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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第4章 英雄の決意
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白き龍



黒竜2体を相手にするという絶望の淵で、俺は信じられないものを見た。



目の前で一体の黒竜が青い粒子に変わった。



それは突然現れた。そして、一撃で黒竜を倒した。



その存在は神々しく淡い光を放っている。美しい光沢を持った鱗が煌めく。



それは虫を払うように、右手を振った。その爪がもう一体の黒竜に触れ、一撃で青い粒子に変える。今の攻撃、俺でも回避できない。



ゲームでも見たことがない生物。黒竜が圧倒的に弱く見える。



見た目はドラゴンに似ている。しかし、明らかに異質だった。気配が段違いだ。俺はその生物を感覚で理解した。



これは龍だ。竜ではなく龍。ライオネルが滅ぼした絶滅した最強生物。



白く輝く美しい龍だった。



俺は逃げることもできなかった。それがどれだけ無駄なことか理解できた。あの速さに攻撃力。俺の小細工が通用する次元じゃない。



龍は静かに俺に近づく。



リンが俺を守るように、前に入ってきた。俺は動けない。リンを守らないと行けないのに、身体が自由に動かない。



龍とリンが見つめ合う。このままではリンが殺される。俺は硬直する身体に鞭を打ち、無理矢理に動かす。



勝てないのは分かっている。一瞬で殺される。それでも俺は仲間を守りたいと思った。黒竜2体の方がまだマシだと思えるほどの相手だ。



龍は小さく息を吸い込んだ。ブレスが吐き出されると俺は気づく。もう俺にはどうしようもない。




























「リンちゃん、久しぶりー! 会いにきてくれたの!」











吐き出されたのはブレスではなく、場違いな声だった。



俺は耳を疑う。死の間際での幻聴だろうか。



「久しぶりね、随分立派になって」



「リンちゃんは、小さくなったね!」



リンと龍が友達のように話している。俺は意味が分からず、混乱している。



「あ! もしかして怖がらせちゃった? 私って、最近風格出てきたんだよね! 何か黙って怖い顔を作ってると強く見えるの」



「ええ、とても強くなってる」



「えへへ! リンちゃんに褒められちゃった」



「あ、あの……リン、こちらの方は?」



俺はビビリながら尋ねる。



「この子はラン、私の妹」



「ランです! リンちゃんがいつもお世話になってます!」



予想を超える返答に俺は呆けてしまう。すぐに我に帰って確認する。



「えっと、とりあえず戦わなくていいってことだよな?」



ランと呼ばれた龍が答える。



「喧嘩とか、よくないと思う!」



「ランをいじめたら、レンでも許さないからね」



何か話が噛み合わない。ランと呼ばれる龍の方が俺なんかより圧倒的強者なのだが。



「とりあえず、ここだと他の子達がうるさいから、おうちきて!」



ランはそう言って、道案内を始める。道中、獰猛なドラゴン達があからさまに逃げていく。もはや本能で敵わないと分かっているのだろう。



俺とリン、フレイヤ、そして、救出した2人はランの後を着いていく。ここが今この山脈で1番な安全地帯だ。



何が起こったのかはよく分からないが、俺は命拾いしたらしい。あの龍が現れてなかったら、俺は死んでいた。改めてこの世界の難度を自覚した。



冒険者の2人にお礼を言われる。戦士のイバンに、治癒師のリーマンだ。2人は旅の途中らしく、ガルデニアには初めて立ち寄ったらしい。だから、腕に自信があって依頼を引き受けたがガルドラ山脈のモンスターがこんなにも強いとは思っていなかったようだ。



俺は逆にお礼を言う。フレイヤの頼みを受け入れてくれたのだ。もし彼らがいなければ、フレイヤが死んでいた可能性もある。



「いや、逆だよ、俺たちがドラゴンに襲われてる時にフレイヤは爆裂魔法でドラゴンの注意を引いて、俺たちを助けてくれたんだ、自分を囮にしてな」



イバンが頭をかきながら言う。フレイヤは咄嗟の時に、人を守る行動が取れる冒険者なのだろう。



リンは先頭で、ランと仲良く話を弾ませている。リンがあんなにも楽しそうにおしゃべりしているのを見るのは初めてだった。年相応の少女に見える。



フレイヤが俺に寄ってくる。



「レン!」



「ん? どうした?」



「ありがとう、助けに来てくれて、ほんとに嬉しかったぞ」



「まあ、見知った間柄だしな」



「私は勝手に付いてきた、だから、助けになんてこないと思ってた」



「言っただろ? フレイヤは俺達の旅についてくるのはキツイって、理由はそれだけだから、危機に陥ってたら何度だって助けるよ」



フレイヤの表情がどこか赤いように思える。



「改めてお願いしたい! 私はレンのパーティに入りたい! 指示だってちゃんと守るし、足手纏いにならないように死ぬ気で強くなるから!」



俺は少し考える。確かにレベリングをして300オーバーにすれば、フレイヤは戦力になる。ステータスもかなり高い方だ。



ゲームではAIが賢くなかったので、爆裂魔法を連発して、フレンドリーファイア、つまり味方がダメージを受けまくる事態になったので、不人気だった。しかし、今のフレイヤはその心配がない。



爆裂魔法の暴発も、ヘルマンの作ってくれたタメコミベアで解決されている。



ただやはり気が引ける。フレイヤはゲームの設定で俺を好きになっている。見た目で言えば、いずれ俺のハーレム計画に必要な人員だが、何となくフェアじゃない気がする。



「どうして俺達についてきたいんだ?」



試すようで申し訳ないが、ここで俺が好きだからなんて答えられたら、やっぱり断るべきだ。そんな理由で俺の危険な旅に同行はさせられない。



フレイヤは真っ直ぐに俺の目を見る。そして、間をおかずに、当たり前のように答えた。



「だって、居心地がいいからな」



居心地が良い。そんなことに命をかける価値があるのだろうか。俺はそう考えたが、自分も同じだと思った。



今の仲間達と一緒にいるのは居心地が良い。一緒に酒場でお酒を飲むのも好きだ。信頼し合っている。



その場所を守るために、命をかける。それは俺がいつもしていることだった。



「私はもちろん強くなる、でも、レンはきっと強さだけでパーティに加えないだろ? 私は約束できるぞ、仲間を守るためなら、どんな強敵にだって立ち向かって、爆発させてやる」



いくら強くても、プロメテウスなどは絶対に仲間にしない。ゲームでは強さ、効率だけを追い求めるのが正しいパーティ編成だった。でも現実は違う。お互いが命をかけてでも守りたいと思える。それが仲間だ。



フレイヤを見る。彼女は俺たちがガルドラ山脈から帰ってこないとき、危険を承知で助けに向かった。それは俺達がフレイヤを助けに行ったのと同じ気持ちだ。



俺の返答は決まった。



「断って、またこっそり着いてこられたら困るからな、それなら一緒にいた方がいい」



フレイヤは満面の笑みで嬉しそうに笑う。



「やった! それでこそ、私の恋人だ! 大好きだぞ!」



「だから、それは……」



思わず照れてしまいそうになるが、これはゲームの設定だ。彼女の本当の気持ちではない。それを上手く伝えることができない。



「私がレンを本当に好きになったのは、ついさっきだ! これは本物の私の気持ち」



「……」



どうゆう意味かよく分からない。フレイヤはゲームの設定により、好意を抱かされていることに、自分で気づいていたのか。そして、ついさっき好きになったってことは……どうゆうことだ。



フレイヤが俺の腕を掴む。ストレートな好意に慣れていないので、どう反応していいのかわからない。



「あ! リンちゃんの彼氏がうわきしてる! うわきって知ってる? 他の子にでれでれすることだよ!」



「レンはいつもデレデレするから珍しいことじゃない、あと彼氏じゃないから、レンは私の師匠にあたる人」



「そっか! ししょーね! それで、ししょーって何?」



少しはリンが嫉妬してくれるのかと期待したが、現実は漫画のようには行かないらしい。



俺達はそのまま歩き、大きな岩壁に行き着いた。



「ここ、おうち」



ランが岩肌に向かっていく。ぶつかる瞬間、岩が透き通り、身体が中に入っていく。



「こんなことが……」



冒険者達はその光景に驚いていた。俺達もあとに続く。見た目は岩なのだが、手で触れるとすり抜けることができた。



岩の向こう側は大きな洞窟だった。光る水晶が壁にあって、青く輝いている。



奥が一気に広くなり、ランの身体でも十分過ぎるほどの空間があった。



「ここがランのおうち、今日は泊まっていってね」



その神秘的な光景に、俺達は息を飲んだ。




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