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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第4章 英雄の決意
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マルドゥーク戦



これで仲間の安全は保証された。バフのない信徒では俺の仲間には何人集まっても勝てない。あとはマルドゥークを俺が何とかすれば良い。



幸いマルドゥークは素早さが高くない。普通の追いかけっこで俺が負けることはない。



だから、敢えてスピードを落として、マルドゥークを誘い出す。



「そ、それは大切なものです! 今すぐ返しなさい! ぶちのめしますよ!」



マルドゥークの必死さが伝わる。それだけこの教典が大切なのだろう。



俺は1つの部屋に逃げ込んだ。扉を閉める。マルドゥークもドアの前に着き、開けようとするが開かない。ガンガンとドアを叩く。



「もう逃げ道はありません! 絶対にあなたに危害を与えないと約束します! 部屋の中に私を入れなさい」



母親の、絶対怒らないから正直に言いなさいと、同じぐらいの信憑性だ。間違いなく怒られるやつ。



「いやだよ! 絶対攻撃してくるし」



「しませんよ、しませんとも、私は神に仕えし身、手荒なことなど望みません」



「さっき、ぶちのめすって言ってたけど」



「ははは、言葉の綾ですよ、我々の業界ではぶちのめすというのは、よしよしと頭を撫でることを言うのです」



「あ! そうなんですか? てっきり乱暴されるのかと思って逃げてしまいました、じゃあ、今開けますね」



「それは勘違いさせてしまいましたね、失礼、では開けてください」



「……」



「……」



「……」



「……」



「早く開けろよ! 殺すぞ!」



「殺すって、あなた達の世界ではどうゆう意味なんですか?」



「くっ、人をイラつかせる天才ですね!」



「いやー、それほどでも」



それから、マルドゥークをおちょくりまくって、奴のストレスはピークに達していた。



そろそろ時間だ。



「なあ、頼むよ、俺とお前の仲じゃないか? 入れてくれよ」



何か一周回って、マルドゥークが友達のように話しかけてくる。



「ええ、今入れてあげますよ」


















『スイッチ』
















俺は『スイッチ』で部屋の外のマルドゥークと場所を交換した。



希望通り部屋の中に入れてあげた。()()()()()()()()()()()()()()の中に。



俺は薬品実験室に立て篭もった。そして、毒ガスが噴射される時間まで待って、マルドゥークと入れ替わった。



毒ガスのようなイベントでのダメージは、スキルによる『毒無効』などが効かない。だから『アザールの祝福』で守られているマルドゥークを殺せる可能性も考えられる。俺はそこに賭けてみることにした。



「くっ、こ、これはガス! く、くそ、貴様」



俺はドアに近づき、あるスキルを使用する。そして、薬品実験室を離れて、再びセクター3に戻った。



入り口では信徒達が右往左往している。指揮してくれるマルドゥークがいなくなり、どう動いて良いのか分からないのだろう。



皆が上手くやったようで、信徒をセクター3に入れずにセキュリティが作動している。信徒達を吹き飛ばして、その隙にセクター3に入ってセキュリティを作動させたのだろう。



これで信徒達は進むこともできなくなっている。だから、俺は彼らに向かって言った。



「信徒よ、我らがアザール教に仇なすものは、この研究施設の外へと逃げ出した、全員で奴を見つけ出す」



「……」



あれ、反応が悪い。



「と、主はおっしゃられた!」



「「「「「ア、ザール!」」」」」



信徒達はぞろぞろと研究施設の入り口へ移動し始めた。



俺は先ほどマルドゥークの姿を『イミテート』でコピーした。姿形、声まで本物と変わらない。これで奴らは騙されて研修施設が出ていく。



全員の姿が見えなくなったところで、『イミテート』の効果時間が切れた。元の姿に戻る。



「すごいな……てっきり本当にレンの旦那が外に逃げたのかと思った」



「わん! 僕は分かってた! におい同じ」



「よし、じゃあ、セキュリティを解除してくれ」



これで俺がセクター3に入り、もう一度セキュリティを付ければ良い。奴らにトラップのレーザーを回避する力はない。



「レン! 後ろ!」



リンからの声がかかり、俺は振り返る。もしマルドゥークが毒ガスによって死ななかったとしても、まだあの部屋から出れないはずだ。



そこには神獣様がいた。おすわりをしてこちらを見ている。信徒達が外に連れて行ったはずだ。



嫌な予感がする。



黒い犬は俺を見つめている。きっと大丈夫。ダメージを与えない限り問題ないはず。俺はゆっくりと一歩下がった。



その瞬間、黒い犬が膨張し、体積が一気に増え始める。ゲームでは起こらないはずのことが起きた。



「まずい! セキュリティを絶対に解除するな!」



セキュリティを解除しようとしていたラブちゃんを止める。



俺は一気に走り出す。黒い犬はいつのまにか巨大な四足歩行の怪物になっている。獰猛な声を上げながら、突進してくる。明らかに俺より速い。一気に距離を詰められる。



アザール教の神獣、ヘルハウンドだ。こいつには300レベルあっても勝ち目がない。



俺は無理矢理、セクター3に突っ込む。セキュリティが発動し、無数の銃口が天井から現れて俺を狙う。



俺は集中する。時の流れが緩やかになる。視界に入る物全てを知覚する。そして、視界に入らない部分を予想する。



レーザーは高速だから発射されてからの回避は不可能。しかし、発射される前なら回避可能だ。銃口の射線に身体を入れないように動く。



イメージは常に無数の銃口から赤い線が出ている状況だ。その線に一切身体を触れさせないように回避する。



同時に後ろから迫っているヘルハウンドの動きも捉えなければならない。



ヘルハウンドの腕が伸び、爪が俺を切り裂こうとする。俺はレーザーの射線を身を低くして回避すると同時にその爪を紙一重で横に交わす。



ヘルハウンドの手にレーザーが放たれ、悲痛の声を漏らす。強引にもう一撃、攻撃を放ってくるが、俺は前に飛び込んでギリギリ避ける。飛び込みながら、手で地面を押し、身体を宙に浮かせる。



空中で身体を捻り、俺に向けられる全てのレーザーを回避する。



そして、俺は転がるように着地した。無事にレーザーを抜けた。



「はぁはぁ、久しぶりにこんなに集中したな」



ヘルハウンドはセキュリティレーザーに撃たれ、こちらに入ってくることが出来ない。唸り声を上げながらこちらを睨んでいる。



「大丈夫か! レン」

「大丈夫!?」



ユキとフレイヤが駆け寄って、俺を起こしてくれる。



「ああ、大丈夫だよ」



リンは俺をじっと見ていた。それから、ヘルハウンドの方を見る。きっと頭の中で今の回避をシミュレーションしてるのだろう。



だからこそ、感じるはずだ。今の動きはリンには出来ない。これが俺とリンの差だ。



リンは英雄としての回避術を身につけた。しかし、俺とはまだ差がある。リンには悪いが、超えられるつもりはない。



「このまま先へ進もう、奴らは入って来れないはずだ、出口を塞がれても俺達は飛空挺で脱出できる」



ヘルハウンドが何度も俺達に吠えていた。入ろうとするが、レーザーに撃たれて入って来れない。



俺はアザール教典をセクター2の方に投げた。物にはセキュリティが反応しない。



そうしたのには理由がある。マルドゥークが毒ガスでも死んでいなかった場合のことを考えた。



俺がアザール教典を持っているならば、マルドゥークは地の果てまで追ってくるだろう。しかし、それを返されれば、わざわざ危険な橋を渡って俺を追って来ない可能性がある。



もし死んでなければ、いずれ奴はセクター3の入り口にやってくる。



セキュリティのレーザーは即死レベルのダメージを受ける。あれを何発も受けて生きているヘルハウンドが異常だ。



マルドゥークは『アザールの祝福』のスキルを持っている。つまりレーザーで何度殺されても死なない。



そうなればレーザーに何度も撃たれながら、無理矢理セクター3に入り、セキュリティを解除できる。死ぬたびに復活まで時間がかかるのである程度の時間稼ぎはできるが、時間をかければ、クリア可能だ。



マルドゥークだけならまだしも、ヘルハウンドはやばい。もしヘルハウンドがセクター3に入ってくれば、俺達は全滅する。



俺達が飛空挺を手に入れるためには、超耐久ガーディアンレースをしなければならない。そんな時間、奴らが待ってくれるとは思えない。



ヘルハウンドがあの場にいる限り、入り口に戻ることもできない。完全に袋のねずみだ。



これは賭けだ。マルドゥークを毒ガスで倒せているか、教典が見つかり俺たちのことを諦めてくれたら、俺の勝ち。



マルドゥークが毒ガスで死んでおらず、かつ俺達を無理矢理追ってきたら俺達の負けだ。




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