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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第4章 英雄の決意
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バクバク戦



バクバクがいた。黒く、丸いウサギのような外見だ。マスコットのように見えるが、その性質は凶暴。あらゆる生物を攻撃し、捕食する。



俺はモフメーをその場に残し、静かに背後から接近する。しかし、一瞬でバクバクは振り向いた。目が合う。明らかな警戒の色が浮かぶ。



今、恐らく『索敵スキル』を使用し、俺の存在に気がついた。常に辺りを警戒している。ドラゴンがいるガルドラ山脈で生き残るための術を、バクバクは学んでいる。



元々ゲームで、バクバクのAIは賢くなかった。だから、溜め込んだスキルを上手く利用できていなかったが、現実では明らかに学習している。



バクバクが一気に動く。予想以上に速い。俺の予想レベルよりも高い。



俺はバクバクの爪に現れたエフェクトで、スキルを判断する。『真空爪』だ。爪から青い光が一気に飛び出してくる。



俺はそれを紙一重でかわす。バクバクは回避された瞬間、空中でくるっと向きを変えて、俺に口を開いた。



俺に『ミックスブレス』を吐きつける。残念ながら俺には神兵の腕輪があるので、状態異常は効かない。



バクバクは地面に着地した瞬間、また高速で俺に向かってくる。バクバクの身体が光る。



『インパクト』だ。無敵状態になり、弾丸のような体当たりをする。しかし、直線的な攻撃なので、俺には通用しない。あっさり回避する。



バクバクは凄まじい音を立てて、俺の背後の壁にぶつかった。



中々攻撃の当たらない俺にイラついているのが分かる。バクバクは再び移動する。



しかし、それは俺に向けてではなかった。モフメーだ。中々当たらない俺ではなく、先に一緒にいたモフメーを攻撃した。



『破脚』を使い、凄まじい速度で地面に踵落としを使用したが、モフメーにダメージは通らない。



バクバクはそこで『火爪』を放つ。バクバクのAIはゲームでは賢くなかったが、無効の攻撃をしたら、すぐに違う属性に切りかえる性質はあった。



『物理ダメージ無効』を感知した瞬間、すぐに属性攻撃に切り替える。『火爪』により、火属性に極端に弱いモフメーはすぐにダメージを受ける。



バクバクは口を大きく開けた。



体積が膨らみ、スライムのように形状が変化する。そして、その黒い塊はモフメーを飲み込んで、すぐに元の大きさに戻った。



『捕食』だ。



バクバクはこちらを挑発するかのように見ている。仲間を食べてやったと言っているのだろうか。



再びバクバクは俺を襲いにくる。口から衝撃派を出す。『ソニックウェーブ』だ。



俺は目に見えない衝撃を回避する。これを食らうと強制スタンになるから、かなりまずい。



『火爪』『旋風脚』『水断』『メタルショット』『フレアブレス』



まるでサーカスの曲芸師のように多種多様なスキルを連発してくる。全てのスキルにはクールタイムがあるが、持っているスキル数が多いので、関係ないのだろう。



俺はその全てを回避してみせる。若干、バクバクが疲れているように見える。何で当たらないのって首を傾げている気がする。



「おい! 何で早く攻撃しねぇんだよ!」



遠くで見ていたドラクロワが、苛立ちながら言う。俺が回避ばかりなのが不満なのだろう。



「もうすぐ終わるよ」



バクバクの性質として、クールタイムを考えなくても良いため、いろんなスキルを順番に使う。あまり同じスキルを複数使用することはない。



またバクバクのスキルの嵐が始まる。大量のエフェクトが俺に襲いかかる。俺はただ回避を続ける。



これはネロに勝つために必要なことだ。俺達が更に上に昇るために、バクバクこそが鍵となる。



俺の前には、ネロを、いや、魔王さえも越える、最強へと至る栄光への道(デイロード)が続いている。



その時、耳をつんざくような鳴き声が聞こえた。



俺は上を見上げる。空にドラゴンが飛んでいる。赤竜だ。その目は明らかに俺とバクバクを視認していた。



「まずい! 全員、隠れろ!」 



俺は声を張り上げる。ユキ以外、赤竜の一撃をもらえば死ぬ可能性がある。



赤竜が一気に急降下してくる。バクバクは頭に血が上っているのか、この状況で俺に追撃してくる。



赤竜とバクバク。2つの敵を意識する。俺は一瞬で集中状態に入る。世界から音が遠ざかり、時の流れが緩やかになる。



赤竜は俺を踏み潰す気だ。バクバクもその攻撃範囲に入っている。



俺は地面を蹴り、赤竜の着地点からかろうじて抜け出す。バクバクは俺がいた場所に攻撃をしていた。



俺は覚悟を固める。今、俺が取るべき行動。それは最強へと至る道を突き進むことだ。



『スイッチ』



俺は赤竜の着地点の真下にいるバクバクと場所を入れ替える。



『イリュージョン』



間一髪タイミングで、スキル発動が間に合う。俺が瞬間移動したと同時に赤竜が着地し、凄まじい衝撃波が生まれる。



俺は吹き飛ばされながら、自分の場所とバクバクの場所を確認する。



赤竜が凄まじい速さで尻尾を振ってきた。俺は辛うじてかわす。ノーマルモンスターでは最強格。ステータスも段違いに高い。あの巨体で俺よりも素早さが高い。



俺がドラゴンを倒せると言ったのは、パーティ全員で作戦を立てた上で長時間かけてなら可能という意味だ。



急襲され、俺1人で勝てるわけがない。本来ならここで逃げるべきだ。しかし、俺には逃げれない理由がある。



バクバクはなおも赤竜を無視して、俺に攻撃を仕掛ける。完全にヘイトが俺にしか向いていない。



赤竜が口を開ける。最悪の展開だ。ブレスを発動される。



赤竜のブレスは即死ダメージの広範囲攻撃という、どうにもならない仕様だ。俺の脳はこの状態で解を探す。



『スイッチ』や『イリュージョン』は先ほど使ったので、クールタイムが終わっていない。



手はいくつもある。ウォルフガング戦で使った『お手玉エスケープ』なら可能だし、『ワンモアチャンス』があるので一度攻撃を受けても良い。しかし、それでは俺の目的が果たせなくなる。



赤竜は今にもブレスを発動する。俺の集中は更に深くなる。



栄光への道(デイロード)を見つけた。シビアなタイミングと角度、針の穴を縫うような条件。だが、俺にはそれが可能だ。



向かってくるバクバクのステータス。ブレスを吐き出そうとする赤竜。俺の位置。全てを計算に組み込む。



俺は正宗を手放す。妖刀村正だけを持つ。そのまま、こちらからバクバクに向かう。バクバクの攻撃がヒットする瞬間、身体を思い切り反らして、角度をつける。同時につま先で地面を蹴り宙に浮く。



コンマ数秒の世界。俺はスキルを発動する。



『流水の構え』



バクバクの攻撃をカウンタータイミングに合わせる。カウンターが発動し、モーションが始まる。



刀を振り抜く。バクバクは俺が斜め上を向いてスキルを発動したため、上に向けて吹き飛ぶ。



間髪をおかず、赤竜がブレスを吐き出す。灼熱の火炎が辺りを包む。俺は空中でバクバクの攻撃をカウンターしたので、一気に吹き飛ばされながら移動する。



炎に身を包まれるが、カウンター時の無敵時間でダメージは受けない。そのまま吹き飛ばされることで距離を取れる。無事にブレスを乗り切った。



赤竜はすぐさま腕を振って攻撃してくる。攻撃速度が速すぎる。俺は辛うじて、直撃を避けるが風圧により、吹き飛ばされる。



バクバクは俺に空中に吹き飛ばされた後、またすぐに俺に向かってきた。



そして、俺が待ち続けた時が遂に来た。



向かってくるバクバクがスキルモーションに入る。俺は空中で右手をバクバクに向けた。





















『テイム』




















俺の手からピンクの光が飛び、バクバクを包み込む。そして、それは濃いピンク色に変わった。成功した。



「よっしゃ! バクバク、ゲットだぜ!」



某国民的モンスターアニメに登場する主人公の真似をしてみる。空気を読まない赤竜が攻撃してくるので、仕方なく回避する。



俺の目的はバクバクをテイムすることだった。バクバクは本来イベントモンスターなので、敵意が100%から下がることがない。テイムが不可能だ。



魔法生物ルンルンはパーティに加えられるが、捕食生物バクバクはイベントボスモンスター扱いで、仲間にできなかった。



だから、俺はモフメーを利用した。バクバクは捕食したモンスターのスキルを取得することができる。だから、モフメーの『尻尾フリフリ』を取得させたのだ。



モフメーもイベントモンスターであり、敵意が100%から下がることがない。しかし、モフメーチャレンジというミニゲームで、『尻尾フリフリ』の発動中のみ『テイム』が100%成功する。



バクバクはクールタイムの関係か、同じスキルをあまり使用しない傾向にある。つまり待っていればいずれ『尻尾フリフリ』を使用する。それがどんなスキルか、初めて手に入れたバクバクはわからない。



本来ゲームでは、モフメーを連れて行くことはできなきった。あくまでモフメーチャレンジ用のモンスターで、何匹かテイムして景品を貰ったら、モフメーを返さなければならなかった。



だから、このバクバクテイムは実行不可能だったが、現実になりそれが可能になった。



赤竜は俺を殺そうと躍起になっている。俺は回避しながら、正宗を拾い上げた。



1番苦労したのは、バクバクを赤竜に殺されないようにすることだ。だから、赤竜とバクバクと戦いながら、バクバクを守るという無理難題をこなしていた。



ブレスの時は、バクバクを上空に吹き飛ばして、ブレスを回避させることにしたが、正宗の攻撃力と、クリティカル+『主人殺し』が発動すれば、一撃で殺してしまう可能性があったので、あえて正宗を使わないようにした。



「待たせたな、ドラゴン」



バクバクは既にテイムしたモンスターとして、右手に格納した。もう俺に足枷はない。怒り狂っていた赤竜が本能で俺を警戒し始める。



俺は正宗と妖刀村正を構え、走り出した。



ドラゴンとは()()()()へ。



いや、戦うのとか無謀過ぎるし、もうバクバクをテイムしたので、赤竜に用はない。全速力で逃げるのみだ。



熱い戦いを求めていたのか、後ろを振り向くと、赤竜が口をあんぐり開けている。



その後、急に怒り出し、俺を追いかけてきた。



こうして、俺は当初の目的通り、捕食生物バクバクを手に入れた。





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