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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第4章 英雄の決意
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狂気の先に



青白い光が刀身に集まる。それは『龍牙斬』と同じ色だが、集まるスピードも密度もまるで違う。長いため時間などない。一瞬で眩い輝きを放つ。



レベル1でも巨神兵をオーバーキルするぶっ壊れた攻撃スキル。それを今の俺が放つ。文字通り桁外れの威力となる。



ライオネルが目を見開いている。自身の奥義すら超えた技を見せられ、信じられないのだろう。



「俺の最強を受けてくれ」



思い切り刀を振り抜く。衝撃派が広がり、空間が歪む。光の刃が一瞬で視界を埋め尽くす。



研ぎ澄まされた光。『龍牙斬』はただ高エネルギーを叩きつけるのみだが、『天命龍牙』はその上位互換だ。



濃縮された高密度の光が一瞬で広がる。触れたものに無慈悲な超絶ダメージを与える光。細い光の線が空中を舞い、その凶悪な威力とは逆に美しく幻想的にさえ見える。



その光がライオネルを包む。見たことないほどのダメージが刻まれる。



ライオネルが叫ぶ。これほどまでの痛みを感じたことは今までなかっただろう。



光が消える。ライオネルはぐったりと俯いている。しかし、まだ粒子となって消えない。



今のを受けて生き残れること自体、常軌を逸している。



「なん……だ、い、まのは……」



俺は放心しているライオネルを無視してポチを呼ぶ。ポチはダルマを地面に置いて俺に近づいた。2人ともダルマの効果範囲の外にいる。



『リバース』



俺は『リバース』を使用して俺自身とポチを30秒前の状態に戻す。これで一度しか使えないはずの『天命龍牙』が復活した。そして、ポチの『ワンナイトカーニバル』も復活する。



ここからが本番だ。この程度でライオネルを倒せるとは思っていない。



むしろここまでは俺のライオネル討伐作戦の序章に過ぎない。あと一発『天命龍牙』を放てるが普通ならそれが出来ない。



なぜなら『リバース』のクールタイムがあるからだ。『リバース』のクールタイムは12時間。『リバース』が使えない状況で『天命龍牙』を使ってしまえば、俺はこの最強のスキルを失ってしまう。



つまり『天命龍牙』を受けてライオネルが生き残ってしまえば、俺は奴のHPを削り取れない。他のスキルでは高速で回復していくライオネルのHPを上回ることは出来ないだろう。



そのことさえも俺は全て予想している。だから、俺の本当の策はここから始まる。



テイムしているバクバクを出現させる。我ながら俺はどこか頭がおかしいのかもしれない。こんな狂った作戦を思いつき、そしてそれを実行するなど普通なら考えられない。



俺は再び、ライオネルに向き直る。



「さあ、もう一発行こうか」



再びポチの『ワンナイトカーニバル』と『ドッペル』を発動する。



『天命龍牙』



俺は躊躇いなくスキルを発動する。再び青白い光が俺の刀身に集まる。



「お前は……何者だ?」



「俺はレン……英雄だ」



刀を振り抜く。超密度の光が再度ライオネルを切り刻む。再びあり得ないほどのダメージが加算される。



それでもライオネルは倒れない。底が見えない。無尽蔵のHPだ。



俺の『リバース』はもう使えない。これで30秒経てば『天命龍牙』は失われてしまう。













『リバース』



















俺の時が30秒前に巻き戻っていく。



これが俺の辿り着いた答え。狂気の先にある最強の技。



()()『リバース』を使用していない。俺以外の人に『リバース』を使用させた。



俺の『リバース』のクールタイムも30秒前に戻り回復する。



本来、『リバース』はプレイヤーしか使うことが出来ない。複数が使用できれば、お互いに『リバース』を掛け合うことで、『リバース』の12時間のクールタイムすら回復できるので、ゲームバランスが崩れるからだ。



俺はそれを可能にした。バクバクに『リバース』を覚えさせた。それが何を意味しているか。



つまり、俺はバクバクに()()()()()()()()()



これを実現するためには緻密なロジックが必要だった。



まず『テイム』されたモンスターはプレイヤーが死んでも解除されることがない。これは復活系スキルやアイテムで一度死んで生き返っても、テイムが継続していることから分かる。



そして、テイムされたモンスターには行動指示を細かく送ることができる。スキルの使用をあらかじめ決めておく予約機能がある。



俺はガルデニア近くの森で実験をした。予約機能を使い、ボムロックというモンスターを『捕食』させ、『爆裂体当たり』を発動させた。



指示を出した時、バクバクは『爆裂体当たり』のスキルを持っていなかった。『捕食』したことで初めて『爆裂体当たり』を手に入れ、予約機能により使用した。



この時に、俺は今回の作戦が上手くいくことを確信した。まだ手に入れていないスキルでも予約して使用の指示を出せることが判明したからだ。



俺が1人でガルデニアの森で行った儀式は、バクバクに自分自身を『捕食』させることだった。



自分でHPを50%以下に調整し、バクバクに指示を与える。俺を『捕食』した後、2メートル下がって『リバース』を発動しろと命じた。



バクバクが俺を『捕食』する。俺はこの時に気を失った。真っ暗になり、自分の存在すら知覚出来なくなった。死ぬと言うのはこうゆうものなのだろう。



ここから俺の記憶はないが、バクバクは言われた通りに2メートル下がり、手に入れたばかりの『リバース』を使用した。



『リバース』は最強の回復スキルでもある。効果範囲を30秒前に戻す。これにより時が巻き戻り、俺は無事に生き返ることができた。



しかし、これには盲点がある。本来ならば同時にバクバクも30秒前の状態、つまり俺を捕食する前に戻ってしまう。それではバクバクに『リバース』を習得させることが出来ない。



だから俺の作戦にはもう一つの鍵が必要だった。



それがダルマの置物だ。これこそ俺が最強に至るために必要だったピース。



俺がなぜバクバクを『捕食』させた後に2メートル下がらせたか、それはこのダルマの効果範囲に入れさせるためだ。



ダルマの効果範囲の少し外で俺を捕食させ、2メートル下がらせてダルマの効果範囲に入れた状態で『リバース』を発動させる。



ダルマはスキルの発動を阻止しない。効果範囲内の特殊効果を打ち消すだけだ。つまり、ダルマの範囲にいるバクバクには『リバース』の効果が発揮されない。



しかし、ダルマの範囲外にいて、『リバース』の範囲内にいる俺には『リバース』の効果が発揮される。



俺の時は巻き戻り復活することができ、バクバクの時は巻き戻らず、『リバース』を習得したままになる。



こうして俺はバクバクに『リバース』を習得させた。リスクに見合う価値はあったが、危ない橋を渡った。



理論上成功すると思っていても自分自身をバクバクに食わせることなど普通はできない。俺は自分の理論、仮説に命を賭けられる。



こうして、お互いに『リバース』を掛け合うことで、『リバース』のクールタイムを回復させ続けることができ、使い放題となる。



これが俺が築き上げた最強の技。『無限リバース』だ。



『無限リバース』により、俺は何度でも『天命龍牙』を放つことができる。



そして、俺の策はこの程度で終わらない。もう一段階、先がある。



俺は『天命龍牙』さえ超越するダメージを与える技を作り上げた。



英雄の発想はまだ終わらない。




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