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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第4章 英雄の決意
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喧嘩




リンと本気で喧嘩をするのは初めてかもしれない。俺は基本的に人との衝突は避けて生きている。でも、ここは引けない。



ステータスとしてはリンの方が高い。大器晩成型キャラの最高レベル300オーバーだ。俺は負けている。しかし、勝敗はステータスで決まるのではない。



俺はリンの動きに慣れている。彼女には癖がある。俺ならどれだけ速くても動きが読める。俺はリンの攻撃を回避して、カウンターを決めようと準備する。



リンが動き出す。右方向に沈み込むようなステップ。最初の一歩で一気に距離を埋める。



これはリンが無意識によくする接近方法だ。沈み込みを深くすることで、前傾になり加速する。



俺は冷静に一歩後退して、攻撃を見極めようとする。リンはエクスカリボーを腰に構えた。



「なっ!」



リンが急に俺の顔に向けて、石を投げてきた。斬撃のフェイントを入れての投石だ。彼女は『雷光突き』を空中で行うために、石を常備している。それを攻撃に使ってきた。



石により視界が塞がれ、一瞬リンの姿を捉えられなくなる。その瞬間、リンの動きに変化があった。先程までのリンの癖、いつも通りの動きとは明らかに違う。



俺は石を回避する。しかし、そのせいで身体のバランスが崩れる。リンが俺の崩れた重心とは逆側に姿を見せる。



上手い。俺に一撃を入れるために必死に考えたのだろう。この動きは計算されている。間違いなく英雄の戦い方だ。



だから、俺は分からせてあげないといけない。



彼女はもう俺を超えられると言った。それが間違いだったと。



リンはまだ、この領域に足を踏み入れたばかりだ。入り口にいるに過ぎない。



俺は完全に体勢を崩している。両足の踏ん張りは効かない。次のリンの一撃をかわしても、その追撃はかわせない。そのあたりはリンには教え込んでいる。リンは俺が回避できる前提で次の攻撃パターンを構築するはず。



だから、俺は回避をしない。



俺は倒れ込むように斜めになる。リンが向かってくる。リンは警戒している。俺ならばバランスを崩して倒れずに回避をすると思っていたのだろう。リンが俺の予想を裏切ったように、俺もリンの予想を裏切ろう。



間合いに入ったリンはエクスカリボーを振り抜こうとする。しかし、それは出来ない。



エクスカリボーが()()()()()



俺が倒れながら足をリンの肩関節に触れさせている。それが邪魔でエクスカリボーを振れない。



俺は地面に背中が着く寸前に、右肘で地面を押し、その反動で一気に身体を起こす。



同時にリンの肩に当てた足に力を入れ、リンの身体を足で押す。リンはそれを逃れるために回転をして、俺の足を外して追撃しようとする。



回転した遠心力を乗せて、俺にエクスカリボーを叩き込もうとする。しかし、その回転は止まる。俺が起き上がりながらリンの肩を押さえたからだ。



リンは咄嗟に判断を変え、後ろ蹴りで俺と距離を取ろうとする。しかし、俺は正宗の鞘でリンの腰を押さえている。それが突っ掛かり、リンは蹴りを繰り出せない。



俺は何も出来ないリンに正宗を突きつけた。



「俺の勝ちだな」



今のはモーションキャンセルという技だ。基本的に攻撃モーションはダメージを与えることでキャンセルできる。しかし、ダメージを与えなくても、モーションの範囲に阻害するものがあれば、キャンセルされる。



たとえば、狭いところで大剣を振るのがわかりやすいだろう。攻撃モーションをしても、大剣が壁にぶつかってキャンセルされ、最後まで振り抜くことができない。



スキルのモーションは無理矢理に体が動くためモーションキャンセルはできないが、通常攻撃なら可能だ。そうはいってもかなりの高等テクニックで、偶然発生する場合がほとんどで、狙ってできる人はほぼいない。俺はそれを狙ってキャンセルを起こすことができる。



特に人型の場合、モーションキャンセルはしやすい。俺はゲームでひたすらシャドウアサシン相手に、モーションキャンセルし続けて練習をした。



今はどこに手や足を当てれば、モーションがキャンセルできるか感覚的に分かる。



これも英雄の回避術の1つだ。相手に攻撃をさせないことで、攻撃を回避する。



リンは身体の力を抜いた。俺に顔を見せないまま、離れていく。



「私は……少し休む」



今どんな顔をしているのか分からない。俺はリンにどんな言葉をかければ良いか分からなかった。










その後、それぞれ休むことにした。リンとランは洞窟の奥で一緒に寝ている。あの後、2人にどんな会話があったのかは知らない。



何が正解なのだろうか。リンがライオネルに自分で向おうとすれば、俺は全力で止める。リンに憎まれようが、彼女の命の方が大切だ。



俺は眠れずに起き上がり、洞窟の入り口に向かう。ランの結界が張ってあるギリギリで腰を下ろす。



星空が良く見える。俺はよくこうやって考え事をする。この時間は俺にとって貴重なものだ。



リンにどう接するかも悩みではあるが、今は違う。



俺は自然とライオネルをどう倒すかを考えていた。戦う気なんて更々ない。リンの復讐に加担もしない。しかし、LOLプレイヤーとして、英雄としてそのシミュレーションは考えずにいられない。



それに目的である力のルビーを手に入れる上で、ライオネルの対抗策は考えておいた方が良い。



ゲームではガルドラ山脈でライオネルに遭遇し、そして、確定負けイベントが起こる。ライオネルに負けた後、この先に進むことは許されない。命は助けてやるから引き返せという展開になる。



それでも忠告を無視してガルドラ火山に入ることで、ライオネルとの鬼ごっことなる。見つかったら戦闘になり、今度こそ殺される。



ガルドラ火山には監視用の魔道具があり、それによって侵入が露呈してしまう。ゲームではこれは回避不可能で、ガルドラ火山でライオネルに見つからないように進むステルスミッションとなっていた。



ゲーム時代のことを思い起こす。俺はドラゴンスレイヤーと何度も戦ったことがある。そして、何千回も負けた。



一応、善戦っぽいことは出来る。ライオネルの幻影を纏うような歩術は回避が困難ではあるが、それでもゲームのキャラだ。モーションには明確なアルゴリズムがある。



だから、最後の方はライオネルの攻撃を辛うじて回避を続けられるようになっていた。あくまで辛うじてなので、継続的に回避を続けることはできない。



問題は『龍牙斬』だ。あのスキルを防ぐ手立てがない。一度発動すれば、スーパーアーマー状態でキャンセル出来ない。更に風が吹き込むせいで、吸い込まれてしまう。



もちろん、何かにつかまってその場で耐えることはできた。それでも『龍牙斬』は攻撃範囲が広く、巻き込まれて即死する。



一方でライオネルは防御力は意外に低い。魔法なども無効はないのでダメージは与えられる。



一見、防御面ではそこまで強くないように思える。しかし、それは間違いだ。ライオネルは無尽蔵のHPを持っている。



回復など一切せず、どれだけダメージを与えても終わりがない。そのため、ネロの『アナライズ』を使用することもできず、ステータスは不明だ。どんなプレイヤーも半分までHPを削ったことがない。



そもそも確定負けイベントの相手なので、最大HPというものを設定していない説もある。またはゲームで設定できるカンストまで高めているかだ。



どんな魔法やスキルを持っているかも分からない。そのスキルに無限に生きる秘密が隠されている可能性がある。それはLOLの作成スタッフしか知る術がない。



いや、違うか。俺はあることに気づいた。



ゲームでは、同じくライオネル戦に挑んでいた英雄達の動画の研究をした。それでステータスとスキルは予測ができた。



攻撃力や素早さや防御力は逆算して求められる。最大HPはあまりに高すぎて判明していない。そして、使ってくるスキルは『龍牙斬』のみだ。



あの時は、それがデータの全てだと考えていた。時間が経ち過ぎて忘れていた。いや、別にその情報は必要ないと無意識に考えていたのかもしれない。



現実になった今は違う。そこに糸口があるかもしれない。



()()()()()()()()()()()()()()()



つまり前作をプレイしていれば、主人公のステータスやスキルが把握できる。




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