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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第4章 英雄の決意
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笑顔



「分かった」



ライオネルを『不死』の呪いから解放しよう。ライオネルは剣を捨てた。抵抗はしないという意思の表れだ。



俺はライオネルを信頼した。



ポチの元まで行き、彼にあることを伝えて、ダルマを自ら持っていく。



ライオネルが効果範囲に入った。これでライオネルは自由に動ける。もし彼が俺を騙していたら即死させられる。



このダルマの範囲であれば『ワンモアチャンス』も発動されない。



俺は一応ある保険は打っている。もし俺が死ねばポチにこのダルマを全力で拾い、遠くに投げるように先ほど指示をした。



俺が死んだ地点がダルマの効果範囲から外れさえすれば、30秒以内にバクバクの『リバース』で復活できる。



もちろんライオネルがダルマを移動させようとするポチやバクバクを攻撃したら、この保険はなくなる。そんな保険が必要ないと信じたい。



「あの世でリズと仲良くな」



ライオネルが目を見開く。



「君は……リズを知っているのか?」



俺は刀を構える。最後に使う技はやはりあれしかない。



「ジャスティンやロイクも待ってるだろうよ」



ライオネルは優しく笑った。レジェンドオブライオネルの最初の村で、少年だったライオネルと同じ笑顔だった。



「君は不思議な人だ、ありがとう」



ライオネルは目を閉じた。憑き物が落ちたような穏やかな顔だった。



「リズ、待たせたね、これからはずっと一緒だ」



さようなら。ドラゴンスレイヤー。どうか安らかに眠れるように。










『天命龍牙』










_________リン__________



その光は美しかった。



輝く白い光の筋が幻想的に広がっていく。ライオネルとレンとの会話はここからでは聞こえない。



ただライオネルに戦闘の意思が消えた。どんなやり取りがあったのだろうか。



ライオネルは青い粒子になって死んだ。最後の彼は笑っていた。



私はなぜか悔しくなかった。私を苦しめ続けた存在が、笑って最後を迎えたのだから、怒りが湧くのが普通なのかもしれない。それなのに、なぜか私は穏やかな心で彼を見送っていた。



彼と最後に話せたのが、私の救いだったのかもしれない。復讐というものはただの自己満足、他者に理解されるものではない。あの言葉はきっと正しい。



そして、ライオネルは自分が正義ではないと認識していた。ただの利己だと。私よりもずっと客観的に自分のことを見つめていた。



正義や悪なんて存在しない。それは立場によって変わる。だから、そんな尺度で物事を測ること自体が愚かしい。



レンの言った通りだ。ライオネルが死んで復讐が遂げられても、私の心に達成感はなかった。



きっとこれは経験した人にしか分からない。ただ事実を受け入れている、無感情に近い、目的を失った不思議な喪失感。



私の復讐は終わった。終わって初めて気づいた。あの復讐心は呪いだったと。



ずっと私を呪縛していた。強くなるために、ライオネルを殺すために、私の行動には常にその呪いが根底にあった。



でもこれからは違う。私は皆のために強くなる。復讐が終わり、私の旅の目的は消えた。それでも私はこれからも皆と旅をする。



もっと、強くなる。今度は復讐の為じゃない。



レンのように、大切なものを守るための強さを手に入れる。



レンは私の復讐を代行してくれたのではない。ただランを守ってくれただけだ。



私の憧れ。



まだ届かない。でも諦めたくない。



刀を振り抜いたレンの背中を見つめる。



私はいつかあの背中に追いつく。そして、並び立つ。



もう1人の英雄として。



私の新しい目的が生まれた。

















___________________




白い光が包まれ、ライオネルの身体が青い粒子に変わっていく。



最後までライオネルは笑顔のままだった。



俺はライオネルに勝った。不可能を超えたが、いつものように踊る気にはならなかった。なぜか達成感が湧かなかった。



ライオネルが死を望んだからだ。奴が本気で向かってくれば、俺は負けていたかもしれない。



心のどこかで本気のライオネルと戦いたかったと思っている俺は、生粋のゲーマーなのだろう。



リンが降りてくる。離れていたランも近づいてきた。



「ありがとう、ランを守ってくれて」



「レンちゃん、ありがとう!」



ランを守れてよかった。ライオネルはリンやランの両親を殺した。憎しみの対象ではあっただろう。それは事実だ。



だが、彼もある意味で呪いを受けていた。ずっと苦しんでいた。



この結末がきっとリンにとって、そして、ライオネルにとっての最善だったのだろう。



きっと俺以外にこの結末には導かなかった。その点が救いなのかもしれない。



「ああー緊張した!」



俺は力を抜いて、どさっと地面に座り込んだ。ずっとピリピリしていたので、もう気を抜いてもいいだろう。



「あ、あつ!」



地面が焼けるような熱さであることを忘れて、俺は飛び跳ねた。



「ふふ、かっこいいのが台無し」



「ラン知ってるよ! それね、ドジっ子っていうんだよ!」



お尻は熱かったが、この笑顔を守れて良かったと、俺は思った。














_________賢王_________



私は待っていた。ガルドラ火口には出口が複数ある。それらを『天眼』で見張りながら、自分は烈火団が入っていた出口に待機した。



あのままディアボロの封印された場所まで行くよりも入り口を張っている方が可能性が高いと判断した。



帽子を被っているのは偶然の可能性もある。『天眼』の対策だと考えるのは、考え過ぎかもしれない。



それならそれで良い。私は自分の知らないことが起こるのが嫌いだ。



足音がした。私は木陰に隠れて気配を消している。



大きな帽子が見えた。あの大男だ。やはり顔は見えない。彼は立ち止まった。



「隠れてないで出てこい、もう隠れるのは諦めた」



帽子を深く被った大男が声を上げる。信じられない。私は気配を遮断している。普通の人間が感知できるわけがない。



だが、間違いなく彼は私の気配を察知している。私は警戒しながら、姿を現す。



「お前の性格は知っている、しつこいからな、目をつけられた以上逃げられないだろう」



大男は帽子を外した。帽子は風に乗って飛んでいく。



信じられない。私はその男を知っていた。死んだはずの男が顔を見せる。



「な、なぜ、お前が生きている」



「まあ驚くよな」



彼はかつての仲間だ。勇者との戦いに魔王軍として参戦していた。そして、ソラリスに敗れて戦死したはずだった。



「竜王ティアマト……」



元魔王軍幹部。あのウォルフと組み手ができる唯一の存在だった。



攻撃の破壊力はウォルフの次に高く、何より最強の防御力を持っていた。物理だろうが魔法だろうがまともにダメージを受けない。



そんなティアマトが戦死したことを当時の私は受け入れられなかった。



「あの頃の若造が随分と偉くなったな」



私はあの戦いの頃、まだ幹部にはなっていなかった。むしろ彼が死んだことで後釜となった形だ。



「ティアマト、なぜ生きているんですか?」



「話すつもりはない」



ティアマトはそう言って話は終わりだと示すように歩き出す。



「私がこのまま逃すとでも思っているのですが?」



「お前に俺が止められるとでも思ってるのか?」



無理だ。もしあの時のティアマトの能力が今でも衰えていなければ、私では絶対に勝てない。



「安心しろ、お前らの、魔王軍の邪魔はしない、俺は俺でやることがある」



私は知っておきたい。なぜティアマトが死を偽装したのか。目的が何なのか。呼び止めようとし、私は閉口した。



ティアマトが全身から殺気を放っていた。これ以上、煩わせるな、そう背中が忠告している。ティアマトには私を殺すという選択肢がある。



あの頃からそうゆう性格だった。ウォルフとは違う。ウォルフは豪快で頭はあまり賢くなかった。ただ仲間思いで、部下にも人気で皆から好かれていた。



ティアマトは違う。寡黙であまり無駄なことは話さない。他者との関わりも積極的ではなかった。



だが、その戦闘スタイルとは裏腹に知能が極めて高かった。戦略理解に優れていた。



私はあの頃から軍師のような立ち位置で、魔王軍の中で成り上がろうと考えていた。そのため、ティアマトのことは観察していた。



彼は積極的に自分の意見は言わないが、さりげなく周囲を最適解に誘導している節があった。それを計算して行っている。私には分かった。



そして、ティアマトは理解している。私に対しては言葉ではなく、武力で黙らせるのが最適だと。



これは脅しではない。私が選択を誤れば、躊躇いなく私を殺すだろう。ティアマトはそうゆう男だ。



私は仕方なく、その背中を見送った。






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