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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第3章 英雄の躍進
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英雄の願い



エルザの持つユニークスキル『剣嵐』。



発動モーションが極めて速く、範囲攻撃にも関わらず、味方でもダメージを受ける仕様により、フレンドリーファイアランキングで第一位となっている。



『天歩』を連続で使用することで、エルザの姿さえ捉えることができない高速の斬撃の嵐。



エルザの攻撃力が高いこともあり、ゲームでは多くのプレイヤーがこの技に殺された。



しかし、このスキルはただの攻撃スキルではない。真の姿は別にある。



俺はこの『剣嵐』を1つ上の次元に昇華させた。



知識と計算によって作り上げたロジックの上に成り立つ、新しい『剣嵐』だ。最強のカーマインを倒すことができる唯一の切り札。



その違いは一目でわかる。いつもの『剣嵐』よりも明らかに遅い。



当然だ。エルザは自分にノロノロ薬を使った。スロウ状態でモーションを遅くしている。



これで本来12秒ほどかかる『剣嵐』は36秒くらいに伸びる。



本来であれば、『剣嵐』は平均して1秒に3回くらいの斬撃が入る。つまり約36連撃だ。



それが一撃のスパンが遅くなり、約0.9秒に変わる。ノックバックは約1.5秒起こる。つまり1.5秒以内に次の連撃が入れば再度ノックバックが起こり、行動を起こすことができない。



スパンが0.9秒であれば、『剣嵐』を受けている間、敵は行動を封じられることになる。これはもちろんスロウ状態にならなくても同様だ。



俺がエルザをスロウ状態にした理由は別にある。



エルザのオリハルコンレイピアにはあるスキルをつけている。『迅速』だ。これは一撃を入れる度に、クールタイムが1秒減るというものだ。



『剣嵐』により36連撃を効果範囲にいるカーマインと俺に与えることにより72秒のクールタイムを削減することができる。



そして、『剣嵐』のクールタイムは150秒。俺が神秘の腕輪を渡しているので70%になり、約105秒。



『剣嵐』の発動時間がスロウにより伸ばされているので36秒、削減できる72秒と合わせて108秒。



クールタイムのカウントはスキルが発動された瞬間から始まる。



つまり、『剣嵐』が終わった時、既に()()()()()()()()()()()()()



「エルザ『剣嵐』が終わった瞬間に、もう一度発動できるから連続でしてくれ」



『剣嵐』は発動モーションが、かなり短い。だから、俺たち英雄もゲームでは空中回避のタイミングを掴むのに苦労していた。それはスロウ状態になっても2秒もかからない。



この隙間だけぎりぎり、ノックバックが解除されるが問題ない。俺がその隙間でカーマインを攻撃すれば良いからだ。



あとはスロウが切れそうになれば、ノロノロ薬をエルザに当てる作業を繰り返せばよい。俺の『不動心』が切れれば、隙間の攻撃ができなくなるが、そうなればギルバートからその隙間時間に射撃してもらえばよい。



格ゲーにあるハメ技というものだ。常にノックバックを続け、一切の行動が出来ない。それを永遠に繰り返すことができる。



これが俺の切り札。計算の上に成り立つ斬撃の檻。



『無限剣嵐』



もちろん、エルザの攻撃力じゃ、カーマインの防御力を突破出来ない。しかし、この嵐の中を唯一、平然と歩ける者がいる。



俺はカーマインの目の前まで歩き、刀を構える。無限に剣嵐が続く以上、焦る必要はない。



ため時間が長い技も、確実にヒットさせることができる。光が俺に集まってくる。



『剣神の太刀』



行動ができないカーマインを一方的に攻撃し続ける。



カーマイン。お前の教え子は最強を倒す存在になったよ。正義の騎士がお前を救う。これ以上、苦しまないように。



カーマインは攻撃を受けながら、満足そうに笑っていた。



エルザが立ち上がってくれたことで完成した栄光への道(デイロード)だ。

























ずっと続く剣嵐。俺はカーマインの膨大なHPを削っていく。そろそろ終わりの頃だろう。



俺は頬に冷たい感触を感じた。一瞬雨だろうかと思ったが、違うようだ。



エルザが高速で動き続けながら泣いているのだろう。きらきらと涙が空中に舞っている。



彼女にとって、カーマインは母親代わりのアネッサを殺された仇だ。しかし、最後に見せた姿は、彼女がだんちょーと呼んでいた頃のものだったのだろう。



彼女の剣の才を高く評価してくれた人。カーマインがいたから、今のエルザがある。



俺は一度考える。カーマインを救う方法はないのだろうか。もちろん罪は償ってもらう。しかし、殺さないで済む方法はないのか。



悪魔の約束は絶対だ。彼は自由になれば国民を皆殺しにする。カーマインは状態異常に耐性を持っているため、石化にもさせられない。



そこで、俺は1つの道を見つけた。



ああ、その手があったか。



幸い偶然ではあるが条件は成立している。この手ならば、悪魔の約束からも解放できるかもしれない。



俺はいつだってハッピーエンドが好きだ。皆が笑って、終わり。それが一番に決まっている。



だから、それを実現しよう。それが英雄としての責務。いや、俺自身の願いか。



斬撃の嵐の中。脳裏にある光景が浮かんだ。



それはとても懐かしい記憶だった。いや、これは俺の記憶なのだろうか。



昼下がりの学生食堂。俺は前にいる人物と、楽しそうに話している。話題は世間で無理ゲーだと、酷評されているゲームに関してだ。



あらゆる不可能を乗り越えるために、2人で様々な意見を交わしている。自分が思いつかない視点もあり、俺たちのテンションは上がっていく。



その時間がとても大切で居心地が良かった。馬鹿げた意見を出し合い、笑いながら、2人で攻略法について話し合う。



世間は無理ゲーだと馬鹿にして酷評するが、俺たちにとっては最高に面白いゲームだった。周りと打ち解けられず、馬鹿にされていた俺はそのゲームに親近感を持っていたのかもしれない。



彼は俺によく言っていた。



いつか小説の世界みたいに、2人でLOLの世界に行ってみたいな。



きっと絶望しかなくて、過酷な状況を嘆くことになるだろうけどさ。



俺たちは笑ってプレイしてそうだよな。



彼の顔がどうしても思い出せない。何かに邪魔をされているように感じる。



だが、きっとそう話してくれていた時、満面の笑みだったに違いない。



そう、俺はいつだってハッピーエンドを求めていたんだ。















だから、俺は。














































唐突にカーマインの身体が消えた。



俺は一気に意識を切り替える。ありえない。カーマインは自力でこの檻から出られない。



違う。



凄まじい速度で何者かがカーマインの身体を剣嵐の範囲外へ押し出したのだ。



まずい。檻が破られた。カーマインが本気で戦えば、もう誰も止められない。自分で動きを止めてくれたから、『剣嵐』を当てられた。



カーマインが本気を出せば、『剣嵐』を放つ前にエルザが殺される。



ベルゼブブの指示通り、全員が殺される。



俺はカーマインを押し出した相手を目視しようした。



あの速さ、俺の目からはポチに匹敵する速さに見えた。そんなキャラクターはゲームでは存在しない。



その人物は隠れもせず、悠然と立っていた。その後姿は俺がよく知っているものだった。



「ありえない……」



意味が分からない。こんなことは、ありえない。



なぜ奴がここにいる。何が起こっている。






















「レンさん、また会いましたね」



緑のトレンチコートを翻し、ネロは振り返って、にっこりと笑った。

















「やっぱりレンさんは特別だね、あの悪魔どうやって倒すのかと思ってたよ」



吹き飛ばされていたカーマインが、起き上がる。そして、一番近くにいたネロに襲いかかった。



ベルゼブブの皆殺しの指示に従い、一番近い者を殺そうとしたのだ。



ネロはカーマインのデストロイヤーをあっさりと避けた。



「今までは強い人をあてがってたんだけどね、ウォルフガングさんやプロメテウスさん、アリアテーゼさんも退けられちゃったから、他に見つからなくて」



カーマインが追撃をしようとするが、それよりも早く、ネロが掌底を放つ。



今のは相手を数秒スタンさせる、『当て身』というスキルだ。



そして、動けないカーマインに、ネロは蹴りを繰り出した。それは斬撃のように鋭く。カーマインにダメージを与える。



『円月脚』のスキルだ。



なぜネロは()()()()()()()()()()()()()()()()()



なぜネロは()()()()2()()使()()()



ネロの『スキルコピー』は上書きをされていく。コピーできるスキルは常に1個だけだ。



「だからね、僕自身が強くなってみようかなと思って」



俺はあらゆる可能性を模索する。



どう考えてもおかしい。俺のような強引なレベリングができるとは思えない。そもそもレベリングでは俺たちと同様に300ぐらいまでしか上げられない。



今のネロのステータスは明らかに300レベルのネロを超えている。



装備でもそこまでのステータス向上は見込めない。



スキルコピーで2つのスキルを覚えることは出来ない。それにも関わらず、ネロは目の前で2つのスキルを使った。



もしかしたら2つ以上も持っているかもしれない。ではスキルコピー以外の方法でスキルを取得したことになる。



そんなこと不可能だ。いや、不可能と決めつけて、思考を止めてはいけない。何かあるはずだ。



俺はいつもの作業を行う。膨大な情報量から、ネロが強くなる可能性を模索する。



そして、英雄としての俺の脳はとんでもない可能性にたどり着いた。



それはもはやNPCが思いつくような次元ではない。



天才という肩書きは、この世界において、あまりに危険すぎた。




















ネロはアドマイアが保管されていた研究施設で、そこのデータを全て知り尽くしている。



ネロには敵のスキルを1つだけコピーできるユニークスキルの『スキルコピー』がある。



ネロは上限である300レベルを突破している。



本来1つしか取得できないスキルを、複数取得している。



そして、ネロはカーマインを助けた。



全ての状況が俺を1つの答えに導く。



俺は致命的なミスをしてしまった。後回しにせず、もっと早く対処すべきだった。



俺は絶望と共に、たどり着いたその答えを口にした。



















































「……バクバク」






_____第3章 完_______





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― 新着の感想 ―
いいところで毎回水差してくるの萎えるなぁ
[良い点] 最後怒涛の更新お疲れさまでした!! なろう見に来るたびに更新されててとてもうれしかったです!! [一言] 次の更新ゆっくり楽しみに待ってます!! しっかり休んで無理ない執筆してください、応…
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