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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第4章 英雄の決意
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王の復活



俺は次にヒドラの血清を届けるために、王城に向かうことにした。ユキは俺についてきた。



小腹が空いたので、途中にあった串焼きの肉を買って、2人でベンチで食べた。グランダル王は石化してるし、慌てる必要はないだろう。



「ちょっと、言い過ぎたかな」



俺は無意識にそう漏らした。フレイヤに言ったことを気にしてしまっている。



「あれでいいのよ、レンは何も悪くないわ」



ユキはそう言って、肉を小さい口に含んだ。それを飲み込んで続ける。



「私は氷雪の魔女であることに、今では感謝しているの」



「そうなのか?」



「ええ、生まれ変わるたびに大切な人に殺され続ける、そんな日々を送って、私は憎しみの中にいた、あの頃は氷雪の魔女であることを呪ったわ」



ユキは俺の目をちらっと見る。



「でも、レンに会えて私は解放された、今はこの力のおかげでレンの横に立てる、だから、氷雪の魔女で良かったって思うわ」



「そう言ってもらえると嬉しい、俺もユキには感謝してる、ユキがいなきゃここまで来れなかったしな」



「だから、フレイヤのことは仕方がないと思う、彼女は私達の旅について来れない」



「ああ、そうだよな、ごめん、柄にもないことしちゃったから、不安になってさ」



きっとユキなりに俺を励ましてくれたのだろう。



その後、2人でグランダル王城に向かう。俺は既に有名人らしく、門番に顔パスできた。ちょっとセキュリティが大丈夫かと不安になる。



エルザの執務室というところに案内される。爆弾によりお城が半壊しているため、元々客室だったところを執務室としているようだ。



部屋の前まで来ると、中から声が聞こえた。



「もうやだぁ! やりたくない! やりたくない! 全部切り刻む! 『剣嵐』で書類を細切れにするもん!」



「お、おやめください、エリス王女、剣は危ないので置いてください、少し休憩しましょうか」



「休憩していいの!? 朝からひたすら読んでハンコ押すだけで苦痛だったの」



「ええ、何か甘い物でも用意しましょう、だから剣を置いてください」



何かエルザが荒れている。兵士がノックする。



「エリス王女、レン様がお越しになりました」



「え! ちょ、ちょっと待って」



大急ぎで何かしている音がする。



「いいわよ、入りなさい」



ドアが開かれると、そこには凛々しい表情で机に向かうエルザの姿があった。



「今、私は執務中で忙しい、慣れない仕事だけれど国民のためになると思うと頑張れる」



さっき切り刻むとか言っていた気がするが、触れないようにする。



「それは大変だな、一応グランダル王を治すための血清を手に入れてきたから、報告にきた」



「うそ!」



エルザがガタっと音を立てて、立ち上がる。



「本当だよ、これがヒドラ毒の血清だ」



「レン……ありがとう、早速父上を治そう、おい、医者を呼んでくれ」



王国の医者達が手早く準備をし、俺は王の病室に案内される。



サミュエル=グランダルは、あの時の姿のまま、石像のように固まっている。



皆が注目する中、俺は万能薬を取り出す。まずは石化を解除しなければならない。万能薬を使用すると、柔らかい光のエフェクトが発生し、皮膚の色が戻ってくる。



俺はすぐにヒドラの血清をグランダル王に飲ませた。普通ならそんなにすぐに効果が出ないが、ゲームであるからその効果は一瞬で発揮される。



一気に顔色がよくなり、ダメージが止まる。成功したようだ。



「う……ここは」



グランダル王が起きあがろうとする。俺は後ろに下がった。エルザや身内の王族関係者が涙を流して、喜んでいる。



サミュエル=グランダルは良い王なのだろう。皆から慕われている。しばらく感動的なやり取りが続いた後、王は表情を切り替えて、国の現状を確認し始める。



王国関係者が今の王国の状況を伝えた。その後、グランダル王は俺を呼んだ。



「レン君、まずはありがとう、君に私は命を救われた、そして、私だけではなく、この国を救ってくれた」



「まあ、俺はこの国が好きですからね、当然のことをしたまでです」



「ふふ、さすが救国の英雄は言うことが違うな、すまんが、レン君と2人で話がしたい」



王はそう言って、人払いをする。何の話だろうか。人払いが済んだのを確認し、グランダル王は切り出す。



「ロンベルのことを話しておこう、私の教育が間違っていた、私は親として、息子の過ちを止めなくてはならない」



「でも、もうロンベルにできることはあまりないんじゃないですか?」



ロンベルの最大戦力だったベルゼブブとカーマインの脅威はなくなった。反乱軍の一部が残っているだろうが、何かが出来るとは思えない。



「違うんだ、ロンベルには王家の紋章がある、王家の紋章はベルゼブブの封印を解くだけではない」



それは初耳だった。ゲームではそんな情報なかった。



「ベルゼブブは最も新しく封印された災厄だ、文献なども多く残っている、しかし、他にも王家の紋章によって、解放される古代の災厄がある」



裏設定だろうか。しかし、さすがにロンベルがそこまで知っているとは思えない。



「そのことはロンベルも知っているのですか?」



「いや、恐らく知らないだろう、私も祖父から聞いた御伽噺のようなものだからな、だが王立図書館の文献に、そのことが書かれている本があるはずだ」



王立図書館。ゲームでもいくつか本を読むことはできるが、さすがに何万冊という全てのデータが用意されているわけではない。



読むことが出来ない飾りの本も多くある。俺も一応、ゲームで王立図書館の本は読破した。しかし、それは1つの書棚で一冊程度だ。一冊20秒くらいで終わる。



読める仕様になっていない本の中に、そのことが記されているのだろう。これではプレイヤーは認知出来ない。



俺は寒気を感じていた。その原因は分かっている。



唯一、この世界で王立図書館の全ての本の情報を持っている人物がいる。彼は天才的な暗記力で全ての情報を頭に入れている。



天才ネロだ。



ロンベルだけなら脅威ではない。しかし、もしネロと繋がってしまえば、意味が違ってくる。



その古代の災厄の封印というものが本当にあるのなら、ゲームでの情報は一切ない。俺でも対処しきれないだろう。



さすがに心配のしすぎかもしれない。しかし、俺はその想定があながち間違っていないと感じている。相手がネロだからだ。ネロはある意味行動が読みやすい。



もし図書館で古代の災厄の情報を手に入れ、ロンベルが王家の紋章を手に入れた状況ならば、ネロはロンベルを仲間に引き込むように動く。



あの時、ネロはグランダル城下町にいた。ロンベルと繋がったと見るのが良いだろう。本当にネロが厄介すぎる。



「分かりました、俺はこれからの旅でロンベルを見つけたら必ず捕まえます」



「頼んだ、私も王国騎士団にロンベルを捜索させる、ただの御伽噺なら良いのだがね」



俺はその後、グランダル王とエルザの話をして別れた。自分がいない間のことが心配だったのだろう。



元気に剣で書類を切り刻もうとしてますよ、と伝えたら嬉しそうに笑っていた。



いつでも隠居して王位を俺に譲っていいなんていう冗談を言ってきたので、慌てて辞退しておいた。なぜ皆俺を王様にしたがるのだろう。






















俺とユキは王城を出た後、買い物をしたり出会った町の人達と会話したりしてしばらく過ごした。飛空艇のことが噂になっているようだ。



買い物が終わり、そろそろ飛空艇に戻ろうとそちらに向かう。路地裏にパンツ一丁の男が寝ていた。その光景を見てアランは元気にしているだろうかとふと思った。



飛空艇に着くと、グランダル王国の兵士が大きな木箱を運んでいた。兜を被っているので表情は見えないが、かなり大変だろう。



兵士は俺に気づくと敬礼した。



「これは救国の英雄殿! 物資の搬入をしております!」



「物資の搬入? 誰がこんなに買ったんですか?」



「いえ、国から援助です!」



王家の誰かだろう。エルザかもしれないな、今度お礼を言わなければならない。



兵士は重そうな木箱を頑張って運んでいた。意外に力があるようだ。



荷物を積み込み終わると、ちょうど仲間が集まってきた。皆、準備が済んだようだ。



「よし、じゃあ、行くか!」



最初の目的地はマーカスの地竜牧場だ。ここで『テイム』を使って、あるモンスターを従える。



それが後に、俺たちが更に強くなるための布石となる。





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