表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第4章 英雄の決意
173/370

決意

____________




ベルゼブブ、カーマイン、ネロ、異常な相手と三連戦を終えて、俺たちは疲弊していた。



被害は最小限に出来たと思うが、これからこのグランダル王国は復興が大変だろう。



エルザは何も言わずに、カーマインの消えた場所を眺めていた。鎧が横たわり、斧が地面に突き刺さっている。



「私は、これから何をすればいいのだろうな?」



エルザは独り言のように、後ろにいる俺に問いかけた。それは王位を継ぐべきかどうかという質問なのだろう。



「エルザの好きにすれば良い」



俺は本心を答える。俺はエルザが傭兵を続けるというならそれで良いと思う。



「父上は石になり、ロンベルもいない、この国は指導者がいない」



ロンベルは国外に逃亡したようだ。またどこかで良からぬことでも企むのだろう。



「私は……この国の王になろうと思う」



エルザは何かを俺に何か言ってほしいのだろう。認めてほしいのか、止めてほしいのか、そういうのに疎い俺には分からない。



「だから、言っただろ、好きにすれば良いって」



「ああ、好きにするさ」



そう言って、エルザは刀を取り出した。俺が渡したオリハルコンレイピアだ。



「良い剣だな」



「まあな、俺が贔屓にしてる鍛治屋の力作だ」



「私はきっと王族としてダメな部分も多い、きっと苦労するだろう」



「だろうな」



「でも、それでも私はこの国が好きで、守りたいって思う、だから……無理は承知で王に、いや、女王になろうと思う」



彼女の中で何かが変わったのだろう。劣等感を持ち続けた王族としての道を選ぶ。それは以前の彼女には出来ない選択だった。



エルザはこちらを振り返った。そよ風が彼女の綺麗な銀髪を撫でた。



「だって、不可能はないって分かったもん」



彼女はそう言って少女のように笑った。その姿はとても綺麗だった。



「きっと良い王国になるよ、エリス女王」



「違う、エルザ女王だ」



そう言って、レイピアを華麗に振り回す。



「もしこの国を襲う奴がいたら、最前線で戦うつもりだ! だから、私はエルザとして、この国の女王となる!」



彼女らしい選択だ。俺はここで初めて納得した。エルザの二つ名、戦姫。彼女を体現した名前だ。



エルザはレイピアを鞘に納めた。そして、何か迷うような仕草を見せた。



大きく息を吸い込んで、深呼吸をした後、彼女は言った。



「レンがもし良ければ……その……王にならないか? お前がいてくれたら、心強いなと思って」



「え?」「へ?」



俺の背後で急に声がした。振り向くと、俺に話しかけようとしていたのか、近づいていたユキとリンがいた。



「いやだよ、俺、王族のマナーとかよく分かんないし」



本当に王族のパーティとか、そうゆうの勘弁してほしい。ゲームでは邪龍討伐後のパーティで、貴族マナーイベントで、トラウマになった経験がある。



「そうか、それはちょっと残念だな、じゃあ友としてこれからもよろしく頼む」



「ああ、もちろん、王族に友達がいると、いろいろと便利そうだしな」



後ろからユキとリンの声が聞こえてくる。



「良かった……」



「多分、レンは何も気づいてない」



俺は王になるのは無理だが、この国のためにできることはしようと思う。この世界には俺にしか出来ないことがある。



ドラクロワがカーマインの鎧に近付いていた。



「なあ、これもらって良いか?」



カーマインのデストロイヤーを軽々と持ち上げた。エルザに聞いているのだろう。



「おい、ドラクロワ、さすがに国宝を……」



「いいぞ、お前達は国を救った英雄だ、労力に見合う褒美は与えないとな」



「まあ、エルザが良いなら良いけど、お前、斧とか使えるのか? 何で欲しがるんだよ」



「ガキのころ、ちょっと使ったことがある、まあ俺が欲しいって言ったんだからいいだろ、こんなんでも……一応形見だからな」



そう言って、ドラクロワは斧を背負って離れていった。



「悪いな、ドラクロワが」



「いや、お前達は国を救った英雄だ、王女としてできるかぎりのことはするつもりだ」



「それは助かる、エルザも困ったことからあったら言ってくれ」



「ああ、また甘えさせてくれ」



きっとこの国はもっと良くなる。彼女はこれからたくさんの困難が待ち受けるだろう。しかし、もうその剣が折れることはない。この国は新しい王女のように、強い国になる。










エルザとの話がひと段落したところで、リンが俺に話しかけてきた。ユキと2人で俺を呼びにきていたようだ。



「ゲンさんが呼んでる」



ゲンリュウのことだろう。俺は頷いてリンと一緒に道場に向かう。



町はベルゼブブやモンスター、反乱軍などにより大きな被害を受けている。しばらくは王国総出で復興作業になるだろう。



兵士の1人が俺を見つけて、走ってくる。



「あ、あの……この国を救っていただき、ありがとうございました、レンさんはこの国の英雄です」



褒められ慣れていない俺は照れくさくなってしまう。リンとユキは逆に誇らしげな表情をしていた。



そうか。俺はこの国を救ったのか。ゲームでの英雄という肩書きではなく、本当の意味で俺は英雄と呼ばれている。



「あ、握手してもらっていいですか? あとサインも」



兜を被っているので表情は見えないが、ずいぶんミーハーな兵士だ。



俺は握手をかわし、兵士が差し出した色紙を受け取った。この世界にも色紙があるらしい。



ちなみに有名になった時のために、俺はサインの練習は入念にしている。誰もがすることだろうから当たり前かもしれないが。



兵士はペコペコと頭を下げながら、復興作業に戻っていった。



「ずいぶんな人気じゃな」



ゲンリュウが自ら道場から出てくる。



「それも当然か、ワシも今までの態度を改めよう」



ゲンリュウは背筋をすっと伸ばし、深くお辞儀をした。



「この度はありがとう、レン君、君はこの国と、我が弟子を救ってくれた」



弟子とはエルザのことだろう。ゲンリュウにとっては孫のような存在なのかもしれない。



ゲンリュウにこうやって改まって頭を下げられると、ちょっと落ち着かない。



「頭を上げてください、俺は俺のしたいように動いただけなんで」



「それでも国を救ってくれた事実は変わらんよ」



俺たちはゲンリュウに案内されて、和室に入った。掛け軸の前に日本刀が飾られている。



湯呑みでお茶を淹れてくれた。何だかんだ緑茶が美味い。



「実はな、この前、旧友に会ってな、お主がエルフの里を救ってくれたことも聞いた」



旧友、ナラーハのことだろう。エルフの族長であり、魔王を封印したパーティの1人だ。



「それに先日、魔法都市のクソガ……こほん、アランから手紙をもらった」



この国には伝書鳩のように、手紙を運んでくれる鳥型の生物がいる。今、一瞬、クソガキと言いそうになっていた気がする。



「内容は8割が金の無心じゃった……わしの正宗を貸してほしいと、質屋に入れたいらしいんじゃ、必ずすぐに取り返せるらしい」



さすがはアラン。相変わらずクズ過ぎる。



「じゃが、2割はお主のことじゃった、すげぇ奴がいる、とアランが書いておった」



ゲンリュウは正座をして、俺に向き直った。



「わしらがかつて魔王を封印したパーティであることは知っておるか?」



「ええ、あなたとアラン、ナラーハ、そして……」



アランはきっと手紙であのことを書いたのだろう。それはアランの願いであり、かつての仲間全員の願いなのかもしれない。



「ソラリスじゃ」



大魔導ソラリス。このゲームの仲間キャラにおいて、最強の魔法使い。そして、最も仲間にするのが難しいキャラ。



「わしはもう老いた、この先は長くない、唯一の心残りはソラリスともう一度話したいということじゃ」



ゲンリュウの白い眉毛から、物悲しげな目が見えた。



「率直に聞かせてくれぬか、お主ならソラリスを救えるのか?」



ゲンリュウは真剣だ。心からソラリスともう一度会いたいと願っている。だから、ここは安易な返事は出来ない。普通ならそんな不可能なことを無責任に口にできないだろう。



「俺ならできます」



だが、俺は普通ではない。これは安請け合いではない。元々ソラリスは必ず仲間にすると決めている。



どれだけの不可能が目の前にあろうと、俺は全てを乗り越える。ソラリスを救えるのはこの世界で俺だけだ。



ゲンリュウにも俺の意志が伝わったのだろう。



「頼む、もう一度、ソラリスに会わせてほしい」



「任せてください」



ゲンリュウは俺の返答を聞き、後ろの掛け軸のところまで移動し、日本刀を手に取った。そして、再び俺の前に座り、両手で日本刀を差し出した。



「これをお主にやろう」



「え……」



俺は信じられないことに言葉を失っていた。この日本刀を俺は知っている。ゲームではあり得ないことだ。



「お主もわしと同じく、刀を使うのじゃろう、ならば持っていくが良い、どのみちわしにはもう使いこなせんし、アランに奪われて質屋にも入れたくない」



ゲンリュウの最強装備。かつて魔王を封印したパーティが使っていた4つの武器の一つ。アランの聖剣デュランダル、ナラーハの精霊王の杖、ソラリスの永遠の扇。



そして、ゲンリュウの正宗。



「わしはお主に賭けてみることにする、だから、受け取ってほしいんじゃ」



ゲームでは正宗は誰も装備出来ない武器だった。そもそも手に入らないので、プレイヤーも装備することもなく、ゲンリュウも使いこなせないと言い装備しない。



唯一、あるイベントで若返った全盛期のゲンリュウを仲間にできる。その時だけ、正宗を装備できる。その強さは異常であり、若いゲンリュウから装備を外してアイテムを手に入れようとして、それが出来ないと分かり、がっかりするという一連の流れをどのプレイヤーも経験していた。



その正宗が今、俺の目の前にある。



俺は右手の正宗の鞘を掴んだ。これは刀を受け取るだけじゃない。ゲンリュウの思いも俺が背負うことになる。



「ありがたく受け取ります」



ゲンリュウが手を放し、正宗の重さが俺の手にかかる。想像していたよりも、重かった。



「頼んだぞ」



必ずソラリスをアランやゲンリュウ、ナラーハに会わせる。俺はそう決意した。









俺達はその後、ゲンリュウに用意してもらった軽い食事を摂り、泥のように眠った。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ