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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第5章 英雄の意志
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ブラックマーケット



ホテルで夕食を取り夜になる。それにしてもテッペイには悪いことをした。悪いのはマフィアの連中だと思うが、フレイヤが直接的な原因でもある。あとで落ち着いたら新しい船のためのお金でも払おう。



それにしてもテッペイの船が使えないとしたら、残るはグランダルの討伐隊かジョーンズの海賊船となる。討伐隊の選択肢はないから、やはりジョーンズか。あまり気が進まないが仕方ない。



俺は身支度を整える。夜になったので闇市に参加する予定だ。リンとフレイヤは本人の希望もあって闇市に参加することにした。残りのメンバーはホテルの部屋で待つことになった。闇市が終わったら全員で食事に行く予定だ。シーナポートは店選びには注意しなければならないが、海の幸と南国フルーツがとても美味しい。



俺達3人は外に出る。夜でも暖かく、波風が心地よい。



「レン、その闇市には何が売ってるんだ?」



「本当にいろいろだな、本来モンスタードロップしかないアイテムでも売っていたりする」



「私も欲しいのあったら買っていいのか?」



「もちろん、金はエルドラドで儲けた分がまだ残ってるからな」



「やった、楽しみだな!」



本来この闇市にもマフィアの息が当然かかっているが、あまり警戒しても仕方がないだろう。カストル達は殲滅した。俺達の存在がバレることはないと信じたい。



俺達は商会の会館に入り地下に向かう。蝋燭の灯された階段を降りる。随分と雰囲気がある両開きの扉を開く。活気溢れる市場が目の前に現れた。大きな空間に露店が立ち並び、さまざまな商品が売っている。



「よし! 一旦解散で各自欲しいものを買ってこい! あとでここ集合な」



「分かった」「おっけー!」



俺も動き始める。この闇市には売り切れというシステムがあり、ここに入室してからあまりもたもたしているとアイテムがなくなってしまう。



高速で移動しながら、売っている品物を片っ端から頭に入れていく。バーゲンセールの主婦の気持ちだ。



通路を走り抜けながら。両側の店で売られているアイテムを記憶し続ける。これが正しい買い物方法。全体的に見て周り、目ぼしいものを脳内でリストアップする。欲しい物はいくつかあった。



『剛腕の腕輪』魔法が使えなくなる代わりに物理攻撃力を大幅に向上させる。これはポチ用だ。魔法が使えない最強アタッカーの戦力が跳ね上がる。



『持続の腕輪』自身にかかる効果時間が2倍に伸びる。これはここで1つしか手に入らないレアアイテムだ。装備していることで、その間の特殊効果時間が延びる。既にかかっている特殊効果がある時に装備すれば、残り時間が2倍になる。



一見地味なように思えるが、LOLではこの腕輪によってクリア可能になるイベントもいくつかある。マイナスに作用をするものも2倍にしてしまうというデメリットもあるが、それを差し引いても優秀な効果だ。



爆弾魔の腕輪。呪われた装備だ。ユキを仲間にするときに利用した髑髏の腕輪の爆裂属性バージョン。髑髏の腕輪は闇属性のダメージ2倍だったが、これは爆裂属性2倍になる。しかし、他の属性を一切使えなくなる。



爆裂魔法以外を使えないフレイヤには、単純にダメージ量が2倍になるメリットしかない。完全にフレイヤ用の装備と言ってよいだろう。偏った能力を持つからこそ、その一点を伸ばす事でパーティの戦力が上がる。



武器は特にめぼしいものがなかった。そもそも俺は正宗と妖刀村正、斬鉄剣があるし、リンにもドラゴンエクスカリボーとファミリアがある。ドラクロワにはデストロイヤーがある。



ギルバートは正直火力としてはオリハルコンライフルで十分だ。『64コンボ』だって使える。



ポチは装備できる武器がそもそもない。ユキやフレイヤも魔法使いなので、特に装備は必要ない。一応杖はあるが、腕輪の方が何倍も効果が高い。



武器はもはや闇市でバージョンアップをすることは出来ない。それならば、次は消費アイテムか。



普段は手に入れることができない秘薬系が売っている。秘薬は様々な特殊効果を発揮できる。しかし、あまりに高価だ。もはやプレイヤーが買えるような値段設定ではない。カジノでボロ儲けした俺でも1つが限界だ。



生命の秘薬は一定時間、パーティ全員が死んだ瞬間、全回復で復活する。オートリバイブだ。これがあるだけで、状況は全く変わる。



青嵐の秘薬もかなり使える。使用すると、パーティの全員の周りに紫電が纏い、無属性で防御力無視の広範囲連続攻撃を行ってくれる。無属性なので耐性持ちにもダメージまでが与えられる。無効が無効の精霊魔法のようなものがしばらく続くという破格の攻撃手段だ。



鬼神の秘薬は物理アタッカーに使うと、とてつもない効果を発揮する。一定時間、物理攻撃が全てクリティカルになり、防御力が無視される。しかし、これはこちらも同じで、敵の攻撃も防御力無視になり、クリティカルダメージになる。先制攻撃でポチに最大火力を出させるときや、防御力が異常に高く、0ダメージしか与えられない敵には重宝するだろう。



奈落の秘薬シリーズも捨てがたい。憤怒の秘薬や傲慢の秘薬などだ。これは悪魔しか使えない状態異常、7つの大罪系の効果を消費アイテムとして受けられる。ヘルハウンドの憤怒やベルゼブブの暴食などを自分にかけられる。



俺は葛藤の末、大金を叩いて秘薬を1つ買う。俺が選んだのは幸運の秘薬だ。使うと運の良さが最大まで上がる。説明を聞くと他の秘薬と比較したときに大した効果ではないように思えるだろう。しかし、実際は違う。



ステータスには運の良さという数値がある。これは装備品ではわずかにしか上げることが出来ず、レベルアップでも微々たる上昇しかない。



ドロップアイテム率やクリティカル発生率など確率系に作用する数値だ。しかし、ほとんど誤差の範囲となる。レベル1で運の良さは5、レベル300で10。LOLのステータスは4桁でもカンストしないので、他の要素に比べて何の意味もない。



幸運の秘薬は使用すれば運の良さが最大値になる。つまりカンストするのだ。はっきり言って攻撃力や素早さなどがカンストしてしまえば、バランスが壊れすぎる。しかし、運の良さならそこまでバランスが崩れないとスタッフは考えたのだろう。だから振り切った効果にした。



確かにそこまでバランスは崩れないが、英雄の中ではこの幸運の秘薬は重宝される。全ての攻撃がクリティカルになるなどは正直どうでも良い。大事なのはドロップだ。



ドロップ率100%になり、必ずレアドロップが選ばれるという破格の効果がある。LOLではアホみたいに長時間かかる敵のレアドロップなどがある。周回なんてしたら永遠に時間がかかる。



それを一回で確実にゲットできる。全ゲーマー垂涎の効果だ。これは一度でもレアドロップ狙いでモンスターを乱獲した経験があれば納得だろう。



だから一部のアイテムを手に入れるためには、幸運の秘薬が必需品だったりする。幸運の秘薬はこの闇市で一度だけ購入できる。他はダンジョンでの入手か僧侶と盗賊の上級職ドルイドのスキルで作成も可能になる。作成には貴重なアイテムが必要なので、作成難度はかなり高くなるが、他のレアドロップを狙うより幸運の秘薬を作成する方が効率的なことがよくある。



他にも幸運の秘薬を使用することで、おみくじイベントやアニマのたまごクイズなどの運が絡む要素が全てクリアできるメリットもある。



俺は最後に今後のことを考えてトリモチ団子をいっぱい買っておく。別に全然レアアイテムでもなく、その辺で手に入るのだが、別のところで買うのも馬鹿らしいのでここで大量購入する。



トリモチ団子はもちもちねばねばの白い塊だ。敵に投げつけると粘り付き動きを阻害する。素早さが高い敵などに大量のトリモチ団子をくっつけるなどして使うものだ。



残念ながら効果時間も存在するからそのうち消えるし、水魔法で効果が失われる。だから海底で戦いになるリヴァイアサンなどの動きを阻害することはできない。



まあ俺の用途は全く違うことなので気にせずに大量購入する。トリモチ団子などをこんなに買う人もいないのか、店員が奇妙がっていた。



大金を払うことになったが、満足の行く買い物だ。俺は一通り買い物を終え、奥に向かう。奴隷売り場の前を通りかかる。



檻の中でみすぼらしい服を着た少女が、こちらに寄ってくる。



「た、助けて……」



涙目でうるうるしている。顔は汚れているが間違いなく美人には違いない。これでこの子を助けない主人公がいれば、それは鬼畜と言って良い。



「お! お客さん、この子に興味があるのかい?」



店主が揉み手で近寄ってくる。少女は救いを求めて、震えている。



俺が優しい笑みを浮かべると、少女の目の中に光が生まれた。



「いえ、興味ないので結構です」



「そうですか! 実はこの奴隷ちょうど……、ん? 今何て?」



「いらないので大丈夫です」



店主は驚きに口を開けて固まっている。少女も同じ表情をしていた。忘れてはいけないことがある。それはこのゲームがLOLで、ここが地獄リゾートということだ。異世界小説のテンプレは通用しない。




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