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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第4章 英雄の決意
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協力者



俺は今すぐにもライオネルを追いたかったが、火口に向かったとなると、耐火装備が必要になる。フレイヤ達が持ってきてくれれば良いが、そうでなければユキと一緒に行って冷却してもらいながらでないと進めない。



ランが心配ではあるが、あの火口はダンジョンとしてかなり入り組んでいる。しばらく時間を稼ぐことは可能だろう。ランの身体では大きい通路しか進めないのが心配ではあるが。



俺は待っている間、ライオネルと戦うシミュレーションをする。完全な不意打ちが出来ることが大前提だ。逆に相手から仕掛けられたら勝ち目はない。



幸いライオネルはあまりに強すぎるため油断をしている。龍以外の存在に大して興味もないだろう。



俺は細かいシミュレーションを脳内で行う。リンはずっと黙っている。落ち込んでいるということもあるが、俺の邪魔をしないようにしてくれているのだろう。



しばらくして、フレイヤ達が到着した。



「レン! 大丈夫か!」



「ああ、俺は大丈夫だ、悪いな急いで来てもらって」



ポチが運んでいる箱を見て、俺は機転を効かせて耐火装備を持ってきてくれたのだと分かった。こうゆう気が回せるのは、ギルバートしかいない。



「耐火装備が必要だったんだ、ありがとう」



俺はギルバートの方を見てお礼を告げる。ギルバートはふっと笑って手を振った。



「それはよかった、それより旦那、1つ気になることがあってな」



ギルバートがこちらに向かってくるときに、烈火団の集団を見たことを教えてくれた。



「烈火団? この山脈に向かって?」



「ああ、かなりの数だったな」



恐らくランの討伐とは無関係だ。龍の強さはライオネル以外に対処できない。烈火団などいるだけ邪魔だ。



だから、これはライオネルの命令ではない。別のイベントだ。俺の知っている中で考えるなら、ディアボロ復活イベントか。



ゲームでは烈火団の裏切り者がディアボロを復活させるイベントがあった。その者の名前は出てこないが、復活したドラゴンゾンビのディアボロを討伐するイベントだ。



本当ならライオネルが討伐すべきだが、そこはゲームのシナリオ上、プレイヤーが戦う流れになっている。確かゲームではライオネルが隣の街に移動した不在のタイミングを狙った、みたいな形で都合よく設定されていた。



俺はあまりガルドラ地方のイベントはやり込まなかったが、力のルビー入手とディアボロ討伐は行った。ディアボロの強さはLOLボスの標準、つまり何十回と死んでようやく倒せるというレベルだ。



ゲームでは復活したディアボロがまず近くのガルデニアを滅ぼそうと動き出し、そうさせないために火口で討伐するというシナリオだった。つまり現実でプレイヤーがいなければ、ガルデニアに甚大な被害が出る。



ライオネルがいれば、ディアボロを奴が倒すだろう。だが、俺はそのライオネルを倒そうとしている。



俺がライオネルを倒せば、ディアボロはガルデニアを滅ぼす。それは避けなければならない。どちらも対処するしかない。



「二手に別れよう」



ライオネル討伐班とディアボロ討伐班だ。ディアボロ討伐班は力のルビー入手の役割も兼ねる。



「烈火団はディアボロという古代の龍を復活させようとしている、それを阻止する」



ゲームではディアボロの復活はイベントの一部で回避できなかった。しかし、現実では復活する前に烈火団を止められるはず。



一応倒すことも念頭に入れるが、戦わなくて済むのが1番だ。



二手に分かれると言っても、人員の配置は限られる。ライオネルを相手にできるのは俺だけだ。リンは俺と来てもらう。いつもなら俺とリンが別れるべきだが、今のリンに英雄としての働きを求めるのは酷だろう。



ユキは俺とは別に動いてもらう方が良い。この火口には火属性のモンスターが多いので、雑魚モンスターの殲滅にユキは欠かせない。



ドラクロワとギルバート、フレイヤもそちらに参加してもらう。ディアボロの相手だけではなく、烈火団とも戦うことが予想される。フレイヤやギルバートの広範囲攻撃が必要になるはずだ。



それにギルバートは戦闘能力は高くないが、リーダーとして1番信頼できる。俺とリンが一緒にいられないとなると、状況判断に優れているギルバートのリーダーを任せるべきだ。



ポチは俺と来てもらう。こちらも雑魚モンスターを倒す要員がいる。ポチの火力は貴重だ。



それにいざという時に『ワンモアチャンス』で俺が復活できるし、リンが最後に残っているエルフの秘薬を使用すれば、アリアテーゼ戦で使用した『生魔転換』と『ワンフォーオール』の複合で無敵時間を作れる。



メンバーの割り振りを決定し、本題に入る。



問題のディアボロ。俺はゲーム時代のディアボロの能力を思い出す。俺はそれを全員に説明する。



ディアボロは防御力と最大HPが意外に低い。そのため、高火力で一気に削るのが定石だ。復活したばかりのドラゴンゾンビだから、打たれ弱い設定なのだろう。



逆に素早さと攻撃力は高い。また特殊なスキルも多用してくる。『毒雨』や『縛り雨』で広範囲状態異常攻撃をしてくるし、『瘴気』というスキルで体から黒いもやを発生させる。これに触れるだけでHPが急速に減っていき、移動スピードも半減してしまう。



厄介なのは『ダークブレス』だ。これは漂わせる瘴気をブレス状に勢いよく吐き出すスキルで前方広範囲攻撃であり、しかも吐き出した瘴気は中々消えずに留まる。



そもそもまともに受ければ即死だし、上手く回避しても漂う瘴気によって行動範囲が阻害される厄介なスキルだ。



あとは闇属性系の魔法を一通り使用する。魔法攻撃力はかなり高い。魔法防御が低いギルバートなどが直撃を受けたら即死だろう。



アンデッドだが、『回復魔法無効』のスキルがあり、【フルケア】での即死は狙えない。ボスなのだから当然だ。



そして、一番厄介なのが『精神支配』のスキルだ。ディアボロの目から光が走り、それに触れると一定時間、ディアボロに身体を支配される。



かつてディアボロは人々を精神支配により操っていたというシナリオがあった。それに関連づけたスキルだ。



実はこの『精神支配』、全く同じ効果のスキルが存在する。マルドゥークの『宣教の儀』だ。これらはかかってしまったら終わりのスキル。身体が勝手に動き、回避も出来ないし、仲間を攻撃させることもできる。



俺が一通り説明すると、ギルバートが険しい顔を作った。



「勝てる気がしないんだが……」



これが普通の反応なのだろう。俺は無理ゲーが当たり前の認識でいるから、ディアボロが特に強い印象はない。



それでも俺なしで倒すのは、ハードルがかなり跳ね上がる。戦力的に不安だ。イレギュラーが起こった時に対処することもできない。



「まあ、復活前に阻止すべきだな、それが出来なかったときの作戦を今から伝える」



「私も混ぜてはくれませんか?」



背後から予想外の声がして俺は振り向く。そこには青い軍服姿のプロメテウスがいた。腰から軍刀が伸びている。いつものスタイルだ。



『天眼』でこの場所のことを知っていたのだろう。ダンテの魔眼によりこちらと襲われることはないと分かっているが、警戒してしまう。



「レン君、私に恩がありますよね? 私も混ぜてください」



「ああ、フレイヤの時は助かった、それでどうゆう風の吹き回しだ? ランが死んだら龍の涙を手に入れられないからか?」



「いえ、龍の涙を手に入れるあては他にあるのですが……」



プロメテウスは困ったような顔をして事情を話し始めた。説明しないと俺が納得しないと分かっていたのだろう。



どうもあの饅頭屋のガントは昔リンの両親と交友があったらしい。驚きの偶然だ。そして、烈火団にそれがバレた。



烈火団はガントを探すためサラを人質にし、プロメテウスが救出した。



プロメテウスは初めから、ガントが龍の涙を待っている可能性を知り、饅頭屋に潜入していたようだ。



プロメテウスの中では、サラを救って感謝され龍の涙をゲットするという単純な流れだった。しかし、逃亡していたガントは知り合いの情報網を使い、ガルドラ山脈で龍が発見されたという話を聞いた。ガントは直感でその龍があの時の子供だと思った。



そして、烈火団が大挙して山脈に向かう。ガントはそれが龍討伐に動いたのだと思い込んだ。



プロメテウスはもう隠す必要もないと思い、不治の病の親友のために龍の涙を探しているとガントに説明した。そして、サラから烈火団を殲滅した力量を聞き、プロメテウスに依頼をした。



その龍を守ってくれないかと、あの時助けられなかったことをずっと後悔しているからと。



それがプロメテウスがここに来た理由だった。



「断りたくても断れる空気じゃなかった、全く……欲張りな人間だ」



そうプロメテウスは悪態をつく。プロメテウスは自身の変化に気づいていない。俺はそのことに驚いている。



プロメテウスが潜入を選んだのは、ライオネルを警戒してのことだ。街中で騒ぎを起こせばライオネルに殺される。しかし、今、ライオネルはガルデニアの街にいない。



サラを人質にしたり、ガントを拷問して聞き出したりすることもできる。むしろ、プロメテウスならやりがちなことだ。それなのに、その選択をしない。



それは明らかにプロメテウスの変化だった。無意識にあの家族に危害を加える選択を排除している。



「はっきり言います、私にドラゴンスレイヤーを止めるのは無理です、あんな生きる伝説、倒せるはずがない、しかし失敗して龍が殺されれば、ガントは落胆するでしょう」



プロメテウスはそこでふっと笑う。なるほど、奴の意図が分かった。アリアテーゼの時と同じだ。俺を利用しようとしている。



「だから、レン君に賭けようと思いました、君はウォルフもアリアも倒した、不思議な手を使ってね、きっとあの怪物も倒してくれる」



眼鏡をくいっと持ち上げる。その仕草と笑顔に苛立ちを覚える。



「もちろん、私も出来る範囲で力は貸しますよ、ドラゴンスレイヤーと正面から戦うのだけは遠慮しておきますが」



急にフレイヤが会話に割り込んでくる。



「こいつ誰だ? 強いのか?」



確かにこの中でフレイヤはプロメテウスに会ったことがない。プロメテウスに向かって、こいつ呼ばわりするのだから、中々勇気がある。



プロメテウスは怪訝そうな目でフレイヤを見る。そして、目線をフレイヤの手元に向け、ふっと笑った。



「あなたも人気者ですね」



女性キャラの仲間を増やしたことを茶化しているのか。俺はプロメテウスを無視して答える。



「ああ、こいつは魔王軍の幹部プロメテウスだ、裏切りと狡猾さが売りの腹黒メガネだ」



「随分な物言いですね」



「本当だろ? まあ強さは本物だ」



俺はふと考える。プロメテウスの力があれば、戦闘は一気に楽になる。成功率は明らかに上がる。



正直、信頼できず個人的には嫌いな奴だが、能力は確かだ。利用しない手はない。



こいつも自分の価値を正確に理解している。俺が断らないことも予想しているのだろう。



「分かった、ぜひ協力してくれ」



「そう言ってくれると思ってましたよ」





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