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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第1章 英雄の目覚め
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救出



俺はエルフの里を出て、フランバルト大樹海を急いで進んだ。リンが待ちくたびれて、機嫌が悪くなっているかもしれない。



リンとポチの安全は大丈夫だろう。ここはモンスターが出現しないし、食料だって十分に持っている。



俺は足早に来た道を戻り、ワープ地点までたどり着き再度マップから外れて、リン達と別れた場所に到着きた。



しかし、そこで予想外の事態が起こった。



そこにリンとポチの姿がなかった。



俺はまず周辺を捜索する。もしかしたら少し離れているだけかもしれない。



俺の期待は外れ、どこにも二人の姿はなかった。



おかしい。ここではモンスターが出現しないし、2人にはここで待つように伝えてある。何よりリンはこの樹海で迷うことの危険を理解していたはずだ。



俺は辺りの捜索を続けていると、地面に何か焦げたような跡があった。



俺は指でその跡をなぞる。火属性の魔法とは焦げ方が少し違う。恐らく雷撃属性の魔法だ。



雷撃属性はあまり多くのキャラが使えない。リンが使用した可能性が高い。それはここで戦闘があったことを示している。



ゲーム時代にはなかったが、現実ではここにモンスターが出現したのだろうか。いや、やはりそれは考え辛い。俺はまだここで一度もモンスターと遭遇していない。



何かイベントに巻き込まれたと考えた方が良い。しかし、フランバルト大樹海でイベントなんてあっただろうか。



その時、俺の脳裏にある可能性が過った。



見落としていた。本来ゲームではフランバルト大樹海でのイベントはない。しかし、設定としてフランバルト大樹海で生活をしている一族が存在する。



霧の一族。樹海の中でひっそりと暮らす忍びの一族だ。



ゲームでは、忍者の末裔というサブイベントがある。



霧の一族は忍者シリュウの裏切りによって滅び、そして、2人だけ生き残ったイズナとサスケが一族の復讐を誓い旅をするというストーリーだ。



フランバルト大樹海には霧の集落が存在する。しかし、ゲームで行ける時には既に滅びた後の跡地として登場する。



つまりそこで生活をする人に出会うことは出来ない。だが、現実になった今なら時間軸としてシリュウがまだ一族を裏切っていない。



今、まだこの集落に霧の一族が生きている。リンとポチは彼等に連れて行かれたとしか考えられない。



俺は頭の中にマップを浮かび上がらせ、最短距離で霧の集落へと駆け出した。ここからはゲームにはなかった展開だ。何が起こるか予想できない。



俺は枝から枝へ移動スキルをフル活用して、移動する。同時に戦力を思い出して、シミュレートする。



霧の一族で知っているのは、3名のみ。ゲームではほかの人はみんな死んだ後で登場しない。



まずは水月のイズナ、確か初期レベルは50ぐらいだった。素早さはそこそこ高いが、今の俺のステータスなら問題なく対応できる。スキルもどちらかというと味方をサポートするものなので、危険は少ない。



次に風月のサスケ。こちらも初期レベルはイズナと変わらない。忍者は総じて素早さが高いが、サスケは最もスピードに特化していた。下手をしたら今の俺でも素早さだけなら負けているかもしれない。



そして、最も厄介なのが黒月のシリュウ。里を滅ぼした元凶だ。こちらは仲間にはならないキャラなので、初期レベルは分からない。



霧の一族イベントのラストで戦うため、その強さは今のサスケとイズナとは比べ物にならないはずだ。



現段階ではそのイベントよりは弱いとしても、間違いなく他の2人よりは強いだろう。こいつとだけは絶対に戦ってはいけない。今の俺では勝ち目が全くない。



あとはゲームには登場しなかった一族の者たちがどれだけ強いのかも気になる。



俺はどうゆう行動をとるべきかと悩んだ。



乗り込んで行ってリンとポチを力づくで強奪案、こっそり救出案、話し合って平和的解決案。主に3つの選択肢がある。



それにはなぜリンとポチが攫われたのかを調べないといけない。霧の集落付近で様子を探るしかない。



しかし、忍者相手に隠密なんて可能なのだろうか。ゲームにないことだとさっぱり分からない。



今回は俺が持っている知識というアドバンテージがない。間違いなく今まで一番の危機だ。



いろいろ策を練っている内に、俺は集落の近くに到着した。



ここからはスピードを緩めて慎重に進む。俺はまだ盗賊の職業を極めていないことを後悔した。隠密系スキルを使えれば、どれだけ有利だったか。



ないものねだりをしても仕方がない。俺はスパイにでもなったかのような身のこなしで、音もなく前進する。



くっ、ダンボールが欲しい。などと某ゲームを思い返しながら、こんな状況なのに気分が乗ってきた。まるで一流のスパイのように無駄にカッコつけて先に進む。



最近分かり始めた。俺は調子に乗りはじめると大体痛い目に遭うということを。



「お前、何者だ!?」



ほら、やっぱり。俺は呆気なく見張りの忍者に捕らえられた。



________________________




「リン、ポチ、大丈夫だったか? 待たせたな、俺が来たからにはもう安心だ」



俺はにっこり笑って、再会した2人に告げた。本来ならここで尊敬の眼差しで見つめられるはずだが、場所が悪かった。



同じ牢屋の中での再会だった。



「レン、敵は忍者みたい、1人風のように早い男がいる、あとの連中も皆速い」



リンは俺のボケを無視して、冷静に事態を分析していた。風のように速い男というのはサスケだろう。



「私たちどうなるんだろ? レンでも敵わなかったんだよね」



リンの言葉に俺はむっとした。まるで俺が負けたかのような言い方が気にくわない。



「いいか、俺はわざと捕まったんだ、そうすればリンとポチに早く会えるからな、それに俺には秘策がある」



そう。俺は本当にわざと捕まったんだ。別に強がりじゃない。



そこへ、黒髪の青年が現れた。全身を紺色の忍者装束に包んでいる。目は険しくこちらに敵意を向けていた。



「おっ、ちょうど良かった、サスケ、なぜ俺たちが捕らえられているのか教えてくれ」



俺は来たのがサスケで安心した。サスケは口数が少なくクールガイだが、実は誰よりイズナを案じているいい奴だ。



「なぜ、俺の名前を知っている?」



サスケの目に一気に疑心が宿る。あ、何か失敗した。



「え……それは、ほら俺を捕らえた忍者がそんなことを言っていたから、多分サスケかなぁーなんて」



目をキョロキョロしながら、狼狽える。リンから冷たい眼差しを感じた。



「まあ良い、近頃、森の中で里の力ある忍者が数人襲われている、だから、見回っていたところ怪しいお前達を見つけた」



俺は納得した。間違いなく犯人はあいつだ。もはや探偵すら必要ない。



シリュウが力ある忍者を個別撃破し、主戦力がいなくなった一族を滅ぼす算段なのだろう。



「俺たちは犯人じゃないが、犯人を知っている、シリュ……」



「様子はどうだーい? サスケくーん」



牢屋に現れた男に俺は口をつぐんだ。間延びした呑気な声。人当たりの良い微笑みを浮かべた青年の忍者。黒く長いストレートの髪を後ろで縛っている。



ブカブカの大きい漆黒の和装を身につけて、袖は余って手が見えない。身長はサスケよりもかなり高いが、痩せているため、ひょろっとして見える。



そして、例に漏れず。二面性の象徴、裏切りのフラグ、力を隠している証、となる身体的特徴を持っていた。



「僕もお話しにまぜてほしーね」



裏切りの元凶。黒月のシリュウは不気味な糸目キャラだった。





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