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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第4章 英雄の決意
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深海より深く



俺は必死に記憶を辿る。前作のレジェンドオブライオネルは間違いなく駄作だった。あまり印象に残っていない。



確かに『龍牙斬』はあった。最後に主人公が覚える最強の必殺技だ。ラスボスでさえ、一撃で倒す威力があった。



とにかくライオネルが強過ぎてスキルはあまり使う必要がなかった。そもそも通常攻撃で一撃で敵を倒せる。回復もほとんどした覚えがない。



魔法もいくつか覚えていたが、全く使った試しがない。魔法を使うより通常攻撃で十分だった。



そういえば、『龍牙斬』のようにイベントで取得するスキルもあった。冒険を時々助けてくれる仮面を付けた謎の魔女のイベントだ。



結局、ゲーム中に魔女の素顔も出てこなかったし、正体も明かされなかった。最後までもやもやしたままだった。



ライオネルはヒロインの女性が死にそうになったとき、魔女に助けを求めた。魔女はヒロインを救うことと引き換えにある契約を持ち出した。



それは自分と同じ存在になること。それがどうゆう意味かはわからない。特にゲームでそれ以上の説明はなかった。



ライオネルはそれを受け入れる。そこで何かのスキルを手に入れたが、名前は忘れてしまった。そして、魔女はヒロインを助けた。



このスキルはゲーム中では使用することができなかった。スキル欄にはあるのだが、選ぶこともできず特に効果がなかった気がする。



駄目だ。結局何の糸口にもならない。そもそもあの歩術と『龍牙斬』だけで手に負えない。俺の『バニシング』でキャンセルできるが、『龍牙斬』のクールタイムより、『バニシング』のクールタイムの方が長い。いずれ使われる。



俺は気持ちを切り替えて、テイムしたバクバクを出現させた。まずは自分の能力の分析からだ。バクバクのスキルを俺は指示して使用させられるし、『イミテート』すれば俺自身が使える。バクバクの溜め込んだスキルは全て把握しておくべきだろう。



『破脚』『インパクト』『五月雨突き』などの使い勝手の良い攻撃スキルが多い。『ミックスブレス』も覚えている。敵が状態異常無効でなければ、『ミックスブレス』一発で勝負が着く。それほどLOLの状態異常は凶悪だ。



とにかく数が多い。かなりの量を捕食したのだろう。敵モンスターのスキルであるから、単純な攻撃系が多い。特殊なものがないかを探す。



『ド根性』を見つけた。これを持っているならあんなに必死に竜から守らなくてもよかったかもしれない。HPが0になった瞬間、HP1で耐えることができるスキルだ。



『落とし穴』を見つけた。これはモグラ型のモンスターが使ってくるスキルだ。固定式の罠を地面に設置することができる。



見た目上、判断することが出来ない。固い岩の上でも設置できる。上に乗ると、地面が沼のようになり吸い込まれる。しばらくの間、移動を封じることができる。



かなり有用なスキルだ。どれだけ素早い相手でも、移動を阻害できる。デメリットは移動ができないだけで、普通に魔法も攻撃も可能だという点か。



『仕返し』もある。これはハリネズミに似たモンスターが使ってくる。『仕返し』発動中に、ダメージを受けるとその分が内部的に蓄積される。最大3発分ためることが出来る。



そして、『仕返し』発動中に攻撃をすると、通常ダメージにその分の蓄積ダメージが上乗せされる。



これはゲームで少し話題になった。名前を忘れたので、ハリネズミ君と呼ぶが、このハリネズミ君が『仕返し』でダメージを蓄積して、『回転体当たり』という複数回ヒットのスキルを使うことがある。



この時に、複数回ヒットの全ての攻撃に『仕返し』の蓄積ダメージが入るため、かなりのダメージ量になるのだ。



ハリネズミ君は弱いモンスターなので、侮っているプレイヤーが、そのレベル帯ではありえないダメージが入り即死するということがよく起こった。



バクバクのスキルでめぼしいのはこんなものか。今後、欲しいスキルがあれば、バクバクを利用して奪うことにしよう。



あとは俺自身の成長だ。早くジョーカーの初期スキルが欲しい。



道化師系最上級職ジョーカー。他の系統とは違い、攻撃系のスキルは覚えないが、特殊な効果が得られるスキルが多い。



その中でも最初に覚えるスキルはLOLの中でも破格の性能を持つ有益なスキルだ。ある意味で、最強の回復スキルと言っても良い。



俺がこの世界に来たときから、いずれこのスキルを手に入れようと考えていた。だから、真っ先に道化師を選んだ。そのためにはレベリングが急務だ。



現状の分析はこんなものか。



俺は星空を見上げる。この世界の夜空は美しい。都会と違い光が少ないからだろう。



俺は黒竜に殺されかけた。ランが来てくれなければ、本当に危なかった。大切な仲間を守るために、力がいる。



この世は強者に溢れている。龍であるランにも勝てないし、ライオネルも勝ち目なんてない。ダンテだってきっと敵わない。



魔王も復活すれば勝てないし、ネロが今まで以上に強くなっていれば勝てない。



奈落や天界に行けば、俺が勝てない奴なんてごろごろいる。天界のゼウスには勝てないし、奈落ではルシファーとかサタンあたりにも無理だろう。



俺はまだまだ弱い。それを認める。自分の弱さを認めることで次に向かえる。



考え続ける。強くなる方法を。俺に残された最強の武器。それはスキルや回避術じゃない。



不可能を可能にする、英雄としてのメンタル。



弱いなら強くなれば良い。単純なことだ。それを出来ないと諦める者が多い。



俺は諦められない。仲間を守る。その思いは英雄としての俺を覚醒させる。

















俺は更に集中を深める。見えない道を探すために。



音が完全に消える。世界が真っ暗になる。時が止まる。



俺はライオネルを意識する。最強の英雄。勝てないように作られた存在。



それはゲームでは倒せる存在ではない。しかし、現実になった今なら、ゲームではできないことが出来る。



俺はその道を模索する。無限に思える選択肢が広がっていく。



まだ足りない。もっと、もっと深く潜る。今まで自分がたどり着いたことのない場所へ向かう。



思考の海の底にたどり着く。しかし、俺はその海底を掘る。更に先にまだ宝があると信じている。



ここより先には進めない。それでも、俺はその海底を掘り続けた。もっと深く。深海よりも深く。



不可能という壁を崩すには、執念がいる。他の者から見たら、それは狂気に見えるかもしれない。だから、俺は現実世界で周りから浮いていた。



でも、そのおかげで俺はいくつもの不可能を超えてきた。



ついにその時が来た。諦めずに掘り進めた先にから、膨大な情報が溢れ出す。自分の限界を超えた。その波に俺は飲まれないように、必死に情報を整理し分析する。



「見つけた……」



とんでもない発想が生まれる。その可能性は確かに存在していた。普通ならば誰にも見つけられない。



あり得ない発想だった。しかし、もしそれが可能であれば、多くの不可能を覆す。



一度、気づいたことで、そのシミュレーションが次々と派生していく。1つ1つの要素が繋がり、巨大な効果を生む。



自分でも信じられない。こんなことが可能なのか。同時に思いついた案への反論が大量に生み出される。それを同時進行で、解決策を提示していく。



今まで持ったことのない高揚感と万能感。頭が信じられないほど冴えていく。



無数の不可能が、次々とクリアされていく。俺のアイデアの源泉は止まることを知らない。



見えた。



俺は複雑なシミュレーションの末に、その道を見つける。光り輝く栄光への道(デイロード)



あのドラゴンスレイヤーすら凌駕する、英雄の思考。



英雄として、この瞬間、俺は人生の中で最も集中しているのが分かる。そして、この状態であるからこそ、俺は何か大切なことを忘れていることに気づく。



忘れているから、それは俺の記憶にない。しかし、確かに俺は何かを忘れている。



今なら、それを思い出せるかもしれない。本当は忘れてはいけない、大切な記憶を。

















「レンちゃん、ねむれないの?」



俺に声がかけられた。深い思考の海から、一気に現実世界に引き上げられる。



ランが後ろから声をかけてきた。



俺は自分が息切れをしていることに気づいた。汗をかいていて、体温がかなり高い。脳が高速に回転していたため、身体への影響が出ている。



予想以上に身体への負荷が激しい。俺は息を整えてから、返答する。



「ああ、ちょっと考え事をしてた、ランは寝ないのか?」



「龍は元々眠りが浅いからね、ランはねぼすけな方だけど」



ランは俺の横に頭を下ろした。



「リンちゃんがごめんね、悪気はないんだよ」



「分かっているさ、リンは何も悪くない」



「ランはね、レンちゃんに賛成なの、お父さんとお母さんがいなくなったのはショックだったけど、リンちゃんが元気でいてくれるのが1番いい」



「大丈夫だよ、リンは賢いから、きっと無謀なことはしない、彼女は……もう英雄だからな」



「えいゆー?」



「ああ、無理に思えることを諦めずに考え、実行して、不可能を超える存在のことだよ」



「リンちゃんってすごいんだね」



リンは唯一NPCの中で、英雄になれる人物だ。それは才能と言って良い。



「ラン、明日ちょっとレベリングに手伝ってくれないか?」



「いいよ! れべりんぐが何かわかんないけど!」



俺はまだ迷っている。まだ可能性の段階の細い道ではあるが、栄光への道(デイロード)は見つけた。



だが、それを選ぶことがリンにとっての最善なのだろうか。ライオネルがいるから、ガルデニアの人々はドラゴンからの襲撃を怯えずに生きている。



ライオネルは極端な人間ではあるが、悪ではない。彼は彼自身の正義を貫こうとしている。



もし俺の手でリンの復讐を完遂させたら、その結果、誰が幸せになるのだろうか。



つくづく思う。この世には正解がないことが多すぎる。



俺は答えを出すことが出来なかった。





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