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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第4章 英雄の決意
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途方もない道のり



翌朝、俺たちはイガグリ亭で朝ごはんを食べながら、今後の方針を話し合うことにした。



お客は俺たち以外に1人しかおらず、店の隅で食事をしている。これなら多少長居しても店の邪魔になることはないだろう。



俺はゲンリュウからもらった正宗を背中にくくりつけている。実際に試してみたが、装備することができた。ゲームではプレイヤーが入手できるアイテムではなかったので不安だったが、その点は杞憂だった。



本当なら某国民的アニメキャラのように三刀流にしたい。背中の傷は剣士の恥とかやりたい。試しに口に挟んで振ってみたら、普通に首が痛かった。



正宗の性能は分かっている。ゲームでのイベント内で全盛期のゲンリュウが装備していたからだ。



特筆すべきはその攻撃力。全武器中2番目に高い。入手できるアイテムではないから、武器ランキングには入ってこないが、凄まじい攻撃力だ。勇者の聖剣デュランダルよりも純粋な攻撃力は上だ。



俺の持つ斬鉄剣と妖刀村正を遥かに凌ぐ。



そして、肝心のスキル。スロットは0なので、ここから新しいスキルを付加することは出来ないが、優秀な初期スキルが揃っている。



『剣域超拡大』斬撃の範囲が3倍になる。



単純な効果だが、その威力は絶大だ。刀を振ると白い光が刀身から伸び、本来の3倍のリーチになる。もはや通常攻撃が中距離攻撃になる。もちろん距離によるダメージの減衰もない。



『剛剣』クリティカル発生率が30%になる。



ありえない破格の性能だ。通常攻撃で3回に1回クリティカルが発生する。クリティカルはダメージが、5倍になる。ただでさえ最強クラスの攻撃力で、クリティカルが頻発する。



奇をてらった能力ではなく、正宗は純粋に強い。俺は普段使いを妖刀村正と正宗にする。敵の防御力があったとしても斬鉄剣よりもダメージ量が多い。



更に妖刀村正の『主人殺し』と『剛剣』が重なれば、凄まじい威力となる。



相手が防御力特化の場合に斬鉄剣に持ち変えることにしよう。



あとは天界に行き、妖刀村正を真打村正に進化させれば、二刀流での最強装備となるだろう。まあ、今のところ天界に行くつもりがないが。



「レン、この後のプランを教えて」



リンから急かされて俺は意識を切り替える。



必要なことは大きく2つ。1つはソラリスの復活。これはプロメテウス、つまり魔王軍より先に条件を揃えないとソラリスが殺されてしまう。



2つ目はネロ対策だ。ネロは『捕食』により、俺たちよりも何倍も成長スピードが早い。300レベルに達している俺たちが更に強くならなければ、次に会った時は勝ち目がない。



付け加えるならもう一つ。グランダル王を助けたいという気持ちもある。エルザは王女としてやる気満々だが、実際にグランダル王がいないと大変なことになる気がする。



「よし、じゃあ、まずソラリスの復活の詳細を話すか」



俺はここで初めて仲間達にソラリス復活までの道のりを教えることにした。正直、聞いても途方に暮れるだけだと思い、控えていたが、そろそろ説明するべきだろう。



ソラリスは仲間にすることが難しいランキング第1位だ。これは誰もが認めることであり、不動の順位となっている。英雄達の中でもソラリスを仲間にしている者は一握りしかいない。



ソラリスは魔法使いキャラ最強という肩書きだが、実際に仲間にしてみるとその異常さが際立つ。『魔導の真髄』や『MP超高速回復』などの多くの魔法サポートスキルがあり、単純な魔法が別次元に昇華される。



その他のステータスも決して低いわけではない。ウォルフガングやポチなどのぶっ壊れた物理ステータスには負けるが、普通の物理キャラに比べればHPや防御力、攻撃力も高い。



永遠の扇を使った通常攻撃も、一振りで無数の風により、敵が塵になる。



彼女は最も謎に包まれたキャラクターだ。アラン達と魔王を封印するが、彼女はその遥か前から生きている。魔王に勝ったのも、ソラリスが裏で暗躍していたからだ。



ソラリスの固有イベント『大魔導の夢』はミレニアム懸賞イベントとなっており、未だかつて誰もクリアしたことがない。ソラリスを仲間にすることができた英雄でさえ、超えられない壁だ。そのため、彼女のユニークスキルは誰も見たことがない。



だから、ソラリスが何者なのかは誰も知らない。種族すら不明だ。



ソラリスを仲間にするのが難しい理由は、7つの宝石を集めるイベントの難易度が壊れているからだ。



グランダル王国にある謙虚のトパーズ。

海底都市アトランティスにある知性のサファイア。

シュタルクにある闘志のガーネット。

ガルドラ火山にある力のルビー。

ゼーラ神山にある正義のダイヤモンド。

アニマ王国にある勇気のエメラルド。

奈落にある夢想のアメジスト。



この7つを集めることでソラリスを復活させることができる。その道は険しく、いくつもの絶望が待ち受けている。



闘志のガーネットが最も入手難度が低く、シュタルクの総選挙で王になることで、シュタルクの宝物庫から手に入れることができる。



次に手に入りやすいのが、グランダル王国の謙虚のトパーズだ。これも同様に宝物庫にある。アニマとの友好条約イベントのように、宝物庫を開放するイベントをこなせば良い。



アニマにある勇気のエメラルドも比較的入手難易度は低い。こちらもアニマの宝物庫に収められている。



そして、ここからが難易度が跳ね上がる。海底都市アトランティスの知性のサファイアを手に入れるためには、リヴァイアサンを倒す必要がある。水中戦闘ということもあり、難易度が壊れている。これがクリア出来なくて断念したプレイヤーも多い。



ゼーラ神山の正義のダイヤモンドも、神の使徒討伐の難易度が壊れており、これで断念したプレイヤーも多い。



ガルドラ火山の力のルビーは、俺がもう二度と戦いたくない相手がいる。ドラゴンスレイヤーと呼ばれる奴で、こいつと戦うのが宝石集めイベントの中で最も苦労した。今回のソラリス復活の1番の難所と言って良いだろう。これで断念したプレイヤーも多い。



奈落にある夢想のアメジストはそもそも奈落に行くことが難しいし、奈落は天界と同様に物語進行と関係のないエクストラステージで魔王城よりも敵が強い。悪魔とも何体か戦いになる。これで断念したプレイヤーも多い。



こうして、全ての宝石を手に入れた後、封印解放の儀を行う。そして、ソラリスを仲間にすることができる。それに本気で挑もうとしている俺は狂人の類なのだろう。



ボス戦は全て、こちらのレベルが300を超えていることが大前提だ。つまり実質上限の300を超えても勝てない無理ゲー。最低条件を満たした上であの手この手で、対策をしなければならない。



俺は以上のことをかいつまんで、皆に説明した。



「ようは石ころを集めればいいんだな!」

「わん! 石集める」



ドラクロワとポチはきっとよく分かっていない。



「レンの旦那、そいつは……かなり険しい道のりだな」



ギルバートは渋い表情になる。その表情が彼によく似合う。



「ああ、今まで以上に無理難題だ、だけど……」



「分かってるさ、旦那、不可能を超えるのが英雄の仕事だろ?」



「そう、俺達で不可能を超えよう、そんなに身構えなくていいよ、たった4個くらいの不可能を覆せば良い」



ユキもやる気を見せてくれている。



「私も頑張るね、レンの役に立つ」



「期待しているよ、ユキ」



ユキにはこの後も活躍してもらう。貴重な戦力だ。正直、既にユキの力が必要になることはもう想定している。ゲーム時代には出来なかったことが、ユキがいるから可能になる。



「ちょっといい?」



リンは俺の話を聞きながらずっと考えていた。俺には分かる。リンの思考はもはやプレイヤーと同じだ。攻略順序、効率を考えていたのだろう。



「シュタルクは私が行ってみる、一応トーナメントが有耶無耶になったけど、私は誰にも負けていない、今王位がどうなっているか確認してくる」



「ああ、それは俺も心配してた、ベロニカのせいで総選挙がなくなってしまったしな」



「レンはエルザに頼んで謙虚のトパーズを手に入れるべきね、彼女なら許可を出してくれるでしょ」



「いや、その必要はない」



俺はアイテムを取り出して、机に置いた。美しい黄金色に輝く宝石だ。



「もう手に入れてある」



「……それ、どこで手に入れたの?」



リンは白い目で俺を見ている。あれ、もしかしたらまずかったかもしれない。



「えっと……その……なんか、あったからもらった」



俺はグランダル王国の宝物庫に侵入したとき、()()()()()をもらってきた。謙虚のトパーズは間違いなく必要なものだ。



俺はあの時、蝿の円環、夢の器、謙虚のトパーズを持ち出していた。



今思うと、エルザが王になるなら、こんなことしなくて良かったのかもしれない。



「盗みはよくないと思う」



「ひ、人聞きが悪いな、盗んだんじゃないって、無断で借りただけだよ!」



リンが呆れてため息をつく。



俺は別に私利私欲のために持ってきたんじゃない。この世界を危機から救うためにはソラリスを仲間にすることは必要なことだし、それにソラリスは俺の理想郷(ユートピア)には不可欠な存在だ。年齢的には何百年生きているかもしれないが、見た目は麗しいのでぜひ入ってほしい。



あれ? これ私利私欲な気がしてきた。



「じゃあ、シュタルクの方はリンに頼むよ、マックスと面会するときは必ず手土産のプロテインを忘れるなよ」



俺は話を逸らすように言う。こちらもあんまり心配はしていない。もし闘志のガーネットを渡してくれなかったら、こっそりと宝物庫に行って、ぬす……、ごほん、無断で借りることも視野に入れている。



その他の宝石も何とか正規ルートではなく、手に入れられないか考えている。ドラゴンスレイヤーとか絶対戦いたくないし。



そして、これらを集めるのに必須のものがある。各地に散らばる宝石を円滑に集めるためには、移動手段が必要だ。地竜ではとても移動しきれない。



そろそろ飛空艇を手に入れようか。





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