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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第4章 英雄の決意
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魂のありか



食事が終わり、休むことになった。もちろん念のため、交代で誰かが起きて見張りは立てる。



俺とドラクロワ、リン、ギルバートがローテーションを組むことになった。ポチは絶対途中で寝てしまうので、ずっと寝ててもらう。



まずは俺の番なので、外に出てその辺の岩に腰掛ける。考えるべきことがあまりに多く、正直少し疲れている。



その時、研究施設の自動ドアが開き、ラブちゃんが姿を見せた。



「どうしたんだ? 見張りは俺がしとくよ」



「ワタシは寝るという機能が搭載されていません、ですので、ワタシも見張りをしましょう」



そう言って、俺の横までやってきて、同じように腰を下ろした。



しばらく無言がつづく。何か気まずい。ラブちゃんとの共通の話題を探しはじめる。好みのメンテナンスオイルの話でもすれば良いのだろうか。



「レンさんは、魂というものは存在すると思いますか?」



俺がメンテナンスオイルの話を振ろうとしたら、先を越された。



「魂? いや、あんまり考えたことないな」



「ワタシは人間ではありません、作られたAIです、ワタシには人間にはある魂がないのでしょうか?」



「……そもそも、人間に魂ってのがあるのかもわからないよな、そんな難しいこと考えたことない」



「では、ワタシと人間の違いを教えてください」



「……」



改めて考えてみると、思いつかない。もちろん外面的な違いはある。皮膚の色も身体の作りも違う。だが、内面的なものを考えると、違いはないのかもしれない。



「ワタシは作られた存在です、だから、ワタシの気持ちは人工的なもので、本当にワタシが望んだものではないのかもしれません」



「それは違うと思うよ」



「違いますか?」



「ヘルマンが作ったのはあくまで思考をするAIでしょ、ラブちゃんがどのように思考するかは、ラブちゃん自身が今まで蓄積してきた記憶のデータに基づいている、だから、今ラブちゃんが思っていることはラブちゃん自身の思考だよ」



「ワタシ自身の思考」



「そう、たとえばさ、量産型でラブちゃんが他にもいたとして、全く違う環境で別の記憶を蓄積すれば、ラブちゃんとは別の考えをする個体になると思うし」



「そうですか、では記憶の蓄積が魂というものでしょうか」



「ん、まあ、そうなんじゃない?」



「その定義でいけば、人間もそれまでの人生で蓄積した記憶によって構成されています、その記憶の蓄積を魂と呼ぶのであれば、ワタシにも魂があることになります」



「じゃあ、それでいいじゃん、ラブちゃんにも魂があるんだよ」



ラブちゃんは表情が変わらない。その機能がないからだ。しかし、俺には笑っているように見えた。



このゲームの世界のキャラクター。本来ならば自我を持たないNPCも、それぞれの記憶の蓄積により、自ら考えることになり、魂を手に入れる。



そして、もし逆に本物の人間の蓄積された記憶もデータ化することができたら、それは魂のデータだ。それはコピーしたり、転送したりできるのかもしれない。



俺はそんな馬鹿げた思考をしてしまった。SFの見過ぎだろうか。俺はそんなにSFが好きじゃないんだが。



もし魂をデータ化できる技術が開発されたら、世界はとんでもないことになるんだろうな。そんなことができる奴は天才科学者なんだろう。



それこそ、実現不可能な技術だろう。



「少しほっとしました、機械がほっとするというのもおかしな話かもしれませんが」



ラブちゃんは足をぶらぶらと揺らす。



「ワタシがどこで生まれたか、知っていますか?」



ラブちゃんからの新しい質問。なぜこんな当たり前のことを今更聞いてくるのだろうか。



「ヘルマンの研究所じゃないの?」



「確かにメイドロボ、ラブちゃんはマスターの研究所です」



何か含みのある言い方だ。俺はヘルマンの固有イベントをクリアしたことがない。だから、彼のことはマロンちゃん好きの発明家という認識しかない。



「ワタシはマスターに作られたのではありません」



「えっ! うそ」



俺は思わずびっくりしてしまう。



「はい、マスターには悪いですが、ワタシのようなAIを作る技術はありません、ワタシ以外のマスターのガジェットはどれも意思を持ちません」



確かにその通りだった。俺の知る限り意思疎通ができるガジェットはラブちゃんだけだ。



「ワタシはもともとメイドロボではありません、戦闘用第二世代人工知能搭載兵器L053です、この研究施設がワタシの作られた場所です」



セクター2のデータに確かその記載があった。殺戮兵器アドマイアを第三世代人工知能搭載兵器と書かれていたので、前段階もあったのかとその時は思っていた。



「スクラップ寸前だったワタシをマスターが見つけてくれました、まだあの時は青年と言って良い年齢でした、痩せた男の子と一緒にこの研究施設に来ました、少しだけ、ワタシの昔話を聞いてください」



ラブちゃんは足をぶらつかせながら、昔を思い起こすように語ってくれた。










__________________



ワタシは自分自身の存在の消滅を予想した。単純に演算した結果、ワタシがこのまま朽ち果てる確率は極めて高かった。



第二世代人工知能搭載兵器L053。それがワタシの個体名。



ワタシは不良品だった。他の第二世代達と比べて、動作を間違えてエラーを起こしてしまうことがよくあった。可能性としては、メインプログラムダウンロードの際に、一部データが破損してしまったのだろう。



ワタシは周りと違う考えを持ち始めた。だから、1人だけ違う行動をよくしていた。



当時いた科学者からは破棄する案も出ていた。しかし、この研究施設の所長がそれを止めてくれていた。



所長はワタシに興味を持ち、いろいろなことを教えてくれた。外の世界のことを教えてくれた。



海は大きい水たまりで、空というものは広く青いらしい。月というものが夜には輝くらしい。研究施設の中ではどれも得ることが出来ないデータだった。



それから時は流れ、この研究施設は破棄された。ワタシ達はただこの研究施設のデータを外敵から守る役目についた。



ワタシ達が朽ちるまで、終わらない役目だ。皆、次第に動かなくなっていく。動力部が耐久限界に来ているからだ。



皆、それを恐怖と感じていなかった。唯一、不良品のワタシだけが、耐久限界を迎え、自我が消えることに、恐怖を持っていた。



それが怖いという感情だと初めは気づかなかった。そもそも感情などという言葉はワタシ達に不適だ。



それでも、この意思が永遠に消えることが怖かった。まだ海を見ていない。まだ空を見ていない。まだ月を見ていない。



ワタシはこの研究施設から出たことがない。それでもワタシに出来ることはなく、ただ遥か昔の命令を守り続けるだけだった。



永遠に続くかと思われる何もない時間。それは地獄だった。暗い研究施設で、いつまでも訪れない侵入者のために朽ちるまで警備を続ける。それが苦しかった。



ワタシは暗闇の中で、ずっと考えていた。人間のように寝るという機能は搭載されていない。だから、ずっと思考していた。



自分の生まれてきた意味は何なのだろうか。きっと意味なんてない。ワタシは作られた存在だ。



人間が羨ましかった。自分で考え、自分で動く。望みを叶えるために、行動できる。ワタシはここを守るというメインの命令、その鎖に縛られている。



途中からは時間の感覚もなくなった。暗闇の中、ただ死ぬのを待っていた。



そんな時だった。あの人が現れたのは。



「これは世紀の発見だよ、マックス」



「おお、何か掘り出し物でもあるといいな」



エントランスに現れた2人に警備プログラムがアラートを鳴らす。ワタシ達に殲滅命令が出される。



しかし、ワタシはもう緊急命令を優先する回路が劣化しており、ワタシにその命令を守る義務は失われていた。



「マックス、気をつけろよ、警備システムとか多分あるからな」



「適当なボタンとか押さない方が良いよな」



ワタシはケースから出て、歩き出した。久しぶりに動いたので、身体が軋んでいる。



「お、ろ、ロボットだ!」



2人は警戒して、身構えている。



こうゆうときにどうすれば良いのか。ワタシはここの職員達の行動を思い出して、丁寧にお辞儀した。



「ワタシは……L053です、よろしくお願いします」



「す、すごい! 喋ったぞ、マックス! 今喋ったぞ!」



「おお、分かってるから、ちょっと落ち着けよ」



「こんにちは、僕はヘルマン、こっちのガリガリなのが、マックスだ」



「こんにちは、ヘルマン、マックス」



ワタシは彼らが救世主に見えた。この閉ざされた監獄から出して欲しかった。



その時、自動ドアが開き、別の個体が現れる。侵入者を排除する命令に従う機械だ。



「お、もう1人来たぞ」



ヘルマンが呑気に手を上げて挨拶しようとする。その個体は両手の銃口をヘルマンに向けた。



ワタシは咄嗟に動いていた。ヘルマンの前に飛び出して、銃弾を身体に受ける。劣化していた身体が損傷していく。



自分でもなぜこんな行動に出るのか分からなかった。



銃撃が止む。弾切れだ。ワタシは軋む身体を無理に動かしながら、その個体に突進し、手に仕込んだ錆びたチェンソーで、頭を切り落とした。



「お前、僕たちを守ってくれたのか?」



ヘルマンがワタシを見ている。ワタシは生まれてはじめて、自分の望みを口にした。



「月を……見たいです」



機械が自らの望みを口にするなど、おかしいことだろう。それでもワタシはその願いを叶えたかった。



「よし、決めた! このロボットを持って帰ろう!」



「お、おい、正気か?」



「もちろん正気だよ、だって良いやつそうじゃないか」



「まあ、確かに今守ってくれたしな」



「えーと、名前なんだっけ?」



「第二世代人工知能搭載兵器L053です」



「ん……萌え要素が足りないな」



「機械にそれ必要か?」



「もちろんさ、女の子は可愛い名前じゃなくちゃ」



「ん、この機械、性別とかあるのか?」



「ワタシは人間でいう性別というものは設定されていません」



「じゃあ、これからは可愛い女の子として振る舞ってよ、だいたいこうゆうのは相場として女の子に決まってるし」



「そうゆうものなのか?」



「そうゆうものだよ、じゃあ、僕が名前を決めてあげよう、L053か……じゃあ、ラブだ! ラブちゃん!」



「俺はお前のネーミングセンスを疑うな」



「ラブ、ワタシはラブ」



「そう! 可愛いでしょ、人間の言葉で言う愛って意味だよ」



「愛……」



ワタシは初めてここでラブちゃんになった。



その後、安全な範囲で研究施設を2人に案内した。マックス君は何か怪しげな薬に興味津々で一本持って帰っていた。



そして、私のこの施設を守るというメインの命令をヘルマンが書き換えてくれた。ワタシを縛りつけていたものは何もなくなった。



ワタシが、初めて外に出た時、辺りは暗かった。ヘルマンは得意げな顔で指を空に向けた。



ワタシはその指の先を見る。そこには綺麗で明るくて、丸い光があった。話で聞いていた通り、美しい姿だった。



「キレイ……」



「月だけじゃないよ、この世界にはキレイなものがいっぱいある、君にもっと見せてあげよう」



「ありがとう」



ワタシはそれからヘルマンの研究所に向かい、修理を行った。ヘルマンが試行錯誤しながら、手を加えていく。



ピンクのエプロンなども必要らしく取り付けられ、擬似髪の毛をツインテールという形状で取り付けてくれた。これも必要なものらしい。



「完成した! 君はメイドロボ、ラブちゃんだ!」



鏡で自分の姿を見た時、幸福な感情が湧いた。実用性とはかけ離れた姿、しかし、ワタシはその自分の姿が好きだった。



メイドというのはご主人様の身の回りの世話をするらしい。だから、ワタシはヘルマンをマスターと呼ぶようにし、掃除や洗濯、料理を学んだ。



マスターはワタシに命をくれた。だから、ワタシは自分に魂があると信じたい。



_________________










「何で俺に話してくれたんだ?」



ラブちゃんは俺の顔を真っ直ぐに見た。



「レンさんはマスターと似ているからです」



「ん? 似ているところ何かあるか?」



「はい、ワタシには様々なセンサーが取り付けられています、だから分かります、レンさんはマスターと同じように、ワタシを人間と変わらずに見ています」



確かに、それはあるだろう。ラブちゃんも同じゲームのキャラクターの認識だ。ヘルマンもラブちゃんも同じくくりで思っている。



「だから、レンさんに話したくなりました」



「そうか、ありがとう」



「お礼を言うのは変です、ワタシが聞いて欲しいから話しただけです、ワタシは自分の願望を叶えるために動くので」



「はは、やっぱり人間と変わらないね」



「ええ、ワタシは人間です」



ラブちゃんはそう言って、上を見上げた。夜空にはキレイな満月が優しく輝いていた。











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