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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第4章 英雄の決意
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ドラゴンスレイヤー



「こ、これはライオネル様!」



デアラが慌てて敬礼をする。



俺よりも少し背の高い青年。真紅の長めの髪と白い肌が、どこか中性的な顔を作っている。



そんな見た目ではあるが、遥か昔から生き続ける不老不死の存在。



ガルデニアらしく、紺色の和装で武器なども持っていない。穏やかで優しい表情で微笑んでいる。



この男が、レジェンドオブライオットの前作、レジェンドオブライオネルの主人公だ。



ゲーム会社ヘルメスが制作したLOLには、前作が存在する。そちらはあまり売れることがなかった。



レジェンドオブライオネル。主人公ライオネルがドラゴンスレイヤーになり、邪龍を討伐するRPGだ。



ライオネルは幼い頃に、龍に襲われ、それを助けてくれたドラゴンスレイヤーに憧れを持つ。大人になった彼は、謎に包まれた仮面の魔女に助けられながら、最強のドラゴンスレイヤーを目指すという王道ストーリーだ。



このゲームはかなり不人気で叩かれた作品だ。俺も実際にプレイして、その理由が分かった。



一度もゲームオーバーになりようがないのだ。主人公ライオネルが優秀すぎる。というか仲間とか意味がない。主人公だけでクリアできる。



つまり、俺TUEEE過ぎた。主人公をかっこよく見せたかったのか、やたらと主人公だけ優遇され過ぎていた。



戦闘に何の作戦もいらない。主人公がボコればボスはあっさり倒せる。主人公に暗い部分なども全くなく、勧善懲悪な正義マンすぎて感情移入もできない。



努力の必要がないRPGなので、何の面白さも感じなかった。



当時は散々な評価だった。



作業ゲー、ライオネル1人でボタン連打で勝てる。3才の息子が邪龍倒せた。ゲームを難しくするための縛りは必須、装備なしの素手プレイしたが、ライオネルのパンチが最強すぎる。製作者はゲームバランスという言葉を知らない。余分なシステムを削ったら良ゲーだと思う、仲間と職業とアイテムとスキルとストーリーが余分。このように凄まじい酷評の嵐だった。



そんな経緯もあり、続編では難易度を上げようとなった。



しかし、ゲーム会社ヘルメスのスタッフは限度というものを知らない。あれだけ簡単過ぎると叩かれて、意地にでもなったのだろうか、誰もクリアできない化け物のようなゲームが誕生した。



それがレジェンドオブライオットだ。当初、ライオネルの息子ライオットを主人公にする予定だったので、このネーミングで打ち出していた。



ライオネルは前作のエンディングでヒロインと結婚する。その2人の息子という設定だ。



しかし、あの最強ライオネルの息子ライオットが雑魚すぎるのも問題ではないかという意見も上がった。



そこでその時期に流行っていた異世界転移モノにしようということになった。それなら主人公はプレイヤー自身であるし、感情移入もできるのではないかと。



そして、世界一の無理ゲーといわれるLOLが誕生した。俺は好きなゲームの誕生秘話はしっかり調べている。



今作にはいくつか前作のオマージュがある。たとえば邪龍討伐、あの邪龍も前作に登場していた。ライオネルが瞬殺したが。



だからライオネルは前作の主人公として、ここで登場する。ちなみにガルドラ火山は前作のラストダンジョンだ。



そのため、最強のイメージを崩さないため、確定負けイベントが存在する。



以上がドラゴンスレイヤーと呼ばれる男の正体だ。



「この男が私からお金を盗んだのです」



デアラが虚偽の報告を上げる。ライオネルは優しそうな眼差しで男を見た。



「それはいけないよ、法律違反だ」



「ち、違います、私は何もしていません! 神に誓って!」



「そうだね、信じてあげたいよ、でもね、犯罪を犯した人は皆そう言うんだ」



「お願いします! パパは悪くないんです! 助けてください」



ライオネルが少女の目線まで腰を下げる。



「君はパパが大好きなんだね、安心していいよ、パパのことは僕に任せて、君は少し離れていよう」



ライオネルのお付きの者が少女を連れていく。少女はライオネルの優しそうな雰囲気に安心しきっていた。



少女がいなくなるのを見届けてライオネルは男にもう一度話しかけた。



「安心してほしい、彼女に親が死ぬ光景は見せないよ、彼女は僕たちが安全に責任を持って育てるから」



「な! いや、違うんです、本当に私は何もしていないんです!」



「ごめんね、これは必要なことなんだ」



「お、お願いします! 私はあの子ともっと一緒にいたいんです! どうか、どうか娘と一緒に居させてください!」



ライオネルは残念そうに眉を下げる。



「分からないかな? 犯罪者に娘がいるから、可哀想だから罪を免除する、そんなことをしていては法律は瓦解する、それが罷り通れば、犯罪者が世の中に溢れてしまうよ」



ライオネルの右手に剣が現れる。何もないところからいきなり出現した。



「多くの人が幸せに暮らすためにはルールが必要だよ、そして、そのルールが破られた時の罰も必要だ、その罰が重ければ重いほど人々はそれを守ろうとする、僕はね、みんなの幸せを心から願っているんだよ」



「わ、私と娘の幸せはどうなる!」



「生きている年数が違うからかな、話が合わなくて困るよ、君が考えられることは自分のことだけだろう? 一人一人の幸せを全て優先していては社会は成り立たない、誰かの幸せが誰かの不幸せかもしれないからね、だから僕はなるべく多くの人が幸せになれる選択をする」



「お願いします! お願いします! 命だけは」



「盗みは死罪、例外はないよ、僕には君の気持ちが分からない、自分の犠牲で多くの人の安寧が保たれる、素敵なことじゃないか」



この男には情なんてものはない。



「秩序のための犠牲は必要なものだよ、その犠牲により他の者たちは秩序を守ろうという意識が高まる、君の協力のおかげでね」



奴からは殺意なんて微塵も感じない。そもそも殺すことを何とも思っていない。次の瞬間にあっさりとライオネルは父親を殺すだろう。だから、俺は動くことにした。このまま、あの男を見殺しにはできない。



『スイッチ』



父親と自分の位置を入れ替える。そして、ライオネルと相対した。



何も感じない。カーマインやウォルフガングを前にした時の圧倒的な強者の圧がない。完全なる無。



ライオネルの目には何も映っていない。俺のことを何とも思っていない。道端の石と変わらないのだろう。



「君は誰だい? 犯罪者を庇うのも犯罪だよ」



「ああ、ならお前が犯罪者ということになる」



俺はデアラを指差した。



「俺は見ていた、そいつが自分から女の子にぶつかって難癖をつけ、父親に金を渡していた」



「馬鹿なことを言うな! 俺はそんなことしていない」



「否定しているみたいだけど」



「犯罪者は皆否定する、だろ? よく考えてみてくれ、俺は完全な第三者だ、わざわざリスクを冒す必要がない、理由は無実の人を守りたいという正義感だ」



「なるほど、一理あるね」



「もし管理する組織が権力により、汚染されていたら? 上位組織が腐れば、民は不幸になる、それが許されるのか?」



「ライオネル様、信じないで下さい! 俺は誇り高き烈火団の一員、そんな真似はしません」



無駄だ。ライオネルは情には決して流されない。言葉が何の意味もないことを知っている。



「周りで見ていた人はもっといるだろう? みんな、正直に答えて欲しい、僕は決して、ここでの解答により君たちを罰することをしない、この青年の言っていることが真実だと思う人は挙手してほしい」



恐る恐る手が上がる。周りの人たちが全員手を上げていた。



「なるほど……」



「ち、ちがうんで」



一瞬だった。一切の殺意も予備動作もなく、ただ剣を振り抜いていた。そこには切ったという結果のみがあり、課程を見ることは出来ない。



デアラは自分でも何をされたか分からないまま、青い粒子に変わった。何の躊躇いもない一撃だった。



「すまなかったね、君のことを疑ってしまって」



ライオネルは何事もなかったかのように、怯えている父親に微笑んだ。



その後、俺を見る。



「ありがとう、君の勇気には感服するよ、この後、私は烈火団を改変するつもりだ、彼のような者が他にいないか調べないといけない、また自浄作用も持たせるようにしないとね」



俺は無言で会釈だけ返す。できる限り関わらないようにしなければならない。



「ふふ、君のような人がいるとは、この時代も捨てたものじゃないね、君は僕に似ている、また機会があったら会おう」



ライオネルはそう言って離れていく。街の人たちが慌てて左右に避け、ライオネルの道を作った。



似てなんていない。俺はライオネルの最大多数の最大幸福のみを優先する考え方には賛成できない。



俺はリンを見た。リンはエクスカリボーの柄を強く握りしめ、ライオネルの背中を見ている。その身体は震えていた。






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