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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第1章 英雄の目覚め
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夢幻の刃



俺はエルフの里に到着した。インコにお礼を言って集落の中心に向かう。そこには既に人の姿があった。俺が助けた青年が俺の姿を見つけ、笑顔で駆け寄ってきた。



「旅の方、あなたが呪いを解いてくれたのですか?」



俺は照れくささを感じながら、肯定する。どうやら急に皆身体の調子が良くなったらしい。とてもご都合主義な展開だが、ゲームだから仕方ない。



そのまま俺は回復したエルフ皆に賛辞を述べられながら、集落の奥へと連れられる。一番立派な建物に招待された。



そこにはエルフには珍しく初老の男がいた。絹のような艶やかな白い髭が床にまで届いていた。



族長ナラーハ。このエルフの里の族長であり、かつて魔王を封印した一人。つまりゲンリュウの戦友だ。



「旅の方、話は伺いました、この里を救って頂き、ありがとうございます」



ナラーハは仰々しく頭を下げる。自分よりも遥かに年上の人から頭を下げられ、俺は慌てて手を振った。



「頭を上げて下さい、困っている人がいれば助けるのは当たり前です」



「おお、あなたは素晴らしいお方だ、何か助けて頂いたお礼を、せめてさせて下さい、エルフに伝わる宝をあなたに差し上げましょう」



俺は心の中で笑みを浮かべた。もちろん苦しんでいる彼等を助けたかった気持ちもあるが、このイベントの褒賞が目当てでもあった。



「案内しましょう、こちらへ」



ナラーハの後に続き、奥の部屋へと進む。その先は洞窟に繋がっており、階段で下へと降りていく。うっすらと光る緑色の苔がおぼろげに二人を照らしていた。



そして、程なくして、最深部に到着し、美しい装飾の施された木のドアを開けた。目の前にエルフの宝物庫が現れる。



「全てとは言えませんが、好きな物を3つ持っていって構いません」



俺は既にこの宝物庫に何があるのかを全て把握している。3つだけ持っていくことができるが、これ以降この宝物庫には二度と入ることが出来ない。何を選ぶかはよくユーザーの間で論争になった。



俺は迷いのない足取りで奥に進み、翡翠色の液体の入った小瓶を手に取った。エルフの秘薬という消費アイテムだ。



使用すると一定時間MPが一切減らなくなる。その間はどれだけMPを消費する魔法も連発できる。因みに一本で3回使用することができる。ソラリスのような高火力の魔法使いキャラに使えば、その効果は絶大だった。



エルフの秘薬は終盤になれば、自力で調合できる。魔法使いキャラが仲間にいない今、その真価は発揮できないが、俺は迷わずそれを選んだ。



そして、俺は世界樹の枝で作られた杖に目を向けた。妖精王の杖。これを選べばナラーハを仲間にすることができる。



ナラーハはゲンリュウと違い、非常に有能だ。火力は乏しいがヒーラーとしてはかなり戦力になる。



一撃死が蔓延するLOLだが、中には持久戦が強いられることもある。絶対回避不可能な攻撃をしてくるボスもいるからだ。



ポチの『オールフォーワン』でダメージ分散をし、一撃死に耐えながら、回復をさせるのが王道だった。



俺は迷った。今のパーティにヒーラーはいない。ここで有能なヒーラーを確保することは現実的かもしれない。



ヒーラーとしてよく名前が上がるのは、大神官コーネロ、妖精王ナラーハ、聖天使ラファエル、歌姫ソフィーあたりだ。



欲を言えば、ラファエルを仲間にしたいが、かなり仲間にする条件が厳しい。それに四大天使は誰か1人しか選べないから、俺ならラファエルよりミカエルを選ぶだろう。



俺は迷ったが、妖精王の杖に見切りをつけた。そもそもゲーム時代、俺は基本的にヒーラーをパーティに入れていなかった。ゲームでしなかったことを現実でするのは危険だと判断した。



それは俺の戦い方ではない。



俺は代わりに疾風の腕輪を選んだ。素早さが上がる装飾品だ。このLOLでは素早さが何より重要となる。しかし、素早さが上がる装備は少なく手に入れづらい。



それに俺には一つのビジョンがあった。リンは教えれば回避能力が向上した。もともと努力家な面もある。これを彼女に装備してもらえば、今後に期待が持てた。



最後の一つは初めから決まっていた。



俺は宝物庫の一番奥に向かった。そこには無数の剣が並んでいる。階段状に飾り棚があり、段を上がるごとに豪華な装飾になっていく。



そして、一番上にエメラルドグリーンの刀身をした美しい剣が土台に刺さっていた。それは宝物庫の中でも一際存在感を放っている。



俺たち英雄の中で、夢幻の刃と呼ばれる武器、聖剣デュランダル。英雄の中でも大きな話題になった。



「ほう、あなたにはあの剣の価値が分かるのですね」



ナラーハが後ろから声をかけてくる。俺が頷くとナラーハは話を続けた。



「あれは聖剣デュランダル、かつてあの魔王に大きな傷を負わせた剣です」



ナラーハの目は遠い過去を思い返すように、こことは違うどこかを見ていた。



「かつて魔王を共に封印した戦友が使っていた剣です、私の妖精王の杖、ゲンリュウの正宗、ソラリスの永遠の扇、そしてアランのデュランダル、あの聖剣は選ばれしものが使うと真の力を発揮します」



ナラーハは俺を見つめる。何かを期待するように、何かを信じるように。



「あなたになら、あの剣を任せられます、あなたからは特別なものを感じる、かつての勇者アランを彷彿とさせる、私達は魔王を封印までしか出来なかった、しかし、あなたは……魔王を滅ぼす素質があるのかもしれない」



俺はナラーハの真剣な眼差しに応えるように頷いた。



「この世界で……唯一、魔王を倒せる可能性があるのは、多分俺です、だから、俺はもっと強くなる必要がある」



拳を強く握り、覚悟を固める。ナラーハは満足げに微笑んでいた。



「この振り切れた残酷な世界で、俺は大切なものを守るための力が欲しい、だから……その力、武器を頂きます」



俺は飾り棚に歩み出す。一陣の光が聖剣を照らした。勇者を待つように、聖剣は美しい輝きを放つ。それはどこまでも幻想的な光景だった。



そして、俺は剣の柄に握った。持ち上げると見た目よりも重かった。これが俺が求めていた力だ。俺はその剣を頭上に掲げた。



「これ、いただきます!」



なぜかナラーハが口を大きく開けて唖然としている。俺は何かおかしなことがあったかと思い返したが、特に変なことはしていない。



俺は予定通り、この中で最も使える武器、飾り棚の一番下の段で埃に埋もれて転がっている訓練用木剣を手に入れた。



そもそもデュランダルなんて選ぶわけがない。このイベントは英雄達の中で、《妖精王の甘言》と呼ばれている。甘言に乗ってデュランダルを選べば、もれなく極上の絶望と怒りが付いてくる。



デュランダルはナラーハの言った通り、選ばれし者が使うと真の力を発揮する。この条件がまず終わっている。



デュランダルは装備者の職業が勇者ではない時、攻撃力が100分の1になる。もはや店売りのロングソードの方が高い。更に装備することで使用できるスキル『インフィニティソード』も勇者であることが使用条件となっている。



勇者まで上り詰めるためには途方もない努力と時間が必要になる。そこまで育て上げれば、既にデュランダルの元の攻撃力より強い装備はいくつか手に入るため、デュランダルの存在意義がない。



それでも英雄達は『インフィニティソード』を使用するために勇者までたどり着いた。そして使用した時に驚愕する。その使えなさに。



それはあまりに美しいスキルだった。天に掲げるデュランダルに呼応するように、天から無数の剣が現れ、雨のように大地に降り注ぐのだ。無限にも思える剣が降り注ぐため、人は無限の刃と呼んだ。



そのスキルは終了まで5分は続くため、天に剣を掲げたままの姿でずっと待たなければいけない。そして、降り注ぐ剣はあくまでエフェクトであり、一本一本にわざわざ当たり判定などついていない。その辺は適当に処理される。



明らかに剣が刺さっているのに、敵はダメージを受けず、平気で近づいてきて剣を掲げる無防備なプレイヤーを殺す。また剣に全く触れてもいないのにダメージを受けて消えていく。



かなりの広範囲なので、その辺り判定がバラバラで、ランダムなので、複数の敵に囲まれていれば、まず全員にダメージを与える前に無防備な所を攻撃されてこちらが死ぬ仕様だ。



刺さっているのにダメージがなく、触れてもいないのにダメージを受ける。だから俺たちはこの技を夢幻の刃と呼んだ。



血の滲むような努力の末、使い物にならないスキルを見せられる。そんな絶望がデュランダルには込められている。






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