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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第4章 英雄の決意
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逃亡



ネロは起き上がり、ポーションを使用した。そして、当たり前のように言った。



「まだ早かったみたいですね」



俺はこのパーティなら勝てると判断した。しかし、同時にネロもこのまま続けても勝てないと判断した。判断が極めて早く、正確だ。



「待てよ、まだやれるだろ?」



「ふふ、挑発なんて、レンさんらしくないですよ、時間が経てば経つほど僕に有利ですからね」



ネロはよく理解している。時間があればあるほど、これ以上レベルが上げられない俺たちと、成長を続けられるネロとの差は開いていく。



当然、ここから逃すつもりはない。



「また会いに来ますね」



ネロはそう言って、姿を消した。



「警戒を怠るな、『透明化』だ、姿が消えているだけだ」



俺はそう言って目を凝らす。逃げられたら、次は勝てない。



ちょうどベルゼブブ戦でトリックスターの新しいスキルを手に入れていたが、残念ながら効果範囲外だった。



コポポのようにマップを移動できるスキルは例外的なものだ。ネロが習得しているとは考えづらい。しかし、ネロの素早さで『透明化』された状況で逃げに徹されたらかなり厳しい。



俺はすぐにネロがいた場所まで行き、辺りを見回す。空間の歪みを探す。



焦りが生まれる。恐らく今がネロに勝てる唯一の機会。絶対に逃してはいけない。



俺の極限まで集中力を高めて、周囲を観察する。



その時、目の端に高速で動く空間の歪みを捉えた。ネロを見つけた。対象を視認さえすれば、『スイッチ』が使用できる。



「リン!」



リン名前を呼ぶ。説明している暇はない。今、この瞬間、俺はネロを捉えている。『スイッチ』でネロと場所を交換できる。



リンなら俺の意図を理解してくれる。俺の視線を見て、リンは一瞬で状況を理解した。俺に向かって突進する。場所を交換した瞬間に、ネロに攻撃するためだ。



空間の歪みは確かに俺を見ていた。スローモーションになった世界で、俺はネロが笑ったことに気づいた。姿は見えなくても分かる。



朧げにしか見えないが何かを手に持っている。



俺がスキルを使用する瞬間、強烈な光が俺の視界を奪った。閃光弾だ。死の谷でもネロが使ってきた。



やられた。わずかに俺が遅かった。スキルは発動されない。



光が消えた後、ネロの姿は消えていた。



その後、他のメンバーも単独行動をしないように注意しながら、捜索に当たったが、結局、ネロを見つけることはできなかった。



それは事実上、俺たちの敗北を意味していた。


















_______ロンベル_________




なぜ私が、この私がこんな目に合う。



ベルゼブブが消えた。こんなこと認められない。全てはあの男のせいだ。



私の計画は完璧だったはずだ。レン、あいつのせいで全てが滅茶苦茶になった。



あの男はただ運がよかっただけだ。この天才の私があんな凡人に負けるはずがない。



しかし、私はまだ生きている。さすがにもうこの国には戻れないだろう。別の場所でまた一から計画を練り直さなければならない。



いざという時のために、私は戦力として革命軍を組織させた。



私は革命軍のサブリーダー、ベントナーに先導され、王都からの脱出を試みていた。この私が敗走のような真似をすることが屈辱でしかない。



革命軍の仲間たちはほとんどやられてしまったのだろう。街中で姿を全く見ない。別の拠点にいる本隊と合流をするしかない。



そこに1人ふらふら歩いている革命軍の兵士がいた。



「おい、お前、これから拠点に向かう、私を護衛しろ」



その男はびっくりしたように、振り返る。



「いやー、俺はこれから実家に帰るところでして」



「命令を聞けないのか?」



ベントナーが剣を抜く。



「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 冗談ですよ! ははは……もうやだ」



男はぼぞぼそ呟きながら、私の護衛についた。



さすがに正門から出るのは憚られたので、小さな通用門を目指す。できるだけ細い路地を通って行く。



もうすぐで出口という所まで来た時、1人の男がいた。一瞬子供かと思ったが、どうやらそもそも種族が違うようだ。フードを被っていて、顔はよく見えない。



「すみません、ロンベル王子、ネロ様からあなたを捕獲するように命を受けていまして」



ベントナーが剣を構えて、前に立つ。もう1人はなぜかいつでも逃げ出せるように私の後ろに立つ。こいつは護衛する気がないのか。



「何者だ?」



フードの小さい男は丁寧にお辞儀する。



「私はぺぺと申します」



陰からもう1人現れる。巨大な大剣を背負った女だ。



「おい、ぺぺ、早くしろよ」



「メリーさん、そう急かさないでください」



「こっちの退路は塞いだ」



後ろから新しい声が聞こえた。そこには黒い全身甲冑の男がいた。兜に羽飾りがついている。兜により顔は見えない。



退路を断たれた。しかし、ベントナーはかなりの手練だ。後ろの男は知らないが、革命軍はある程度強くないと入れない。多少の心得はあるだろう。



「悪いが通らせてもらう」



ベントナーが一気に小さな男に切り掛かる。



『パペット』



ベントナーの動きが止まる。ぺぺという男が指を少し曲げる。その動作に合わせてベントナーの身体が動く。



「くっ……こ、これは」



「戦闘要員ではなかったのですが、これでも魔王軍にいたもので」



そのまま、ベントナーは身体を操られ、自分の剣を自分に突き刺した。



「がぁはっ!」



私はもうベントナーのことなど、意識から外した。護衛のくせに主人を守れないなら、用済みだ。



しかし、ベントナーが負けたのなれば、私が勝てる見込みはない。



「何が狙いだ?」



ぺぺが右手をくいっと動かすを同時に使えないゴミが青い粒子に変わった。



「いえ、私にもさっぱり、あの方が何を考えているのか分かりません」



その時、後ろの護衛が大声を上げた。



「こうさん! こうさんします! だから、見逃してください!」



そして、流れるような動作で土下座をする。卑屈さと惨めさが全面に出ており、あまりに見苦しい。



「私たちが依頼されたのはロンベル王子の身柄を押さえることだけです、逃してあげて良いでしょう」



ぺぺという男が言う。私にとってはそんな男どうでもいい。男はばっと笑顔で顔を上げる。



「……いや、連れて行くべきだ、ネロの狙いは知らないが、俺たちが連れて行ったことを知っている目撃者だからな」



全身甲冑の男が答える。



「ひっ! どうか! どうか見逃して下さい!」



「そんなら、殺しちまおうぜ」



大柄な女が口を挟む。



「ひっ! つ、連れて行ってください! 役に立ちますから!」



「王子の身の回りの世話も必要だろう、こいつにやらせよう、俺はやりたくない」



「まあ、あたしもやりたくないな、じゃあ、連れて行くか」



「た、助かった……」



実力的にこいつらから逃げることはできないだろう。私もおとなしくついて行こう。



そして、チャンスがあれば逃げ出す。いや、上手くこいつらを取り込んで部下にしてもよい。恐らくネロという奴をどうにかできれば、それが可能だろう。



私は自身の望みを必ず叶える。私にはそれをなしえる力がある。



私は特別だ。選ばれた人間だ。必ずあの男に後悔をさせてやる。



泣き喚くあいつの顔が見たい。大切なものを目の前で奪ってやる。許してくださいと、大声で哀れに泣き叫びながら、私の足元に這いつくばらせてやる。



必ず。



______________________




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