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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第4章 英雄の決意
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目的地へ



「プロメテウス!」



「分かっていますよ」



プロメテウスが高速の斬撃で炎熱トカゲを粒子に変える。同時に背後からのレッドスコーピオンの攻撃を軽く回避する。



【セイントレイン】



硬い装甲に覆われたレッドスコーピオンは物理が効きづらい。光の槍で串刺しにする。



プロメテウスは襲ってきたモンスターをあっさりと殲滅した。再び奥に向かって歩みを進める。



「手伝うのはドラゴンスレイヤーの元に辿り着くまでです、ドラゴンスレイヤーと戦うつもりはありません」



「ああ、分かってるよ、ライオネルは俺がやる」



こいつに手の内を明かすのは気が進まないが、プロメテウスはダンテの魔眼がある限り、俺たちには手が出せない。



「あなたはなぜそれほどの知識を持っているのですか?」



歩きながらプロメテウスは尋ねてくる。



「偶然知ってるだけだ」



俺は誤魔化すように言う。



「あなたはウォルフやアリアのステータスを熟知している、もちろんこの私のものも」



「そんなことない」



「そうでなくては説明できないことが多いのですよ」



リンも俺の答えが気になるのかちらちらとこちらを見ている。



「無駄だ、俺はお前に答えることはない」



「相変わらず連れませんね」



それからしばらく俺たちは無言で歩く。現れる雑魚モンスターはプロメテウスが倒してくれる。



それにしてもこの広いダンジョンでライオネルの居場所を探すのが一苦労だ。



その時、目の前の空間が一瞬歪んだ。



来た。ライオネルの索敵スキルだ。これはライオネルを中心に球場に広がっていく。そのため、慣れていれば空間の歪みが現れた方向から、ライオネルの方向を割り出すことができる。



「こっちだ」



俺はライオネルの方向を割り出して、道を変える。ライオネルがランと出会う前に接触しなければならない。



「あの女性、フレイヤさんはどうゆう経緯で一緒にいるのですか?」



プロメテウスが唐突に変なことを聞いてくる。



「何でそんなこと聞くんだ?」



「向こうから仲間になりたいと言ってきたのですか?」



「一体何が言いたいんだよ?」



プロメテウスが眼鏡をくいっと上げる。いつもの腹が立つ仕草だ。



「黙っていても面白かったのですが……レン君とはこれからも良い関係を築きたい、だから忠告しておきましょう」



プロメテウスの目が鋭くなる。俺に顔を寄せ小声で言う。



「彼女には気をつけた方が良いですよ」



意味がわからない。何を気をつけると言うのか。



「お前はフレイヤのことを知っているのか?」



「いえ、私は先ほど初めて会いました」



「なら、なぜそんな忠告をするんだ?」



「これ以上はレン君の問題です、私から何も言いません」



ここまで言ってきてはぐらかす。本当に性格が悪い。



俺が見る限り、フレイヤはゲームのキャラと変わらない。フレイヤはフレンドリーファイアだけがネックで厄介な固有イベントもなかった。



それにフレイヤは真っ直ぐな性格で、人を騙したり裏をかいたりするようなキャラではない。



ただプロメテウスが俺を揺さぶっているだけの可能性がある。話半分に聞いておこう。



だが、俺にも少し引っかかっていることはある。それはフレイヤのことじゃない。多分俺の思い過ごしだとは思うが。



それからしばらく進み、またライオネルの索敵スキルが発動される。俺はまた空間の歪みから方向を特定する。



頭の中のマップと照らし合わせる。俺はゲームでライオネルとの鬼ごっこイベントで何百回と殺されまくった。だから、このダンジョンのマップは完全に記憶している。



幸いそちらの方向には細い通路が一本しかない。ライオネルがどこにいるかが特定できた。一回目にスキルを使った位置からライオネルがどちらの方向に進んでいたのかを割り出す。



そして、次のルートを予測する。ライオネルの素早さは俺達よりもかなり速い。そのことを計算に組み入れ、ライオネルと遭遇できるポイントを求める。



勉強の数学は別に得意でもなかったが、ゲームが絡む計算は滅法強い。



「……割り出せた」



俺は一気に走り出す。ライオネルが今後進む場所は分岐によって異なる。俺たちの速さで先回りできるポイントは3つ。



ランは身体が大きいから細い通路には入れない。そのことを考えると、これから向かう先がライオネルが捜索する可能性が高い地点だと予想する。



ライオネルと遭遇したら最初が肝心だ。一度でも警戒されれば終わる。



正面からライオネルと戦えば、俺でも10秒持てば良い方だ。回避が失敗すれば2秒以内に殺される。



そして、ライオネルのHPを削り取るためには膨大な時間がかかる。とても10秒で削り取れるものではない。



初めから俺に勝ち目なんてない。だからこそ、ゲームでは使えなかった手を使う。



先制攻撃が絶対条件。その好機を逃せば俺の勝ち目は本当に消える。



「レン……私はレンを信じる」



走りながらリンが言う。その信頼に応えよう。



「信じてくれ、可能性ってのは自分で切り開くものだ、一見不可能に見えても別の道がある、俺が証明するよ」



周りの環境や他者に文句を言う。できない理由を探す。泥臭く足掻くものを笑う。そんな世界はうんざりだ。俺は可能性を紡ぎ出す。



その時、激しい轟音が洞窟に響いた。すぐ近くだ。






______烈火団第一隊長______



無事に火口の最深部まで来ている。ライオネルが隠していた書物に大きな通路を使わないルートが書かれていて助かった。おかげで竜には遭遇していない。



もうすぐだ。ここまでライオネルの妨害も受けていない。順調だと言ってよいだろう。



マットは相変わらず片手間にモンスターを駆逐している。もはや他の団員はただ歩いているだけの状態だ。イラつく男だが、利用価値は高い。



俺は地図を思い出す。この先を抜ければ、ディアボロの封印された場所だ。最後に大きな空洞の部屋を通らなければならない。



唯一、竜に遭遇する危険がある場所だ。俺は慎重に気を引き締めて、その大空洞に入る。暗く闇に満ちていて視界は悪い。所々マグマの赤い色が見える。



俺たち烈火団はかなりの実力を持っている。赤竜ならどうにかなる。しかし、黒竜が現れたら厳しい。こればかりは運だ。もし黒竜がいたら、気づかれないように戦闘を回避する。



岩の影から顔を出して覗きながら周囲を警戒する。熱気で汗が滲み、目がかすむ。



幸い竜の姿はない。俺は次の岩へ、次の岩へと移動していく。後少しで到着するはずだ。



俺が最後の移動を始めようととした時、耳をつんざくような獰猛な鳴き声が聞こえた。暗闇から目が光っている。まずい、竜だ。



俺は残りの距離を考えて、引き返すより走り切った方が良いと判断した。全力で疾走する。



怒り狂った鳴き声と共に大きな足音が迫ってくる。俺は横目で確認する。黒く光る鱗が目に入る。最悪だ。ここに来て黒竜に出くわすとは。



さすがのマットも黒竜には敵わないのか、大人しく俺と共に逃げている。



予想外に黒竜が速い。俺はこのままでは間に合わないと判断した。後ろを振り向き、名前も知らない烈火団の団員を思い切り蹴り飛ばす。



「ぐっあ! ごっほ! な、何を!?」



団員は吹き飛ばされて、地面に転がる。俺はすぐに振り向き、走り出す。



黒竜に優先順位なんてない。近くにいる奴から襲う。だから、団員の1人を犠牲にした。これで黒竜が奴を襲っている間なら時間が稼げる。



「た、助けて! 助けてください!」



後ろから慌てた男の声が聞こえる。黒竜がすぐ側まで来ている。他の団員も一切振り向かずに走り続けている。マットでさえ同じだった。俺らに仲間意識なんてない。



最後は蹴り飛ばした男の悲鳴すら聞こえなかった。即死だったのだろう。



俺は何とか目的の細い道に入った。ここまで来れば巨大な黒竜は追ってこれないだろう。最小限の被害で切り抜けられたと思う。



思わず笑みが溢れてしまう。ついに俺はここまで辿り着いた。



「おい、マット、俺はこの後調査に入る、誰もこの奥に近づけさせるな」



「分かった」



俺は心を踊らせながら奥に進む。マグマが両脇を川のように流れている。その奥にはマグマが滝のように上から降り注いでいる空間があった。



その中央には石の台座があり、マグマよりも赤い宝石が輝いている。



俺はゆっくりと台座に近づいた。ただの宝石ではない。強烈な魔力が込められている。俺はその台座から宝石を取った。



そして、荷物を下ろす。ディアボロを復活させるためのアイテムを取り出した。



それらをこのマグマの池に沈め、古文書にあった魔法を発動させる。それで目的は完遂される。





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