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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第5章 英雄の意志
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神の存在





_______大神官________



神は存在するのか。



それは神の定義によるだろう。そもそも信仰における神とは概念であり、たとえ偶像を崇拝するとしても、それは概念を依代に投影したにすぎない。



神とは信仰する者達が作り出した集団的概念。実物はなくとも、その概念自体は存在する。形がなくとも人の心の中にはある。



そして、時としてこの信仰という群集心理は強力な力を発揮する。どんなに訓練された兵士よりも強力だ。



なぜなら彼らは裏切ることがない。他の神を信仰する者達を敵視する。そして、自分の命さえ投げ出す。神のために死ぬことを尊いものだと思っている。



人は弱いものだ。常に何かに寄りかかろうとしている。自分の1人の力では生きることができない。



それが家族かもしれないし、恋人かもしれない。私はその寄りかかれる存在を用意してあげる立場だ。神という頼れる存在を。



何かに縋らなければならない者に救いの手を差し伸べる。信仰した者はみな幸せだ。



ゼーラ教は私が作り上げた。しかし、私は神ではない。人々が求める神は人間ではない。もっと超越的な力を持つ存在でなくてはならない。



これが宗教の本質。しかし、そんな概念的なものではなく、実物としての本物の神は存在する。それを神として定義して良いのかはわからないが。



恐らくほんの一握りの人しか知られていないが、この世界には天界という場所がある。それは到底、人がたどり着ける場所ではない。私はそれが確かに存在していることを知っている。そして、そこへ至る道を知っている数少ない人間だろう。



天界には神族が住んでいる。永遠の命と超越した力を持つ。それは信者が掲げる概念的な神ではない。



信じる者を救うこともない。ただ超常的な力を持つだけの生物。いや、生物ですらないのかもしれない。



私は一度だけ、本物の神族に出会ったことがある。あの出会いが私の全てを変えた。



欲に塗れた人間という種族を救うには、これしかないと悟った。愚かな人間は自身の利益のために他を貶める。争いはなくならない。



人類には救済が必要だ。人々が幸せに暮らすために、弱き者が守られるために。



窓の外を眺める。止むことのない雪が降り続いている。この霊峰は雪が止むことがない。穢れなき純白、私の好きな色だ。



この霊峰ゼーラ神山から私の計画は動き出す。準備は整った。私のお抱えの諜報部隊『白』が裏で動き、麓の村で暴動を起こしている。



矛盾しているかもしれない。人々の幸せを祈る私が村を焼いている。だが、それは必要悪だ。



大事の前の小事。人類の救済のために犠牲は必要となる。1人と100人、どちらかしか救えないなら私は躊躇わずに100人を救う。



ドアがノックされる。



「入りなさい」



「失礼します」



ヒースクリフが現れる。この男は使える。戦闘能力も高いし、何より指示に従順だ。信仰心はなくとも、責務を全うしてくれる。それに彼はこの後、私の計画の重要なピースを担ってくれる予定だ。



「コーネロ様に謁見したいと申している者がおります」



「私は今忙しい、断りなさい」



「分かりました」



ヒースクリフはあっさり下がろうとする。私は呼び止めた。



「待ちなさい、その方は何者ですか?」



私に謁見したいなどという信者はいない。彼らにとって私は雲の上の存在だ。希望しても叶わないことぐらい分かっている。



「はい、入信希望の旅人です」



旅人。久しぶりに聞いた言葉だ。驚きを隠せない。このゼーラ教会に旅人など滅多に訪れないからだ。



なぜなら、ゼーラ教の信者となりゼーラの加護を手に入れなければ、この山を登頂できない。



ゼーラの加護なしに、この切り立った雪山を登りきり、ここまで辿り着くのは並のことではない。



「興味が湧きました、通しなさい」



「分かりました」



ヒースクリフは下がっていく。入信希望と言っていた。もし利用価値がある者なら、味方に引き込んでおくのも悪くない。



少しでも利用できる駒は増やしておきたい。



それにしても、この山を自力で登り切ったからには、かなりの手だれだろう。極寒の吹雪の中、強力なモンスターを倒して険しい道のりを進まなければならない。戦力には期待できる。



「失礼します」



来客が姿を見せた。ぞろぞろとそのパーティが入ってくる。甲冑の騎士に、小人族の男。大剣を背負った品性のない女。明らかに荷物持ちをさせられている幸の薄そうな中年の男。不貞腐れた顔をした青年。



私には人を見る目がある。この中のリーダーが誰か、すぐに気づいた。



中心に立つ背の低い少年。白い癖毛がくるくるとしている。トレンチコートを羽織り、肌も雪のように白い。彼だけ存在が異質だ。その少年は私を見て笑顔を見せた。



この少年には注意が必要だ。私の中で警鐘が鳴る。私と同じ匂いを感じる。



「初めまして、大神官コーネロ様、僕はネロと言います、ゼーラ教に入信をさせてください」



ネロと名乗った少年は丁寧にお辞儀をした。癖毛が一本揺れた。







第5章スタートしました!


これからも執筆頑張って行くので、応援よろしくお願いします。

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