兄弟だあぁぁ!」



大きな歓声が上がる。このシーナポートで彼らのメンバーはかなりの人気を誇っている。近くのショップではギガンテス兄弟ぬいぐるみが売られている。正直全く可愛くない。



ギガンテス兄弟は2人で手を広げれば、前を覆う壁となる。更に反射神経が異常に良く、2人の腕の隙間を抜けようとスパイクを打っても反応してブロックされる。



もはや彼らにレシーブという概念はない。全てをブロックするという作戦だ。更に彼らのサーブももはやスパイクとなる。ネットよりも遥かに高い位置から叩きつけてくるからだ。



そのダメージ量はかなり大きく。300レベルでも物理系以外であれば即死する。



「はい、では今回のチャレンジャーチームを紹介します、体は大きく見た目は恐いがただの不良、ドラクロワ選手」



「ああ、てめえ、殺すぞ!」



明らかにテンションが違う。解説者の悪意ある紹介に加えて、周りの観客からブーイングがドラクロワに飛んでくる。完全にアウェイだ。



「かわいいもふもふ、ただのマスコット、獣人ポチ」



「わん! がんばります!」



ポチは解説者の悪意に気づいていない。



「さあ、いよいよ始まります、またいつものようにギガンテス兄弟による蹂躙劇を見れることを会場の皆さんは期待しているでしょう!」



解説者もチャンピオンチーム贔屓で少し腹が立つ。コイントスによりサーブ権はギガンテス兄弟となる。



「兄者任せた」



「ああ、さっさと終わらせよう」



ギガンテス兄がボールを片手で持つ。手が大きすぎてバレーボールが野球ボールのように見える。



「それでは試合開始!」



会場に歓声があふれる。



「この勝負、残念だがあの子たちでは勝ち目がないな」



隣にいた渋い親父が話しかけてくる。漫画でよくいる説明係の観客だ。



「俺はこのビーチバレーを何年も観戦し続けている、俺の目は確かでね、一目見れば実力がわかる」



無駄に語ってくる。



「そもそもサーブを受け切ることができないだろう、ギガンテス兄弟のサーブはもはや弾丸だ、まともにぶつかればただではすまない」



ギガンテス兄が天高くボールを掲げる。



「行くぞ……」



そして、思い切り反対の手を叩きつけた。凄まじい轟音と共に直線上に相手のコートへボールが向かう。



誰もいないところにボールが向かったはずだが、地面に到着する瞬間、ポチがその場に現れる。瞬間移動のようなレベルの速度だ。



「えい」



ポチがレシーブする。当然ポチに技術などなく、変な方向に空高く飛んでいった。



「ん? あれ? 無傷?」



隣の親父が首を捻っている。ポチが吹き飛ばされて満身創痍になる光景を想像していたのだろう。



ポチには簡単なルールを教え込んでいる。ボールをこっちの地面につけないように、相手にボールを叩きつける。そう教えた。



順番があって、次はドラクロワの番とも伝えてある。それがポチが理解できる限界だった。



「ポチ、お前、どこにあげてんだよ」



ドラクロワが文句を言いながら、ボールを追いかける。コートをはみ出してかなり遠くの海の方まで行っている。



ポチが力加減ができず、かなり高くボールを上げたのが幸いしてドラクロワはボールの着地点に先回りできた。中々落ちてこないので待っている。



やっと落ちてきたのをドラクロワがボールを叩いて、コートに戻す。



「おら、あとはちゃんとやれよ、ポチ」



「わん! 相手に叩きつける!」



ギガンテス兄弟がネット際で両手を高く上げた。



「来たぁぁああ! ギガンテス兄弟のブロック! まさに双璧、突破不可能な要塞だぁあ!」



解説者が異常なテンションで実況する。会場が一気に盛り上がる。



「やはりすごいプレッシャーだねぇ、あのギガンテス兄弟のブロックは未だかつて破られたことがない、まさに最強の盾だよ」



「最強の矛が相手ならどうなるんだろうな」



「ん? なにか言ったかい?」



帰ってきたボールに向かって、ポチがジャンプする。そして、パンチした。



「えい!」



凄まじい轟音と風圧が巻き起こり、次の瞬間にはギガンテス兄の体は遥か後方の宙を舞っていた。



ギガンテス兄の巨体が砂埃を巻き上げながら、仰向けに地面に落下する。会場は静けさに包まれる。少し遅れてぼすっとボールが砂浜に着地する音が響いた。



何が起きたのか会場の誰も分かっていないようだった。



「レン! これでいい?」



ポチが尻尾をふりふりしながら俺の方を見る。



「オッケーだ、後でおやつだな」



「わん! おやつおやつ!」



解説者も隣の親父も口をあんぐりと開けて固まっている。



「あ、兄者?」



ギガンテス弟が完全に吹き飛ばされて完全に気絶している兄に駆け寄る。兄は動かない。



「あ、兄者ああああ! ひ、ひどすぎる! くそがあああああ!!」



大気を震わせる絶叫が響きわたり、弟の体から湯気が立ち上る。怒りで皮膚が赤くなる。ギガンテス兄弟は片方がやられると怒りによって覚醒して大幅にステータスが上がる。



「貴様ら……俺が殺す」



もはやスポーツマンとは思えないような発言をして、コートに戻ってくる。まさに鬼のような形相だ。



「よ、予想外なことが起こりましたが、まだ弟の気持ちは折れていません、いや、むしろ兄のために、更に気合が入っている様子、観客の皆さん、覚醒したギガンテス弟に大きな声援をお願いします」



再び大きな歓声があふれる。兄のために一人で強敵に立ち向かう弟という感動的なシナリオなのだろう。



「俺の新しいスキル、『アルティメットウォール』はどんな力にも屈しない、俺達兄弟が積み上げてきた努力は誰にも否定させない!」



「さあ、兄のため、プライドをかけて立ち上がったギガンテス弟! 皆さん、声の限り応援しようではありませんか!」



隣の親父が目に涙を滲ませる。



「俺はな……あの兄弟の今までの苦労を知っている、あいつらの努力を知っている、あいつらはどんな困難にぶつかっても必ず乗り越える、俺はそう信じている、努力は必ず報われるんだ!」



数秒後、兄の横に吹き飛ばされた弟の体が並んだ。

















「お疲れ!」



「わん、がんばったからおやつ!」



「ああ、リンにもらっていいよ」



ポチはボールのコントロールなど全くできない。ただ力任せに叩きつけるだけだ。だからこそ、ギガンテス兄弟の相手に最適だった。



ギガンテス兄弟はすべてのボールをブロックする。つまり、本来アウトになるようなボールも受けてくれる。だから、コントロールの全くできないポチでも、力で吹き飛ばすことができた。



ただトスやサーブはポチができないので、ドラクロワにサポートしてもらった。ドラクロワは異常に運動神経が良い。ちょっと練習しただけで、サーブやトス、レシーブなどを1通りマスターしていた。



まともに試合をしても良いのだが、このビーチバレーはどちらかが試合続行不可能になって試合が終了するのが一般的だった。



何か周りからの視線が冷たい。完全に俺達は悪役(ヒール)のようだ。



悪役上等、勝利こそ全てだ。




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