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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第1章 英雄の目覚め
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最大の敵



俺たちは露店で必要なアイテムを買い揃え、西に向かった。南には沼地が広がり、状態異常を引き起こすモンスターが多くいる。



主な出現モンスターはカエルとヘビと蛾だ。どのモンスターも見るからに毒があるようなグロテスクな見た目をしている。



状態異常ももちろんLOL仕様。たとえば毒状態、多くのゲームはHPが1になれば、そこから減ることはないが、LOLでは呆気なく死ぬ。10秒で5%のHPが削られるため、最大HPが高くても意味がない。



更に状態異常が自然に治るまで何の耐性もなければ2分かかる。よって120秒なので、60%減る。



つまり最大HPの4割のダメージを受けた状態で毒になる、または毒になった後に4割のダメージを受ければ、毒を回復するか、HPを回復しておかないと間違いなく死ぬ計算になる。



更に上位の猛毒という状態異常は10秒で最大HPの10%の減少する。これも同様に2分かかるため、途中で回復をしないと死ぬ。



しかし、毒を超える状態異常もある。麻痺だ。麻痺は2分間一切の行動をすることができない。戦闘中に麻痺になれば敵に袋叩きにあい、呆気なく死ぬ。自分で回復も出来ず、回復できる仲間を連れていても、このLOLでは回復量よりダメージ量の方が圧倒的に多い。



このように状態異常は他のゲームと違い、死に直結する。そのため、LOLでの装飾品の役割は状態異常を無効化するものが主流になる。



装飾品の腕輪は2つ装備することができる。例えば毒無効のアンチポイズンリングと麻痺無効のアンチパラライズリングが基本装備となり、戦う敵によってこれらの無効リングの付け替えを行う。



一方、こちらに有利に働く状態異常も存在する。狂乱もその一つだ。他にはゾンビ化というものもある。



ゾンビ化すると一定時間最大HPが3倍になる。それ以外のステータスは変化しない。しかし、魔法で回復を行えば、回復する分だけ逆にダメージを受ける。



ゾンビ化は俺もゲームではよく利用した。そもそもボス戦は一撃死が基本だから、回復をしている暇がない。最大HPが3倍になれば、一撃に耐えることができる。よくポチの《オールフォーワン》と併用し、ダメージ分散とゾンビ化のコンボでボスに挑んでいた。



更に『マッチポンプ除霊』というテクニックもある。敵をゾンビ化させ、大神官コーネロなどの最大HPの100%を回復させる魔法をあえて敵にかけ、即死させるという技だ。



どれだけHPが高く、防御力があっても即死させることができる。ボスはほとんど状態異常無効だから一部のモンスターにしか利用できないが。



このように状態異常を制すれば、戦いを制す。そうゆう点でこれから向かう沼地はかなりの無理ゲーだった。



__________________



俺たちは沼地に到着する。毒々しい紫色の沼が点在し、歩ける部分の陸地が通路のように張り巡っている。



「いいか、ここはかなりの高難易度のフィールドだ、俺から5mは距離をあけてついて来てくれ、状態異常になったらケチらずに万能薬を使うこと」



俺の指示にリンは神妙に頷く。ポチは大きな欠伸をした。



俺は先導して、沼地に足を踏み入れる。すぐに沼と同色の紫のカエルが飛び出してきた。



こいつはポイズントード、この沼に最も多く生息する魔物で、かつ数多のプレイヤーを殺害してきた強敵だ。



ポイズントードは現れてすぐ、泡のようなものを飛ばしてくる。触れれば毒状態になり、毒状態で触れれば猛毒状態になる。泡の量が多いので避けるのは困難であり、耐性がなければ、間違いなく猛毒になる。



俺は気にせず、泡に突っ込んでポイズントードに接近した。すでに毒は無効にしている。



ポイズントードは長い舌をムチのようにしならせ、俺を攻撃してくる。予測が難しい攻撃だが、英雄の回避能力ならたわいもない。俺は軽くかわして、更に踏み出し、間合いにとらえた。



この舌は触れれば高確率で麻痺状態になる。複数のポイズントードに囲まれれば、毒の泡に囲まれながら麻痺舌の集団リンチという地獄を見ることになる。



俺は剣でポイズントードの頭に一撃を入れた。ダメージ数値が視界に現れ、ポイズントードは皮膚からガスを吐き出しながら消えていった。



今のレベルなら一撃で倒せることがわかり、俺はほっとした。ちなみに今のガスは眠り効果がある。



毒の泡を掻い潜りながら、麻痺舌を避け、倒しても眠りガスを噴射される。そいつらがうじゃうじゃと現れる。この恐ろしさを分かっていただけだろうか。



ちなみに装飾品は2個しか装備出来ないので、状態異常を3つ持つポイズントードの攻撃を全て防ぐことはできない。毒と眠りを無効にさせ、麻痺舌を回避して戦うのか王道だ。一撃喰らえば終わりだが、それはLOLでは日常茶飯事。



俺は撃ち漏らしのないようにカエル駆除をしながら先に進んだ。リンも麻痺と毒無効にはしているが、出来る限り戦わせたくない。



しばらくカエル駆除を続けていると黒く巨大なヘビが水面から奇襲をかけてきた。パンデミックスネークという強敵だ。



俺は軽く回避する。既に奇襲が来るのは予測していた。パンデミックスネークが水中にいると小さな泡が水面に現れる。英雄がその目印を見逃すはずがない。



パンデミックスネークは俺に攻撃を避けられ、勢いよく陸地にその姿を現した。同時に俺は背後から飛んでくる存在にも気づいていた。



「リン、後ろのちょうちょは頼む」



俺の指示にリンは不快そうに眉間に皺を寄せる。空中で羽ばたくそれは、生理的嫌悪を催させる姿をしていた。



「これはちょうちょとは言わない……」



リンは嫌々小太刀を抜いた。俺が背後にいた蛾のモンスター、パープルモスをリンに任せたのは理由がある。



パープルモスは一撃で大ダメージを与えるようなスキルを一つも持たず、リンのレベルを考えれば危険はない。経験を積むのに丁度良いと判断した。



以上がメインの理由だが、ほんの少し、わずかに、他意もある。



俺は虫が大の苦手なのだ。かさかさ動き回るアイツらを見るだけで恐怖が込み上げてくる。ただでさえ気持ち悪い見た目の蛾を、よりによって巨大化させたモンスターと戦うなんて、死んでも出来ない。



見方によっては、苦手な虫を年下の女の子に押し付けている最悪な男に見えるが、これはあくまで修行の一種、鍛えるのが大好きな彼女は喜んでくれているだろう。



「……もう、無理、シャワー浴びたい」



ほら、やっぱり蛾の鱗粉と体液を浴びたリンは楽しそうだ。



俺がリンの方に注意を向けていると、パンデミックスネークが怒ったように攻撃を仕掛けてきた。俺はそれをあっさりと避ける。



速度がないパンデミックスネークの攻撃を避けるなんて、目を閉じても余裕だ。しかし、この蛇はLOLではかなり危険なモンスターとして認知されている。



広範囲のブレス攻撃、ミックスブレスの効果が危険すぎるからだ。複数の状態異常にランダムでかかってしまう。基本的に2つしか状態異常は無効に出来ないから、このブレスを食らってしまえば、ほぼ死が確定する。



だが、ブレスの発動モーションは大きく、俺がそれを見逃すことなんて天地がひっくり返ってもありえない。発動しようとしたら避けるか、ダメージを与えてキャンセルするくらい余裕だ。



「ごめん、レン、1匹そっちに行った!」



リンの声に俺は一気に振り向く。巨大な蛾が羽を広げ、近づいてくる。



「ぎょええええええ!!!」



俺は言葉にならない声で叫び、蛾の反対方向へ逃げ出す。そこで気がついた。



パンデミックスネークが口を開け、ミックスブレスのモーションを完了していたことに。



あ、見逃した。









カラフルな禍々しいブレスが俺の全身に浴びされる。複数の状態異常になり、ほぼ死が確定する息を俺は余すことなく全身で受けた。



これで俺の冒険は終わった。














と、見せかけての。



「効きませーん、ひゃっはぁぁ、汚物は消毒だぁ!」



俺はミックスブレスを何事もなく受け切り、パンデミックスネークの開いた口に剣を差し込み、頭を落とした。



ついテンションが上がり、俺はキャラ変してしまい、慌てて我に返ってリンを見た。リンの目は冷たく、新種のモンスターを見るものと変わらなかった。



「ごほん、まあ、俺にかかればこんなもんだ」



とりあえずカッコつけておく。



本来であればパンデミックスネークのミックスブレスは受ければ終わる。ランダムで複数の状態異常が付加されるのだ。もはや防ぎきれない。



しかし、それは俺には関係がない。なぜなら俺にはある力がある。俺は左手に装着したそれを見つめた。



神兵の腕輪、全状態異常、地形効果を無効にする。ついにオープニングの巨神兵で手に入れたこのアイテムの効果が発揮される。



たかが状態異常無効だと舐めてはいけない。このLOLを知れば知るほど、この腕輪の偉大さが分かる。この腕輪がなければ、攻略できないイベントが多く存在する。さすがはラストダンジョンのレアドロップというところだ。



ダメージを受けるからカエルの舌も避けたが、もはやどの状態異常も俺には効かない。リンとポチ用に万能薬を買い込んだが、俺には必要ない。



そう、俺はこのダンジョンで無双できる力がある。そんな俺を祝福するかのようにキラキラとした雪のようなものが空から降ってくる。



俺は空を見上げた。太陽が眩しく、青空はどこまでも透き通っていた。



そして、そのキラキラが鱗粉であることに気がついた。



「ぎょええええ! たすけてぇ!リンちゃーーーん!」



俺は忘れていた蛾から全力で逃げ出した。





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