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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第5章 英雄の意志
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シーナポート



観光客で賑わう港町、シーナポートに俺達は到着した。



照りつける太陽。白い砂浜。異国情緒あふれる街並み。薄着の美女達。ここは一見すると楽園に見える。



しかし、油断のできない危険地帯だ。甘い蜜で俺達を誘い、一気に喰らいつくす。別名、地獄リゾート。



美しい外観からは考えられないほど、治安が悪い。全てはこの街を牛耳るマフィアの影響だ。



「ありがとう、レン君、我々は一旦別行動をしよう、君もやりたいことがあるだろう」



「レンちゃん! 宝探しをするときは必ず声をかけてね!」



ジェラルド達はホテルの名前を俺に伝えて、離れていった。ジェラルドが気を回してくれたのかもしれない。単純にマリリンとデートしたかっただけかもしれないが。



俺達が街に入ると、いきなりアロハシャツの日に焼けた男が話しかけてきた。



「ハロー、旅人さん、シーナポートには初めてきたのかい?」



シーナポートに初めて訪れたプレイヤーを絶望させる最初のイベント。『地獄の観光案内人』だ。



「良かったら、俺に案内させてよー、こう見えて評判の案内人なんだ、もちろん気持ちだけチップをいただくが損はさせないよー」



こいつには多くのプレイヤーが泣かされた。これは海外旅行でよくある観光人を目当てにする詐欺のようなものだ。



ガイドを依頼してしまうと終わる。チップはいただくよ、と勝手に所持金から減額される。ゲームではアイテムショップで購入すると勝手にお金が支払われる。わざわざ現実のように、硬貨を自分で差し出したりしない。



これがあっさりと会話の流れで言われるので、大した額じゃないと思い、ほとんどのプレイヤーはわざわざウィンドウを開いて残り金額を確認しない。しかし、恐ろしいことにチップとして10万G引かれている。所持金が10万Gより下の場合、有金全部持っていかれてる。



そして、ここから本番の搾取が始まる。何かにつけて手数料を取られる。ホテル紹介手数料、レストラン紹介手数料、おすすめのドリンク紹介手数料、ビーチのマナー講習手数料、ゴミの分別説明手数料、メインストリート通行料、細い裏路地通行料など。ちなみに途中で気づいてやめようとすると、キャンセル料という名目で莫大なお金を取られる。



どれだけ大金を持っていても、瞬く間に一文なしになる。そして、払う金額がなくなっても手数料は取られていく。マイナスまで突入するのだ。



そして、全てのガイドが終わって、所持金がマイナスだった場合、「お客さん、サービス受けといて、お金払わないのはいけないなー」と言われて、おすすめの金貸しを紹介される。



ぽかぽかファイナンスという可愛らしい名前の建物に連れて行かれる。にこにこと笑う太陽が看板に掲げてあり、その中にはアロハシャツの陽気なおっちゃん達が集まっている。



剃り込みやタトゥー、切り傷などがある素敵な店員達だ。そこで契約をさせられると借金生活となる。今後手に入れたのお金が自動的に返済に回されてしまうシステムだ。



武力によって陽気なおっちゃん(闇金)制圧して踏み倒すこともできる。そうなると指名手配扱いされ、今後シーナポートでのショップの利用が出来なくなる。



これにより、進行できなくなるイベントもあるため、武力で踏み倒すことは推奨されない。



このようにただガイドを利用するだけで、大損をする初見殺しの罠だ。



俺はゲームでシーナポートに訪れてすぐにこの罠に嵌り、絶叫しながらリセットした記憶がある。



対処法は簡単だ。ガイドを頼まなければ良い。



「結構です!」



「お客さん、シーナポートは初めてでしょ? 旅行者を目当てにふっかけてくる輩もいるからねー、俺のガイドがあった方がいいよ!」



特大ブーメランで笑えない。



「本当に結構です!」



「いやいや、俺はこう見えて顔が広くてね、ショップなどで俺の紹介なら割引されちゃうよー」



これは事実だ。ショップで10Gほど安く買い物ができる。そして、ショップ紹介料で5万G取られる。



「絶対に必要ないです!」



「お兄さんも強情だねー、もしかして、前に来たことあった?」



俺が頷く。俺はシーナポートに来たことがある。もちろんゲームでだが。



「ちっ、カモじゃねえのか、あのバカ男が金たっぷり持っていたから、次の奴もいけると思っていただんだが」



男は急に興味をなくしたように離れていった。無事に切り抜けたようだ。



俺達は地獄の観光案内人を退けて街を歩く。活気があり、人々は楽しそうに笑顔が溢れている。イベントさえ起こらなければ、素敵な街なのだろう。



「わん! 美味しそう!」



ポチが店で売られている焼き魚に引き寄せられている。この街は港町だけあって、魚介類が豊富にある。ガイドを通さないのであれば、ショップは安全に利用できる。



俺は1番人気のシンマの塩焼きを皆の分買う。油が乗っていてうまい。



俺達はそのままメインストリート、通称スリリングストリートに向かう。命名は英雄達だ。



「あ、ごめんなさい!」「おっと失礼!」「きゃ! ごめんね」「おい、どこ見て歩いてるんだ?」



スリリングストリートと呼ばれる所以はただ1つ。とにかく通行人がぶつかってくるのだ。



人混みでアホみたいにぶつかってくる善良な市民(スリ)達を俺の回避能力で全てかわす。こいつらにぶつかるとアイテムを奪われる。



奪われるアイテムは完全にランダムで、中には力のルビーのような、再入手不可能のイベントアイテムすら盗まれてしまう。



その状態でセーブしてしまうとゲームがクリア不可能になるという最悪の設定だ。ゲームがクリア不可能になる仕様など他のゲームなら炎上だろう。



安心して欲しい。ここまでLOLをやり込んだプレイヤーには通常仕様だ。



ちなみに他のメンバーにはアイテムを持たせていない。だから、ぶつかっても被害はない。可哀想にポチとドラクロワにぶつかった善良な市民(スリ)達は弾き飛ばされてしまっている。



リンは完璧な動きで住民達をかわしている。ステップに無駄がない。



「お客さん! 本日は闇市の日だよ!」



商人っぽい1人が声をかけてくる。闇市はシーナポートの商会の地下で夜に行われるブラックマーケットだ。開催日もランダムであり、中々参加できないこともある。ただ初めてシーナポートに到着した夜には必ず開催される。交易の盛んな港町だから、開催できるイベントだ。



そこには普段のショップでは手に入らない貴重なアイテムも多く存在する。アイテムショップでも売り物のランダムテーブルが存在する。



アイテム屋のリリーさんを救った目利きの腕輪もランダムテーブルのものだ。そして、ブラックマーケットにも特別なランダムテーブルが存在する。そこでしか手に入らないイベントアイテムもある。参加しない手はない。夜になったら参加することにしよう。



俺たちが散策しながら歩いていると、ある建物を見つけた。シーナポートの騎士団の紋章が掲げてある。



ここは騎士団の詰所だ。ゲームの中の警察的な役割である騎士団が集まっている。建物の前に机が出されており、騎士団の紋章の入ったマントを身につけた好青年が外で受付をしている。



「お困りのことはございませんか? 我々騎士団がお助けします!」



元気の良い声に、白い歯がきらっと光る。



「すみません、実はさっきその通りで、アイテムを盗まれてしまって……」



リンが一瞬反応したが口を出さずにいてくれる。俺が全て完璧に回避し続けたのを見ていたので、不思議に思ったのだろう。俺に何か意図があると悟ってくれた。



「それはお困りですね! 観光客を狙った卑劣な犯行、実に許せません!」



正義感満載に拳を握る男。



「犯人の捜索は私がします! それとこれ以上、盗まれないためにこの袋を差し上げましょう」



机の下から高級そうな生地の巾着袋を取り出した。微妙に可愛くない騎士団のマスコットキャラが描かれている。



「これはマモルくん袋です! これに大切なアイテムを入れておけば、盗まれることがありません」



初めてシーナポートを訪れたプレイヤーは間違いなくスリの被害に遭う。それはそうだろう。まさか住民NPCがひたすらぶつかってくるとは思わない。



そこでアイテムを奪われたことに気づき、ちょうどスリリングストリートを抜けたところに、この騎士団の詰所がある。



そこでこのマモルくん袋をもらい、冒険に必要な貴重なアイテムをスリにやられないようにこの袋にしまうという流れだ。



「ありがとうございます!」



俺はマモルくん袋を受け取る。これは必要なものだ。だから、盗まれたと嘘をついて手に入れた。



「もしまた困ったことがあったら何でも言ってください! 正義の騎士団がお助けします!」



爽やかさ全開の好青年だ。



「あなたのお名前を教えてもらっていいですか?」



「はい! 僕はサギールです! 人々の期待を裏切らない正義の騎士団第一隊所属です」



白い歯がきらりと光る。そう、本当にここは期待を裏切らない。





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