最強の回復スキル
翌朝、俺はイバンとリーマンの2人をガルデニアの街まで送った。ランが竜に合わないように気配遮断の魔法をかけてくれたので、随分と楽に移動できた。
リンとフレイヤはランの家に残した。俺はこの後、もう一度戻る予定だ。ガルドラ山脈でランに手伝ってもらってレベリングを行う。
ガルデニアに近づくと、烈火団の救助隊を発見した。俺達は救助隊と合流して、街に向かう。
イバンとリーマンの2人には口止めをしてある。ランの存在が烈火団にバレるわけにはいかない。2人とも命を救ってくれた恩人を裏切らないと、快諾してくれた。
ガルデニアの近くには俺達の飛空艇があった。無事に竜から逃げ延びたようだ。
ユキが俺を発見し、こちらに走ってくる。
「レン! 良かった、無事で」
「ああ、そっちも無事で良かったよ」
俺は烈火団と別れ、ユキと共に飛空艇に乗り込んだ。仲間が皆揃っている。俺は状況を説明する。
「本物の龍か! 一度手合わせしてみたいぜ」
ドラクロワは瞬殺されるからやめておいた方が良い。
「リンにそんな過去があったとはな……」
ギルバートは真面目にリンの気持ちを慮っている。
「俺はもう一度ランの下に戻る、その間に頼みたいことがある」
俺があの時、思いついた案を実行するための準備を進めるつもりだ。復讐のためにライオネルと戦うのは、今でも反対だ。しかし、念の為の準備は進めておいた方が良い。
「まずギルバートは飛空艇を運転して、ドラクロワとポチを連れてグランダル王国に戻ってほしい、そこで持ってきて欲しいものがある」
俺はそれを説明する。予想外の物だったのだろう、ドラクロワが難色を示す。
「おい……そんなもの、どうやって運ぶんだ?」
「ポチと2人で協力したら可能だよ」
「わん! ぼく、きょーりょくする」
問題はもう一つの方だ。こちらにはかなりのリスクが伴う。
「ユキしか頼めない大事な任務がある」
俺はユキに視線を向ける。ユキは覚悟をした顔で頷いた。
「任せて! 必ずやり遂げるわ」
下手をすると命の危険もある。しかし、リスクに見合う恩恵はある。
俺はユキに必要なものと、ゲームの知識を伝えて、成功率を高めた。俺は何度もゲームで経験し、その場所の知識を蓄えている。そこで俺は何度も死んだ。それだけ危険な場所だ。
この2つの物を手に入れることが、ライオネルと戦う際の鍵になる。力のルビーを手に入れるためには火山に入らないとならない。ゲーム通りならライオネルと隠れんぼが始まる。その時に効果を発揮するだろう。
「よし、明日の朝またここで会おう」
俺たちは計画に向けて、行動を開始した。
俺はもう一度、ガルドラ山脈に戻った。既にランの家までのルートは覚えている。俺1人だけだから、かなりのハイペースで山を登ることができた。
ランに頼んでガルドラ山脈の奥でレベリングを行う。フレイヤも同行した。パーティに入っていれば、経験値が手に入るからだ。
リンはランの家に残ることになった。既に300レベルを超えているため、彼女にレベリングの効果はない。昨日のことがあり、お互いに気まずさを感じているのも理由の1つだろう。
レベリングのやり方は単純だ。ランが手加減して竜を攻撃し、HPを半分以下にする。そして、バクバクが『捕食』する。
テイムしたモンスターが敵を倒しても俺に経験値が入るので、これが1番速い。バクバクのレベルも上げられるし、一石二鳥だ。
竜を見つける度にランが一発ダメージを与えて、すぐにバクバクが捕食する。簡単なお仕事だ。ドラゴンはレベルが250以上ある。フレイヤのレベルが一気に上がっていく。
途中で休憩を挟みながら俺たちはレベリングを続ける。そして、日が沈むころ、ついに俺はジョーカーの最初のスキルを手に入れた。
最強の回復スキルとも言われる規格外のスキル。その汎用性は高く。様々なことに利用できる。
『リバース』効果範囲内を30秒前の状態に戻す。
時を巻き戻すスキルだ。効果範囲は半径3mほど。どんなダメージを受けようと元に戻る。例え、仲間が死んだとしても30秒以内であれば生きた状況で復活できる。
貴重の消費アイテムを使用しても、時を巻き戻すことで使用していないことにすることができる。
30秒前の状態に戻すことができるので、スキルのクールタイムでさえ回復出来る。例えば、ポチの『ワンモアチャンス』のクールタイムは24時間だ。俺が死んで『ワンモアチャンス』で復活して、『リバース』を使えばクールタイムも30秒前に戻り、『ワンモアチャンス』が復活する。
まさに道化師系統、最上級職にふさわしいスキルだ。
もちろんデメリットもある。
1つは30秒前の状態に戻ってしまうので、その間の効果が失われてしまうことだ。
例えば、『ハイパワーアップ』で攻撃力アップのバフをかけても、時が巻き戻されることでその効果がなくなってしまう。
また敵にも『リバース』の効果は発揮される。ダメージを与えても『リバース』の範囲内に敵がいれば、時が巻き戻ってしまい、HPが回復してしまう。
あとは『リバース』自体のクールタイムが長いことだ。当然ながら『リバース』を使用して30秒前の状態に戻っても『リバース』のクールタイムは回復されない。
『リバース』のクールタイムは12時間。その間、『リバース』は使用できない。
ゲームであるからこそ、破格の性能にはデメリットが付き物だ。それを差し引いても、俺は『リバース』のポテンシャルを知っている。
『リバース』を手に入れた俺は、レベリングを終了し、ランの家へと戻った。
準備は整いつつある。ドラクロワ達とユキが必要なものを手に入れてくれれば、俺の計画は一気に現実味を増す。
しかし、一つだけ、超えなければならない壁があった。
それをクリアすることで得られる恩恵は莫大だ。だが、失敗すれば俺は死ぬ。
俺の中に迷いが生まれている。リスクに見合うリターンはある。一方でリスクが大きすぎる。ハイリスク、スーパーハイリターンと言った所か。
ランの家に戻った俺は1人で実験を始めた。バクバクの実験だ。俺はバクバクのスキルを使用できる。その効果がどこまで及ぶのかを確かめる。
ゲームではコマンドで指示していたが、現実世界では俺の意思でフレンドリースキルとして使用できる。俺は予約機能を試す。
予約機能とはフレンドリースキルとして、スキルの使用順番を決めることだ。本来スキル使用中はスキルを使用できない。だから、次に使うスキルを先に選んで予約することができる。
スキルが終われば、自動的に予約したスキルが発動されるという形だ。これはその時点では使用できないスキルも予約できる。
クールタイムがあと10秒で回復できるスキルがあった場合、スキルモーションが12秒のスキルの後に、そのスキルを予約すればスキル予約は成功して発動される。
俺は口頭でバクバクに指示をしてみる。すると言葉を理解出来ているのか、言われた通りにスキルを発動してくれた。現実世界ならではの仕様だ。
口頭で細かく指示を出す。このスキルを使ったあとに、5秒待ってから、このスキルを使用するというように指示を出しても、言われた通りに実行してくれた。
『テイム』は基本的にモンスターを指示通りに動かせる。ちなみに、『テイム』はこちらから解除しない限り、切れることはない。例えば俺がHPが0になって、『ワンモアチャンス』で生き返っても『テイム』は継続する。
ここでできる実験はここまでだろう。ガルデニアに戻ったら、続きを行おう。