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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第1章 英雄の目覚め
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魔剣の入手



しかし、イベントではアリアテーゼとは戦いにならないはずだ。



まずデブが相手となり、次のイベントでリーダーが相手となる。そして、最後のイベントで最も下っ端っぽいアリアテーゼと戦いになる。



その時、実は下っ端と思っていた女が正体を隠した魔王軍幹部の一人だったと知り、驚愕するというシナリオだ。



俺は固唾を飲んで場を見守る。デブの男が前に進んできた。



「今回は俺が相手してやるぜ、リーダー達は先に戻ってくだせぇ、もう用は済んだからなぁ」



リーダーは頷いた。そして、後で合流しようなどと言い、空中に転移魔法ゲートを開いた。



「残念ね…わた「早く来い」



アリアテーゼが何か言おうとした瞬間、彼女はリーダーに襟首を掴まれ、ゲートに引きづりこまれていった。



俺はゲートが閉じたことを見届け、大きく嬌声を上げた。



「やったあああぁぁ、乗り切ったぁぁ」



全身で喜びを表現して踊り出す。ここまで来たらこのイベントはクリアしたも同然だ。



「お、おい、恐怖で気でも狂ったか」



デブがドン引きしているが、俺は気にしない。喜びのダンスを披露する。



「なめやがって、俺はデラクレール、最強の腕力を持つ男だ!」



ああ、そんな名前だったなぁーと俺は腕を組んで頷いた。



俺の反応にデラクレールは青筋を浮かべる。



「てめぇ、殺してやる」



デラクレールは俺に向かって突進を始める。俺は踊るのをやめ、真っ直ぐ彼を見据えた。



「悪いが……お前じゃ相手にならないよ」



振りかぶったデラクレールの拳を軽く避ける。攻撃特化で鈍重な敵の攻撃を避けるなど、英雄には目を瞑ってもできる。



すれ違いながら、小瓶を取り出して顔にぶつける。黄色い粉が辺りに舞う。デラクレールは動きを止めた。



「がっ、な、なにをした」



沼地のドロップアイテム麻痺薬だ。このデラクレールには状態異常が効く。俺は続いて二本の瓶を取り出した。禍々しい色の液体が波打っている。



俺は動けないデラクレールに向けて、邪悪な笑みを浮かべた。



「お、お前、何をする気だ、今なら許してやる、よせ、よせ、やめろ!!」



俺は2つの瓶をデラクレールに順番にぶつける。これで勝利は確定した。1回目で毒状態、2回目で猛毒状態になる。



本来はデラクレールはステータス上、強敵だ。今の俺では一発食らえばあの世行きだし、地味に防御力が高いので、俺の攻撃はあまり通らない。



さらにHPも膨大であり、ちまちま回避しながら削っていたら、何時間かかるか分からない。魔法防御は弱いが、生憎俺は高火力の魔法を取得していない。



だからこその猛毒だ。猛毒状態は割合ダメージとなる。10秒で最大HPの10%のダメージを与える。どんなに最大HPが大きくても、100秒で倒せる。



麻痺の効果時間は2分。何もできないまま、猛毒でHPはゼロになる。



基本的にボスキャラには状態異常が効かない。状態異常耐性というものがあり、毒耐性90%であれば、毒瓶10本に1本の確率で毒状態になる。



このデラクレールには耐性がないため、100%の確率で毒と麻痺状態にさせることができる。



これが発見されたのは意外に遅かった。そもそもボスに状態異常が効かないことは自明のことであり、誰も試さなかった。



あるキャラのスキルに【アナライズ】というものがある。これは敵のHPが50%を切れば、敵のステータスを覗くことができる。



これを使って一部の暇人英雄が、あらゆる敵のステータスを調べ上げ、図鑑を作成した。それでデラクレールが耐性を持っていないことが判明したのだ。



顔色を悪くしたデラクレールが10秒ごとに大ダメージを受けている。俺はゲームキャラとはいえ、人を殺すことに抵抗を感じると思った。



しかし、俺はあっさりと受け入れ、デラクレールが死に絶えるのを待っていた。この理不尽な世界では甘い考えが自らを殺すと、意識せずとも分かっていた。



非道でも非情でもいい、俺はあらゆる手を使ってこの世界で生き残る。



自分が冷たい人間なのかと思った。これは殺人と変わらない。ゲームだからこそ正当化されているが、実際していることは変わらない。



この世界では全てを守り切ることは出来ない。だから、俺は自分自身を含め、手の届く範囲の仲間は守り切ろうと思った。



時間が来た。デラクレールは粒子となって消えていった。それはゲームでの現象と同じでだった。この世界では死体が残らない。



だからこそ、罪悪感を抱きづらいのかもしれない。デラクレールを殺したことで俺の中に何の変化もなかった。



俺は禍々しい色の石へと近づいた。その石には一本の剣が刺さっている。漆黒で、周りの景色が映り込むほどの光沢を持った刀身をしていた。



これが世界樹の力を吸い上げる魔剣だ。俺は柄に手をかけ、思い切り引き抜いた。石が輝き始め、本来の美しいエメラルドグリーンに戻る。



俺は引き抜いた魔剣を見つめた。これが今回の目的だ。魔剣ダイダロス。このレベル帯ではトップの攻撃力を誇り、特殊効果も非常に有効だ。



魔剣ダイダロスは、刃に触れた者のMPを吸収して次の一撃のみ蓄えたMPに応じて攻撃力を向上させる。一撃しか効果がないので使い勝手が悪いように思えるが、魔法を捨てた脳筋プレイヤーにとってはMPなど無用の産物なので有効活用できる。



これで邪龍戦は随分と有利に進めるはずだ。



突然、羽ばたきの音が聞こえ、俺は影に覆われた。振り向くと体長が2m近くある巨大なインコのような鳥がいた。



これはイベント終了後の帰還方法だ。ここまで苦労してきた道のりをまた戻らされるような仕打ちはない。このインコが麓まで乗せて行ってくれる。



俺は当たり前のようにインコの背中に飛び乗った。インコは奇妙な鳴き声とともに飛び立ち、風を切る。



視界に広がる広大な樹海と美しい空を見つめながら、俺は心地よく風を切った。



この世界は悪意や理不尽に満ちているが、目の前の光景は今まで見た何よりも美しかった。







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