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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第4章 英雄の決意
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アザール戦



一斉にアザール教徒が襲いかかってくる。俺達も戦闘準備に入る。



「フレイヤとヘルマンは下がれ! ラブちゃん、2人を頼んだ!」



「お任せください」



フレイヤは魔法を封じている。というかあいつが戦闘に参加したら俺達にも被害が出る。ヘルマンはレベルが著しく低い。まともに戦ったら殺される。



周囲にいる雑魚達をドラクロワがデストロイヤーの一振りで吹き飛ばす。



「あ? 何だこいつら、弱いな」



すぐに動かなくなるが、青い粒子に変わらない。



ドラクロワとポチがマルドゥークに一気に接近する。



「やめろ! だめだ!」



攻撃を加える寸前に2人は俺の声を聞き、地面を蹴って後退した。



「ふふふふふ、あなた、なぜ知っているのですか?」



マルドゥークは不気味に笑う。



「おい! 何で止めたんだよ!」



「奴は『ダメージ反射』のスキルを持っている」



『ダメージ反射』ドラクロワがネロとの戦いで使われたスキルだ。発動中、ダメージを受ければ同じダメージをそのまま相手に返す。発動させて効果が切れた瞬間に攻撃をするしかない。



ドラクロワやポチのような攻撃力が高いアタッカーではその効果は計り知れない。



「ああ、あのガキが使ってた奴か」



倒したはずの教徒達が再び立ち上がる。こいつらはマルドゥークを倒さない限り、死ぬことがない。



「恐れ入りました、なぜ私がその力を持っていることを知っているんですか? 不思議な方です」



マルドゥークは『ダメージ反射』の他に、『アザールの祝福』というパッシブスキルがある。これはマルドゥークと部下達のHPが0にならなくなるというものだ。更に信徒に様々なバフを付与することができる。



HPが1になれば、一時的に動きを止めるが、すぐに最大値まで回復して行動を再開する。つまりマルドゥークは倒すことが不可能な相手だ。



「アザール教典、第5章、7節、主は仰られた、敵対するものがいても、憎んではいけない、隣人を愛するような気持ちで……拳を叩き込め」



「「「「「ア、ザール!」」」」



信徒全員の身体が光り始める。『アザールの祝福』により、マルドゥークが教典を読み上げる度に、様々なバフが入る。今のは信徒全員の攻撃力増強だ。



また向かってくる信徒を全員が対応する。マルドゥークは後ろに下がり、次々と教典を読み上げている。



信徒達は不死な上、少しずつバフの影響で強くなっていく。



「くそがぁ、埒があかねぇ」



「旦那、俺があの男を狙う!」



ギルバートが銃をマルドゥークに向ける。ギルバートの判断は正しい。ギルバートは攻撃力がそこまで強くない。



『ダメージ反射』を使われても、ギルバートへのダメージは少ない。それにここでスキルを使わせることで、効果時間が切れたタイミングでポチやドラクロワの攻撃が通るようになる。



マルドゥークのHPが0になれば、しばらくは復活しない。逃げる余裕も生まれる。



ギルバートが狙おうとするが、信徒達がマルドゥークを守るように射線に入ってくる。



「くっ、悪い! 狙えない」



「それなら私が広範囲攻撃するわ」



ユキが複数の氷柱を空中に作る。俺は慌てて止める。



「ユキはダメだ! 『ダメージ反射』は入ったダメージが直接返ってくる、『氷属性吸収』のユキでも、マルドゥークに入ったダメージを直接受ける」



ユキは多くの無効スキルにより守られているが、単純なステータスはかなり低い。最大HPが低いので、自分の魔法ダメージが返ってくれば、呆気なく死んでしまう。



『ダメージ反射』はその者が受けたダメージを直接与えるため、防御力や無効スキルなどが、意味をなさない。



その時、風のように信徒達の間をすり抜けて、マルドゥークに接近する存在があった。



リンだ。信徒達の攻撃を華麗なステップでかわし、緩急を付けながら、間を縫っていく。



アタッカーとして、自分しかいないと判断したのだろう。リンならば、『ダメージ反射』されても一撃は重くない。



一気にマルドゥークの後ろまで回り込み、エクスカリボーを叩き込む。



ダメージが入り、マルドゥークが顔を歪める。リンの攻撃が軽いと思って、あえて『ダメージ反射』を温存した。しかし、予想以上のダメージだったのだろう。



マルドゥークはメリケンサックでカウンターを放つ。何の捻りもない殴打。それは彼女には通用しない。



リンは紙一重でその拳を避け、流れるような動作で顎と腹に連撃を入れる。戦闘技術はリンが圧倒している。



マルドゥークがあるスキルのモーションに入る。



「リン、離れろ!」



俺の指示にリンはバックステップで距離を取る。



「神に背きし者に……救いを!」



マルドゥークの周りに魔法陣が広がる。リンが辛うじて、その範囲外にいた。



『宣教の儀』というスキルだ。効果範囲に入ったものを一定時間、信徒とすることができる。



ゲームでは非常に厄介なスキルだった。鍛えたパーティメンバーが敵に回ってしまう。俺も覚醒ポチが敵に回って殺されたことを覚えている。ポチのステータスが、高すぎて回避し切れなかった。



プレイヤーである自分があのスキルにかかったら終わりだ。自害させられて、殺される。



ゲームでは、敵に回った仲間を倒して終わりだったが、現実では本当に殺してしまうことになる。もしマルドゥークが自害を指示すれば、俺達に阻止する方法はない。



「……あなたはなぜそこまで知っているのですか? ゼーラの手の者ですか?」



マルドゥークが笑みを消している。俺が知りすぎているのを不信に思っているのだろう。



「いや、本当にゼーラとか関係ないから、見逃してほしい」



「申し訳ありませんが、それはできません、主の意思です」



問題は『アザールの祝福』だ。これがある限りマルドゥークを倒すことはできない。何度でも復活をしてしまう。マルドゥークの動きを封じ、その間に逃亡するしかない。



俺はマルドゥークに向かって一気に加速した。信徒達の攻撃を一切スピードを緩めずに回避する。リンはまだ甘い。ステップをする際にわずかにスピードが落ちていた。



マルドゥークが身構える。俺はあえて隙を作る。



マルドゥークが俺の隙に誘われる。反射的に奴は俺に拳を放った。それを直前で避ける。奴の目には俺が消えたように見えただろう。



俺はそのまま流れるような動作で、マルドゥークの向こう側へと移動する。



「全員、セクター3に向かってくれ! 中に入ったらセキュリティの電源を入れろ!」



俺はそう言うと、セクター2の方へ全力で走り出した。



「あと言い忘れた! 神獣様に絶対にダメージを与えるな!」



実はあの神獣様が1番やばい。戦いになったら、勝ち目がない。確かイベントではダメージを与えない限り、変身しないはず。



「ふむ、自分だけ逃げるとは、臆病な男ですね……」



マルドゥークが俺を見下している。俺は逃げてるんじゃない。お前を誘ってるんだよ。必ずマルドゥークは俺を追ってくる。



だって、大切な物を俺が持ってるんだからな。



「ん? あ、ああああ!! ない! ない!」



気づいたか。俺はさっきの攻防で、奴の教典を盗んできた。これがなければ、信徒にバフはかけられない。バフがない状態なら、俺のパーティで余裕だ。



「か、返しなさい!」



マルドゥークが俺を追ってくる。俺の計算通りだ。




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