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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第4章 英雄の決意
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ヒドラ戦



俺とユキとポチは沼地に向かうために、グランダルの城門を出た。もはや道中の敵は全く相手にならない。地竜で移動すれば、あっという間だった。



念の為、初めて来た時と同様に神兵の腕輪がある俺が先導する。しかし、ユキが遠距離特化のキャラなので、問題なくカエルや蛾を殲滅してくれる。蛾をユキに任せることは相談済みだ。



懐かしいものだ。はじめはリンとポチと一緒にここに来た。あの頃に比べて随分と強くなった。さすがに300レベルもあれば、あっさりと沼の奥地に到着することができた。



広い円形の沼が広がり、水草の足場が所々に点在している。



「この奥にヒドラがいるから注意してくれ、もしヒドラ毒を受けることがあったら」



「分かってるわ、石化ね」



「そう、メドゥーサの瞳を投げて石化させる、そして、ヒドラを倒した後、血清を作ってから戻す」



ヒドラ毒に対する対応策は現状それしかない。ヒドラ毒以外は神兵の腕輪でレジストできるので、あとは水中に引きずり込まれなければ問題ない。



さて、問題は俺が水中対策を何もしていないということだ。この状態で沼に引きずり込まれたら勝ち目はない。



回避は問題ないと思う。今の俺がヒドラの攻撃をもらうことは万が一にもありえない。しかし、問題は足場だ。



ヒドラの攻撃により、水草が破壊されて、足場が少しずつ減っていく。空中散歩で移動はできるが、空中散歩中は攻撃や回避の余裕がないから、恰好の的となる。



いくら俺でも足場がなくなれば、沼に落ちるしかなくない。



1つ手としてはユキに【フリーズ】で足場を作ってもらうことは考えられる。【フリーズ】は自身の手から2メートル範囲で凍らせられる。



しかし、半径2メートル円の中でヒドラの攻撃を回避し続けるのはかなり難しい。何よりヒドラの尻尾一撃で足場壊れるかもしれない。



それにヒドラは近づくとすぐに、沼に潜って逃げてしまう。こちらからは近づけない。遠距離攻撃は出来るが、頭を沼の上に出した時だけなので、時間がとてもかかる。



尻尾での攻撃の際に避けながら物理攻撃はできるが、そのタイミングしかないので、やはり効率が悪い。



やっぱりあの手を使うのが1番かもしれない。他に手がないか考えていたが仕方がない。



俺はユキに作戦を伝える。今回はユキ頼みになる。



「分かったわ、任せて、私ならできる」



ユキは何だが嬉しそうに気合を入れていた。ポチは暇そうにあくびをしている。



「じゃあ行ってくる」



俺が沼の中央に足を進めると、巨大な蛇が現れる。身体は岩のような鱗に覆われて、藻が所々に絡みついている。



ヒドラは明確な敵意を持って俺を見た。



「悪いな、お前の血清が必要だからな、倒させてもらうよ」



ヒドラは獰猛な声を上げながら、いきなり俺に『ミックスブレス』を放つ。初見殺しだ。しかし、俺には残念ながら何の効果もない。



ヒドラはブレスを放つと、再度沼に潜ろうと顔を水面に入れた。いつも顔から水面に潜っていく。



俺は空中に飛び上がり、『空中散歩』を使用して高度を上げていく。そして、微調整する。



スキルの効果範囲を目測し、落下地点を割り出す。ヒドラは物理攻撃が届かないので、顔を水面から出してブレスで攻撃してくるが俺には効かない。



「よし、こんなもんか、おーい、ユキ、頼んだぞ」



「おっけー! 大丈夫!」



俺は意を決してスキルを発動した。



『スイッチ』



ヒドラと俺の位置が入れ替わる。俺はそのままなす術もなく、沼に落ちた。



「ぐえ! くさっ!」



沼の匂いが毒々しく、俺は必死で近くの水草に向けて泳ぐ。だから、この手は使いたくなかった。



ヒドラは空中に瞬間移動し、落下を始める。習性で顔から水面に潜ろうとする。その下でユキが水草の上で待機している。



空中では身動きが取れないので、ヒドラは真っ直ぐに落ちてくる。落下地点は予め計算済みだ。



ヒドラの頭が着水して、水飛沫が舞った瞬間に、ユキが魔法を発動する。



『フリーズ』



一瞬で周囲の沼が氷漬けになり、ヒドラは頭部を氷の下に入れた状態で止まった。俺が予想していたよりも半径がかなり広い。普通【フリーズ】は2メートルくらいだが、どう見ても倍以上ある。氷雪の魔女であるユキだからかもしれない。



「本当に上手くいくとは……」



ヒドラは頭を氷漬けの沼に入れているため、必死に尻尾をくねくねしている。残念ながら尻尾は氷まで届いていない。ちょっとコミカルだ。



半信半疑だったが、成功した。ヒドラは表皮が硬い岩のようになっているから、蛇のような柔軟性はない。だから、頭を氷で埋めれば、尻尾で氷を割ることは出来ないと考えた。



必死にクネクネ尻尾を動かしている。少しかわいく思える。これからはヒドラくんと呼ぶようにしよう。



その動きで氷にヒビが入るが、すぐにユキが魔法で修正してしまう。ちょっとヒドラくんに同情してしまう。



俺は何とか水草の上に上がった。泥だらけで気持ちが悪い。『スイッチ』した後に、どうにかならないかな、と思っていたが、普通に沼に落ちた。やっぱり無理だった。



「ポチ! 出番だぞ! サンドバッグだ!」



「わん! いっぱいパンチする!」



哀れなヒドラくんをポチが容赦なくサンドバックとしてボコボコにする。最初はクネクネしていたがだんだんと動かなくなっていき、パンチのたびにビクビク震えていた。やっぱりヒドラくんが可哀想に見える。



そして、ヒドラくんは青い粒子になって消えていった。



俺はドロップアイテムのヒドラの体液を入手する。血清を作成するためには、これを研究施設に持っていく必要がある。



「よし、必要なものは手に入れた、ユキ、ありがとな」



「レンの役に立てたなら嬉しい」



そう言ってユキが笑う。本当に良い子過ぎる。思わず頭を撫でたくなるが、泥だらけなので、やめておいた。



俺たちはあっさりと任務を終えて、グランダル城下町に戻ることにした。地竜のリュウが泥だらけで臭い俺を乗せるのを拒んだので、俺はショックに打ちひしがれた。























グランダル王国に着くと、俺はすぐに宿屋でお風呂に入った。一生懸命身体を洗ったが、匂いが残っている気がする。出た後にポチに聞いてみたら、まだくさい、と直球で言われた。



集合場所に向かうと、ギルバートとドラクロワが依頼した人物を連れてきてくれていた。リンはまだ戻っていないようだ。



清潔な白衣に、知的な眼差しにメガネ。そして、その知的さを全てぶち壊す、ピンク色のTシャツ。マロンたんまじ天使の言葉。



「ふむ、親友のお願いだ、一緒に同行しようじゃないか」



発明家ヘルマンだ。



「ワタシも、同行します、ヨロシクお願いします」



そう言って、隣のロボットがお辞儀する。皮膚が金属でできており、見るからにロボットだ。ツインテールの擬似的な髪が両横に伸びている。



服装はうすピンクを基調にしたメイド服、彼女はヘルマンが開発したメイドロボ、ラブちゃんだ。



「ワタシはラブです、得意なことは掃除、洗濯、料理、殲滅です」



最後の1つが物騒だが、実にメイドらしい機能が揃っている。本人は得意と言っているが、それは誤りで、彼女が家事をすると、家が破壊される。



ラブちゃんの掃除イベントでは、虫を駆除するために、ミサイルを使用したり、汚れを取るために火炎放射器を使ったりする。



料理はとても人間が食べられたものではない劇物が誕生する。それを敵に投げることで、さまざまな効果を発揮できる兵器となる。



ラブちゃんの「愛情たっぷりオムライス」は攻撃アイテムとして、プレイヤーの中では重宝されたものだ。



しかし、唯一、敵の殲滅だけは本当に得意だ。ラブちゃんの戦闘能力は極めて高い。ゲームでは仲間にするためには必ずヘルマンがパーティにいなければならなかった。ヘルマンが戦闘に関してはあまり使えないので、ラブちゃんだけを仲間に出来ないか、皆が試行錯誤していたが駄目だった。



俺達がヒドラを討伐している間、他のギルバートとドラクロワにはヘルマンの勧誘に行ってもらった。ヘルマンを仲間にするための条件も伝えてある。ドラクロワはともかく、常識人代表のギルバートがいるからあまり心配はしていなかった。



俺がヘルマンを同行させるのは、研究施設で彼の力が必要になるからだ。



研究施設はざまざまなイベントが絡む。殺戮兵器アドマイアイベント、薬品作成イベント、飛空挺入手イベント、キングマックススーパー進化イベント、逃げ出した実験生物イベント、幻の科学者イベントだ。



ヘルマンはいくつかのイベントに絡むキーパーソンとなる。というかラブちゃんがいないと、クリアが不可能なイベントがいくつもある。



「ありがとう、ヘルマン、力を借りるよ」



「何、同じマロラーとして、力はいくらでも貸すさ」



ちなみに俺はマロラーではない。




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