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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第4章 英雄の決意
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私の居場所



私はある日、運命の人と出会った。



その人を見た瞬間、私の意思を超えて彼を好きになった。不思議な感覚だった。この人と一緒にいたいと、強く思った。



レンは私の爆裂魔法を打ち消してくれた。一緒にいたヘルマンが私の暴発を防ぐアイテムを作ってくれた。そして、研究施設で私の力を求めてくれた。



私は初めて自分の居場所を見つけたと思った。もうひとりぼっちじゃなくなった。とても暖かく居心地の良い場所だ。



レンは不思議な人だった。平凡そうに見えて、スイッチが入ると別人のようになる。この人についていけば、全てが上手く行く。そんな気がした。



だけど、私はまた捨てられた。レンに冒険についてこないように言われた。私はやっと見つけた自分の居場所を失いたくなかった。



でも、レンは今までの人たちとは違うことに気づいた。無言でいなくなり、帰って来なかった冒険者達とは違う。この人は私の身を案じている。危険な旅に、私が死んでしまうことを恐れている。



強い言葉を選んでいるが、私にはレンの気持ちが伝わっていた。



それが余計に悔しかった。私はまだ実力が足りていない。強くなったつもりでいた。でもレン達には敵わない。



私は酒場でやけ酒をした。レン達の強さはこの目で見た。あんなに強い人たちは初めて見た。どんな冒険者パーティより強いと思う。



あのレベルに追いつくには、私ではこれから何年もかかる。何年かかっても辿り着けないかもしれない。それだけの差があった。



一緒にいた顔見知りが偶然酒場に居合わせて、話を聞いてくれた。木こりのトムの下で働いている男だ。私が冒険者として依頼を受けたときに良くしてくれた。私が魔法使いということで、魔力が少し上がる腕輪をくれたこともあった。



話を聞いてもらうと、気持ちが少し楽になった。そこで、彼はある作戦を思いついてくれた。物資に紛れて飛空艇に乗り込むことだ。



研究施設で、私の爆裂魔法は役に立った。きっとこれからも役に立つ時がある。そう言ってくれた。レン達のピンチに颯爽と現れる私の姿を思い描いていた。



だから、私は彼の考えた作戦を実行した。



途中、ポチに見つかったときは焦ったが、しぃーって合図すると素直に聞いてくれた。危うく凍りつけにされるところだった。



そして、ガルデニアにやってきた。



私はバレないように注意しながら、レン達の動きを追っていた。いつ合流すれば良いか、タイミングが中々掴めずにいた。きっとバレたら怒られる。そんな中、レン達はガルドラ山脈に旅立った。



私はついていくわけにもいかず、ガルデニアで彼等の帰りを待っていた。



しかし、いつになっても帰ってこない。日が沈み、夜になった。ガルドラ山脈で野営なんて自殺行為だと聞いた。何かあったのかもしれない。



私が助けにいかなければ、レンを失ってしまうかもしれない。やっと見つけた居場所がなくなってしまう。また、ひとりぼっちになってしまう。



私はその心配と恐怖に突き動かされ、ガルデニアにいた腕利きの冒険者を集めた。



危険は十分に承知している。準備は入念に行った。レンを救う。そんな使命感を持っていた。



そして、命を救った私にレンが感謝して、ぜひ仲間になってほしいとお願いされる。そんな甘い妄想を心のどこかで抱いていた。



現実はそんな甘いものじゃなかった。



山に入り、程なくして私たちはドラゴンに見つかって襲われた。腕利きと評判の冒険者達も散り散りになった。生きているのかも分からない。



私も必死で逃げた。ドラゴンのあまりの強さに恐怖しかなかった。私の爆裂魔法は、ドラゴンに全く効かなかった。



逃げ惑い、何度も死にそうになりながら、岩の裂け目に逃げ込んだ。



ドラゴンに気づかれないように息を潜めた。自分の愚かさを呪った。レン達を助けるなんて、そんな実力は私にはなかった。結局、私は自分の命すら守れない。



ドラゴンが岩の裂け目にいる私に気づいた。爪で攻撃をしてくるが、狭いためドラゴンの大きな手では入らない。



何度か爪を入れようとしたが、奥にいる私には届かなかった。このまま諦めてくれないかと願った。



そんな願いは叶わない。ドラゴンは口内にブレスの炎を溜め込んだ。岩の裂け目にいる私は回避なんてできない。ブレスを浴びれば、問答無用で死ぬだろう。



これが私の最後だと分かった。私は死ぬ時も独りだった。自分の居場所は結局どこにもなかった。



いつも強い冒険者としての自分を演じているが、こうゆうときに貧困街の少女が顔を出す。誰もいない寒い夜に震えながら蹲っていた何もできない女の子。



「……ひとりぼっちは……いやなんだ」



泣きながら声を出した。ドラゴンは今にもブレスを吐き出そうとしている。



「助けてよ……王子様」


































凄まじい音がした。ブレスを吐く瞬間に、ドラゴンの頭は頭上から地面に叩きつけられた。その威力に地面がひび割れ、砂埃が巻き起こる。



きっと私はこの光景を二度と忘れることができない。



2本の刀を竜の頭に打ちつけている姿は、お伽話の英雄のようだった。



私にも来てくれた。私の王子様が。



別の気持ちが、私の中で湧き上がる。今までは何か大きな力によって、レンのことが好きと感じていた。私はそれを運命などと思ったが、多分違う。



それは私の本当の気持ちじゃなかった。誰かに造られた偽りの気持ちだった。今ならそれが分かる。



レンはきっとそのことに気づいていた。だから、私の気持ちに応えないようにしていた。



でも、今、この瞬間、私は自分の意思でレンのことを好きになった。霞がかかるぼやけた気持ちが鮮明になっていく。これは私の本当の気持ちだった。



「良かった、まだ無事だったか」



ああ、この人は本当に。私の心に入り込んでくる。



私は決めた。この人についていこうと。恋が叶うかはわからない。これだけカッコいい人だ。きっと他の女にもモテるだろう。



レンのことを自分の意思で好きになって気がついた。あの白い少女、ユキもレンのことが好きなのだろう。だから、私は良く思われていなかった。



それでも遠慮するつもりはない。ここが私のたどり着いた居場所だ。ユキとはライバルになれるだろうし、他の仲間達とも仲良くなりたい。



そして、命を救ってもらったこの恩を返す。足手纏いにならない。もっと私は強くなる。自分を守れるように。皆を守れるように。



もうここに貧困街の少女はいなかった。



彼女はやっと自分の居場所を見つけられた。





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