表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第4章 英雄の決意
171/370

ネロ戦



________________





俺は楽しそうに笑うネロを睨みつけた。俺はネロを侮っていた。奴は俺の予想を超える手段を取ってきた。



捕食生物バクバク。ルンルンやニョロニョロと同じく、研究施設から脱走した生物だ。ネロは研究施設でバクバクのデータを得ていたのだろう。



LOLでは早めに対処が必要な敵となる。



理由は唯一持つスキル『捕食』だ。相手のHPが50%を切ったら成功し、経験値とスキルを奪うことができる。



ネロはこの『捕食』を『スキルコピー』した。



本来ゲームではありえない展開だから、俺はその可能性を見逃してしまった。



ゲームではネロが仲間になるのは最果ての村に訪れてからだ。ラスダンの魔王城の一つ前の村。物語の終盤だ。



バクバクはある程度成長すると、街を襲うイベントが起こり、プレイヤーが失敗するとゲームオーバーになるため、必ず討伐することになる。そのイベントが起こるまで成長してしまうと、もう手遅れなのだが。



だから、ネロを仲間にした時点でバクバクがまだ生きていることはゲームではなかった。現実になったことで起こった事象だ。



『捕食』をコピーしたネロは別次元の強さになる。なぜなら、『捕食』にはレベルによる経験値の減衰がないからだ。



LOLでは、自分よりも格上のレベルと戦わないと、経験値が減衰して、レベルアップできなくなる。そのため、上限が300レベルほどだと言われている。



経験値の減衰がなくなり、更に倒しきらなくてもHPを半分削れば良いだけなので、成長速度は俺たちの何十倍も早くなる。



そして、あらゆるスキルを溜め込むことができる。



バクバクはAIが賢くなかったから、溜め込んだスキルをよく分からない使い方をしていた。



しかし、それが天才ネロに変われば、状況は一変する。300レベルを超えられる存在が、多種多様なスキルを使ってくる。



『捕食』により手に入るスキルはアクティブスキルのみだ。つまり発動型のスキルだけであり、『物理攻撃無効』などのパッシブスキル、常時発動型スキルは手に入れられないのが、唯一の救いとなる。



そして、ネロがカーマインを助けた理由はそこにある。『捕食』するためだ。



カーマインは有益なスキルをかなりの数保有している。それが手に入るとなれば、『捕食』する以外選択肢はない。



だから、ネロはタイミングを見計らっていた。『剣嵐』によってカーマインのHPが50%を切るタイミングを待っていた。



「もう気づいたみたいだね」



ネロの手がスライムのように肥大し、カーマインを包み込もうとする。『捕食』だ。



『スイッチ』



俺は咄嗟に自分とカーマインをスイッチする。これ以上、ネロにスキルを渡さない。それに『捕食』されてしまえば、俺の考えていることが実現出来ない恐れがある。



「ポチ! カーマインを倒せ!」



ネロが俺を包み込むが、俺のHPは50%以上ある。スキルは失敗する。その間、ネロはカーマインを追撃できない。



この場でカーマインの防御力を突破し、攻撃をヒットさせられるのはポチしかいない。



「わん!」



風を巻き上げながら、高速でポチがカーマインの横に現れる。そのまま、パンチを繰り出す。



カーマインがデストロイヤーでポチの拳をガードした。信じられない反応速度だ。



まずい。もうカーマインに自我が残っていない。



「ふんっ!」



カーマインが左手でカウンターを放つ。手首だけの速さのみを追求した一撃であるが、ポチが簡単に吹っ飛ぶ。



ポチは防御力も異常だから一撃では死なないが、さすがに回避の技術はない。



まずい。こうなってしまえば、俺たちにはカーマインを止められない。もし止められるとしたら、それはネロだけだ。しかし、それはネロに『捕食』させることを意味する。



「団長……あなたを倒すのは私の剣でありたい」



エルザがカーマインに近づく。無理だ。『剣嵐』では防御力を突破できない。それに俺が効果範囲にいなければ、『無限剣嵐』にもならない。発動より前に殺されることも考えられる。



カーマインがデストロイヤーを構える。



「逃げろ! エルザ! お前なら逃げ切れる」



俺は全力で声を出す。彼女の『天歩』ならば、逃げ切れる可能性はある。もう勝ち目なんてない。



「私は逃げない、私の剣はもう折れない」



違う。気持ちとかそうゆう問題じゃない。物理的にもう彼女は勝てない。俺の知るエルザでは不可能だ。頼むから、逃げてくれ。



カーマインがデストロイヤーを振りかぶる。もう誰にも奴を止められない。













その時、時が止まった。辺りが色を失い灰色に染まる。












俺はこれを知っている。キングマックスが『マックスパンチ』を出す瞬間と同じ。絶対回避不可能なスキル。



時が止まった世界で、色が失われた世界で、唯一エルザだけが鮮やかな色をしている。



エルザはその止まった世界で、滑らかに動く。



レイピアの柄に手をかけ、重心を下げる。『剣嵐』に似ているが、それよりも深い。



「だんちょー、私の才能を見つけてくれて、ありがとうございました、これが私の剣です、見ていてください」



『天剣』



エルザが消えた。同時に光の斬撃がカーマインを貫く。『天歩』を超えた速度と、その速度に合わせる超神速の抜刀術。



剣を振り抜いたエルザは、カーマインの後方にいた。その一撃はカーマインの防御力を突破した。



カーマインは青い粒子に変わり始める。カーマインはにっこりと笑っていた。



「強くなったな……」



そして、カーマインは消えた。



俺は全てを理解した。今の『天剣』というスキル。俺は知らない。恐らくLOLプレイヤーは誰も知らない。



なぜなら、カーマイン討伐イベント、『あなたのために』はミレニアム懸賞イベントだからだ。



パーティメンバーにはそれぞれ固有イベントが用意されている。ギルバートの魔女狩りやポチの覚醒イベントなどだ。



そして、固有イベントをクリアすることで、そのキャラはユニークスキルを取得する。



つまり、誰もクリアしたことがない固有イベントだったから、俺ですら知らないスキルをエルザは習得した。



恐らく、このイベントはカーマインのHPが残り少なくなれば、エルザがこの技で倒すという流れだったのだろう。



「あー、もったいない、いっぱい良いスキルあったのに」



ネロが残念そうに告げる。俺は不意をついてネロにメドューサの瞳を投げた。



しかし、ネロにヒットするが、石化しない。ネロはにっこり笑って、一歩で俺から間合いを取った。



「危ないね、残念だけど、石化は対策してるよ」



そう言って、腕輪を見せて笑う。もうここでネロを倒すしかない。今までは甘いことを考えていたが、もはやこれ以上ネロを野放しには出来ない。



「みんな! ネロを倒す、戦闘準備しろ! 常にHPは50%以上確保しろ!」



俺は声を上げる。ネロは嬉しそうに笑っている。



「じゃあ、見せてよ、君の力を」



ネロが消える。俺よりも速い。しかし、俺は未来視によりネロを捉える。



『当て身』だ。モーションがかなり小さく発動時間が短い。一撃当てれば相手を強制スタンさせることができる使い勝手が良いスキルだ。



俺はそれをギリギリでかわす。ネロはステータスは高くなっても、戦闘技術は拙い。そこに付け込める隙がある。



斬鉄剣でカウンターを放つ。いくら防御力が高くなっていても、俺には関係ない。



『イリュージョン』



ネロが一瞬で俺の前から消え、斬鉄剣は空振りに終わる。俺はすぐにネロの位置を特定する。



ネロが舌舐めずりをして、こちらを見ている。その真後ろに両腕を挙げたドラクロワがいた。



「おらぁぁあ!」



強烈な打ち下ろし。竜化したドラクロワの渾身の一撃だ。



『ダメージ反射』



ネロにヒットすると同時にドラクロワは吹き飛ぶ。ダメージを反転させられた。



『金ダライ』



俺は必中のスキルを発動する。このスタンの間に、叩き込む。



「ギルバート! 64コンボ」



「ああ、準備は出来てる」



『不動心』



金ダライがネロにヒットする。しかし、『不動心』によりスタンが発生しない。



ギルバートが『アサルト』と『バレットスコール』の複合攻撃64コンボを放つ。その威力は俺のお墨付きで、遠距離攻撃とは思えない破壊力だ。



『金剛』



ネロが防御スキルを発動する。64コンボでもダメージが通らない。



「効かないよ」



ネロはにっと笑うと、射撃をしたギルバートに向かう。ギルバートは後衛だ。接近されれば、今のネロには勝ち目がない。



【アイシクルランス】



ギルバートの近くにいるユキが無数の氷柱でネロを攻撃する。しかし、ほとんどダメージが入らず、ネロを止められない。



もともとネロは魔法防御に特化したキャラクターだ。今のレベルならば、ユキほどの魔法攻撃力を持っていても大したダメージは与えられない。



『ソニックウェーブ』



ネロが手から目に見えない波動を放つ。ギルバートとユキはそれを受けて、身動きを封じられる。



ネロは空中に飛び上がる。そのままスキルを放つ。



『流星脚』



蹴りを放つと、それが無数の光の筋になってギルバート達に降り注ぐ。



『スイッチ』



俺はクールタイムがギリギリ回復したスイッチで、ギルバートと場所を交換する。ユキは物理ダメージは無効だ。俺が『流星脚』を回避すれば良い。



そして、ネロは今、空中にいる。空中では身動きが取れない。素早さがいくら高くても意味がない。俺ならばそこを狙う。



きっと俺と同じ考えをする彼女はこの隙を見逃さない。



『雷光突き』



紫電を纏ったリンが稲妻のような速さで、空中のネロを捉えた。ネロが吹き飛ぶ。



ネロは最強ではない。確かにステータスは高くなり、スキルは多く手に入れている。それでも手の打ちようはある。弱点があるからだ。



装備制限。現実になった今はわからないが、ゲームでは武器の装備制限があった。プレイヤーは全武器を扱えるが、キャラクターごとに装備できる武器が決まっている。



例えば、ギルバートは銃しか装備出来ないし、デュアキンスは杖だけ、エルザは片手剣しか装備出来ない。ラインハルトやリンなどのバランスタイプのキャラは比較的多くの武器が使える。



ネロは魔法使いキャラであるため、杖と短刀しか装備出来ない。そして、スキルには装備条件が必要なものがある。



エルザの『剣嵐』で考えれば分かるだろう。剣を装備していない徒手の状態では発動ができない。俺の『剣神の太刀』なども他のハンマーなどを装備していては発動できない。



つまり、ネロは攻撃スキルを溜め込むことは出来るが、装備品の影響で使えるものが限られている。だから、先程から徒手で使える武術系のスキルを多用している。



更にネロはもともと後衛だから、いくらステータスが高くても戦闘技術は低い。だから、『当て身』や『ソニックウェーブ』のような強制スタンさせるスキルを先行させている。戦闘IQが高いからこそ、プレイヤーと同じ戦闘方法を選んでいる。



最強に見えて、突破口はある。このパーティなら、ネロに勝てる。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ