伐採イベント
木々が燃え、黒煙が上がっている。
その中から、燃え上がる炎のように真っ赤な髪が見えた。何で俺はこうゆう時に、運が悪いのだろう。
このイベントは他の森林でも起こる可能性がある。出会う可能性は低いと思っていた。
赤い髪の女と、2メートル以上ある熊のようなデカいヒゲの男、1人の作業員がいた。
「よーし! この調子でガンガンやるぞ!」
大きな声で女が豪快に言う。オーバーオールを来た作業員が慌てて静止している。
「ちょ、ちょっと、待って! 伐採ってね、切ることだから、意味知ってる!?」
「知ってる知ってる、ばっさいだろ! とにかく木を吹き飛ばせばいい!」
「違うよ! 建築とかに使うために、綺麗に切るんだよ!」
「けんちく? ああ、なるほど……」
「分かってくれた?」
「ああ、わかったぜ、けんちくってもののために、綺麗に爆破すれば良いんだな!」
「全然分かってないよ! 爆破じゃなくて、切ろうよ!」
【エクスプロージョン】
明るい光と共に爆炎が巻き起こる。
「もう……やだ、ボスも何か言ってくださいよ!」
泣きそうな作業員は熊男に泣きつく。この熊男がきこりのトムだ。身体は大きいが心優しいくまさんのようなキャラだ。
「げんきなのは……」
「……いいことだね」
のほほんと舌足らずにゆっくりと言うと、トムはにっこりと笑う。著作権が厳しい某有名会社のはちみつ大好きの黄色いくまさんに喋り方が似ている。
「もうダメだ、こいつ」
唯一の常識人の作業員は頭を抱える。
「がはははは、簡単だな! ばっさい!」
燃え上がるように赤い長い髪。小麦色の肌。大きな胸にサラシのような布を巻いている。顔は気の強そうな美人。
爆裂狂フレイヤ。
フレイヤはフレンドリーファイアランキングでエルザと争えるほどの超迷惑キャラだ。絶対に関わり合いになってはいけないキャラの筆頭。
俺は仲間達に目配せし、無視して進むと伝える。仲間達も俺の意図が伝わったようだ。
俺たちは言い合いする作業員とフレイヤをスルーして、森に入ろうとする。
「あ、君たちは冒険者ですか?」
作業員が声をかけてくる。やめてくれ。
「いえ、先をとてもとても急いでいる通りすがりの旅人です」
「報酬はお支払いするので、手伝ってもらえませんか?」
こいつ、話を聞いていたのか。図々し過ぎる。
「いえ、先をとても、かなり、信じられないほど急いでいるもので」
「お願いします! 困ってるんです!」
「ああ! もう時間がない! 急がなくては!」
「そこを何とか!」
そこで木こりのトムが口を挟む。
「だめだよ……ハルくん……」
「……この人たち……」
「……忙しいみたいだよ」
「あなたは黙っててください」
トムはピシャリと部下に止められた。どうでもいい情報だが、この作業員にも名前があるらしい。
この作業員が図々し過ぎる。涙目で両手を合わせて懇願してくる。
「お願いします! 困ってるんです!」
「レン、少しだけ手伝ってあげたら?」
リンの一言で、作業員の目をキラキラさせてくる。
「やっぱり冒険者の方々は親切ですね、断られたらどうしようかと思っていました、困っている人を見捨てては冒険者として失格ですからね! 世の中にはそうゆう人が一部いるようですが、あなた達は親切で良かった!」
この野郎。全力で断らせないように、包囲してくる。
「はぁ……分かったよ」
俺は観念して頷く。さっさと終わらせるしかない。
森林伐採イベントは、木を10本切ったら終了だ。しかし、これがやはり無理ゲーだった。
フレイヤの爆裂魔法でまず殺される。だから、爆裂魔法を避けながら、木を切らないといけない。しかし、爆裂魔法で木が木っ端微塵になるので、爆発させられるより早く切るしかない。
そして、切り倒した木も守らないといけない。爆裂魔法に巻き込まれて木っ端微塵になるからだ。
もはや採集とは何なのかと問いたくなる、頭のおかしいイベントだ。
「木を10本きっていただけ……」
「ドラクロワ、ポチ、木を10本だ」
俺が言うと同時にポチとドラクロワが動き出す。なんだかんだ、この2人はいつもタッグを組んでいる。ドラクロワは否定するが、間違いなく仲が良い。
「よっし、私も加勢するぜぇ!」
フレイヤが意気揚々と魔法を使おうとする。もちろん爆裂魔法だ。俺は『バニシング』を使用して、魔法をキャンセルする。
「あ、て、てめぇ、何をするんだ!」
ドラクロワがデストロイヤーを担いで一振りで木を薙ぎ倒す。ポチも高速移動して、パンチで木をへし折る。あっという間に10本を切り倒した。
「これで、10本」
「へ、へぇ?」
作業員は現実を受け入れられないのか目を白黒させている。
「じゃあ、俺たちはこれで」
俺は極力そっけなく離れようとする。フレイヤが厄介なのは、このイベントが理由なだけじゃない。まあ、これだけ塩対応していれば、問題ないだろう。
「ちょっと待てよ」
フレイヤが俺を呼び止める。俺の危機察知センサーが警鐘を鳴らす。
「急いでいるので、もう行かなくては!」
俺が逃げようとしたら、腕をフレイヤに掴まれていた。
「ありがとな、今、私の魔法を邪魔したのは、私の役に立ちたかったってことだよな、良いところ見せたいって思ったんだよな」
「いや、まったく、迷惑だからキャンセルしただけだ、良い所見せたの俺じゃないし」
「ふん、素直じゃない奴だな、分かってる、私のために急いでいるのに仕事を引き受けてくれたしな」
「違う違う違う、俺とっても素直、早く行きたいだけ」
「まあ、確かに、私もそろそろ身を固めようと思っていたし、ちょうど良いのかもな」
「違う違う違う、俺全然身を固めるつもりないし」
「お前の気持ちに応えてやってもいいかもな、名前、教えてくれないか?」
「グランダル王国で冒険者をしているラインハルト=フリードリヒです」
「ラインハルトか、かっこいい名前だな、私はフレイヤだ、これから末長くよろしく頼む」
「いえ、末長くどころか、もうお別れですね! さようなら」
「って……私、いつのまにか腕掴んでる」
フレイヤの顔が赤く染まる。これはやばい。
「みんな! 俺から離れろ!」
危機管理能力が身についている俺のパーティは、身体が勝手に動くように一瞬で間をとった。
【エクスプロージョン】
強烈な爆発に飲み込まれる。俺は黒焦げになっているが、辛うじて生きている。
「わ、悪い! つい爆裂しちまった」
そう、爆裂狂フレイヤはかなり惚れっぽい。あまりにチョロ過ぎる。どれだけ塩対応しても惚れられてしまうヒロインだった。
このガサツで豪快な性格と、このギャップに根強いファンが多い。
英雄達は一日の大半をゲームをして過ごす。当然、彼女なんているわけがない。彼女がいてしまえば、ゲームの時間が減ってしまう。それは死活問題だ。
決して作れないのではない。あえて作らないという英断をしているのだ。だから、ゲーム内のキャラでもモテるとニヤニヤしてしまう。
しかし、結局ゲーマー達は擬似恋愛より実用性を選ぶ人種だ。恋愛ならギャルゲーをすれば、彼女(二次元)はいくらでも作ることができる。
だから、フレイヤは現実的にパーティにはいれない人がほとんどだった。一部のフレイヤ大好きプレイヤーだけが盛り上がっていた。
そして、フレイヤは恥ずかしくなるとつい爆裂してしまう、爆裂系ヒロインだ。
こうして俺の爆裂系ラブコメが始まった……。
「って、始まらない! 意味分からないだろ、爆裂系ラブコメって何だよ!」
俺のセルフツッコミが虚しく森にこだました。