龍脈
グランダル城下町に着いた。各自が自分の準備を進める。
俺とリンは真っ直ぐに鍛冶屋へと向かった。もちろんリンの武器作製だ。
鍛冶屋に行くと、ダインが汗を流しながら剣を打っていた。やはりマロンちゃんが絡まなければ、職人としてカッコ良い。
「ダイン! 短剣を作ってもらえないか?」
「おお、レンか! またオリハルコンでも持ってきたのか?」
「いや、今回はこれで頼む」
俺は台の上に青く輝く素材を置く。
「へ? なんだこいつは? 見たことのない石だな」
「石じゃないよ、龍の爪」
「そうか、龍の爪かぁ」
しばらく龍の爪を見つめる。
「は、はぁぁぁぁ、龍ってあのお伽話に出てくる龍か? モンスターの竜じゃねぇよな」
「そう、お伽話の龍」
「し、信じられねぇ、じゃあ、こいつはとんでもなく貴重な素材ってことだな」
「ああ作ってもらえるか?」
「もちろん、腕が鳴るぜ!」
ダインは早速作業に取り掛かった。作製が終わるまで時間がかかるだろう。
奥にある窯に向かう。そこでリンに問いかける。
「リンはどんな力が欲しい?」
今までは俺が常にレールを敷いてきた。育成ゲームのようにリンを育ててきた。しかし、ここからは変えようと思った。
リンを1人の英雄として認めている。そして、本当の英雄になるためには、自らで考えなくてはならない。自分で強くならないといけない。
もちろんゲームの知識がないリンに手助けはする。それでも彼女が求める強さは、俺が決めるべきじゃない。
もしリンが求める強さが違うものならば、龍の髭は別の使い道がある。
リンは俺の質問の意図を汲み取り、目を閉じて考えた。龍の髭。俺はこれによって得られるスキルを知っている。
リンの両親が残した素材。それがリンの望むものかどうか、俺はわからない。
リンは目を開けた。答えは決まったようだ。
「私は速さが欲しい、どんな攻撃だろうと全て回避しきる、そんな速さが欲しい」
俺の影響もあるだろうが、やはり彼女はこの世界における回避術の重要性を分かっている。
英雄達は数々の無理ゲーをこなす中で、最後には回避術に帰着する。
偶然なのか、運命なのか、リンの両親が残したアイテムは彼女の背中を押すものだった。
龍の髭を材料にエクスカリボーを強化する。龍の髭は本来、天界のモンスターからのレアドロップだ。ラストダンジョンを越えるエクストラダンジョンのアイテム。性能は破格となる。
俺は釜にエクスカリボーを放り込み、上から龍の髭を入れた。しばらくして、エクスカリボーが釜から飛び出してくる。
空きスロットに龍の髭により、新しいスキルが付与された。
『龍脈』龍が危険に陥った時に発動するといわれる起死回生のスキル。発動中、一定確率で攻撃した相手のあらゆるステータスを一部吸収することができる。
ドレイン系の異種だ。ライフドレインはHPを吸収、マナドレインはMPを吸収する。『龍脈』はステータスを吸収する。
効果時間は30秒。30秒経って効果時間が終われば、自分も敵もステータスが元に戻る。
これは実際に天界で龍の髭をドロップするモンスターが使ってくるスキルだ。
天龍というモンスターだが、ただでさえ信じられないほど強い。天界がエクストラステージなので当然だが、無理ゲーのLOLの中でも強敵になる。
アイテムやスキルなどあらゆる準備と対策を施して、ようやく勝てるというレベルだ。
その時にプレイヤーを絶望させるのが『龍脈』だ。これは天龍が弱ってきた時に発動する起死回生のスキル。
天龍は回避が不可能な広範囲連続攻撃、『嵐牙』を使用する。幸いダメージ量は少ないので、300レベルオーバーで防具をしっかり固めれば生き残れる。
しかし、『龍脈』発動時は状況が変わる。無数の連続攻撃全てに『龍脈』の効果が発動される。
攻撃を与えた数だけ効果が発動されるので、『嵐牙』の広範囲連続攻撃により、俺たちのステータスは凄まじく減少し、減少した分、天龍が強化される。
攻撃力はどうせ一撃死なので、上がっても大したことはない。防御力や魔法防御力が跳ね上がるせいで、その効果中はほとんどダメージを与えられなくなる。
本当に恐ろしいのは素早さだ。【ウルトラスピードアップ】のような馬鹿げた壊れバフ魔法とは違うが、それでも高ステータスの天龍が『龍脈』により素早さが異常なレベルで跳ね上がると手の打ちようがない。
何より素早さは相対的な数値だ。自分の素早さと敵の素早さとの割合によって敵の視認速度が変化する。つまり相手の素早さを下げて、こちらの素早さを上げることで、一層効果が出る。
素早さが高まった天龍の攻撃は、反応すら出来ずに即死させられる。
だから天龍戦ではHPが減ってきたら『龍脈』が発動する前に、高火力で押し切ることが有効だった。発動されたら終わりのスキルだ。運にも左右される。
俺はゲーム時代に龍の髭を手に入れることはできなかった。そもそも天龍が強過ぎて、レアドロップ狙いの乱獲など不可能だった。
一体倒すのに膨大な時間がかかるため、現実的にかなりの幸運でなければ狙って手に入れられるものではない。俺はネットで情報だけ仕入れている。
幸運にも龍の髭を手に入れた者はあの散々苦しめられた『龍脈』を自分が使えるようになると分かり、テンションを上げる。
しかし、忘れてはならないことがある。このゲームがLOLだということだ。
LOLスタッフは嘲笑うかのように、プレイヤーを絶望に落とす。
敵が使っていて苦しめられたスキルを、いざ自分が使ってみたら、全然使えないゴミスキルだったということはRPGの世界ではよくある話だ。この『龍脈』もそれに漏れない。
LOLスタッフはゲームバランスを考えて発動条件をかなり厳しく設定している。
そもそもLOLは主にプレイヤーを不利にする方向でゲームバランスが壊れているが、そのバランスを壊れたままにするためにスタッフは悪意を持って工夫を凝らす。
『龍脈』は残りHPとMPが最大HPの20%以下になった際に使用が可能になる。
発動させたら、30秒間は攻撃を与えた際に一定確率で敵のステータスを奪える。奪える量はダメージ量が関係し、防御を貫通できずに0ダメージの際は1しか奪えない。
この確率もあまり高くない。通常攻撃をしていれば、30秒間で平均2回ぐらいしか発動されない。効果は攻撃を与えた際に発生するので、発動してから初撃まではステータスの変化はないので、1回目が中々起こらなければステータスに何の恩恵もないまま無駄に時間を消費するだけだ。
だから、発動してすぐに広範囲連続攻撃系スキルでヒット数を稼ぐのが王道となる。そうすれば数回ステータスドレインが起こる。しかし、あっさりと30秒が終わるので、あまり効果を発揮することはない。
龍の髭を手に入れたプレイヤーはその使えなさに絶望し、SNSでそのゴミ加減を叩きまくっている。
確かに使えないゴミスキルと言って良いだろう。だが、それで終わらないのが英雄だ。
一見ただのゴミスキルに思えるこの『龍脈』は、とんでもないポテンシャルを秘めている。まだその先がある。俺達英雄は普段苦しまされてきたスタッフの思惑を超越した。
その真価を発揮させるためにはいくつかのアイテムが必要になる。
まず1つは、俺達英雄が作り出した武器、伝説の棒エクスカリボーだ。
エクスカリボーは必ずクリティカルが発生する。そして、クリティカルが発生すれば確率系のスキルは必ず効果を発揮する。
つまり『龍脈』が発動中、100%ステータスドレインが発生する。しかも、奪える量は必ず最大量となる。
これはまさにバランスブレイカーだ。リンは『残影』が使える。これにより一回の攻撃が多段ヒットとなる。
『残影』中に『五月雨突き』などの連続攻撃を行えば、かなりの連続ダメージになる。その一撃一撃でステータスを奪うことができる。一回のスキルでかなりの上昇量になる。
『残影』は全ての攻撃が多段ヒットになるため、それ以降もステータス上昇は止まらない。30秒間、リンは無双状態になる。
更に敵のステータスはドレインにより、一気に減少する。ちなみに敵がオール1になったらステータスをそれ以上奪えない。
残念ながらボスモンスターはドレイン系に完全耐性を持っているものも多いため、ステータスドレインが効かない欠点はある。
この『龍脈』はリンを最強クラスへと導く。