空襲
俺は緑色の光を発している飛空艇に駆け込む。既に離陸準備はできていた。
「出してくれ」
「了解した」
ギルバートが飛空艇を起動する。俺以外にギルバートも操縦方法を覚えている。
1秒でも速く駆けつけるため、今回は飛空艇を使う。これにはかなりのリスクがある。
ガルドラ山脈に飛空艇で近づけば、大量のドラゴンに狙われることになる。ゲームではなす術なく、墜落させられる。
この飛空艇には武器なども搭載されていないから、攻撃手段も防御手段もない。ドラゴンに襲われれば逃げるしかない。
危険は承知だ。プロメテウスが見つけたレーダーの地点は空から俯瞰したら、場所を割り出せる。陸路でその地点に行き着くのはかなり難しい。バクバクの時も随分と苦労をした。
飛空艇が上昇し、動き出す。俺たちが苦労して歩いた距離を一瞬で移動していく。
「できるだけ、高度を上げてくれ!」
「了解」
飛空艇が夜空に上がる。ガルデニアの街が小さく見える。
十分な高度まで上がったところで、俺はハッチを開ける。気圧の差により、凄まじい風が吹き出す。風が落ち着いたところで下を見下ろし、レーダーの地図と比較する。
特徴のある山を一致させ、プロメテウスから教えてもらったポイントを割り出す。俺は目視でその地点を確認した。
ドラゴンの声が聞こえる。複数のドラゴンが飛空艇を見て、向かってきている。
「おい! こんなにドラゴンいるんじゃ、まともに着陸出来ねぇぞ」
ドラクロワの指摘は正しい。このドラゴンの群れの中で、着陸なんてできるわけがない。
「俺が飛ぶ」
元々着陸なんてするつもりはない。人生初のスカイダイビングだ。それも凶暴なドラゴンのいる空をダイビングする。
「馬鹿か! 無謀すぎるだろ、噛み殺されるぜ」
ドラクロワが柄にもなく、冷静な判断をしている。
「ユキに遠距離攻撃で、できる限りドラゴンのヘイトを集めてもらう、ユキできるか?」
「ええ、もちろん」
ユキの魔法でドラゴンの敵意を全て飛空艇に集める。もちろん飛空艇を襲うドラゴンの量は増えるだろう。
「ギルバートはギリギリのタイミングでドラゴン達から逃げ出してくれ、その際にガルデニアには絶対近づくな、ライオネルに俺たちごと斬られるかもしれない」
ガルデニアに近づくドラゴンは問答無用でライオネルに殺される。もしドラゴンを連れて来た元凶だと思われたら、俺たちも殺されるだろう。
「レン、私も行くべきね」
リンが自ら言う。俺もそう思っていた。俺と一緒に空から飛び降りるのはリンが適任だ。
「ああ、一緒に行こう」
落下ダメージは無属性攻撃と同じで、物理ダメージ無効でもダメージ受ける。落下ダメージを消す『エアリアル』はリン1人であれば、手を繋いで効果を発揮できる。
ドラゴンと戦闘になる場合、最大HPが高いドラクロワやポチでも殺される可能性がある。物理ダメージ無効のユキなら大丈夫だが、今回ユキはドラゴン達のヘイトを飛空艇に集めるという役目がある。
もちろんリンもドラゴンの攻撃で一撃で死ぬが、彼女には回避術がある。それに『極根性』もあるので、死ぬ可能性が最も低い。俺と一緒に行くのはリンしかいない。
そろそろ時間だ。俺は下を見下ろす。スカイダイビングなんて、現実では絶対にしたくない。だが、今は恐怖なんてなかった。仲間を助けるためなら、俺はこの空を飛ぼう。
リンと手を繋ぐ。顔を見合わせて頷く。
「行ってくる!」
2人で走り出し、飛び降りた。身体に凄まじい風を受け、落下していく。風の音で、他の音が全く聞こえない。
無数のドラゴン達が見える。俺たちを追い抜くように無数の氷柱がドラゴン達に降り注ぐ。
先頭のドラゴンが俺達を無視して、通り過ぎていく。そこから何体も俺たちを無視して飛空艇に向かっていく。
しかし、一体が俺たちに向けてブレスのモーションに入った。
俺はモーションから軌道を予測する。リンと一緒に回避は出来ない。
俺とリンは同時に手を離した。リンもそれが最適だと判断した。2人でお互いの身体を思い切り押して離れる。俺たちの間を灼熱のブレスが通っていく。
間一髪避けたが、そのドラゴンは口を開け、俺に向かってくる。空中ではドラゴンのように移動なんてできない。回避のしようがない。ドラゴンの口が俺に迫る。
『イリュージョン』
仕方なく、『イリュージョン』で瞬間移動する。リンと距離が離れてしまった。
俺たちを襲ったドラゴンはユキの魔法が当たり、ターゲットを飛空艇に変えた。もともとゲームでも、飛空艇が近づいたらドラゴン達が襲ってくる。イベントとしての強制力も多少効いているのだろう。
早くリンと合流しなければ、リンが落下ダメージを受けてしまう。しかし、この距離はもう埋められない。
俺とリンは目を合わせた。リンが何かを伝えようとしている。エクスカリボーを抜いた。
俺はその動作だけで自分がすべきことを理解する。
心地よさを感じる。同時に自分と同じ次元で思考できる仲間がいる。言葉を交わさなくても、相手が何をするかが分かる。こんな経験は初めてだった。
リンは足にポケットから取り出した小石を触れさせる。そして、『雷光突き』の構えをする。
『雷光突き』なら空中でも一瞬で移動することができる。俺はリンの雷光突きの角度と距離を計算し、自分の落下地点を調整する。
近すぎても遠すぎてもいけない。『雷光突き』の射程が終わり、かつ手を伸ばせば触れられる。そんな絶妙な位置を割り出す。
『雷光突き』
消えるような速度で、紫電をまとった光が移動する。それは俺の直前で止まった。
「リン! つかめ!」
俺が伸ばした手をリンがつかもうとするが、わずかに足りずに空振る。俺は更に手を伸ばして、彼女の手を掴んだ。
同時にしたを見る。地面がかなり近づいている。下に赤竜がいる。その赤竜はブレスを吐こうとモーションに入っている。
ブレスを吐こうとしているということは、その先に人がいる可能性が高い。
『エアリアル』
俺は少し早めに『エアリアル』を発動する。ここから落下してもダメージを受けないギリギリの距離だ。
そして、俺とリンは手を離す。俺は正宗と妖刀村正を抜く。リンはエクスカリボーを抜く。
落下の勢いのまま、2人同時にブレスを吐き出す瞬間の赤竜の脳天に一撃を叩き込む。
凄まじい音を立てて、赤竜の頭は地面にぶつかった。