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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第4章 英雄の決意
188/370

それぞれの役割


_______________



俺は作戦を共有し、各自準備を整えた。あとはその時を待つだけだ。



今回、鍵となるのはユキだ。ユキの役目は非常に重要で、彼女の働きによって作戦の成否が決まる。



「ユキ、大丈夫か?」



俺とユキは第六実験室にいる。緑色に光る酸のプールがある部屋だ。



「ええ、大丈夫よ、私は必ずやり通すわ」



「きつい役回りで悪いな、これが出来るのはユキだけだから」



「むしろ光栄よ、私がみんなの、レンの役に立てることが、だから、成功したら何がご褒美を欲しいかも」



「ああ、何でも言ってくれ、俺にできることなら何でもするよ」



「それなら全力を尽くすことにするわ」



大きな遠吠えが聞こえた。遂に時間が来たようだ。



この部屋は通路に面して強化ガラスの窓がある。俺はそこにヘルハウンドが見えるのを待つ。



ヘルハウンドが近づいてくる音がする。同時にアバランチが暴れる音も聞こえてくる。



俺は仲間を切り捨てることができない。仲間がいるからこそできることがある。それは弱さであり、強さでもある。



通路にヘルハウンドが現れたのを視認する。背中にマルドゥークを乗せている。



「頼んだぞ! ユキ!」



俺は薬品プールに飛び込むようにジャンプした。そして、落下が始まった瞬間にスキルを使用する。



『スイッチ』












_________ユキ__________



レンの代わりに巨大な黒い犬が現れる。そのまま酸のプールに沈み、苦痛の声を上げる。



私はすでに魔法陣を構築している。最強の氷雪魔法。



【ニブルヘイム】



極寒の冷気により、酸のプールもヘルハウンドごと凍りつく。



私がここでヘルハウンドを足止めする。物理ダメージ無効である私にしかできない仕事だ。



ヘルハウンドはその怪力で氷を割りながらプールから出ようとする。私はバルブを捻り、天井にあるパイプから水を入れる。



【フリーズ】



そして、その水を更に凍らせてヘルハウンドの動きを押さえる。ヘルハウンドは獰猛な声をあげながら、必死に暴れている。



ヒドラを倒したのと同じ戦法だ。氷漬けすることで行動を抑える。



しかし、ヒドラとは明らかに違う。信じられない力だ。新しい水で凍らせ続けているが、次々とヒビが入っていく。



ヘルハウンドの右前足が外に出てしまった。私には追えない速度で爪の攻撃を受ける。その威力で身体が壁に叩きつけられる。しかし、ダメージは入っていない。



これで良い。レンはヘイトを稼ぐという言い方をしていた。私がヘルハウンドを攻撃して怒らせて、標的を私に固定する。



「さあ、ワンちゃん、遊びましょ」



私はヘルハウンドの顔面に氷柱を叩き込んだ。











__________________




俺はヘルハウンドと場所を入れ替え、瞬間移動する。ヘルハウンドが消えたことで、上に乗っていたマルドゥークが落ちてくる。



マルドゥークは急に自分が乗っていたヘルハウンドが消えて、目を白黒させている。そして、俺が現れたことに気づき、鬼の形相を作る。



第六実験室からはヘルハウンドの悲痛な叫びが聞こえてくる。薬品プールにダイブさせたのだから当然だ。そして、その部屋でユキにヘルハウンドの相手をしてもらう。



ヘルハウンドは完全な物理タイプだ。『物理ダメージ無効』のユキとは相性が良い。



「貴様! 主の意思に背きし、大罪人に、っがああああ!」



マルドゥークは俺を攻撃しようとするが、後ろから追ってきているアバランチのレーザーに撃ち抜かれてダメージが入る。



ヘルハウンドはアバランチよりも素早さが高いので、ここに来るまで距離を開けられていたが、マルドゥークは素早さがあまり高くない。このままだといずれ追い付かれる。



俺なら辛うじてアバランチより速いが、あえてスピードを落としてマルドゥークに合わせる。



アバランチが迫ってくる。このままでは追いつかれる。マルドゥークは俺に攻撃する余裕もなく、必死でアバランチから逃げる。



俺は後ろを振り返る。そろそろ限界だろう。だいぶアバランチに距離を詰められた。先程からレーザーやミサイルが飛んでくる。



俺はあるアイテムをアバランチに向けた。目を限界までぎらつかせたタメコミベアーだ。あえて、ギリギリまでフレイヤの爆裂魔法を溜めさせた。



「吹き飛べ!」



俺はタメコミベアーを解放する。後方に向かって凄まじい爆発が起こる。アバランチ達が吹き飛ばされる。これによりアバランチ達と距離が生まれた。



これが爆裂魔法のメリットだ。



爆裂魔法は広範囲に攻撃をすることができるが、味方もダメージを受けてしまうというエルザの『剣嵐』と同じ迷惑仕様になっている。



ダメージ量も多いので、巻き込まれると厄介だが、実は爆裂魔法の真価はそこじゃない。



爆裂魔法が全属性魔法の中で1番秀でているのは、ノックバック効果だ。最もノックバックが大きく、重さの数値が多少高くても問答無用で吹き飛ばすことができる。だから、相手と距離を取りたい時に重宝する。



俺とマルドゥークはガーディアンがいる最終ラボに逃げ込む。アバランチには多少距離をあけられている。アバランチはある一定距離にならないとレーザーを撃ってこない。この距離なら大丈夫だ。我ながら完璧な調整だった。



その入り口に配置についていたフレイヤがいた。悠然と腰に手を当てて仁王立ちしている。その横にリンも立っている。



「やっと出番だな! 派手に暴れるぜ!」



「頼んだ! フレイヤ」



爆裂魔法の使い手。その力は今こそ発揮される。



艶王アリアテーゼは魔法でジャガーノートを近づけさせないようにしていた。あれは『魔導の真髄』により、クールタイムが極小になっていたから可能だった。



そして、フレイヤは爆裂魔法のみ、同じ効果を得ることができる『爆裂の真髄』を持っている。



彼女の爆裂魔法は鉄壁の壁となる。攻撃ではなく、防御においてその力を発揮する。



俺とマルドゥークはフレイヤとすれ違うように奥に進む。フレイヤはアバランチが押し寄せてくる通路を塞ぐように立っている。



「フレイヤ! やってくれ!」



「ああ! テンションが上がってきたぜ!」



フレイヤの瞳が赤く光り始める。『爆裂ブースト』だ。これで爆裂魔法のダメージは倍増する。



フレイヤが腕を通路に向ける。全身から魔力が立ち昇る。



「パーティータイムの始まりだ!」



パチンっと指を鳴らす。その瞬間、今まで見た中で1番激しい爆発が巻き起こった。



フレイヤは舞う。その動きに連動して、次々に爆裂魔法が炸裂する。



凄まじい爆風と音、光。それが何度も何度も巻き起こる。アバランチ達はもはや吹き飛ばされるだけのガラクタに成り下がる。近づくことができない爆炎の壁だ。



爆発音をBGMにフレイヤは踊る。赤い髪を靡かせ、リズムに乗って、身体を動かす。その動作に連動するように赤い魔法陣が次々と展開されていく。



「気持ち良いぜ! 最高だぁ!」



同時にリンがフレイヤの横でエクストラマナポーションを使い続けている。凄まじい速度でMPが消費されていくからだ。エルドラドのカジノで大量に仕入れていてよかった。



これでアバランチの足止めは完了した。安全が確保されたと分かり、逃げに徹していたマルドゥークが俺に攻撃を仕掛けてくる。



「この邪教徒がぁ!」



俺はその拳をあっさりと回避する。攻撃が当たらないと分かったマルドゥークは次の手を打つ。



『宣教の儀』



俺は慌てて、有効範囲からバックステップで離れる。今これを受けたら全てが終わってしまう。



その瞬間、背後から金属が軋むような音と、モーターの作動音のようなものが聞こえ始めた。



スキルを発動したマルドゥークが、驚愕の表情で俺の背後を見ている。『宣教の儀』を避けるためにバックステップしたことで、奴の起動範囲に入ったからだ。



俺は振り返る。巨大なガーディアンが赤い目を点灯させ、俺の後ろで動き始めていた。



最強の防御性能を誇り、自動回復機能を有するガーディアン。倒すのに膨大な時間がかかるこの研究施設のボスだ。



複数の金属製のアームが生き物のように動き出す。表情のない頭部には赤く光る目があり、確実に俺とマルドゥークを視認していた。





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