テンプレート
ガルドラに到着した。あまり近づくとドラゴンに襲われるので、ガルデニアの町から離れたところに着陸する。
火山灰が多い土壌だからか、植生が明らかにグランダルとは違う。見たことのない植物が生えている。遠方に聳り立つようなガルドラ火山が見えた。
飛空艇に保管してある食料とヘルマンからもらった耐火グッズを持っていく。
ポチはグランダル王国からもらった大きな木箱のふたを素手でバキッと開けていた。
「ポチ、中身なんだった? 腐るものならちゃんと保管しないと」
「くぅーん」
「ポチ?」
「えっと……フレ……」
「ん、フレ?」
「フルーツ!」
「じゃあ、ほっといたら腐るよな、ユキ冷凍してくれ」
「わん! ダメ! くさらないフルーツ!」
ポチはそう言って、蓋を閉めた。
何かポチの様子がおかしい気がするが、気のせいだろう。
俺たちは荷物をまとめて外に出る。火山の影響なのか、かなりあったかい。そのままガルデニアに向けて歩き出す。
ガルデニアではドラゴンスレイヤーがいるから出来れば会いたくないが、他に拠点となる街が存在しない。それにゲームでも街の中では戦闘にはならなかった。問題ないだろう。
それに何より、俺は温泉に入りたい。現実世界で俺のいた国は皆、温泉が大好きだった。国民性というものだ。
「旦那、ずいぶん浮かれてないか?」
「温泉が待ってるからね」
ユキが残念そうに呟く。
「私たぶん温泉入れない……入ったら温泉が水になると思う、残念だけどメアリーに譲る」
確かに氷雪の魔女がお湯に入れば一気に温度が下がるかもしれない。
「なあ、リン、ガルデニアにはうまいものはあるのか?」
「わん! ごはん!」
ドラクロワとポチは料理が楽しみのようだ。やっぱりこの2人は何だかんだ仲が良い。
「どうだろ? ガルデニアには入ったことないから、あの草とか美味しいよ」
岩陰に生えている明らかな雑草を指差す。
「……俺は肉食だから遠慮する」
「ぼくもニクショク」
「本当に美味しいのに」
俺たちはそんなやり取りを進めながら、ぼんやりと歩く。何度かモンスターの襲撃に合うが、ギルバートとユキがおしゃべりしながら、片手間に処理していく。
ほどなくして、俺たちはガルデニアに到着した。
特に門番などもおらず、自由に入れる。温泉が売りの観光地だからか看板などでウェルカム感を全力でアピールしていた。
街のあちこちで湯気がたちのぼり、どことなく和風な建築物が並んでいる。
「わん! へんな匂い」
「これが温泉の匂いだよ」
そうこれだ。これこそ温泉って感じだな。ちゃんと露店で饅頭が売っているのも評価が高い。
「お、旅人の方だね、今日は観光かい?」
日に焼けた中年の男が話しかけてきた。
「ええ、そんな感じです」
「そうかそうか、ガルデニアは本当に良いところだから、心ゆくまで楽しんでくれ」
男はそう言って、紙を取り出す。
「この街の法律って奴だ、ガルデニアは良いところだけどな、規則は厳しい、だから、外から来た人には注意喚起しててな」
その紙には箇条書きで規則が記されていた。
「まあ、普通に観光していく分には問題ないよ、ただそこの規則に違反すると烈火団のやつらに捕まるから気をつけてくれよ」
「ありがとうございます、注意しておきます」
烈火団というのはガルデニアの警察組織のようなものだ。この街でかなりの権力を持っている。そのトップに君臨するのが、ドラゴンスレイヤーだ。ドラゴンスレイヤーの地位はこの街の誰よりも高い。
俺はポチにそこに載っていることを教え込む。他のメンバーは平気だろうが、ポチが不安すぎる。
「わん! おかねを払わずに勝手に食べない!」
本当はもっと教えたのだが、取り敢えずそれだけわかっていれば十分だろう。
俺たちは取り敢えず宿を取ることにした。もちろん金に糸目はつけず、最高級の温泉旅館を行く。
このためにエルドラドで荒稼ぎしたといっても過言ではない。
通された部屋はとても豪華だった。和風な佇まいに調度品なども明らかに高級だ。
「よし、明日から過酷な試練が始まる、だから、今日は思い切り観光しよう!」
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ユキはメアリーに身体を譲った。たまには親子水入らずにするとなり、メアリーとギルバートは2人で観光に行った。
ドラクロワとポチはどちらが大食いできるか喧嘩になり、露店で食い倒れ勝負をすると行って出ていった。
必然的に俺とリンの2人で街に出る。リンは浮かない顔をしている。俺と出かけるのが嫌とかじゃないことを祈っている。
「ほら、リン、ガルデニアのご当地キャラ、火山岩ちゃんのキーホルダーだぞ!」
「そうね」
「お! こっちには地獄饅頭がある! 激辛で有名なんだよ」
「へぇ」
何とか盛り上げようとするが、返事が切ない。
その時、前を行く小柄な女の子と、こちらに歩いてくる赤い服の男が見えた。
少女は避けようと左に移動する。しかし、男はわざとらしく方向を変え、移動した少女にぶつかりに行く。
少女が弾き飛ばされ、尻餅をついた。
「おい! お嬢ちゃん! 今俺にぶつかったよな? この烈火団のデアラ様に!」
「あの……私、避けたのに、そっちがぶつかっきて」
「ああ! こうゆう時はごめんなさい、だろ?」
「……ご、ごめんなさい」
「謝るだけじゃあ、すまねぇな! 悪いことをしたんだ、何かしら対価を払わねぇと」
RPGでよくある、あらくれ絡みイベントが発生した。あまりにテンプレート過ぎる。
周りの者は皆、巻き込まれないように離れていく。誰も少女を助けようとしない。
「む、娘が失礼なことをしました、申し訳ありません!」
少女の父親らしい人物が慌てて駆けつけて、デアラという男に頭を下げる。
「分かっているのか? 俺様は烈火団だぞ? 謝るだけじゃ済まない」
「お金なら払います、どうかお許しください」
「くくく、じゃあ、お前の娘を俺に売れ」
「ひっ!」
少女が身体を強張らせる。
「そ、それだけは勘弁を!」
「お前にその気がなくても、俺には力がある」
デアラは小銭を取り出して、父親にそれを投げ渡した。
「こ、これは! わ、私は娘を売る気なんてありません!」
「違げぇよ、それは買うための代金じゃない」
デアラはにやっと笑う。
「それは今、お前が俺から盗んだお金だ、知っているだろう、この街では盗みは死罪」
「そんな……私は盗んでなんかいない」
「身寄りの無くなったその子は烈火団が責任を持って預かろう」
やっていることがゲス過ぎる。胸糞が悪い。こんなことが公然と行われているのに、誰もが見て見ぬふりをする。
俺は止めようと一歩踏み出した。
しかし、その時、俺を追い抜くような形で横を通り過ぎた人物がいた。全く気配を感じることが出来なかった。
「どうしたのかな? 何か問題?」
その姿に俺の動きは止まる。
一気に鼓動が跳ね上がる。早速出会いたくなかった奴に出会ってしまった。
見た目は穏やかな好青年のように見えるが、その実、長い年月を年をとらずに生き続けている、人ではない存在。
ガルデニアの英雄。ドラゴンスレイヤーだった。