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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第4章 英雄の決意
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ガルドラ地域



翌朝、俺達はマーカスの会社から出発した。盛大な見送りを受けた。



例に漏れず、俺は二日酔いですこぶる体調が悪い。マーカスがどんどん勧めてくるから、つい飲み過ぎてしまった。中々接待が上手い。相変わらず俺も学習しない。



マーカスの出してくれた高級な酒はやはり美味かったが、安酒との違いがわからなかった。俺の舌は庶民のようだ。



飛空艇を操縦し、ガルドラ地方に向かう。結構離れているから、飛空艇でもしばらくかかるだろう。



そう考えると、リンの故郷としては遠過ぎる気がする。リンと出会うのは完全に運ではあるが、グランダル近郊のダンジョンに限られたはずだ。



この無理ゲーの世界で、どのようにガルドラからグランダルまでリンが旅をしてきたのか気になった。



若干、この前のリンの様子が引っかかるが、ガルドラの情報を聞いてみることにした。俺もゲームではガルドラを知っているが、故郷なら俺の知らないことを知っている可能性もある。



グランダル王との会話で、俺はゲームでは出てこない裏設定も存在することを知った。だから、できる限り情報を得ておくつもりだ。



「リン、これから向かうガルドラの情報を教えてくれないか」



「分かった」



リンは予想とは反して軽く返答した。俺が気にしすぎていただけなのかもしれない。



「ガルドラ地域は山脈による山岳地帯、厳しい環境で麓のガルデニアしか大きな町はないわ、小さな集落はあるけれど、山の中は人の生活できる環境じゃない、何より竜が生息している」



ドラゴン種は通常モンスターでは最強格となる。その辺のボス級の強さのドラゴンが、ガルドラ山脈には当たり前のようにうようよいる。



ちなみに飛空艇でガルドラ火山に近づくと、ドラゴンの大軍に撃墜されてゲームオーバーになるイベントがある。だから、少し離れたところに着陸するしかない。



ギルバートが質問する。



「俺も噂で竜の話は聞いたことがある、そうなると麓の、リンの故郷の町も結構被害に合ってるのか?」



普通に考えればそうなるだろう。しかし、そうはならない。



「いいえ、竜は絶対にガルデニアには近づかない、あの街には竜殺しがいるから」



ガルデニアの英雄。ドラゴンスレイヤーと呼ばれる男。ボス級のドラゴンを歯牙にもかけずに討伐する者。



ドラゴンスレイヤーはミレニアム懸賞イベントにはなっていない。それは倒したプレイヤーが存在するからではない。



そもそも()()()()()()()()()()()()



ドラゴンスレイヤーは確定負けイベントの相手だ。



RPGには負けることでストーリーが進む、確定負けイベントが存在する。それは敵の強さを知らしめるためだ。



絶対に勝つことが出来ない設定にして、負けることで相手の強さを理解し、ストーリーを進めることができる。負けてもゲームオーバーにならない。



ドラゴンスレイヤーは絶対に勝つことが出来ないイベントだった。だからミレニアム懸賞イベントにはなっていない。



ミレニアム懸賞イベントは誰もクリアできないことが条件だ。しかし、ドラゴンスレイヤーはそもそも負けることでイベントをクリアできる。だから、ミレニアム懸賞イベントには該当していない。



だから、俺は絶対に戦いたくない。ゲームなら負けてもストーリーが進むが、現実で負けたら死ぬ可能性もある。だから、力のルビーは見つからないようにこっそり盗み出すつもりだ。



「あと、私はガルデニアの出身じゃない」



リンの一言を俺は一瞬理解できなかった。俺より先にドラクロワが口を開く。



「あ? この前、故郷だって言ってなかったか?」



「私はガルドラ地域の出身だって言ったの、ガルデニアの出身じゃない」



彼女は英雄に守られた、あの地域唯一の安全地帯ガルデニアではなく、危険な山脈に住む少数の集落だったのだろうか。



「私はお父さんとお母さん、他の家族と一緒に、山の中で暮らしてた」



なぜリンはグランダルまで来たのか。その疑問を口に出来ない。彼女が何かを背負っているのが、感じ取れたから。



周りの空気をリンも感じ取ったようだ。



「安心して、お父さんとお母さんはもう亡くなったの、時間も経ってるから、今更悲しくもない、だから私はあの里を出た」



周りが触れづらいことを自分から話す。



「強くなりたかったから」



彼女の起源はここにあるのかもしれない。どこまでも、たゆまなく努力する能力。努力とは意思の強さが必要だ。彼女の意思は何よりも強い。



「だから、正直ガルデニアの案内とかできないから、期待しないでね」



リンは場を和ませるようにそう言った。しかし、俺は彼女がまだ何かを隠していることを感じ取った。リンは本音を隠している。



リンが話したくないなら、俺が無理に聞き出すことじゃない。リンが話したいときに、話してくれれば良い。



「ガルデニアは温泉が有名よ、私は入ったことないけどね、街の外には手入れされていない間欠泉がいくつもある、もちろん管理なんてされてないから、かなりの高温で人が入れるような、ものじゃないけどね、その地域に恐らくバクバクがいる」



ユキが質問を投げる。



「そこにもドラゴンはいるの?」



「ドラゴンは山から降りては来ない、だからその点では安全ね」



「そもそも今の俺たちはドラゴンに勝てるのか?」



ギルバートが俺を見て尋ねる。これはリンでは答えられないからだろう。



「勝てる、ただ結構大変だから、労力に見合わないから戦闘は回避したい」



今の俺たちの強さなら、ドラゴンでも倒せる。しかし、ドラゴンはHPが多く、かなりタフだ。一匹倒すだけでもかなり時間がかかる。



それを片手間に倒すドラゴンスレイヤーがどれだけ化け物なのか分かるだろうか。性格的にも俺とは相容れない存在だ。できるだけ会いたくない。



俺は改めてガルドラについてからのことをシミュレートする。



俺たちの目的はバクバクの対処と力のルビーだ。バクバクは発見さえすれば問題ないだろう。俺たちは300レベルオーバーだし、ゲーム開始からの時間経過を考えても、まだそこまでレベルが高くないはずだ。



問題は力のルビー。全力でドラゴンスレイヤーとの戦闘だけは回避しなければならない。



あいつはゲームのシステムとして勝てないようになっている。挑むのは自殺行為だ。



だから、盗み出すプランを必死に練っている。ガルドラ火山の火口はダンジョンになっている。その最深部に力のルビーは祀られている。



敵の強さや環境も含めて最高難度のダンジョンだ。ここがクリアできず、ソラリスを諦めた英雄も多い。



LOLの最高難度というものが、どれだけのものか想像つくだろうか。普通のゲームではクリア不可能と言われるレベルだ。



廃人ゲーマーの、その中の一握りしか到達できない領域。選ばれし英雄のみが手を伸ばすことを許される。



俺は今から現実世界で、その関門に挑戦する。







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