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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第4章 英雄の決意
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交渉



「次は私が質問します、あなたが今動いている封印を解く方法を教えて下さい」



直球で来た。俺はここで情報を明かすべきか伏せるべきかを天秤にかける。プロメテウスが即座に続ける。



「私はあなたの邪魔はしません、なぜならあなたの手段でも魔王様が復活するからです、場合によっては手を貸すこともできます」



的確に心理を読んでくる。俺が情報を与えるか迷ったのは、プロメテウスが邪魔をしてくるかどうかを見極めたかったからだ。プロメテウスが言ったように、目的は一致している。プロメテウスからしたら、魔王の封印が解除できれば良いのだから、俺を邪魔する理由はない。



むしろ協力してもらえる可能性もある。個人的にはプロメテウスに何かを依頼するなど嫌悪感しか抱かないが、能力的にはかなり優秀だ。封印を解除できる可能性も上がる。



プロメテウスは更に俺の心理を読んでくる。



「それと……約束しましょう、魔王様が復活したらソラリスを必ず生きてあなたに渡しますよ、何ならダンテに頼んでも構わない」



プロメテウスは真剣な目が俺を見ている。賢王と呼ばれるだけある。交渉力が極めて高い。



俺がプロメテウスより先にソラリスの封印を解きたい理由は、先を越されればソラリスを殺されるからだ。少なくともゲームのシナリオはそうだった。



そのことさえ、プロメテウスは見抜いていた。だから、プロメテウスはソラリスを生かすと言っている。そうなれば、俺がプロメテウスに協力をするメリットが出てくる。



交渉というのは、相手に自分の望んだカードを選択させることだ。プロメテウスはこちらの利害を誘導し、自分の求める選択を俺にさせようとしている。



そして、プロメテウスであるから、そのカードは強い効果を発揮する。俺はプロメテウスの性格を知っている。



目的のためなら、手段を選ばない。平気で人を裏切ることができる。しかし、言い換えるならば、利害関係が一致さえしていれば、ある意味信頼ができる。奴にプラスがあれば裏切らない。



俺はプロメテウスの言葉に揺らされている自覚がある。



「ああ、分かったよ、お前の邪魔はしない」



「それは良かった、私はあなたのことを認めているんです、できれば協力していきたい」



「封印を解く方法は7つのアイテムを集めることだ、教えられるのはそこまでだな、どれかの入手が困難になったら、お前を利用するよ」



「ふふ、良いでしょう」



プロメテウスが満足げなのが癪に障る。こいつは元々詳細なんて興味を持っていない。今のやり取りはお互いに協力体制を作ろうという提案だ。



「次は俺の番だな、なぜ龍の涙が魔王復活に利用できるんだ?」



「簡単なことです、ソラリスの封印が解かれる条件は何だと思いますか?」



「知らないな」 



「一つはレン君が今動いている、ソラリスが作り出した鍵を手に入れる方法です、私はレン君とは違い、もう一つの条件をクリアさせます」



「もう一つの条件?」



「はい、簡単なことです、魔王様が死ねば封印は解除されます」



盲点だった。俺はプロメテウスの発言で初めてその手に行き着いた。



対象が死ねば、封印する意味はない。だから、魔王が死ねば封印は解除される。そして、封印が解除されたら魔王を龍の涙で復活させる。構図は至ってシンプルだ。



封印中に魔王が死んでしまえば、プロメテウスは魔王核を手に入れることができなくなる。だから、一度復活させる。



これがダンテが魔眼で真実だと判断したプロメテウスの策だ。そして、その成功は保証されていることを俺だけが知っている。ゲームで成功していたからだ。



「……封印された魔王をどうやって殺すんだ?」



「それは私も考え中です」



ここに来てプロメテウスは嘘をつく。そもそもその策が思いついていなければ、ダンテの魔眼は掻い潜れない。



お互い様か。俺は口では納得したようなことを言いながら、全くプロメテウスを信用していない。



プロメテウスは自分のために、あらゆるものを犠牲にできる。そのために手段を問わない、生粋のリアリストでありながら、強烈なエゴイストだ。



プロメテウスは笑う。



「やはり、あなたと話すのは楽しいですね」



「俺は全く楽しくないな」



「それは連れない」



プロメテウスはふと空を見上げた。



「己の目的のために、願いのために、必死に足掻き続ける、それが生きるということでしょう」



俺がこいつを嫌う理由が少し分かった気がした。認めたくなかった。こいつも俺と同じ、英雄の思考を持っている。それは歪み切っているが。



「最後に、1つ忠告だけ、この国の自警組織」



「烈火団だろ?」



「そう、烈火団にはあまり関わらない方が良いですよ、随分ときな臭い動きをしているので」



「どうゆうことだ?」



「いえ、私の気にしすぎかもしれません、とにかくドラゴンスレイヤーとはできるだけ関わらない方が良いですよ」



「ああ、俺も絶対に関わりたくない」



プロメテウスは立ち上がった。無駄のない身体に惚れ惚れするような整った顔立ち、嫌というほど絵になる男だ。



「私はそろそろ上がります、私はしばらくこの街にいます、何か進展があったら、日没に街外れの丘に来てください」



プロメテウスは『天眼』でこの街のことを知ることができる。時間さえ決めておけば、コンタクトを取ることが可能だ。



そう言って、プロメテウスは去っていった。



それまで空気を読んで静かにしていたドラクロワが、堰を切ったようにプロメテウスの悪態を吐き出し始める。



俺はプロメテウスの言っていたことを考えた。



ガルドラ地方のイベントをゲームでもっとやり込むべきだったと今さら後悔している。



LOLにおいて、街中のミニイベントでも命を落とすものが多くある。烈火団のこともその一環かもしれない。



そして、龍の涙。それをこちらが先に手に入れることができれば、プロメテウスの作戦は頓挫する。



ゲームでも手に入らなかったアイテムだ。しかし、ゲームにおいてプロメテウスは魔王を復活させる。つまり確実にこの世に存在している。



ゲームではシステム的に入手できなかったと考えるのが妥当だろう。そうならば、現実になった今なら龍の涙を入手できるかもしれない。



俺はちょっと考え過ぎて、のぼせてきたので、お風呂を出る。脱衣所には扇風機のようなアイテムがあり、心地よい。



頭を使いすぎたせいで、全然疲れが取れてない気がする。もうプロメテウスと風呂には入りたくない。



そして、俺は早速()()に取り掛かった。






















自分の脱いだ服や装備を細かく確認する。



俺の読みが正しいことが証明された。小さくて黒い水晶のようなアイテムが、服の中に巧妙に隠されている。



やはり想像通りだったか。プロメテウスの考えは手に取るように分かる。



「残念だったな、お前のやることは百も承知だよ」



俺はその盗聴器に向けて言った。



プロメテウスの真意は協力体制だけではない。裏にもう1つの意図がある。



プロメテウスはその目的のために、『天眼』で俺の居場所を捕捉して、コンタクトを取ってきたのだ。恐らく俺がガルドラに来たのは偶然だろう。同じガルドラにいることがわかったので、プロメテウスは行動に出た。



プロメテウスは、俺が話を聞けばプロメテウスの作戦を失敗させるために、龍の涙を先に入手しようと動くと予想していた。実際その通りだ。



それこそが裏の狙い。俺に龍の涙を探させて入手させる。それを横取りしようという魂胆だったのだろう。俺にどれだけ期待しているのか知らないが、龍の涙の入手の可能性を上げようとした。



だから、必ず盗聴器のようなものを仕掛けてくると読んでいた。プロメテウスには『天眼』があるため、視覚的な情報は得ることができる。



しかし、音声は入手できない。だから、リンが誘拐された時にもプロメテウスは俺に盗聴器を忍ばせていた。



ならば、衣服に隠しやすいお風呂が好機だ。俺はプロメテウスと話をしながら、奴が盗聴器を隠している可能性に気づいていた。



今頃、気づかれたにも関わらず、にやにやと楽しそうに笑っているのだろう。



油断も隙もない男だ。




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