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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第1章 英雄の目覚め
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反撃



俺はエルザの『剣嵐』をゲーム時代に何回も回避してきた。このスキル、製作者の考えを疑うが敵味方関係なくダメージを与える。



LOLでは基本的にフレンドリーファイア、つまり味方からの攻撃でダメージを受ける。



これはダメージで眠りを覚ましたり、強制スタンを解除するためでもある。またゾンビ化や狂乱などの状態異常魔法をあえて味方にかけることもある。



しかし、物理的に回避が困難な広域範囲魔法やスキルは味方がダメージを受けない仕様になっている。



そうでなければ、殺戮兵器アドマイアなどが一度戦えば、仲間共々毎回全滅してしまう。



しかし、なぜかエルザの剣嵐は広域範囲スキルなのに味方がダメージを受ける特別仕様だった。



仲間にしてしまうと地獄だった。戦闘中、常にエルザの挙動を監視し、『剣嵐』のモーションをとった瞬間に空中に退避しなければならない。



もちろん他の仲間にエルザの『剣嵐』を避けることは出来ないから、基本的にエルザ以外の仲間はあっさり死ぬ。



一瞬の油断が命取りのボス戦で常にエルザを意識しながら戦うのは歴戦の英雄でも困難だった。



そのこともあり、エルザは不名誉なランキングで不動の一位を獲得している。



仲間にしてはいけないランキング第1位。



AIがお馬鹿ランキング第1位。



フレンドリーファイアランキング第1位。



ゲームクリア不可能ランキング第1位。



ギャップ萌えランキング第1位。



このように凄まじい称号を得ている。しかし、使い方を間違えなければ戦闘に関して役に立つ。



他の仲間はいても斬られるだけだから、エルザのみをパーティに加える。そして、通常戦闘では取り敢えず『剣嵐』を回避して、敵を駆逐する。



ボス戦ではエルザに先行させ、『剣嵐』の効果範囲外でエルザが力尽きるのを待つ。ボスにダメージを稼いでエルザが力尽きてからソロで戦うという手法だ。チームプレイとは何なのかよく分からない。



このように使い方を間違えなければ、エルザは頼れる仲間だ。しかし、エルザがこれらのランキングで不動の一位に君臨する理由はほかにある。



エルザの固有のイベントは頭がおかしい難易度なのだ。LOLの標準が無理ゲーなのに、それを超えた無理ゲーだった。それなのに、仲間にすることでの強制フラグもある。



強制的にイベントに突入して、しかもそのイベントをクリアしないとゲームクリアが不可能になる。エルザを仲間にしたことによってゲームをリセットして初めからになったプレイヤーは数知れない。



俺もその一人だった。英雄として不可能を可能にする自信があり、エルザを仲間にしたが挫折した。プライドがズタボロにされた。



俺は結局、ゲームでエルザの固有イベントをクリアしなかった。現実になった今、仲間にしてはいけないキャラの筆頭がエルザだ。




だから、エルザはゲームクリア不可能ランキングで第1位を獲得している。



エルザは動きを止めて、俺を見た。その目には驚きと興味が滲んでいた。



「貴殿は何者だ? 私の攻撃をここまで完璧に避けた人に会ったことがない」



まあそれはそうだろう。英雄以外にあの猛攻を回避することはできない。



「えーと、ただの旅人です」



エルザは俺の返答に苛立ちを見せた。



「ふざけなるな、まあ良い、貴殿の力、見極めさせてもらう」



再び剣を構える。俺もそろそろ攻撃に出ることにした。避けてばかりではこのイベントを終えられない。



「いいだろう、俺の本気を見せてやる」



俺は精一杯かっこつける。エルザは凄まじい集中力で警戒に入った。俺は先手必勝とスキルを発動した。



『金ダライ』



頭上に現れたタライにエルザはすぐに気づく。そして、『天歩』で回避しようとした。



「無駄だよ」



エルザが数メートル離れた位置に瞬間移動したが、同じく瞬間移動していたタライが大袈裟な音を立てて直撃した。



「きゃああ!」



少女のような悲鳴が聞こえた。俺は容赦なく追撃に入る。エルザはすぐに我に返り、行動しようとした。



「なっ、動けない」



そう、『金ダライ』の強制スタンだ。数秒行動が出来なくなる。



俺は剣を握り、エルザに振りかぶる。



『ドッペル』



俺の身体がぶれ、左右に分身する。同じ行動しか取れないが、これで攻撃力が倍になる。



『捨て身斬り』



さらにHPを犠牲にダメージ量を増強する。ドッペルと合わせて4倍だ。



攻撃がエルザに直撃し、吹き飛ぶ。防御力を貫通にダメージが入る。エルザはすぐに体勢を立て直して、再び俺に斬りかかる。



俺は完璧な予測でそれを回避し、クールタイムが終わった『金ダライ』を発動する。もちろん避けるのは不可能であり、再び『ドッペル』と『捨て身斬り』のコンボを放つ。今回はダメージを食らっているので、『狂戦士の怒り』で更に攻撃力が上がっている。



このコンボはゲーム時代の俺の黄金コンボだ。本来攻撃力増強などのステータスアップは重ねがけできない。



しかし、補正がかかる場所が違えば重複できる。『狂戦士の怒り』は攻撃力増強、『捨て身斬り』はダメージ量増加、さらに『ドッペル』はそもそも補正ではなく、分身するだけだ。



本来なら素早さが非常に高いエルザに攻撃を当てること自体が難しいが、それは『金ダライ』でカバーできる。防御力さえ上回ることができれば時間はかかるが確実にHPを削れる。



俺は減ったHPを死なない程度に計算してポーションで回復させながら、このコンボを続ける。途中からエルザが涙目になっているが気にしない。



2時間が経過し、エルザはもう反抗の意思もなくして、泣いていた。まるでイジメみたいだ。



「もうやだぁぁ、お家帰るぅ!」



エルザは涙目になって、全力の『天歩』で逃げていった。



このエルザ戦はイベントでHPをある程度減らせば、自動的にエルザが逃げて行き、終了するようになっている。



あくまでイベントの強制力であり、俺がいじめたからではないはずだ。



これで今回最大の難所、戦姫エルザを撃退することができた。








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