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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第4章 英雄の決意
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モフリスト



マーカスの牧場にはすぐに着いた。飛空艇が便利過ぎる。移動時間がかなり短縮できた。



以前訪れた時から、牧場の雰囲気はだいぶ変わっていた。いつのまにか立派な建物が出来ている。



そして、スーツを着た男達がいる。牧場なのに場違いだ。



「ああ! レンさんではないですか? 覚えていますか?」



近づくと全く見覚えのない奴から話しかけられた。



「ほら、あの時一緒にレースをした、ヤオチョーライナーに乗っていた者です」



レースで俺を妨害してきたモブの1人だった。



「社長! レンさんがいらっしゃいましたよ!」



その男が立派な建物に入り、そう告げる。すぐに牧場主のマーカスが出てきた。



高級そうなスーツを身に纏い、艶々に固められた髪の毛を七三分けにしている。手には高級そうな腕輪が光っている。



「これはこれは、久しぶりですね、社長のマーカスです」



いかがわしい情報商材を売っていたあの頃のマーカスとは別人だった。物腰も一流のビジネスマンを彷彿とさせる。



俺達は部屋の中まで通される。高級そうなティーカップに、これまた上品そうなお茶が注がれる。



「ずいぶんと、変わったな」



俺が素直な感想をもらすと、マーカスはうんうん頷いた。



「これもレンさんのおかげですよ、レンタリューが大ヒットしましたね、今ではなくてはならない主要な交通機関となっています、更にエルドラドと繋がりができましてね、新しいビジネスを始めまして」



そう言ってパンフレットを見せてくれる。緑の芝生の上を地竜達が疾走している写真が載っている。カネスキーダイオー連覇と見出しがあった。



「競竜っていうレースを主催しているんです、カジノの町エルドラドらしく、順位を賭けることができるようにしてます、人気によってオッズを決めれば、どの地竜が勝っても胴元の私たちにはお金が入るシステムなんです」



勝手に競馬の地竜バージョンを始めている。



「エルドラドのカジノの社長が話がわかる方でね、このビジネスプランを説明したら一発で協力してくれましたよ」



ガルシアだ。あいつも嗅覚が鋭いから、競竜が成功すると確信したのだろう。



「まあ、問題点もあるんですがね、この前なんか、競竜にのめり込みすぎた浮浪者が暴れて事件になりました、その浮浪者はやたら強かったらしく、エルドラドの騎士団を壊滅させてましたよ」



心当たりしかない。確かにあの元勇者なら競竜にハマれば、一攫千金を夢見て、大穴に高額ベットする破滅的な遊び方をするだろう。



「それで、本日はどのようなご用件でしょうか? レンさんのためなら協力は惜しみませんよ」



「ありがとう、モフメーを一匹譲ってほしいんだ」



「モフメーですか? 全然構いませんよ、たくさんいますし」



俺はマーカスに許可を得て、モフメーの宿舎に案内される。白いもふもふの塊が地面に転がっている。



モフメー。羊をモチーフにした小さいもふもふのモンスターだ。もふもふすぎて顔がどこにあるか見えない。



実はこのモフメー、『テイム』を取得していることが条件のミニゲームとなっている。



モフメーは敵意が100%から下がらずに本来『テイム』が不可能なモンスターだ。物理攻撃もモフモフなせいか無効となっている。ただ火属性には極端に弱く、少し火が付くと火だるまになってしまう。



家畜として飼われているぐらいだから、本当に弱い。体当たりで攻撃してくるが、モフモフし過ぎていて、攻撃を受けてもダメージを受けない。



可愛いようにも思えるが、顔が埋もれていて判断ができない。



そして、この牧場ではモフメー捕獲イベントを行うことができる。



まず、モフメーの放牧されている柵の中に入る。するとモフメー達が襲ってくる。そうは言ってももふもふの体当たりなので、一切ダメージは受けない。



その中でモフメーはあるスキルを使用する。それが『尻尾フリフリ』だ。もふもふ過ぎて、どこに尻尾があるのか分からない。わずかな動作の違いで、スキルが使用されたことに気づくことができる。



モフメーは『尻尾フリフリ』のスキルを使用している間のみ、『テイム』が可能になる。更に『尻尾フリフリ』中に『テイム』が成功すると、『テイム』のクールタイムが0になる。つまり、連続で成功させ続ければノータイムでモフメーを捕まえられる。制限時間以内に何匹モフメーを捕まえられるかで景品が変わるゲームだ。



景品は全てモフメーウールを利用した装備品だ。火にはめっぽう弱いが、物理ダメージをかなり軽減してくれる代物だ。



しかし、このモフメーチャレンジというミニゲーム、やはりLOL、かなりの無理ゲーだった。別にダメージは受けないので、死ぬことはない。単純に『尻尾フリフリ』のスキルモーションが分かりづら過ぎるのだ。



動画サイトではモフメーの『尻尾フリフリ』モーション比較という有名な動画がアップされた。左に『尻尾フリフリ』のスキルモーション、右に通常時の震えている動画が映ったものだ。



結論、全く違いが分からん。同じじゃないのか。尻尾どこだよ。というコメントが大量に並んだ。そもそもどこが尻尾でどこが顔かもわからない。一部の英雄からは、モフメーへの愛が足りない者には見分けられないだろうね、という謎のマウントが発生した。



一瞬で区別が付く英雄のことを、トップモフリストと俺達は呼んでいる。



10枚の動画を同時に流して、どれが『尻尾フリフリ』が当てるモフリスト試験が動画サイトで行われた。ちなみに俺はトップモフリストの仲間入りをしている。コツはモフメーの気持ちになって考えることだ。



「しかし……レンさん、モフメーなんてなぜ必要なんです? こいつら毛を取る以外に価値ないんですが」



「まあ、いろいろ理由があってね」



確かにモフメーは毛を刈って装備品にする以外、利用価値がない。仲間にしても攻撃を与えられないし、魔法攻撃であっさり死ぬ。火属性の攻撃を受けたら終わりだ。



これからガルドラ火山に向かうのに、連れて行く意味が分からない。



しかし、俺はモフメーの本当の価値を知っている。



「よし、久しぶりのモフメーチャレンジだ」



俺はモフメーの柵に足を踏み入れる。もふもふの白いボールが俺に向かって転がってくる。



ぶつかってもダメージを受けることはないが、これでも英雄、しっかりと全て回避する。



同時にモフメー達の動きを知覚する。その一瞬を狙って。



モフメー達の群れは俺を襲い続ける。その時、目の端で遠くにいるモフメーが一瞬震えた。



見つけた。



『テイム』



俺の手から淡いピンク色の光が飛び、一匹のモフメーを覆う。すぐにその光が濃いピンクに変わった。『テイム』が成功した。



「いやー、やっぱりレンさんはすごいですね、一発でモフメーを手懐けてしまうんですから」



こうして、俺は目当てのモフメーを手に入れた。



テイムされたモフメーは俺に寄ってくる。そして、俺の足元で止まる。



これでモフメーは俺たちと同様に戦闘に加わることができる。フレンドリースキルとして、俺がスキル発動の指示もできる。



一応、テイムしたモンスターを自分で倒すこともできる。経験値も手に入れることができる。もちろん反撃もされないので、楽に倒すことができるが、はっきり言って割に合わない。それなら普通に倒した方が早い。



ギルバートと一緒にいるメアリーがモフメーを触りたそうにしている。このもふもふを味わいたいのだろう。



しかし、いずれモフメーとは別れることになる。あまり情を持たせるわけにはいかない。



俺はモフメーに指示をする。モフメーはピンク色の粒子に変わって、俺の手に吸い込まれていった。



テイムしたモンスターは、このように出し入れ可能となる。最大10体まで、ストックを増やすことができる。



様々な状況に合わせて、モンスターを使い分けるのが、上級テイマーの戦い方だ。



「レンさん、良かったら今日は泊まって行ってください、レンさんのためなら、用意している最高級のお酒を出しますよ」



マーカスの提案に俺は即答した。



「じゃあ、そうする!」





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