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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第4章 英雄の決意
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狂犬の怒り



俺は冷静にアバランチとヘルハウンドの動きを観察する。アバランチのアームからのレーザーを射線に入らないように回避しながら、俺に向けられた攻撃とヘルハウンドに向けられた攻撃を区別する。



アバランチはヘルハウンドも攻撃対象となっている。だから、俺は無数のレーザーやミサイルを避けながら、アバランチにヘルハウンドを攻撃させる。



同時にヘルハウンドの攻撃を上手く誘導し、その一撃がアバランチに当たるように動く。ヘルハウンドの攻撃は一撃でアバランチを破壊する。これでアバランチの数を減らすことができる。



自分の回避とヘルハウンドとアバランチの攻撃の誘導、膨大な予測と計算をリアルタイムで行う。



脳が焼き切れそうになる演算。それでも今の俺にはそれが可能だった。自分の回避術の精度が更に研ぎ澄まされていくのを自覚できる。



いつかウォルフガングに言われた。何で笑ってんだって。あの時はそんなつもりはなかった。でも、その後自覚できた。



俺はそうゆう人間だ。この状況こそが1番強い。



ヘルハウンドの攻撃はもう俺には当たらない。振り回す腕はただアバランチを破壊している。



時間だ。俺の体内時計がリミットを告げた。ヘルマンの離陸準備が整った。



「ユキ! アバランチはもういい、飛空艇に乗り込んでくれ!」



アバランチを止めていたユキが離脱する。一気にアバランチが雪崩れ込む。位置的にまずは俺ではなくヘルハウンドが対象になる。もちろん無数の遠距離攻撃が多少飛んでくるが、距離が離れていれば回避できる。



俺はアバランチによるレーザーとミサイルの雨を踊るように回避する。ヘルハウンドは大量のアバランチにまとわりつかれ行動を制限されている。



俺はユキと共に飛空艇へと走る。後ろからの遠距離攻撃が続き、さながらSF映画の様相をなしてきている。映画ではなぜが主人公に銃弾が当たらないが、現実はそんな補正はない。俺が全ての軌道を計算することで回避していた。



このままなら行ける。俺はそう確信した。



飛空艇が見えた。白の機体に緑色のラインが光っている。搭乗口が開かれ、ポチとドラクロワの姿があった。



「もう行けるぜ! 早く来い!」



「わん! 早く!」



ドラクロワとポチが手を大きく振って言う。俺は今一度、ヘルハウンドの位置やアバランチの状況を確認する。



問題ない。むしろヘルハウンドを攻撃するアバランチの数が増えている。俺を追ってきているのは一部だ。



無理ゲーだと思っていたが、今回も何とか乗り切ることができた。



俺がそう思った瞬間、ヘルハウンドにまとわりついていた無数のアバランチが一瞬で弾き飛んだ。



















「え……」


















ヘルハウンドから黒い瘴気が立ち昇っている。



俺は絶句する。この光景を知っている。



7つの大罪系状態異常。悪魔が有する特殊技能。ヘルハウンドのHPがわずかになった時に発動される。



『憤怒』



奴のHPはまだ膨大に残っている。ここで憤怒になるわけがない。しかし、現実は違った。



憤怒は被ダメージが大きいが、攻撃力と素早さの向上が凄まじい。



更にまとわりつく黒い瘴気に触れるだけでダメージを受ける。その瘴気が攻撃時に広がるので全ての攻撃が広範囲となる。



俺は反射的に動いていた。もはやこの状態のヘルハウンドの攻撃を避けることなどできない。



『流水の構え』を成功させることなんてできるわけがない。カーマインよりも遥かに速い。『イリュージョン』を使うか迷ったが、俺は違う選択をした。



憤怒状態のヘルハウンド相手では『イリュージョン』で移動しても一瞬で殺される。



だから俺は後方に向け、思い切り飛んでいた。恐らく距離がギリギリ足りるはず。その瞬間、遠くにいたはずのヘルハウンドの姿が一気に大きくなった。その速度は俺の反応速度を超えている。



何が起こったのかもわからず、俺の視界は暗転した。














___________________



あの黒い犬が急激に強くなった。



レンさんはその一撃を反応すらできずに受け、凄まじい速度でこちらに吹き飛ばされてくる。



その衝撃的な光景に、何人かが悲鳴を上げた。



ヘルハウンドから離れたことで、大量のアバランチがこちらに向かってくる。



レンさんは昇降口のすぐそこまで吹き飛ばされて倒れている。あの一撃を受けて生きているはずがない。



ユキさんががレンさんに追いつき、泣きながら寄り添う。



ヘルハウンドからは黒い煙のようなものが消えた。まるでレンさんを倒したことで苛立ちが晴れたようだった。



そこで気がついた。ふと見回すと他の者達の表情は悲しみにくれていない。それにレンさんはまだ青い粒子に変わらない。



ポチさんの身体が淡く光り、遠吠えを上げた。それに呼応するようにレンさんが起き上がった。



「うわ! 死ぬかと思った!」



不思議な人だ。この人は普通の人間とは違う。



「よし! 飛空艇に乗り込むぞ!」



そう言って、ユキさんの手を取ってこちらに走ってくる。なるほど、レンさんはあえてヘルハウンドの攻撃を受けて吹き飛ばされることで、飛空艇までの距離を近づけたのだと気づいた。



ヘルハウンドがレンさんが生きていることに気づき、突進してくる。しかし、先ほどの黒い煙はない。速いには違いないが、あの時とは比べ物にならない。きっとあの黒い煙は自分の意思で発動できないのだろう。



レンさんとユキさんが飛空艇に滑り込む。ヘルハウンドにはまだ距離がある。



「ヘルマン! 閉めてくれ!」



レンさんの叫びでマスターがレバーを操作する。ドアが上に上がり始める。



これで作戦は成功した。ドアが閉まれば勝利だとレンさんが言っていた。



ドアが上に上がっていき、あと少しで閉まる。ヘルハウンドはもう間に合わない。



その時、ドアが僅かな隙間を残して、静止した。



「な!?」



レンさんの表情に焦りが生まれる。先行して追ってきていたアバランチのアーム一本がドアの隙間に挟まれていた。



そこから無数のアームが現れ、ドアをこじ開けようとしてくる。ギルバートさんが射撃でドアを掴んでいるアームを攻撃するが、アームの数は増えていく。



締まりかけた扉は再び開き始める。何体ものアバランチが狭い入り口から入ってこようとする。



「フレイヤ、ヘルマン、ラブちゃんは隠れてくれ!」



飛空艇の中にアバランチからのレーザーが射出される。その攻撃に耐えきれない人たちをレンさんは避難させようとしている。



「おい! どうすんだよ! レン!」



何とかアバランチを扉から引き離そうとしているドラクロワさんが大声を出す。



レンさんからの答えはない。きっとこの状況を打開する策がないのだろう。アバランチの隙間からヘルハウンドが近づいてきているのが見えた。



ワタシは隠れているマスターを見た。この人を死なせたくない。



理由はそれだけで良い。



だから、ワタシは立ち上がった。






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