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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第4章 英雄の決意
238/370

革命



___________



その後、俺たちはガルドラ火山の入り口で、ギルバート、ユキ、フレイヤ、ドラクロワに合流した。ドラクロワは明らかに機嫌が悪い。



無事にディアボロを討伐したようだ。ギルバートが力のルビーを持っていた。



そこで俺はギルバートから詳細な状況を聞いた。



ドラクロワの様子がおかしい理由に納得した。元魔王軍幹部、竜王ティアマトはドラクロワの父親だ。



デストロイヤーを持っていくときも形見だと言っていた。奴なりに父親の死は辛かったのだろう。それが実は生きていたと知らされた。



ゲームではティアマトは名前しか登場しない。生きている説は出ており、いくつかの証拠があるのでプレイヤーからは生存説が有力となっていたが、キャラクターとして登場していない。もしかしたらまだ知らないイベントで登場する可能性はあるが。



ディアボロ復活イベントにも絡んでいなかったはずだ。ゲームとは違う動きが生まれている。



ティアマトはディアボロを討伐したあと、力のルビーとデストロイヤーを置いて去っていったようだ。



エレノアという人物の場所をディアボロに聞いていたらしい。



エレノアか。その名は前作レジェンドオブライオネルにも登場する。仮面の魔女が探していた。



つまりソラリスが探している人物だ。ミレニアム懸賞イベントの大魔導の夢、ソラリスの固有イベント、誰もクリアしていないが、それがエレノアの捜索につながっている可能性はある。



ティアマトはソラリスにやられて戦死した。しかし、ソラリスとティアマトが繋がっていたなら話は変わる。そこでソラリスが協力して、ティアマトの死を偽装したのかもしれない。



ティアマトは間違いなくソラリスと関わりを持っている。



俺はそんな推理をしながら、ガルデニアの街に戻った。皆、肩の荷が降りたのか、楽しそうにはしゃいでいた。ギルバートはドラクロワと2人で少し離れて話をしている。



複雑な心境のドラクロワに、適切な声がけをできるのはギルバートだけだ。俺は何て言葉をかければ良いか分からない。



ランもガルデニアまで付いてきてもらう。最初はパニックになるだろうが。これは必要なことだ。俺はこの後のことも考えている。



ガルデニアに近づくと、人々が門の前に出てきた。武器を構えた烈火団もいる。ランの姿に警戒している。



それをかき分けるように、饅頭屋のガントが姿を見せる。周りの制止する声を振り切り、ガントはこちらに駆ける。



「生きていられたのか! 君はあの時の子龍なのか!?」



ランはガントに顔を近づけた。住民から悲鳴が上がる。



「ランだよ! おじいちゃんの匂い知ってる! パパとママもね、よく話してくれたよ! 良い人間だって」



ガントは涙を流しながら、膝をついた。



「そうか、良かった、良かった……」



烈火団が武器を構えて近づいてくる。俺は前に進み出た。そして、全員に聞こえるように大声を張り上げた。



「俺は! ドラゴンスレイヤー、ライオネルを倒した者だ!」



ライオネルが残した剣を振り上げる。動揺が広がる。あの最強の存在を倒したと聞き、戦意は喪失する。



「今をもって、烈火団は解体する! 腐敗が進み、人々を虐げる者が多い、そんな自警団に価値はない」



烈火団が呆然とする中、住民の1人が声を上げた。



「そうだ! 烈火団なんて必要ねぇ!」



それを皮切りに次々と烈火団への文句が飛び出す。皆言いたくても言えなくて我慢していたのだろう。



「お、お前は自分が何をしたのか分かっているのか!」



烈火団の1人が声を上げる。



「ライオネル様がいなければ、ガルデニアはドラゴン達に滅ぼされる! 奴らが山から降りてこないのはライオネル様がいたからだ」



そう。彼が言うことは正しい。だから、俺には代替案がある。俺が目で合図をすると、ランは大きく伸び上がった。



「私が街を守るから安心して! 私はラン! 怖くない良い龍だよ!」



ランがいれば、ドラゴンは余裕で対処できる。これが最適解だ。



「これからの街の指揮はガントとゴントの親子に任せる、龍信仰の他の仲間もいるだろう、もう隠す必要はない」



俺の言葉にサラの手を引きながらゴントが現れる。続くように住民が何人か出てくる。今まで隠れて繋がっていた龍信仰の者達だろう。



「烈火団の中で、今後も真に住民のために働きたい者はゴント達の指揮下に入れ」



革命を起こすには力がいる。これはある意味で脅しだ。最大戦力のランがいるからこそ、彼らは従わざる得ない。



いろいろな立場の人間がいる。反対をする者もいる。それを束ねるのに必要なのが力だ。



全員が暮らしやすい街になるとは思わない。今まで甘い蜜を吸っていた烈火団は、前の方が良いと言うだろう。これはただ俺が考えた理想形だ。



こうして、龍に守られし街、ガルデニアの新体制が始まった。














_______賢王________



街が賑わっている。



昨日レン君が帰ってきてから、お祭りの準備が進められている。



ランの歓迎会を兼ねた、記念日らしい。皆が浮かれ、新しい街を祝福していた。



とんでもない男だ。街の在り方すら変えてしまった。これは革命と呼んでも良い。



戦闘能力だけではない。こうゆう所でも彼は才能を持っている。



私は饅頭屋に赴いた。約束の物を頂かなくてはならない。



饅頭屋は大忙しで、饅頭を作っていた。お祭りで大きく稼ぐために、必死で饅頭を作っている。



「お、ハリス! いや、プロメテウスか」



ガントが近寄ってきた。手が白い粉で汚れている。



「本当にありがとよ! あんたがラン様のために動いてくれたのは聞いた、ほれ、約束のもんだ」



ガントは風呂敷に包んで無造作に置いてある龍の涙を渡してくれた。烈火団がいなくなり、龍のアイテムを隠す必要もなくなったのだろう。



「ありがとうございます」



私はそれを受け取る。



「恩を言うのはこっちだぜ、ほんと言うとな、お前さんの腕はピカイチだったから、饅頭屋を継いで欲しかったがな」



「すみません、私にはやることがあるので、しかし……」



私は利己的な人間だ。自分のプラスになることしかしない。今回は龍の涙を手に入れるためだった。



「美味しい饅頭の作り方を教えてくれたことに感謝します、知人はいつもお茶にあうお菓子を探しているので、彼に振る舞うことにします」



あの男は自分の淹れたお茶に合うお菓子を探している。この饅頭を振る舞えば、私の心象も良くなるだろう。それは私のメリットでもある。



「じゃあ元気でいてくれよ、俺たちはお祭りのためにもう一踏ん張りするぜ、お前さんに会えて良かった」



そう言って、私と握手する。白い粉が私の手についた。ガントはにっと笑って作業に戻っていった。



「ハリス様!」



奥からサラが私を見つけて駆け寄ってくる。



「もう行っちゃうの?」



ゴントも現れてサラを止める。



「サラ、ハリス君は用事があって忙しいんだ、わがままを言ってはいけないよ」



「でも……」



見慣れた厨房を見た。ガントが難しい顔で生地をこねている。あの生地は水分量と粘り気の具合が命だ。



横に積まれた木箱を見て、何個ぐらい饅頭を作る気なのか分かる。このペースでは間に合うのは厳しいだろう。



目の前に今にも泣き出しそうなサラがいた。



私は上着を脱いだ。そして、少し下がっていた眼鏡を上げる。



「仕方ありません、お祭りのために、今日だけお手伝いしましょう」



「やったぁ!」



サラが抱きついてくる。



「良いんですか! 親父! ハリス君が今日だけ手伝ってくれるらしいぞ!」



「はは、そいつは助かるぜ! 頼んだぜ! 弟子よ!」



「ええ、任せてください、ちなみに新作のアイデアがあります、それも試験的に売って良いでしょうか」



私は利己的な人間だ。ここで饅頭を作ることは何の利益が自分にあるのだろう。私は理由を探している。



だが、もうどうでも良くなった。作らなければならない饅頭は多い。今はそれに集中しよう。


















「私はね、ハリス様のつくるお饅頭が大好き!」













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