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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第4章 英雄の決意
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心当たり



俺達はセクター2で情報を手に入れ、セクター3に向かう。セクター3に入るにはセキュリティゲートを突破しないとならない。



このセキュリティゲートは無理に入ろうとするとレーザーで即死させられるというトラップ付きだ。



「ワタシならこの先へ行けます」



そう、ここでラブちゃんの出番となる。ラブちゃんに埋め込まれたチップにより、彼女はこのゲートの通過を許可される。



ラブちゃんはゲートをあっさり通過し、向こう側にあるセキュリティ装置の電源を落とす。これで他の人も通れるようになった。



ちなみに実はラブちゃんがいなくても何とかなったりする。無理矢理突破して、レーザーを全て回避すればよい。このレーザーはガーディアンの『致死レーザー』とは違い、銃口が存在する。銃口の軌道に身体を入れないようにすることは英雄なら可能だ。



全てを回避して、セキュリティ装置まで辿り着き、電源を落とせばよい。



今回はどのみち装置を操作してもらうためにヘルマンが必要だったから、わざわざそんなことをする必要もなく、ラブちゃんに任せた。



この役目はアドマイアでも可能だ。ネロはアドマイアに頼んでセクター3に入ろうとしただろう。しかし、ネロはこれより先に進むのを断念した。



「さあ、いよいよ、セクター3だ、ここからは気を引き締めてくれ」



ここからは別次元。警備ロボットがラブちゃんの型ではなくなる。強さが別格だ。



「いいか、これから出会う敵とは戦闘を回避してくれ、まともに戦ってはいけない」



「そんなに強いのか?」



「ああ、倒せないことはないが、逃げる方が得策だ」



魔神兵器アバランチ。初期状態は流線型のシルエットを持つ3メートル近くの身長がある人型だが、敵を視認した瞬間、複数のアームを展開する。



縦横無尽に動くアームからは、レーザーやミサイル、チェンソーなどの攻撃が360度から高速で行われる。同時に本体はその巨体からは考えられないほど速い。



普通のプレイヤーなら1秒も持たない。もはや何をされたかもわからずに死亡する。



だから、敵として視認されれば終わりだ。これはレベル300を超えていても同じだろう。



LOLの敵の中で最も回避が難しい敵として知られている。



「アバランチ……」



リンがその名を呟く。彼女には以前に教えていた。英雄としての回避等級。ナイトメア級を超えるアバランチ級。



だが、今回は修行をするつもりはない。正直、ナイトメア級があれば戦闘では十分だし、何より危険過ぎる。



ゲームでは何度死んでもコンティニューすれば良かったから、俺は何度もアバランチに挑んだ。そして、アバランチ級の回避術を手に入れた。



リンには『極根性』があるから、それが発動したら終わりでも良いが、時間効率はかなり悪くなるし、その後、無敵時間内にアバランチから逃げ切れる保証もない。



リンには悪いが、ここでは修行をすべきではない。



「ん?」



ポチがぴくっと何かに反応した。



「変な匂い」



そう言って後ろを振り向く。俺は一瞬自分の体臭かと焦り、思わず匂いを嗅いでしまった。



次にドラクロワがデストロイヤーを構えた。



「確かに、何か近づいてきてるな、嫌な匂いだ」



ポチもドラクロワも人間よりかなり鼻が効くらしい。



これはイレギュラーだ。ゲームではこんな展開はなかった。



研究施設内でセクターを移動してくる敵なんていないし、そもそもこの研究施設の場所を知っている者など限られているから、外部からの侵入とは考えづらい。



「ネロか?」



ポチが首を振る。



「ネロさんは良い匂いだよ、甘いの」



ネロは甘い匂いがするらしい。ネロでないとすれば、他に心当たりはない。なぜいつもこうフラグを回収してしまうのか。



「来るぞ」



ドラクロワの一言で俺達の緊張は一気に高まる。全員が戦闘体勢に入る。



そして、そいつは曲がり角から姿を見せた。














「わん!」














黒くて、ちっちゃい子犬だった。尻尾フリフリしてて可愛い。












「は?」



ドラクロワが拍子抜けしたような顔で武器を下す。



「ガルルルル」



ポチは逆に威嚇するように唸り声をあげている。俺の緊張感は一気に高まった。



「全員、油断をするな!」



俺は相手が誰か理解した。これはポチの反応の方が正しい。油断なんてしてる暇はない。最悪の展開だ。



俺は必死で頭を回転させる。奴らへの対策を何もしていない。本来であれば、入念な準備の上で挑むべき相手だ。



「神獣様! お待ちください!」



ちっちゃい子犬を追って、何人かの黒ずくめの集団が後から現れる。全員、黒いフード付きローブに、白い不気味な笑顔の仮面を付けている。



1番先頭にいたがたいの良い人物が、子犬に追いついて抱き上げた。



「勝手に走り回っては困ります、神獣様」



そして、改まったように俺達を見渡した。その男は子犬を近くの者に預けて、フードと仮面を取った。



スキンヘッドで目の横にタトゥーが入っている。アングラなお兄さんにしか見えない。



見た目に反して、その男は満面の笑みを浮かべた。



「初めまして、私はアザール教の司教をしております、マルドゥークと申します」



アザール教。ゼーラ教が邪教と迫害する宗教だ。セルバ森林に聖地があるが、ここからは離れている。奴らが研究施設を訪れる展開などゲームにはない。



「ああ、そんなに警戒をしないでください、我々はあくまでただの宗教団体、神に仕えし身ですから」



人懐っこい笑みで、マルドゥークは言う。外見に比べて随分と腰が低い。



だが、俺はこいつの本性を知っている。



「何か用ですか? 俺達も敵対する意思はありません」



俺は慎重に言葉を選ぶ。何の準備もしていない以上、こいつらとの戦闘は避けたい。ゲームのイベントではない以上、言葉による説得は可能だろう。



俺はずっと奴らがここに現れた理由を考えていた。心当たりは全くない。



「いえ、昨夜、空に向けての大きな爆発があったので、様子を見にきただけです」



めっちゃ心当たりあった。



確かにあんな巨大な爆発があれば、様子を見に来るのが自然の流れだろう。



「あー、あれはですね、ちょっとした、事故でして」



俺が言い訳を述べようとすると、マルドゥークが分厚い本を取り出した。



「ご安心を、私たちは争いを好みません、神のお告げを聞くだけです」



そして、パラパラと本を捲る。



「アザール教典、第5章、4節、主は仰られた、疑わしき者がいても疑いをかけてはならぬ、疑念を抱くのならば、その者を……」



俺は知っている。アザール教がどのような宗教か。


























「慈愛の心を持って……ぶちのめせ」



「「「「「ア、ザール!」」」」













全員が謎の掛け声をあげる。やはりこうなってしまった。アザール教は頭がおかしいほど、好戦的な宗教だ。



「我らが主の命ならば仕方ありません、それではアザール教に伝わる神聖なる宝具により、悪を祓いましょう」



そう言って、後ろに控えていた部下が、桐箱を差し出す。マルドゥークはそれを開き、中から宝具を取り出す。



「神聖なる力により、悪を払う道具、それがこの博愛の導き」



そういって、博愛の導きを手に嵌める。それを世間一般ではメリケンサックと呼ぶ。



「さあ、信徒諸君、哀れな子羊に救済を!」



「「「「「ア、ザール!」」」」」





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