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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第4章 英雄の決意
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偽物の感情



「ラインハルトは、好きな料理とかあるか?」



「ああ、パン屋で買ったパンが好きだな」



「分かった! 今度作ってやるな、パン屋で買ったパン」



「いや、パン屋で買ったパンが良いから作らなくていいよ」



「安心しろ、これでも料理は得意なんだ、料理するとよく家がなくなるから困るけどな」



「普通は料理しても、家はなくならない」



「私の家が脆いのが原因だろうな、爆裂魔法で壊れる家なんて家じゃないよな」



「いや、すごく一般的な家屋だと思う」



「いつか2人で頑丈な家に住みたいな、マイホームって奴か……」



フレイヤの顔が赤くなる。



【エクスプロージョン】



『バニシング』



「わ、悪い、つい爆裂しそうになった」



「ああ、気をつけてくれ」



なぜかフレイヤが森を歩く俺についてきている。そして、なぜかユキがさっきから機嫌が悪い。冷気が垂れ流しになっていて、ポチがブルブル震えている。



どうやって巻こうか必死に考えている。



確かに見た目で言えばフレイヤは俺の理想郷(ユートピア)に欲しい人員だ。アリアテーゼほどではないが、豊満な果実を持っているし、ちょっと気の強そうな顔立ちではあるが、間違いなく美人だ。



しかし、フレイヤの爆裂に付き合っていたら、命がいくつあっても足りない。爆裂魔法は広範囲攻撃であるため、俺以外にも被害が及んでしまう。



「俺たちの旅は危険なものだ、フレイヤはついてこない方が良い」



「そんなにも私のことを心配してくれるのか! ありがとう! 大丈夫だぞ! 私には敵を蹴散らす爆裂魔法がある」



敵以外も蹴散らしているが。



「街で俺のことを待っていてくれないか?」



「待つのは私の性に合わない!」



取りつく島もない。これは戦略を変えるしかない。



「悪いな、実は将来を約束した女性がいるんだ」



俺はそう言って、リンの腕を掴んで引き寄せようとした。リンには悪いが演技をしてもらおう。



リンが滑らかな動きで俺の手を回避した。ここで発揮される英雄の回避術。



「レン、騙すのはやっぱり良くない」



リンが鋭い正論を向けてくる。ユキから漂う冷気がより一層強くなり、ポチがギルバートのコートの中に避難していた。



「レン? ラインハルトじゃないのか」



フレイヤが純粋な目で俺を見てくる。



「あ……まあ、その、別名レンだな」



「レンか! 良い名前だな」



フレイヤが純粋過ぎる。俺が悪者になっている気がしてしまう。



「まあ別に同行しても良いのではないですか? レン殿には彼女の魔法を防ぐ術があるようですし」



ヘルマンがここに来て、フレイヤの味方をし始める。



「いや、俺にもクールタイムがあるからな、クールタイム中に魔法を発動されたら、キャンセルできない」



「ふむ、ではこのガジェットを差し上げましょう」



ヘルマンはそう言って、自分の鞄をごちゃごちゃ漁り始めた。



「我が発明、その名もタメコミベアー!」



クマのぬいぐるみに見える。やる気なさそうな顔が妙に愛嬌がある。



「この装置をつけていれば、魔法の効果をストックが可能です」



ヘルマンがフレイヤの身体にクマを取り付ける。というか腰にペタっとやる気のないクマがしがみついているように見える。



「これで、もし魔法が発動すれば、魔法が自動的にストックされます、溜め込める魔法には限界がありますから、周りに誰もいないタイミングで放出しないといけませんが」



「おう! ありがとな! おっさん」



フレイヤが無邪気に頭を下げる。胸が大きく揺れる。ヘルマンはメガネをくいっと持ち上げて、そっぽを向いた。



「大きいものに興味はありません」



「ワタシの分析によると、マスターはマロン様のような少し成長を始めた幼児体型が好みです」



ラブちゃんが謎の補足を入れ始める。



ヘルマンはこういったガジェットをいくつも保持している。戦闘になると、それらを駆使して戦うのだが、役に立たない微妙なものも多い。



タメコミベアーは魔法をストックすればするほど、やる気のない顔が変わってくる。最後は目がぎらついて、何かを我慢している顔になる。



限界を迎えると、溜め込んだ魔法を同時に発動し始める。魔法のストックには限度があり、精霊魔法なんかは一発すら溜め込まない。



まあ、これでフレイヤの爆裂魔法に巻き込まれる可能性は少なくなっただろう。



「よし! これで一緒にいられるな! レン!」



「……とりあえず、街に帰るまでだからな、危ない状況もありえるから、ちゃんと指示を聞いてくれよ」



フレイヤは迷惑なキャラだが、俺には別の懸念がある。



ここに来た当初なら、きっと巨乳美女にモテモテの俺に鼻の下を伸ばしていただろう。今でも本気で理想郷(ユートピア)を作る気でいる。



しかし、一方で俺はこの世界の人が意思のある人間だと思っている。ゲームではNPCだったが、今では1人の人間だ。



この理不尽な世界で一生懸命に生き抜く人々。だから、俺は彼らをただのNPCと思わず、できる限りの人を救いたいと思った。



だから、フレイヤが俺を好きになったのは、作られた設定だと思っている。フレイヤが主人公に惚れるのはゲームの設定だ。彼女の意思じゃない。



システムによって、感情まで制御されるのは間違っている。リンはいつのまにかNPCがたどり着けない思考を自分で持てるようになった。ネロもNPCでは不可能な次元で行動をするようになった。



それぞれの人がゲームの設定を超えてきている。だから、フレイヤも植え付けられた偽りの感情でなく、自分の感情を持てるようになってほしい。俺はゲームの設定のフレイヤに応えることはできない。



俺は自分でも成長したのだと思う。以前の俺ならばこんな状況にデレデレしていただろう。俺はもう、そうゆう次元からは卒業している。



俺も大人になったな。あの頃が懐かしいものだ。



フレイヤが俺の腕にがっとしがみついてきた。柔らかい感触が二の腕に伝わる。











「レン、鼻の下のびてる、顔がだらしない」



リンの指摘に俺ははっとする。季節ハズレの雪が降り始めた。






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