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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第4章 英雄の決意
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研究施設



俺たちは暗い森の中を進む。現れるモンスターはいつも通り、ギルバートとユキが殲滅してくれる。なぜがユキの攻撃がいつもりより荒れていて、何かを晴らすようにモンスターをオーバーキルしている。



光るコケを目印に進んでいく。途中で分岐路もあるが、寄り道はしない。アザール教のイベントには巻き込まれたくない。



そして、ようやく俺たちは夜中に研究施設に到着した。森の深くに、つるが巻きつき、コケが蒸した金属製の扉がある。もう長らく使われていないようだ。



「またここに来ることになるとはね」



ヘルマンは感慨深そうに入り口を観察している。センサーが反応し、自動で扉がスライドした。



「よし、中に入ろう」



俺たちは中に入る。ご都合主義であるが、なぜかまだ電源が生きており、俺たちがが中に入るとライトがついた。



エントランスに入る。目の前に受付のようなカウンターがあり、奥にドアが並んでいる。



「ここで一旦休憩しよう、探索はまた明日からだな」



そろそろ休むべきだろう。夜も遅いし、ポチもあくびをし始めた。それにここから先は戦闘もある。安全なこのエントランスで休むべきだ。



ギルバートが率先して準備を始めてくれる。ユキはメアリーに変わり、外で火を起こして料理を始めた。



「ワタシも料理を手伝いましょう」



「私も料理ならうまいぞ! 任せろ!」



ラブちゃんとフレイヤがメアリーを手伝おうとしたから、全力で止める。ラブちゃんには外の警備をしてもらい、フレイヤにはポチの遊び相手を頼んだ。



そして、準備が終わり、食事が始まる。エントランスは安全エリアだから、敵が出てくることはない。



メアリーの料理はやはり中々に美味しい。



そして、なぜか俺は年下のメアリーに女心がなんたるか、説教を受けている。理由が分からない。



フレイヤは酒豪で酒をグビグビ飲んでいた。途中でしゃっくりと同時に爆裂魔法を発動したが、タメコミベアーのおかげで被害はなかった。どうも酒を飲むと無意識で酔い爆裂するらしい。



ヘルマンは饒舌にマロンちゃんの魅力を語っている。ギルバートがしっかりと相槌を打ち、聞き役に回っている。やはり出来る男は違う。



ドラクロワとリンは2人で戦闘談義に花を咲かせている。話題は俺に一撃を入れる方法らしい。2人が様々な意見を出していく。色仕掛けが一番効果があるかもなんていう、失礼な結論に帰着しつつある。



俺はメアリーの説教を聞き流しながら、明日からの攻略のことを考えた。



この研究施設でする必要があることは、ヒドラの血清だ。これはセクター1の薬品ラボに行けば作れる。セクター1は警備アンドロイドしか出現しないから、戦力的に問題はない。



セクター2に進むと、バクバクの情報を手に入れることができる。ここで、実験動物の体内にチップが埋め込まれていることを知り、探知機を入手することができる。



これで、バクバクやルンルン、ニョロニョロといった3体の場所を割り出すことができる。魔法生物ルンルンに限っては仲間にすることもできるし、精霊魔法も覚えることができる優秀な存在だ。



更にセクター2にはライセンス権限レベル2までにアクセスできる端末があり、様々な情報を手に入れられる。ここでネロはデータを手に入れたのだろう。ここでライセンスキーを取得することで、殺戮兵器アドマイアを仲間にすることができる。



そして、更に奥に行くとセクター3がある。セクター3からは難易度が跳ね上がる。警備がセクター2までとは段違いだ。魔神兵器も現れる。ネロはここ以上の潜入は不可能と判断したのだろう。



セクター3の奥には飛空艇が格納されている。LOLでは街と街をワープする魔法やスキルが基本的に存在しない。だから、高速移動には、飛竜を使うか、飛空艇を手に入れるしかない。



しかし、この飛空艇の入手が困難を極める。飛空艇の格納庫に進むためにはガーディアンを倒さなくてはならない。このガーディアンが無理ゲー過ぎる。



英雄達に超耐久ガーディアンレースという名前が付けられている。よくタイムを競ったものだ。ちなみに俺はネットのLOL掲示板の中では、このレースでレコードホルダーとなっている。ちょっとした自慢だ。



まずガーディアンは魔法が全て無効であり、物理ダメージしか与えられない。これは精霊魔法もほとんど効かない。無効が無効の精霊魔法が効かないのには理由がある。



ガーディアンは魔法ダメージ無効や属性ダメージ無効のスキルがあるわけではない。もしスキルなら精霊魔法が効く。ガーディアンは単純に魔法防御が異常なくらい高く設定されている。



だから、ソラリスの魔法でもダメージが0となる。魔法防御が最大値に設定されているのだろう。当然、精霊魔法も魔法防御によるダメージの減衰は存在する。よって物理のみで戦うことになる。



それにも関わらず、防御力も魔法防御ほどではないが異常に高い。超合金でできているという設定だ。300レベルでも攻撃特化キャラじゃないとまともにダメージを与えられない。斬鉄剣を持つ俺と、ポチ、竜化したドラクロワでようやくダメージが通るだろう。



そして、厄介なのが、『自動リペアユニット』だ。ダメージがほとんど与えられないのに、自動でHPを回復していく。



つまり増えるスピードよりも速くダメージを与え続けなければならない。



攻撃時にも注意点がある。通常攻撃は大したことがない。まあ普通のボス級だ。300あれば一撃死はしないが、2回受ければあっさり死ぬぐらい。英雄達にとっては余裕で回避できる。



問題は俺達英雄でも回避不可能な技、『致死レーザー』だ。これは頭部に攻撃がヒットした際のカウンターだ。額の装置から光速のレーザーに撃ち抜かれる。



これは本当に回避が出来ない。まさに0秒射撃。銃口のようなものがあれば、その射線に入らないように回避できるが、これはそのような予備動作すらない。発動の瞬間、最も近くにいるキャラを狙われる。



絶対に回避不可能だ。ちなみにレーザーだから、光属性かと思い、『光属性無効』や『光属性吸収』、ミラーシールドで反射などの手が試されたが、このレーザーは無属性扱いで意味がなかった。



致死レーザーは攻撃力が異常に高く、必ず一撃死する。邪龍の右手ひっかきと同じようなものだ。



だから、絶対に頭部に攻撃をヒットさせてはいけない。ヒットさせた瞬間に即死する。範囲攻撃なんてもってのほかだ。



ここまで聞けば無理ゲーのように思えるが、実はLOLの中ではそんなに無理ゲーとは言われていない。標準的だと思う。



冷静に考えると、これが標準と言われる時点で難易度が壊れてるとは思うが。



攻略法は簡単、頭部に当てないようにしながら、攻撃を回避しながら、ひたすらダメージを蓄積させていくのみ。『自動リペアユニット』の回復速度を上回るペースでダメージを与えるだけで良い。



ただそれでも倒すまでに6時間ぐらいかかる。時間をかけるだけで倒せるなんて、LOLではぬるい方だ。俺のように健全で一般的なユーザーなら、一日8時間くらい連続でゲームぐらいしてるだろうし。



単純作業を黙々と繰り返すのが、苦痛ではある。しかもこいつたまに変な動きして、あえて頭部に攻撃当てさせようとするので、集中力が落ちてきた時に間違って頭部攻撃して即死とかよくあることだった。



ゲームでは少なくとも300レベルまでは上げないと、回復速度を上回るダメージを与えることができない。だから、飛空艇は終盤ではないと手に入れることができないものだ。



現実になった今、正直超耐久ガーディアンレースができるか不安はある。そもそも休憩時間なしでそんな長時間持つのだろうか。休憩をしたらHPを回復されてしまう。



ダメージをドラクロワやポチも与えられるので、効率は良いが、フェイントをかけて頭部に攻撃を受けようとしてくる。ポチとか何も考えず頭部にパンチして即死してしまうだろう。ドラクロワも怪しいものだ。



だから、最悪俺だけでやるしかない。心底やりたくない。



そして、ガーディアンを倒すと、ドロップアイテムのエナジーコアが手に入る。エナジーコアを使うことで、飛空艇が起動し、大空へと飛び上がることができる。



以上が飛空艇の入手方法だ。しかし、実はこの研究施設はそれだけで終わりじゃない。セクター3の奥にもう一つ閉ざされたドアがある。パスワード式でロックされている。



俺たちLOLプレイヤーの中では幻のセクター4と呼ばれている。何とこの扉、全くパスワードにヒントがない。数字であれば、総当たり戦法を使えるので、英雄達には余裕だが、言葉も含めるし、字数制限もないので勘で当てることは不可能。



どれだけ考えてもこのパスワードは見つからなかった。LOLで未だかつて開かられたことがない扉だ。



ただミレニアム懸賞イベントがと言われると、少し違う。そもそもイベントではないし、俺たち英雄の読みでは、単純にこの先作られてない説が濃厚だからだ。



きっとスタッフが作りきれずに、そのまま残したのだろうと予想している。しかし、現実になった今、その奥に何かが存在しているのかもしれない。



未知への好奇心はあるが、パスワードが分からないので不可能だろう。壁抜けももちろん試したが、扉が厚くて成功はしなかった。



「ねぇ、レンさん! 聞いてる?」



俺は我に帰った。全く聞いてない。



「聞いているよ、悪かった、俺がもっとちゃんとしなきゃだよな」



「そう! ユキちゃんの気持ちも考えてあげてね」



ユキがどの辺に出て来たのかよく分かっていなかったが、メアリーは納得してくれた。ようやく解放されたようだ。



ふと、横を見ると、クマさんが目をぎらつかせて、何かを我慢するような苦悶の表情を浮かべていた。



「がははは、みんな爆裂しようぜ!」



俺は一気に酔いが覚め、ダッシュでフレイヤの元へ行き、手を引っ張って外に連れ出す。



「お、おい、まだ皆がいるじゃないか、でも……強引なのも嫌いじゃないな」



フレイヤが何か言っているが、急いでタメコミベアーを上に掲げて、空に口を向かせる。



そして、今まで溜め込んだ爆裂魔法を解放する。夜空に特大の大花火が上がった。



俺は何とか間に合ってほっとして、腰を下ろした。



「綺麗な爆裂だな……」



フレイヤはそう言って、ロマンチックな感じで後ろから俺の首に手を回した。



俺は心臓がドキドキしていた。もちろん、急な運動をしたからだ。本当に心臓に悪い。



「全然反省してない……」



メアリーが背後でぼそっと言っていたのが聞こえた。








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